31 / 55
第三十一話 殿下なわけがない
しおりを挟む
そうだ、それが既視感の正体だ。
孤児院のアニエスに「そよ風みたいに優しい」と言われた時に感じた既視感の正体は、七歳の時の思い出だったのだ。
すっかり忘れていた。
「ヴァン様、いかがされました?」
しばしの間ぼうっとしていたヴァンを、フィリップが心配する。
「あ、実を言うと迷子になった時のことを思い出して……」
ヴァンは彼に金髪碧眼の子供と会ったことを話した。
話を聞くと、フィリップは目を丸くしてとんでもないことを言い出した。
「金髪に蒼い目をされていたのですか? それはもしかして幼い頃の殿下ではありませんか?」
「えっ!?」
思いもよらぬ可能性に、ヴァンはびっくりする。
「殿下ならば一人で庭を散歩くらいなさるでしょうし、その子はヴァン様よりも一回り小さかったのでしょう? 年齢も合います」
今はヴァンよりも背が高い彼も、十五年前ならば小さかっただろう。
しかしそんなことはあり得ないのだ。
「殿下なわけがありません」
「なぜ、そうおっしゃるのですか?」
「だって……その子は、ギーくんは少なくとも太陽の精霊には守護されていませんでした。どんな精霊に守護されていたか記憶はないのですが、少なくともそれは確かです」
ギーくんの周囲をどんな精霊が漂っていたか、不思議と記憶はない。だが太陽の精霊を含む十二もの精霊が彼を加護していたのならば、いくらなんでも記憶に残っているだろう。
それに、ギーくんはやんちゃそうな性格だった。ギュスターヴとはだいぶ雰囲気が違う。同一人物なわけはない。
「なるほど、そういうことならば確かに殿下ではないようですね」
フィリップは溜息を吐く。
「残念です。幼き日の殿下とヴァン様が実は出会っていたということであれば、大変麗しい出来事だと思ったのですが」
彼の表情は口惜しそうだった。
「フィリップさん、今なんと?」
「殿下とヴァン様ほど、見ているだけで心の洗われるお二人はいらっしゃいませんからね。お二人の麗しい思い出が多ければ多いほどよいのは、当然のことでしょう」
彼はよく分からないことをキリッと言い放った。
どうやら星の精霊に愛されし彼の忠誠心は、ギュスターヴからヴァンの側仕えへと配置換えを命じられたことで、斜め上の方向へと変質を遂げたようである。
ヴァンはフィリップの忠誠心の方向性について、あまり深く考えないことに決めた。
「それで、『そよ風みたいに優しい』と甘く囁かれた後はどうなったのでございますか?」
ギーくんはギュスターヴではないと判明したはずだが、フィリップは頭の中でギーくんをギュスターヴに置き換えているのか興味津々で聞いてくる。
「え? ええーと、どうなったんでしたっけ……」
今の今まで忘れていた十五年前の出来事だ。
ヴァンは一生懸命に記憶をたぐり寄せようとしたが、徒労に終わった。
「ごめんなさい、思い出せません。たぶん、無事に帰れたのだと思うのですけれど」
「そうでございますか。思い出せたらいつでもお聞かせ下さい」
フィリップの周囲の精霊たちも同調して、くるくると彼の周りを落ち着きなく漂っていた。
ギーくんとの会話は、楽しい思い出だった。
幼い日の思い出を蘇らせることができて、ヴァンもいい気晴らしになったのだった。
孤児院のアニエスに「そよ風みたいに優しい」と言われた時に感じた既視感の正体は、七歳の時の思い出だったのだ。
すっかり忘れていた。
「ヴァン様、いかがされました?」
しばしの間ぼうっとしていたヴァンを、フィリップが心配する。
「あ、実を言うと迷子になった時のことを思い出して……」
ヴァンは彼に金髪碧眼の子供と会ったことを話した。
話を聞くと、フィリップは目を丸くしてとんでもないことを言い出した。
「金髪に蒼い目をされていたのですか? それはもしかして幼い頃の殿下ではありませんか?」
「えっ!?」
思いもよらぬ可能性に、ヴァンはびっくりする。
「殿下ならば一人で庭を散歩くらいなさるでしょうし、その子はヴァン様よりも一回り小さかったのでしょう? 年齢も合います」
今はヴァンよりも背が高い彼も、十五年前ならば小さかっただろう。
しかしそんなことはあり得ないのだ。
「殿下なわけがありません」
「なぜ、そうおっしゃるのですか?」
「だって……その子は、ギーくんは少なくとも太陽の精霊には守護されていませんでした。どんな精霊に守護されていたか記憶はないのですが、少なくともそれは確かです」
ギーくんの周囲をどんな精霊が漂っていたか、不思議と記憶はない。だが太陽の精霊を含む十二もの精霊が彼を加護していたのならば、いくらなんでも記憶に残っているだろう。
それに、ギーくんはやんちゃそうな性格だった。ギュスターヴとはだいぶ雰囲気が違う。同一人物なわけはない。
「なるほど、そういうことならば確かに殿下ではないようですね」
フィリップは溜息を吐く。
「残念です。幼き日の殿下とヴァン様が実は出会っていたということであれば、大変麗しい出来事だと思ったのですが」
彼の表情は口惜しそうだった。
「フィリップさん、今なんと?」
「殿下とヴァン様ほど、見ているだけで心の洗われるお二人はいらっしゃいませんからね。お二人の麗しい思い出が多ければ多いほどよいのは、当然のことでしょう」
彼はよく分からないことをキリッと言い放った。
どうやら星の精霊に愛されし彼の忠誠心は、ギュスターヴからヴァンの側仕えへと配置換えを命じられたことで、斜め上の方向へと変質を遂げたようである。
ヴァンはフィリップの忠誠心の方向性について、あまり深く考えないことに決めた。
「それで、『そよ風みたいに優しい』と甘く囁かれた後はどうなったのでございますか?」
ギーくんはギュスターヴではないと判明したはずだが、フィリップは頭の中でギーくんをギュスターヴに置き換えているのか興味津々で聞いてくる。
「え? ええーと、どうなったんでしたっけ……」
今の今まで忘れていた十五年前の出来事だ。
ヴァンは一生懸命に記憶をたぐり寄せようとしたが、徒労に終わった。
「ごめんなさい、思い出せません。たぶん、無事に帰れたのだと思うのですけれど」
「そうでございますか。思い出せたらいつでもお聞かせ下さい」
フィリップの周囲の精霊たちも同調して、くるくると彼の周りを落ち着きなく漂っていた。
ギーくんとの会話は、楽しい思い出だった。
幼い日の思い出を蘇らせることができて、ヴァンもいい気晴らしになったのだった。
386
あなたにおすすめの小説
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました!
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる
古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
婚約破棄と国外追放をされた僕、護衛騎士を思い出しました
カシナシ
BL
「お前はなんてことをしてくれたんだ!もう我慢ならない!アリス・シュヴァルツ公爵令息!お前との婚約を破棄する!」
「は……?」
婚約者だった王太子に追い立てられるように捨てられたアリス。
急いで逃げようとした時に現れたのは、逞しい美丈夫だった。
見覚えはないのだが、どこか知っているような気がしてーー。
単品ざまぁは番外編で。
護衛騎士筋肉攻め × 魔道具好き美人受け
婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw
ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。
軽く説明
★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。
★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる