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第八話 俺、深谷ネギ、食いたい
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新しい朝が来た。
さあ、今日は野菜の食糧地も増やすぞ!
何を植えるかはもう決まっている。
それは埼玉県産の深谷ネギだ。
俺は日本人に転生していた頃、自炊もしていた。
その時の自炊スタンスが「醤油とみりんと酒をぶち込んで太めに切ったネギと一緒に炒めれば何でも美味くなる」というものだった。
俺にとってネギはすべての基本となる食材である。
異世界で生きていた頃はありとあらゆるネギを試し、その結果埼玉県の深谷ネギが至高のネギであると判明したのだ。
深谷ネギは白い部分が他のどのネギよりも長くて太くて、そしてとろりと甘いのだ。
こんなに最高のネギを日夜食べられるなんて、と埼玉県民を羨んだものである。
だが!
魔王としての力を取り戻した今、俺だってこれから毎日深谷ネギを食すことができるのだ!
「魔王様。何事か非常に愉快な企み事をしていらっしゃる最中に恐れ入りますが、今日はまず斥候を作成していただければと存じます」
「うわっ!」
魂を見ることができるセバスチャンには、内容までは分からなくとも俺が何か考えを巡らせていることが見て取れたようだった。
「せ、斥候?」
「はい。いつまでも少ない魔術量でちまちまやっているワケには参りませんから、いずれ魔界の陣地を増やすことになります。しかし陣地を増やす際には魔王様が自ら陣地の外に出なければなりませんので、陣地にする場所を先に確認しておくことは必須です」
無計画に魔界の陣地の外に出てそこに人間がいたら大変だ、ということだそうだ。
人間に遭遇してみたいな、とちょっと思った。
蘇る前の記憶はまだおぼろげだが、以前は人間のことを厄介な害虫だとしか思っていなかった気がする。
だが一度人間に転生してその人生を過ごした今では人間は犬や猫のように可愛らしい存在に思えるのだ。
ちょっと話しかけて餌を与えたりしてもバチは当たらないのではないだろうか。
「最初に魔界にしたこの辺りは誰が調べたんだ?」
「私でございます。空から安全を確認いたしました」
俺の周りにはセバスチャンしかいないのだからそうだとは思っていたが、やはりそうだったか。
「じゃあ今回斥候にする奴も飛べる奴の方がいいな」
「その方が適任かと存じます」
「よし、吸血鬼を呼び出そう!」
目を閉じて吸血鬼を思い浮かべようとする。
「いやいやお待ち下さい魔王様。今の魔王様にはいきなりそんな高位のモンスターを生成することはできません。魔力切れを起こしますよ」
「えっ、そうなのか」
危ない危ない。
またセバスチャンに好き放題されるところだった。
「じゃあ……ピクシーにしとこうかな」
前の記憶を一生懸命掘り起こして知っているモンスターの中から名を上げる。ピクシーなら多分コストが低いはずだ。
「素晴らしい選択です! この状況ではまさしく最適かと思われます」
良かった、セバスチャンの眼鏡にかなったようだ。
目を閉じてピクシーを思い浮かべる。
悪戯好きの翅を持った妖精だ。
そして身体に魔力を流し込む。ぽんっ。
「キヒヒッ」
目を開くと、目の前には手のひら大の妖精が音もなく飛んでいた。
男の子のようにも女の子のようにも見える中性的な顔立ちで、何が可笑しいのかくすくすと笑っている。
「ピクシーくんにも名前を付けなきゃね。どんな名前がいいかな」
「えっ!?」
にこにことしていたはずのセバスチャンが俺の言葉にぎょっとした顔を見せる。
「魔王様、正気ですか!?」
「うん。だってセバスチャンにも名前付けたでしょ?」
「キヒヒヒッ」
彼は一体何を慌てているのだろうか。
ピクシーくんが面白そうにその様子を笑っている。
「そ、それは意味合いが大きく違います! いえ、意味合いというか名付けを行うのに適した役割というものがございます」
セバスチャンが泡を喰って名付けに関して説明してくれる。
「よろしいですか。名付けを行うとその相手を忠実なしもべにすることができます。その代わり、そのしもべと魔王様とは魂の一部が繋がるのです。しもべは魔王様から流れ込んでくる魔力により強化されますが……もしも名付けしたしもべが死ぬことがあれば、魔王様の魂の一部が失われるということになるのです」
「へえー、そうなんだ」
「だから斥候のような死亡する危険性が高い者に名付けを行うなどもっての外です。普通はお傍で護衛することになる側近に名付けを行うものです」
知らなかった。
ということは俺はいつの間にかセバスチャンと魂が繋がっていたのか。
「じゃあピクシー。お前が何度か任務を終えて無事に帰ってくることができたのならば、その有能さを認めて名付けを行ってやろう」
「何故そうなるのですか魔王様っ!」
むやみやたらに名付けを行ってはならないことは理解したので、何度か任務を成功させたらと条件を付けた。
ピクシーはこくこくと頷くと目を輝かせて早速偵察のために魔界の外へと飛んでいった。
「ほら、頑張ったら名付けをするって言った方がやる気が出たみたいだよ」
指摘するとセバスチャンはハッとした顔をした。
「なるほど、そういうことでしたか……!」
セバスチャンも納得してくれたようだ。
「魔王様は『何度か任務に成功したら名付けする』としか仰いませんでした。正確に何度成功させたら名付けをするのは魔王様の匙加減次第。ピクシーの彼には空手形だけ渡しておいてやる気を起こさせる作戦ですね。気まぐれなピクシーの手綱を握る見事な手際、感心いたしました」
あれぇ?
俺の意図とは全然違う方向に感心されてしまった。
どうやらセバスチャンは俺が回数を明言しなかったことで、いつまでもピクシーに名前を与えずにのらりくらりとかわすつもりだと受け取ったようだった。
「魔王様、流石です……!」
セバスチャンは跪き、尊敬の眼差しで俺を見上げるのだった。
さあ、今日は野菜の食糧地も増やすぞ!
何を植えるかはもう決まっている。
それは埼玉県産の深谷ネギだ。
俺は日本人に転生していた頃、自炊もしていた。
その時の自炊スタンスが「醤油とみりんと酒をぶち込んで太めに切ったネギと一緒に炒めれば何でも美味くなる」というものだった。
俺にとってネギはすべての基本となる食材である。
異世界で生きていた頃はありとあらゆるネギを試し、その結果埼玉県の深谷ネギが至高のネギであると判明したのだ。
深谷ネギは白い部分が他のどのネギよりも長くて太くて、そしてとろりと甘いのだ。
こんなに最高のネギを日夜食べられるなんて、と埼玉県民を羨んだものである。
だが!
魔王としての力を取り戻した今、俺だってこれから毎日深谷ネギを食すことができるのだ!
「魔王様。何事か非常に愉快な企み事をしていらっしゃる最中に恐れ入りますが、今日はまず斥候を作成していただければと存じます」
「うわっ!」
魂を見ることができるセバスチャンには、内容までは分からなくとも俺が何か考えを巡らせていることが見て取れたようだった。
「せ、斥候?」
「はい。いつまでも少ない魔術量でちまちまやっているワケには参りませんから、いずれ魔界の陣地を増やすことになります。しかし陣地を増やす際には魔王様が自ら陣地の外に出なければなりませんので、陣地にする場所を先に確認しておくことは必須です」
無計画に魔界の陣地の外に出てそこに人間がいたら大変だ、ということだそうだ。
人間に遭遇してみたいな、とちょっと思った。
蘇る前の記憶はまだおぼろげだが、以前は人間のことを厄介な害虫だとしか思っていなかった気がする。
だが一度人間に転生してその人生を過ごした今では人間は犬や猫のように可愛らしい存在に思えるのだ。
ちょっと話しかけて餌を与えたりしてもバチは当たらないのではないだろうか。
「最初に魔界にしたこの辺りは誰が調べたんだ?」
「私でございます。空から安全を確認いたしました」
俺の周りにはセバスチャンしかいないのだからそうだとは思っていたが、やはりそうだったか。
「じゃあ今回斥候にする奴も飛べる奴の方がいいな」
「その方が適任かと存じます」
「よし、吸血鬼を呼び出そう!」
目を閉じて吸血鬼を思い浮かべようとする。
「いやいやお待ち下さい魔王様。今の魔王様にはいきなりそんな高位のモンスターを生成することはできません。魔力切れを起こしますよ」
「えっ、そうなのか」
危ない危ない。
またセバスチャンに好き放題されるところだった。
「じゃあ……ピクシーにしとこうかな」
前の記憶を一生懸命掘り起こして知っているモンスターの中から名を上げる。ピクシーなら多分コストが低いはずだ。
「素晴らしい選択です! この状況ではまさしく最適かと思われます」
良かった、セバスチャンの眼鏡にかなったようだ。
目を閉じてピクシーを思い浮かべる。
悪戯好きの翅を持った妖精だ。
そして身体に魔力を流し込む。ぽんっ。
「キヒヒッ」
目を開くと、目の前には手のひら大の妖精が音もなく飛んでいた。
男の子のようにも女の子のようにも見える中性的な顔立ちで、何が可笑しいのかくすくすと笑っている。
「ピクシーくんにも名前を付けなきゃね。どんな名前がいいかな」
「えっ!?」
にこにことしていたはずのセバスチャンが俺の言葉にぎょっとした顔を見せる。
「魔王様、正気ですか!?」
「うん。だってセバスチャンにも名前付けたでしょ?」
「キヒヒヒッ」
彼は一体何を慌てているのだろうか。
ピクシーくんが面白そうにその様子を笑っている。
「そ、それは意味合いが大きく違います! いえ、意味合いというか名付けを行うのに適した役割というものがございます」
セバスチャンが泡を喰って名付けに関して説明してくれる。
「よろしいですか。名付けを行うとその相手を忠実なしもべにすることができます。その代わり、そのしもべと魔王様とは魂の一部が繋がるのです。しもべは魔王様から流れ込んでくる魔力により強化されますが……もしも名付けしたしもべが死ぬことがあれば、魔王様の魂の一部が失われるということになるのです」
「へえー、そうなんだ」
「だから斥候のような死亡する危険性が高い者に名付けを行うなどもっての外です。普通はお傍で護衛することになる側近に名付けを行うものです」
知らなかった。
ということは俺はいつの間にかセバスチャンと魂が繋がっていたのか。
「じゃあピクシー。お前が何度か任務を終えて無事に帰ってくることができたのならば、その有能さを認めて名付けを行ってやろう」
「何故そうなるのですか魔王様っ!」
むやみやたらに名付けを行ってはならないことは理解したので、何度か任務を成功させたらと条件を付けた。
ピクシーはこくこくと頷くと目を輝かせて早速偵察のために魔界の外へと飛んでいった。
「ほら、頑張ったら名付けをするって言った方がやる気が出たみたいだよ」
指摘するとセバスチャンはハッとした顔をした。
「なるほど、そういうことでしたか……!」
セバスチャンも納得してくれたようだ。
「魔王様は『何度か任務に成功したら名付けする』としか仰いませんでした。正確に何度成功させたら名付けをするのは魔王様の匙加減次第。ピクシーの彼には空手形だけ渡しておいてやる気を起こさせる作戦ですね。気まぐれなピクシーの手綱を握る見事な手際、感心いたしました」
あれぇ?
俺の意図とは全然違う方向に感心されてしまった。
どうやらセバスチャンは俺が回数を明言しなかったことで、いつまでもピクシーに名前を与えずにのらりくらりとかわすつもりだと受け取ったようだった。
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セバスチャンは跪き、尊敬の眼差しで俺を見上げるのだった。
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