誰からも愛されないオレが『神の許嫁』だった話

野良猫のらん

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第二十四話*

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「ウエル、身体が冷えているのだから温かくして寝ていなさい。お腹は減っていないかい?」
 
 ウエルは寝台に寝かせられ、ハオハトはいつもの定位置である寝台横の椅子に座ってウエルを見下ろしている。
 
「減っていない。それより、ハオハトに話があるんだ」
「なんだい? ウエルの話なら聞くよ、いつまでも」
「ハオハト……止めた時を動かしてくれ」
 
 一つだけ残った問題は、時が止められたままだということだ。再び時が流れるようにしてもらわなければならない。

「どうして、そんなことを……?」
 
 戸惑ったように蒼い瞳が揺れた。
 
「それは……愛し合いたいからだよ。ハオハト、オレたちが愛し合うためには時が流れていなきゃ駄目なんだ」
 
 ウエルは真剣に蒼い瞳を見つめた。
 
「駄目……? どうしてだい、ウエル?」
 
 湖の底まで助けにきてくれた彼ならば、もう悟っているはずだ。悲しみを手放して、向き合ってくれた彼ならば。
 
「時が流れていれば春が巡ってくるんだよ、ハオハト。何度でも」
 
 自分が死んだ後には孤独しか残っていないなんて。絶望ばかりではない、と彼に教えてあげたい。
 
「ハオハト、ふたりの思い出をたくさん作ろうよ。思い返しても思い返し切れないくらい、たくさん。ハオハトの好きなものをふたりで増やそうよ。やってもやっても尽きないくらい、たくさん。オレと生きた時間だけじゃなくて、オレと出会ったことでハオハトのその後の時間が楽しいものになるようにしたい」
 
 ハオハトのこれまでの記憶を、悲しみの湖で覗き見て。死んだように微睡んできたこれまでを、繰り返してほしくないと思った。
 
「ハオハト、オレとの出会いを意味のあるものにしてほしいんだ。それなら、オレはずっと彼と一緒に生きてあげられるのと同じになるから」
「ウエルが……ずっと一緒に……」
 
 ウエルはこくりと頷き、手を伸ばして彼の手を握った。彼の手はかすかに震えていた。吹雪の中でも震えていなかった手が。
 
「ねえ」
 
 穏やかに言葉を紡ぐ。
 
「ハオハトと一緒に花の咲いている野原を歩いてみたいな。街で買い食いもしてみたい。もちろん、ハオハトは人間のふりしてね。ふたりでお祭りに行きたいな。人間の奏でる笛の音も、ハオハトに聞いてみてもらいたいよ。それから、それから……」
 
 ウエルはたくさん、ふたりでしたいことを並べた。
 ハオハトはそれを静かに聞いてくれた。
 
「それからね」
 
 最後に、ウエルは頬を赤らめながら言った。
 
「……ふたりの子供がほしいな」
 
 少し前まで覚悟ができていなかったけれど。今ならば、お腹の中にふたりの子を宿してもいいと思っている。
 新しい生命を宿すためには、時が流れていなければならない。
 
「だから、時を動かしてほしいと思うよ。オレも寂しいのは辛いから、置いてかれたくないって気持ちはわかるよ。でも、絶対にハオハトを後悔させない。幸せにしてみせるから」
 
 孤独の苦痛よりも、幸福を上回らせてやる。必ず。
 力強い視線で彼をまっすぐに見つめた。
 
「ウエル……ウエルは、強いね。私なんかよりも、ずっと」
 
 口を開いたハオハトの声音は震えていた。
 
「私はずっと恐ろしかったのに、ウエルの話を聞いて、未来が楽しみになってしまった。こんなにちっぽけな人の子なのに、ウエルは私よりもすごい」
 
 彼の手の震えは、止まっていた。しっかりと握り返してくる。
 
「わかった。ウエルのおかげで、覚悟は決まったよ。時を動かそう」
 
 彼に決断させてしまった。
 彼は将来、自分がいない未来を生きることになる。自分が決断させたせいで。
 だから、絶対に幸福にしてあげよう。ウエルは心に決めた。
 
 ハオハトが手を動かす。ヤルトがしていたように宙に鏡を作り、下界の光景を映し出した。
 街や村の光景が映し出される。固まって動けなくなっていた人や動物たちが、次々と動けるようになっていく。
 時が動き出したのだ。
 
「……ありがとう、ハオハト。実際にずっと生きなきゃいけないのはハオハトなんだから、勇気があるのはハオハトの方だ」
 
 永遠に近い孤独を実際に経験したのも、これから未来を生きるのもすべて彼だ。それでも決断してくれた彼に、愛おしさが増した。
 胸の内で膨らむこの気持ちを、伝えなければ。
 
「ハオハト――――愛している」
 
 やっと、口に出して伝えることができた。
 
「ウエル……!」
 
 彼は身を乗り出し、ウエルを抱き寄せた。
 顔がぐっと迫ってきて、唇が重なり合った――唇を食まれ、柔らかい感触が心地いい。
 
 彼の喜びが直に伝わってくる。こんなに喜んでくれるなら、伝えてよかったと思った。
 唇を食むだけでは抑え切れなくなったのか、唇の間に長い舌が挿入ってくる。ウエルはそれを受け入れた。
 舌が絡み合う。触れ合う感触に、どこかじんと甘さを感じる。まるでふたりの喜びが溶け合っているかのようだ。
 想いが通じ合ったのだ、と心から感じられた。
 
「……っ」
 
 息が苦しくなると、口を離してくれた。
 蒼い瞳と視線が絡み合う。
 
「ウエル……私との子がほしいと言ってくれたね?」
「うん」
 
 覚悟を決めて、こくりと頷いた。
 
「じゃあ、抱いても?」
「うん……抱かれたい」
 
 耳まで熱くなるのを感じながら、告白した。
 
「ウエル。嬉しいよ。愛してくれると言ってくれたことも、抱くのを許してくれたことも。こんなに幸せなことはない」
 
 早速、少しは彼を幸せにできたのだろうか。
 
 ギシリと寝台が軋み、彼が寝台に上がってきた。
 彼に見下ろされ、白い髪がすだれのように垂れ下がってくる。初夜のときと同じだ。初夜と違うのは、ふたりの気持ち。
 彼が愛おしい。身体を重ねたい。ウエルの胸の内は喜びで満たされていた。
 
 寝間着をはだけられ、ウエルの肌が露出する。山焼けの境目はもうだいぶ目立たなくなっていた。
 
「愛おしい徴」
 
 ハオハトは呟き、鎖骨にある星型の痣にキスを落とした。
 一度、二度と口づけされ、吸われる。
 
「あ……っ」
 
 肌を吸われ、甘い吐息が漏れ出た。
 今回は変なものを盛られたわけでもないのに、もう身体が熱い。
 
「なあハオハト、結婚式はしないのか?」
「え?」
 
 肌を撫でられながら尋ねる。
 胸元の痣を吸われ、ウエルは思い出したのだ。
 
「ちっとも許嫁から伴侶になれた気がしてないんだ。人間みたいに結婚式をしようよ、ハオハト」
 
 下着を脱がされながら、提案した。
 
「ウエル……! そうだね、人の子みたいに夫婦めおとになろうねウエル。私が夫で、ウエルが妻かな」
 
 ハオハトは本当に幸せそうに目元を緩めた。
 けど、ウエルは彼の言葉に一つ不満が。
 
「は? なんでオレが妻なんだよ。お前の子を孕みたいとは言ったけど、男をやめた覚えはないからな」
 
 ウエルは頬を膨らませて、彼を睨みつけた。
 
「え、あ、じゃあ夫と夫なら許してくれるかい?」
 
 ハオハトは戸惑いつつお伺いを立てる。
 
「……うん。それなら許す」
 
 夫と夫になるとの言葉に矛を収めたウエルは、ぎゅっと彼を抱き寄せると頬に口づけした。ちゅっと、音が鳴る。
 
 彼の大きな手を握り締め、脱がされて空気に晒された己の下肢に導く。
 そこは既に昂って主張している。
 ずっと彼の手で高めてもらうことを想像してきたのだ。
 
「ハオハト、触って……?」
 
 しおらしくねだった。
 
「わかったよ、ウエル。気持ちよくしてあげるからね」
 
 ハオハトも、ウエルの額に口づけを落とし。
 長い指がそっとウエルの茎を包み込んだ。
 
「あ……っ」
 
 温かい指に包み込まれる感触に息を呑んだ。
 指は茎を握ると、ゆっくりと上下に扱いていく。
 
「あ……っ、ハオハト……きもちいい……っ!」
 
 ウエルの中心は彼の手の中で硬さを増す。やがて先端から蜜が分泌され、彼の手を濡らした。扱かれるたびにぬちりと湿った音を立てるようになる。
 
「あ、あぁ……っ!」
 
 ウエルは寝台の敷布団を掴み、身体を捩らせた。
 性器を刺激され、鋭い快感がウエルを高みへと昇らせていく。ずっと望んでいた彼からの手淫に、頭の中が快感一色に染まり……
 
「あっ」
 
 白濁が散った。
 掌に現れた一掬いの雪を、彼は口を開けると長い舌で舐め取ってしまった。白い喉仏が上下したのも見えた。
 
「ハ、ハオハト、飲んじゃうなんて……!」
 
 己から出たものを飲み込まれ、羞恥に頬が熱くなった。
 彼はそのまま人差し指を口の中に含んで濡らす。濡れた指が唇の間から引き抜かれる様が、妖艶だった。
 
「ウエルの精子、美味しかったよ」
 
 淫蕩に微笑まれ、耳まで真っ赤になる。
 
「後ろを拡げてあげるからね」
 
 片手がウエルの膝を掴んで脚を広げさせ、唾液に濡れた指で後ろに触れた。
 くちゅりと音を立てて指先が沈んだ。
 
「あ……っ」
 
 後ろを長い指が押し拡げていく。
 彼を受け入れられるように、少しずつ身体を作り変えていくかのように。
 
「あぁ……」
 
 甘い吐息を漏らした。
 身体の内側に直接触れられる行為が淫靡で背徳的で、指先が擦った肉壁がじんじんとする。
 
「ウエル、痛くない?」
 
 指先で拡げる愛撫を繰り返しながら、彼は身体を折ってウエルの胸元にキスを落とした。
 優しいキスの繰り返しに、身体の強張りが緩んでいく。
 強張りが解けると、自然に指が奥に進んでいった。
 
「ううん、痛くないよ」
 
 笑みを浮かべて答えた。
 
「よかった」
 
 笑みを返すと、ハオハトはウエルの褐色の肌を舐め上げる。
 
「あっ」
 
 声が漏れ出た。
 彼はウエルの後ろを解しながら、肌を舌で愛撫していく。
 
「あっ、あぁ……っ!」
 
 長い舌が胸の尖りを掠めると、一際敏感に反応してしまう。
 
「おや? ここが気持ちいいのかい?」
 
 彼もそれに気がついたようで、尖りに吸い付いてきた。
 
「あぁぁぁ……っ!」
 
 敷布団を掴み、身を捩って善がる。背を反らすと、胸を彼に差し出すような姿勢になってしまう。
 
「そうなんだ、ここを弄ってほしいんだね」
 
 彼もそう受け取ったようで、尖りを舐ったり、歯を軽く立ててみたりと、胸への愛撫を繰り返す。
 後ろを解す指の本数もいつの間にか増えている。圧迫感に気がつかないほど、胸からの快楽に夢中になってしまった。
 先ほど達したウエルの前も、再び兆して蜜を垂らしている。
 
「あぁっ、ハオハト、ハオハト……っ!」
 
 変なものを盛られていなくても、こんなに感じてしまうとは思わなかった。それもこれも、蒼い瞳がじっと見下ろしてくるせいだ。視線が熱い。
 ぬちゅりと、かすかな音を立てて指が引き抜かれた。
 
「……っ、……っ」
 
 しばしの間に、ウエルは胸を上下させる。
 天蓋を見上げながら、衣擦れの音に彼が衣服を脱いでいることを理解した。
 ちらりと視線を動かすと、逞しい白い身体が見えた。中心で雄々しく屹立しているモノも。
 
「挿入れるからね」
 
 それが孔に充てがわれた。期待に孔がヒクリと口を開く。
 
「あぁ……ッ!」
 
 剛直に貫かれ、歯を食いしばった。彼の体温が内側を埋め尽くしていく。
 初めてではないとはいえ、流石に楽々と受け入れるというわけにはいかない。涙がぽろりと眦から零れた。
 
「ウエル、痛いよね。ごめんね」
 
 零れ落ちた涙の粒を、彼の舌が舐め取っていく。
 今日のハオハトはきちんと、ウエルの気持ちを確かめてくれる。そこが嬉しかった。以前のように、よがっていると決めつけて無理やり行為を進めたりしない。
 
 挿入したあとすぐに動いたりせず、彼はウエルの頭を撫でてくれた。伸ばしっ放しの黒髪を彼の指が梳く。だんだんと圧迫感による苦痛よりも、心地よさの方が上回っていく。
 
「大丈夫だよハオハト、もう痛くないから。動いて大丈夫だよ」
 
 落ち着いて呼吸ができるくらい余裕のできたウエルは、彼に微笑みかけた。
 
「いいのかい?」
「うん」
「じゃあ、動くよ」
 
 穏やかな動きで剛直が引き抜かれていき、同じくらい緩やかな動きで進んでくる。
 浅い場所で、上下運動が繰り返される。
 
「あっ……ん」
 
 遠慮がちな喘ぎ声。
 陰茎の裏あたりを擦られると、ジンと甘い快感が身体に滲む。
 彼のモノが抜けてしまわない程度に、緩やかに腰を揺らめかせてそこへと先端を導く。
 
「あぁ……っ!」
 
 彼も理解したのか、剛直の動きが明らかに性感帯を狙ったものへと変わる。
 
「あっ、あっ、ぁ、あ……っ!」
 
 喘ぎ声がだんだんと大きくなっていく。
 抽送も大胆な動きへと変じていく。浅いところを往復していただけのそれが、奥へ奥へと目指すようになる。陰茎裏の性感帯を的確に擦り上げ、奥を貫く。
 
「あぁッ、あっ、ハオハト、きもちいよお……っ!」
 
 彼との交わりが、気持ちよかった。
 彼の背中に手を回して喘ぐ。
 
「ウエル、好きだよ。好きだ……!」
 
 肉と肉がぶつかる乾いた音が響いている。
 彼の愛を直接ぶつけられている。
 
「あぁッ、あッ、あっ、ハオ、ハトッ! ハオハト……ッ!」
 
 彼の名前を知る唯一の者として、喘ぎながらひたすらに呼ばわる。
 善がるあまり、背中に爪を立ててしまう。
 
「ウエル、ウエル……ッ!」
 
 彼もウエルの名を叫び、一際激しく最奥を貫いた。
 
「――――ッ!」
 
 身体を満たす快感に、ウエルは気をやった。ふたりの腹の間を、ウエルの精がとろとろと汚す。
 
「ウエル……ッ!」
 
 腹の中に、彼の精が注がれていく。熱い精の腹の中を満たされ、心地よさを覚えた。
 ふたりの心が通い合った、以前よりもずっと気持ちのいい交わりだった。
 
 一瞬、微睡んでいたかもしれない。
 気がつけば接合は解かれていて、ハオハトは隣に寝そべりじっとウエルを見下ろしていた。
 
「これでハオハトの子ができるのか……?」
 
 尋ねてみると、彼はおかしそうにくすりと笑った。
 
「ふふ、まだだよ。まずはウエルの身体が私の体液に慣れてから、子宮をこの中に造るんだよ」
 
 ハオハトはウエルのお腹を優しく撫でた。
 
「そっか。そうだっけ」
 
 初夜のときに説明されたような気がするが、すっかり忘れてしまっていた。
 
「ゆっくりゆっくり、慣れていこうね」
「うん」
 
 ふたりの子ができたら、もっと楽しいことや嬉しいことが増えるだろうか。
 子をなす日が楽しみで仕方がなかった。
 
 ゆったりと指で髪を梳かれ、瞼が重くなってくる。髪に触れられるのが気持ちよかった。
 前髪も邪魔になってきたし、今度彼に髪を切ってもらおうかなどと思案する。以前ならば髪に触れられるなんて気持ち悪かったけれど、今の彼にならば大丈夫だ。はたして最高神さまは髪を切るのは上手いのだろうか、なんて考えてみて少し面白くなった。
 
 彼と一緒にしたいことは、一生尽きることはないだろう。
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