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第十六話 優しい父
数日後、離宮に馬車が着いた。
リュシアンを迎えに来た、ドゥ・ファルギエール家の馬車だ。
荷物を御者に積み込んでもらい、リュシアンは馬車に乗り込んだ。馬車はドゥ・ファルギエール邸へと走り出した。
離宮からドゥ・ファルギエール邸までは、そう遠くはない。しばし馬車の揺れに身を委ねていると、館へと着いた。
「リュシアン様、お帰りなさいませ」
複数人の使用人がリュシアンを出迎えて、リュシアンは目を丸くした。今までは、使用人には無視されるのが当たり前だったのに。
部屋に通され、父の都合がよくなるときまで、休んでいることになった。
やがて連絡が来て、父に会えるのは夕食のときに決まったと伝えられた。夕食のときならば時間が空いているということで、父と一緒に夕食を取ることになったのだ。
一緒に夕食を取れるだなんて、まるで理想の家族のようだ。自分への待遇が本当に変わったのを、リュシアンは感じていた。
時間になって大食堂に向かい、席に着く。ほどなくして、父が姿を現した。
「おお、リュシアン!」
父はリュシアンの姿を認めるなり、朗らかに笑った。まるで別人になったみたいだ。
「ち……父上」
リュシアンはおずおずと笑いかけた。
「会いたかったぞ。元気にしていたか? ああいや、先に食事を始めよう。空腹だろう」
リュシアンを案じる言葉をかけながら、父はリュシアンの向かいの席に腰かけた。
父に元気にしていたかと聞かれるなんて、初めてだ。けれども、魔法のように性格が変わったなんてことがあるわけがない。
父は自分の役に立っている者には、優しくする性質なのかもしれない。実際、リュシアンの兄や妹には優しいのだから。
父に優しい言葉をかけられ、まるで自分がオメガであるという出自が消え去ったかのようだった。たとえ仮初の優しさだとしても、家族の情のようなものに触れられ、心の奥底に溜まった澱が溶けていくのを感じた。
グラスには葡萄酒が注がれ、前菜が運ばれてきて夕食が始まった。
「ますます美しくなっているな。恙なく暮らしているようで何よりだ」
葡萄酒に口をつけながら、父が微笑んだ。
「はあ、まあ」
優しい父にどう接したらいいかわからず、ぎこちなく笑みを返した。
実際自分が美しくなっているのかは、わからない。
エマやシャルロットたちが、いつも髪に丁寧に櫛を通して髪油を塗ってくれているから、髪質はよくなっていると思う。
「何泊していくんだ?」
当たり前のように投げかけられた質問に、リュシアンは驚いた。泊まっていくことが前提だなんて。手紙の優しい文面を見てもなお、すぐに帰れと言われるのではないかと思っていた。
「え、夕食を取ったらすぐに帰ります」
「何を言う、こんなに遅いのに。せめて一泊はしていきなさい」
「わ、わかりました。そうします」
眉をしかめられ、リュシアンは首を竦めた。
それから父は再び温和な表情になり、こう聞いてきた。
「離宮での暮らしはどうだ。不便はないか?」
遠くで暮らしている息子を案じる親は、こういう言葉を口にするものなのだろう。何の不思議もない、当たり前の言葉であるはずだ。
フォークに取った前菜と一緒に、困惑を飲み込んだ。
「侍女たちが親切なので、何不自由なく暮らしています」
「そうか、それはよかった。離宮には、下働きの者は出入りしているのか?」
「いいえ。侍女たちだけで離宮を維持しています」
「なんたることだ。侍女の役目は妃の世話で、離宮の維持ではなかろう。けしからん」
運ばれてきたスープに舌鼓を打ちながら、父は眉をしかめた。
生粋の大貴族である父にとっては、下働きもいない離宮の現状は嘆かわしいことのようだ。
「あ、でも中庭でお茶したりできるのですよ」
代わりにリュシアンは、中庭の存在を出して自由に過ごせることを強調する。
「ほう、離宮には中庭が存在するのか」
「はい」
「中庭から外には出られるのか?」
「四方に植物が植わっているので、よくわかりません。外に出られそうかどうかなんて、考えてもみませんでした」
もしや務めを投げ出して、逃げ出そうとしているのではないかと疑われているのだろうか。父の顔色を窺いながら答えた。
「ふむ……」
父は一旦手を止め、顎髭を撫でた。何か思案している様子だ。
「おっと、魚料理だ。わしはこの魚に目がなくてな」
次に運ばれてきた料理に、父は視線を奪われた。中庭の話は中断されてしまった。ただの話の種だったのだろうか。
白身魚に父は夢中になり、皿が空になった後、また父が話しかけてきた。
「して、王太子殿下との仲はどうだ?」
「すごくいいです。よく一緒にお茶会をするんです。最近は殿下がお忙しいので、できていないんですけれども」
「殿下がお忙しいか、さもありなん。最近は王太子妃選びをしているようだからな」
「え……?」
父があっけらかんと放った一言に、咀嚼していた料理が味を失った。
――エドゥアールが王太子妃選びをしている?
「何人もの女性と会っているのだ、時間が取れなくて当然だろう」
「あ……そうなん、ですか」
まさかお茶会できないほど忙しい理由が、王太子妃選びをしているからだったなんて。女性と会っているからだったなんて。
もちろん、これは裏切りではない。リュシアンが子を産んだら、それは王太子妃の子になることに決まっている。懐妊してから王太子妃選びをするのでは、遅すぎる。だから、もう王太子妃選びをしなければならないのだ。
でも、素直に教えてくれないなんて……。
どんな風に晩餐会が終わったのか、記憶にない。気がつけばリュシアンは部屋に戻っていて、堪え切れない涙で枕を濡らしていたのだった。
翌日、リュシアンは茫洋とした足取りで館の玄関に向かっていた。これから馬車に乗って、離宮に帰らなければならない。けれども、離宮に帰ってエドゥアールと顔を合わせて、平静でいられるだろうか。
ぼうっと歩いていたら、突然衝撃を感じた。
誰かにぶつかってしまったのだ。
「す、すみません!」
リュシアンは慌てて謝った。
「おっと、構わないよ」
聞いたことのない男の声が降ってきた。
顔を上げると、そこには美しい金髪碧眼の男がいた。がっしりとした上背に、太い眉の男らしい顔立ち。
リュシアンと目が合うなり、男は目を見張ってリュシアンを凝視した。
「なんて美しさだ……」
男はぼそりと何かを呟いた。
「あの、お怪我はありませんか?」
「あ……いいや、大丈夫サ」
男の言葉には、微かに訛りがあった。おそらくは帝国訛りだ。
ルナルジャン王国の隣には、シュヴァルツ帝国が存在する。帝国人には金髪碧眼が多いと聞くし、目の前の男は帝国人なのだろうと推測した。
どうして帝国人がこの邸宅にいるのだろう。父の客だろうか。
帝国人の男は、じっとリュシアンを見つめたまま動かない。
「あの……やっぱり、どこか悪くされたのでは?」
「失礼。いや、なんでもないとも」
男ははっとしたように、館の奥へと足早に去っていった。一体、何だったのだろう。奇妙な人だ、と首を傾げた。
「リュシアン様、お帰りなさいませ」
離宮に帰ると、五人の侍女が出迎えてくれた。
「リュシアン様がいない間、寂しかったです」
「寂しかったなんて、おおげさな。たったの一泊ですよ」
シャルロットの言葉に、リュシアンは笑った。むしろ主がいなくて、のんびりできたのではないだろうか。
今日からまた日常が始まる。エドゥアールが王太子妃選びをしていて、それを自分には隠しているという事実も、きっと彼が訪ねてくる夜までには呑み込めるはずだ。
その晩、いつものようにエドゥアールが訪ねてきた。
「リュシアン、いい報せがあるんだ!」
その日の彼は、珍しく喜びに満ちた笑顔を浮かべていた。まさか王太子妃が決まったのだろうかと、どきりとしてしまう。
彼は興奮した様子で、リュシアンの手を握った。
「君の契約期限について父上に掛け合って、変えさせることに成功したんだ」
「契約期限……?」
「ああ! 君がアルファの子を一人産んでくれれば、それで契約は終了。自由の身になれるんだ!」
「え……」
「契約が終われば、君はどこへでも行ける。元の修道院にだって、帰れるんだ」
エドゥアールの言葉に、リュシアンは頭を殴られたような衝撃を受けた。
アルファを一人産めば契約終了。契約終了ということは、エドゥアールの側から離れるということだ。
彼が善意で契約期限を変えてくれたのは、わかる。けれども、あっさりと自分との別れを選択できるなんて。自分は彼を側で支えたいと思っていたのに、それは一方的な想いだったようだ。多少なりとも二人の間で育めている想いがあったように感じていたのは、思い上がりだったのだ。
「あ……」
じわりと、涙が滲み出た。
「リュシアン?」
「ち、違うんだ。涙が出るくらい嬉しかったんだ。信じられなくって」
涙が出るほど衝撃を受けた自分に戸惑いながら、震える声で言い訳を口にした。
「……そんなに帰りたかったのだな。君に特別な贈り物をしてあげられて、よかった」
彼が優しく抱き締める。
彼は優しい。そんな彼に恋をしてしまっている。
けれど子が産まれれば自分は離宮を追い出され、彼は王太子妃と子と幸せに暮らすのだ。
この先、彼と道が交わることはない。この想いは胸に秘めなければならない。
リュシアンは、ゆっくりとエドゥアールの身体を押し返した。
「……ごめん。今日は夜の務めを果たせそうにない。昨晩も家に帰っていて勤めを果たさなかったのに、申し訳ないけれど」
こんなに心が荒れている状態で身体を重ねたら、何を口走ってしまうかわかったものではない。
「わかった、無理はしなくていい。今日はよく休んでくれ」
彼の声音が穏やかで優しい。
ずっと彼の側にいられればいいのに。だがそれは、自分には過ぎた願いなのだ。
離宮を後にする彼を見送ることはできなかった。
リュシアンを迎えに来た、ドゥ・ファルギエール家の馬車だ。
荷物を御者に積み込んでもらい、リュシアンは馬車に乗り込んだ。馬車はドゥ・ファルギエール邸へと走り出した。
離宮からドゥ・ファルギエール邸までは、そう遠くはない。しばし馬車の揺れに身を委ねていると、館へと着いた。
「リュシアン様、お帰りなさいませ」
複数人の使用人がリュシアンを出迎えて、リュシアンは目を丸くした。今までは、使用人には無視されるのが当たり前だったのに。
部屋に通され、父の都合がよくなるときまで、休んでいることになった。
やがて連絡が来て、父に会えるのは夕食のときに決まったと伝えられた。夕食のときならば時間が空いているということで、父と一緒に夕食を取ることになったのだ。
一緒に夕食を取れるだなんて、まるで理想の家族のようだ。自分への待遇が本当に変わったのを、リュシアンは感じていた。
時間になって大食堂に向かい、席に着く。ほどなくして、父が姿を現した。
「おお、リュシアン!」
父はリュシアンの姿を認めるなり、朗らかに笑った。まるで別人になったみたいだ。
「ち……父上」
リュシアンはおずおずと笑いかけた。
「会いたかったぞ。元気にしていたか? ああいや、先に食事を始めよう。空腹だろう」
リュシアンを案じる言葉をかけながら、父はリュシアンの向かいの席に腰かけた。
父に元気にしていたかと聞かれるなんて、初めてだ。けれども、魔法のように性格が変わったなんてことがあるわけがない。
父は自分の役に立っている者には、優しくする性質なのかもしれない。実際、リュシアンの兄や妹には優しいのだから。
父に優しい言葉をかけられ、まるで自分がオメガであるという出自が消え去ったかのようだった。たとえ仮初の優しさだとしても、家族の情のようなものに触れられ、心の奥底に溜まった澱が溶けていくのを感じた。
グラスには葡萄酒が注がれ、前菜が運ばれてきて夕食が始まった。
「ますます美しくなっているな。恙なく暮らしているようで何よりだ」
葡萄酒に口をつけながら、父が微笑んだ。
「はあ、まあ」
優しい父にどう接したらいいかわからず、ぎこちなく笑みを返した。
実際自分が美しくなっているのかは、わからない。
エマやシャルロットたちが、いつも髪に丁寧に櫛を通して髪油を塗ってくれているから、髪質はよくなっていると思う。
「何泊していくんだ?」
当たり前のように投げかけられた質問に、リュシアンは驚いた。泊まっていくことが前提だなんて。手紙の優しい文面を見てもなお、すぐに帰れと言われるのではないかと思っていた。
「え、夕食を取ったらすぐに帰ります」
「何を言う、こんなに遅いのに。せめて一泊はしていきなさい」
「わ、わかりました。そうします」
眉をしかめられ、リュシアンは首を竦めた。
それから父は再び温和な表情になり、こう聞いてきた。
「離宮での暮らしはどうだ。不便はないか?」
遠くで暮らしている息子を案じる親は、こういう言葉を口にするものなのだろう。何の不思議もない、当たり前の言葉であるはずだ。
フォークに取った前菜と一緒に、困惑を飲み込んだ。
「侍女たちが親切なので、何不自由なく暮らしています」
「そうか、それはよかった。離宮には、下働きの者は出入りしているのか?」
「いいえ。侍女たちだけで離宮を維持しています」
「なんたることだ。侍女の役目は妃の世話で、離宮の維持ではなかろう。けしからん」
運ばれてきたスープに舌鼓を打ちながら、父は眉をしかめた。
生粋の大貴族である父にとっては、下働きもいない離宮の現状は嘆かわしいことのようだ。
「あ、でも中庭でお茶したりできるのですよ」
代わりにリュシアンは、中庭の存在を出して自由に過ごせることを強調する。
「ほう、離宮には中庭が存在するのか」
「はい」
「中庭から外には出られるのか?」
「四方に植物が植わっているので、よくわかりません。外に出られそうかどうかなんて、考えてもみませんでした」
もしや務めを投げ出して、逃げ出そうとしているのではないかと疑われているのだろうか。父の顔色を窺いながら答えた。
「ふむ……」
父は一旦手を止め、顎髭を撫でた。何か思案している様子だ。
「おっと、魚料理だ。わしはこの魚に目がなくてな」
次に運ばれてきた料理に、父は視線を奪われた。中庭の話は中断されてしまった。ただの話の種だったのだろうか。
白身魚に父は夢中になり、皿が空になった後、また父が話しかけてきた。
「して、王太子殿下との仲はどうだ?」
「すごくいいです。よく一緒にお茶会をするんです。最近は殿下がお忙しいので、できていないんですけれども」
「殿下がお忙しいか、さもありなん。最近は王太子妃選びをしているようだからな」
「え……?」
父があっけらかんと放った一言に、咀嚼していた料理が味を失った。
――エドゥアールが王太子妃選びをしている?
「何人もの女性と会っているのだ、時間が取れなくて当然だろう」
「あ……そうなん、ですか」
まさかお茶会できないほど忙しい理由が、王太子妃選びをしているからだったなんて。女性と会っているからだったなんて。
もちろん、これは裏切りではない。リュシアンが子を産んだら、それは王太子妃の子になることに決まっている。懐妊してから王太子妃選びをするのでは、遅すぎる。だから、もう王太子妃選びをしなければならないのだ。
でも、素直に教えてくれないなんて……。
どんな風に晩餐会が終わったのか、記憶にない。気がつけばリュシアンは部屋に戻っていて、堪え切れない涙で枕を濡らしていたのだった。
翌日、リュシアンは茫洋とした足取りで館の玄関に向かっていた。これから馬車に乗って、離宮に帰らなければならない。けれども、離宮に帰ってエドゥアールと顔を合わせて、平静でいられるだろうか。
ぼうっと歩いていたら、突然衝撃を感じた。
誰かにぶつかってしまったのだ。
「す、すみません!」
リュシアンは慌てて謝った。
「おっと、構わないよ」
聞いたことのない男の声が降ってきた。
顔を上げると、そこには美しい金髪碧眼の男がいた。がっしりとした上背に、太い眉の男らしい顔立ち。
リュシアンと目が合うなり、男は目を見張ってリュシアンを凝視した。
「なんて美しさだ……」
男はぼそりと何かを呟いた。
「あの、お怪我はありませんか?」
「あ……いいや、大丈夫サ」
男の言葉には、微かに訛りがあった。おそらくは帝国訛りだ。
ルナルジャン王国の隣には、シュヴァルツ帝国が存在する。帝国人には金髪碧眼が多いと聞くし、目の前の男は帝国人なのだろうと推測した。
どうして帝国人がこの邸宅にいるのだろう。父の客だろうか。
帝国人の男は、じっとリュシアンを見つめたまま動かない。
「あの……やっぱり、どこか悪くされたのでは?」
「失礼。いや、なんでもないとも」
男ははっとしたように、館の奥へと足早に去っていった。一体、何だったのだろう。奇妙な人だ、と首を傾げた。
「リュシアン様、お帰りなさいませ」
離宮に帰ると、五人の侍女が出迎えてくれた。
「リュシアン様がいない間、寂しかったです」
「寂しかったなんて、おおげさな。たったの一泊ですよ」
シャルロットの言葉に、リュシアンは笑った。むしろ主がいなくて、のんびりできたのではないだろうか。
今日からまた日常が始まる。エドゥアールが王太子妃選びをしていて、それを自分には隠しているという事実も、きっと彼が訪ねてくる夜までには呑み込めるはずだ。
その晩、いつものようにエドゥアールが訪ねてきた。
「リュシアン、いい報せがあるんだ!」
その日の彼は、珍しく喜びに満ちた笑顔を浮かべていた。まさか王太子妃が決まったのだろうかと、どきりとしてしまう。
彼は興奮した様子で、リュシアンの手を握った。
「君の契約期限について父上に掛け合って、変えさせることに成功したんだ」
「契約期限……?」
「ああ! 君がアルファの子を一人産んでくれれば、それで契約は終了。自由の身になれるんだ!」
「え……」
「契約が終われば、君はどこへでも行ける。元の修道院にだって、帰れるんだ」
エドゥアールの言葉に、リュシアンは頭を殴られたような衝撃を受けた。
アルファを一人産めば契約終了。契約終了ということは、エドゥアールの側から離れるということだ。
彼が善意で契約期限を変えてくれたのは、わかる。けれども、あっさりと自分との別れを選択できるなんて。自分は彼を側で支えたいと思っていたのに、それは一方的な想いだったようだ。多少なりとも二人の間で育めている想いがあったように感じていたのは、思い上がりだったのだ。
「あ……」
じわりと、涙が滲み出た。
「リュシアン?」
「ち、違うんだ。涙が出るくらい嬉しかったんだ。信じられなくって」
涙が出るほど衝撃を受けた自分に戸惑いながら、震える声で言い訳を口にした。
「……そんなに帰りたかったのだな。君に特別な贈り物をしてあげられて、よかった」
彼が優しく抱き締める。
彼は優しい。そんな彼に恋をしてしまっている。
けれど子が産まれれば自分は離宮を追い出され、彼は王太子妃と子と幸せに暮らすのだ。
この先、彼と道が交わることはない。この想いは胸に秘めなければならない。
リュシアンは、ゆっくりとエドゥアールの身体を押し返した。
「……ごめん。今日は夜の務めを果たせそうにない。昨晩も家に帰っていて勤めを果たさなかったのに、申し訳ないけれど」
こんなに心が荒れている状態で身体を重ねたら、何を口走ってしまうかわかったものではない。
「わかった、無理はしなくていい。今日はよく休んでくれ」
彼の声音が穏やかで優しい。
ずっと彼の側にいられればいいのに。だがそれは、自分には過ぎた願いなのだ。
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