婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん

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第四十七話 十五年前の真実

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「ヴァン、怪我はないか」
 
 誘拐犯の元から助け出されたヴァンは城に戻ると湯浴みをさせられ、現在自室のベッドに寝かされていた。
 隣には椅子に座ったギュスターヴがいる。ヴァンは上体を起こした状態で、彼と向き合っていた。
 
「大丈夫です。殿下の指輪があったので」
 
 ヴァンはおずおずと微笑み、右手の薬指に光る指輪を見せる。
 
「そうか……私の精霊たちの御力が役に立ったんだな。良かった」
 
 彼はほっと安堵に目を細めた。
 彼は怒っている様子はない。ヴァンが勝手な行動をしたせいで、誘拐されたのに。なのに、彼は誘拐された自分を助けに来てくれた。
 彼の優しさに、胸の内が締め付けられる。

「実を言うと、私も婚約指輪に籠められた加護に助けられたんだ。指輪から吹き出した目に見える風が、ヴァンのいる方向を指し示してくれたんだ」
「え、そうなんですか!?」

 ヴァンは目を丸くさせた。
 まさか風の加護が助けになってくれていたなんて。
 それでギュスターヴは助けに来れたのか、と納得した。
 
「ヴァン、怖い思いをさせてしまってすまなかった」

 ギュスターヴの精霊たちが心なしか力なく宙を漂っているように感じられた。
 彼は心底から後悔しているようだ。
 
「謝らないで下さい、殿下のせいではないのですから」
「いや、私がしっかりしていれば未然に防げたはずなんだ」
 
 ギュスターヴは項垂れた。彼のせいではないのに。
 ヴァンは手を伸ばして、彼の手を握る。手の平から彼の手の温かさが伝わってきて、ドギマギとする。
 
「あの、あまり気になさらないで下さい。殿下はしっかりと、僕のことを助けに来てくれました。僕は、そのことがとても嬉しかったです」
「ヴァン……」
 
 彼はゆっくりと顔を上げる。
 蒼い瞳が微かに潤んでいるように見える――――やっぱり、あの時のギーくんと同じ瞳だ。
 やはり彼に確かめなければ。
 
「あの、僕思い出したことがあるんです……」
「誘拐犯に関することか?」
「いえ、全然関係ないことなんですけど」
「何でも話してくれないか」
 
 ヴァンは彼を見つめる。きっと思い違いではないだろう。
 勇気を持って、彼に直接尋ねることにした。
 
「あの、ギュスターヴ殿下……今から十五年くらい前のことなんですけれど」
「十五、年前……?」
 
 彼の身体がギクリと身動ぎしたような気がした。心当たりがあるのだろうか。
 
「僕は十五年前、城の庭でギーくんと名乗る男の子に出会いました。僕はそこでギーくんにプロポーズされたんです。ギーくんは金髪で、殿下そっくりの綺麗な目をしていて……あの時プロポーズしてくれたギーくんは、ギュスターヴ殿下ですよね?」
 
 蒼い瞳を見つめて真っ直ぐに問いかける。
 
「そ、れは……」
 
 彼はしばし目を泳がせた後、覚悟を決めたように改めてヴァンを見据えた。

「その通りだ。私たちは幼い頃に会ったことがあった。だが再会した時、君はそのことを覚えていなかった。だからこのことは、君には伝えないつもりだった。だって覚えていなかったのだから、君にとってはどうでもいい思い出だったということなのだから」
 
 彼は幼い時に交わした約束の通りに、ヴァンが婚約破棄されて婚約者がいなくなったから迎えに来てくれたのだ。
 彼はずっと覚えていて約束を果たしに来てくれたのに、自分はそのことを覚えていなかった。どれほど傷ついたことだろう。
 
「そんなことないです、僕はすごく嬉しかったんです! でも、両親が僕に……忘却魔術をかけていたらしいんです」
「な……っ!?」

 蒼い瞳が大きく見開かれた。

「そうとは知らず……。忘却魔術を、我が子にかけるだと……!? なんて、卑劣な!」

 ヴァンの手の中で、怒りのためか彼の手が震えている。
 彼の精霊たちが、荒れ狂っている。

「私はヴァンが忘却魔術をかけられていることも見抜けなかった。私はヴァンの婚約者失格だ……」

 そんなに自分を責めることはないのに。
 彼の手を、もっと強くぎゅっと握りしめる。

「殿下がずっと忘れないでいてくれて、こうして迎えに来てくれたんだって知って僕は、幸せです」
「ヴァン……。こんな不甲斐ない私を婚約者と認めてくれるのか」
「はい。僕の婚約者は……伴侶は、ギュスターヴ殿下しかいません」
 
 ヴァンの言葉を聞いた彼の瞳から、ほろりと涙の粒が零れ落ちた。
 あの時のギ―くんのように。
 
「私は……五歳のあの日、ヴァンに惚れたんだ。あの頃、加護無しだと思われていた私に優しくしてくれたのは、ヴァンだけだった。ヴァンだけが本当の私を見てくれたんだ。加護の数など関係なしに」

 ギュスターヴは静かに告白する。
 
「そんな、あの時の僕はギーくん、いえ、殿下の加護の数なんてまるで気付いていなくって……」
「気にならなかったということは、つまり本当の私だけを見てくれていたということだろう。将来の伴侶として相応しいのは君だけだと思ったんだ、ヴァン」
 
 どうして彼が自分を選んだのか。ずっと抱いていた疑問の答えがいま、はっきりとした。
 ヴァンとしては、大層なことをしたつもりはない。ただ、自分よりも一回り小さな子供が心細そうにしていたから親切にしただけだ。
 むしろ、プロポーズを受けて嬉しかったのは自分の方だ。
 
「ギュスターヴ殿下……」
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