異世界転生した僕、実は悪役お兄様に溺愛されてたようです

野良猫のらん

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第五十三話 新たな誓い

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「ロベール……?」

 ロベールは僕の身体を強く抱き締めてくれた。
 憎しみに溢れた僕を。
 そして彼は僕の手を掴むと、彼の首元へと持っていく。
 僕の両手は彼の首へと添えられた。

「アン。私のことが憎いならこのまま私を絞め殺してくれて構わない」
「な、何言って……」

 彼の言葉は本気だった。
 彼は真っ直ぐに僕を見据えていた。
 彼は本当にこのまま僕に殺されても構わないとすら思っているのだ。

『君は分かっていないのだ。私がどれだけ君のことを愛しているのか』

 いつだかの彼の言葉だ。
 僕は本当に分かっていなかったのだ。
 彼がどれだけ僕のことを愛してくれているか。
 彼は僕のためにその命すら差し出す気でいる。

 彼の首が僕の掌の中にある。
 彼の首の中の血管をドクドクと血が流れているのを手の中に感じる。
 その息の根を自分の手で止める様を想像してみる。
 それはとても恐ろしい想像だった。

「だ、だめ、やだ、僕、ロベールのこと殺したくない……!」

 答えはすぐに出た。
 恐ろしい想像が現実のものとなってしまわないように僕は手を引っ込める。
 ロベールはずっと呼吸を止めていたかのように大きく息を吐いた。

「君は私のことが憎くないのか」
「憎くない……! ロベールがいてくれなきゃ生きていけない! ロベールのこと、愛してるから……!」

 衝動的に口を突いて出た言葉に自分で驚いた。
 まさか自分がそこまでロベールのことを想っていたなんて。
 僕は自分の想いの大きさすら分かっていなかったのだ。

「でも、一族の殺した奴らのことが憎くて憎くて、どうしようもないんだ……!」

 僕は涙の粒をぽろぽろと零しながら、胸の中に渦巻く感情に苦しんでいることを告白した。

「……なら、私はアンのためにナルセンティアを敵に回してもいい」
「ロベール?」

 僕は涙に濡れた瞳で僕を抱擁する彼を見上げる。

「君が復讐を遂行したいというのであれば、この手で実母や伯父を殺すことになっても構わない」

 彼の愛はどこまでも真っ直ぐだった。
 彼は僕のためならば自分の命どころか家族の命すら捧げたっていいという。
 それと同時に僕は恐ろしくなった。

「だ、駄目!」
「アン?」
「ロベールにそんなことさせられない、ロベールは人殺しなんかしちゃ駄目!」

 父を母を姉を殺され、僕は復讐心を抑えられない。
 それではロベールが自分で自分の一族を惨殺したら、その苦しみは憎悪はどこへ向かうのだろう?
 間違いなくロベール自身へと向かうはずだ。彼は咎を背負って自分で自分を苦しめることになるのだ。
 他者への憎悪すらこんなにも苦しいのに、どうして彼にそんな思いをさせられようか。

「ならどうする? 君はこのまま復讐を忘れて生きるつもりなのか?」
「それもできない」

 僕ははっきりと首を横に振った。
 自分の気持ちに嘘は吐けない。

 僕は手の甲で顔を拭うと、しっかりと彼を見据える。
 答えは出ていた。

「僕は……ナルセンティアを内部から喰らう」

 形式上クラウセン家が滅ぶからなんだというのだ。
 姓がクラウセンから憎き一族の名に変わるからなんだというのだ。
 僕が生きている限り復讐は可能だ。それも復讐の方法は殺害に限らない。

「いつの日かナルセンティア家を牛耳って支配してみせる。それが僕の復讐だ」
「アン……」
「だから表向きはロベールに婿入りして従順な振りをする。そしてこの村を立派な街にして、財を貯め、誰も文句が言えないだけの権力を付ける」

 この村を豊かにする。
 それこそが僕の復讐を遂げるための方法なのだ。

「だから……ロベール。僕と、結婚してくれますか?」

 僕は彼を見上げた。
 彼も僕のことを真っ直ぐに見つめていた。
 互いの瞳に互いの姿がくっきりと映し出される。

「ああ。アン、結婚しよう」

 僕は目を閉じて顎を上に向ける。
 彼も僕の意を察して、静かに唇を寄せた。

 静かに雪の降る森の中、僕たちは改めて誓いのキスを交わしたのだった。
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