異世界転生した僕、実は悪役お兄様に溺愛されてたようです

野良猫のらん

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小話 吟遊詩人の新たな恋愛譚 前編

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「グリーンヴィレッジ?」

 酒を奢った同業の口から出てきた言葉に訝しんだ。
 相手は大事な仕事道具であるリュートを足元に立てかけている。
 そして私もまた同じようにハープを立てかけている。
 そう、私と彼は草原に吹く一陣の風のように自由を謳歌する者……旅の吟遊詩人であった。

「緑色の村、とは何とも捻りのない名前だ。よほど緑が生い茂っていることしか特色のないところなのだろうね」

 典型的な森の中に浮いた染みのような寒村を私は想像した。

「以前はそうであったのだが。ダンジョンが湧き出したらしい。ここ一、二年のことでござる」
「ほう?」

 その言葉に俄然興味が湧いた。
 ダンジョンが湧いてから最初期のダンジョン村ならば一番治安が悪く、また一番魔物に襲われる危険性も高い時期だ。何故ならば村の設備やシステムが整っていないからだ。
 だが、だからこそ私のような一介の吟遊詩人でも荒稼ぎできるチャンスがある。

「拙者が訪れた時にはフロアボスが討伐されたばかりでござった。今ならばまだ討伐戦の時期と被ることもなかろう」
「貴重な情報だ、ありがたい」
「こうして酒を奢ってくれたお主だからこそ話すのだ」

 フロアボスによる被害の範囲は凄まじく、万が一フロアボス討伐に失敗すれば全力で村から逃げても間に合わないかもしれないと聞く。
 そうして滅んだ村から現れたフロアボスを討伐するために、今度は国から騎士団が派遣される。
 だがこの乱世だ。果たして今のこの世でフロアボスが地上に解き放たれたら騎士団が駆けつけるまでに何日……いや何週間かかるだろうか。
 だから彼の少なくとも今行けば討伐戦の時期に被らないだろうという情報は値千金だった。

「それで、そのグリーンヴィレッジの場所は?」

 私はその村を訪れることに決めた。



 乗合馬車を乗り継いで数日、私はグリーンヴィレッジに辿り着いた。

「ほう……」

 馬車がその村に着いた瞬間、急に目の前が開けたようだった。

 こうした乗合馬車も一日に何度も訪れるのだろう。
 ここに来るまでの道のりもしっかりと整備されて揺れが少なく、馬車が二台すれ違って通れるほどの太い道が通っていた。
 なんでも大事な時に馬車が道でぬかるみにハマって動けなくなってしまったことがあったらしく、徹底的に道が整備されたのだとか。

 そしてこの村の入口だ。
 大勢の人や馬車が行き来している。

「こりゃまるで町だな……」

 市壁と門さえあればこの村はもう町を名乗れるのではないかとすら思えた。

 そうだ、市壁すらないんだぞ。
 市壁のないダンジョン村ではいつ魔物に襲われるか分からない。
 私のように危険だからこそそこに商機を見出す人間もいるのだろうが……とてもじゃないが最初期のダンジョン村とは思えない。

 私はこの村に宿をとる時にさり気なく宿屋の主人に聞いてみた。宿屋の主人はフランツと名乗った。

「私が言うのもなんですが、この村に来る方々は魔物に襲われるのが怖くないんですかね?」
「ああ、そのことですか」

 フランツは鷹揚に頷いて教えてくれた。
 なんでもこの村ではダンジョンの外に出現した魔物に人が襲われた例は一件しかないらしい。

 そんな馬鹿な。
 毎週のように誰かしらが死に、人々の悲嘆をダンジョンがもたらす恩恵の豊かさで無理矢理忘れさせるような、そんな歪んだ陽気さを持つのがダンジョン村の特徴ではなかったのか。

 私はとんでもない村に来てしまったのかもしれない。
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