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おうちにかえりたい編
閑話 王弟。
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凛と立っている人だと思った。
花が萎れるように、枯れていくように。
儚く笑うようになった。
手助けしたいと思う。
と仮の上司が乙女になっていた。擬態でもないらしいところがもっと悪い。
ついでに兄のものを手にしようとする仄暗い気持ちも含んでいる。これは無意識だろうか。
「……思うに思い込みがあると思うんだ」
思うが多い。
ウィリアムはなんと言えばいいかわからず、そんな意味不明な言葉になったことに気がついた。
美しい。
可愛い。
確かにその言葉は似合いだ。微笑まれたら好意を抱くのもわかる。
わかるが、貴婦人の微笑みなのに、ウィリアムには寒気を感じさせた。
「そうか?」
3番目(トレース)はウィリアムの言葉はあまり気に留めなかったようだ。機嫌が良さそうに書類整理をしている。
これが提出ぎりぎりまで放置される。
あまり、出来の良くない弟を装うのは少しばかり面倒だ。
兄弟とも同じか、どこかが少し良いくらいなのがよりややこしくさせている。予備としては優秀であるから排除されることはないが、貴方が王にと言う囁きが絶えることもなかった。
ウィリアムはため息をついた。3番目(トレース)に与えられた仕事は少しずつ増えていっている。ウィリアムとの話を腰を据えて聞くほど暇ではないのは確かだ。
「少し思い込みが過ぎるのでは?」
もう少し注意を促したが、彼も何が言いたかったのかよくわかっていない。
小さい違和感が、連なっている。確定できる情報はないのに視界をちらつく何か。
城の様子が、おかしい。
近衛も調子を狂わせ、黄の騎士団は、ただ黙っている。
こんな時には、我々も噛ませろとやってくる団長(レオン)を見ない。管轄が違うとジャックとやり合うのはいつものことだった。
目立ちたがり屋の気分屋とジャックが吐き捨てる男が静かすぎるのだ。
「レオンからは何か言ってきませんか」
「静かだね。不気味の一言に尽きる。なにかやらかしたかもしれないな」
3番目(トレース)は機嫌の良さを残しながらもいつもの調子を取り戻している。
「気になるなら調べておいで」
「はい」
許可をもらいウィリアムは部屋を辞した。ついでにと渡された書類の中身を見て苦笑する。彼の手からこんなものが出されるとは。王は不快に思ったりはしないだろうか。
ウィリアムと王、王弟は、幼なじみのようなものだった。あくまで、ような、である。
母親同士が仲が良く、良く顔を合わせる間柄。個人同士の仲の良さは置いていかれる。それを周りは勘違いし、側近候補であると噂されていた。
ウィリアムは父の後を追い、騎士を目指していたことも良くなかった。近衛に入ろうとしたらどちらを選ぶのだといわれ、遠い青の騎士団を選んだ。
どちらも同じくらい選びたくない、とは決して言えない。
母が事故で亡くなり十も過ぎた頃からあまり顔を合わせていなかったのに、選べとか何様だよ、と思った。
父が困ったような顔をしていたのは、覚えている。
それから六年。こんな事をするとは思ってもみなかった。
欠員の補充と装備の補充をしたらさっさと帰るつもりだった。今、ここを放置して戻るのは不安の方が多い。
姫様。
そう呼ばれる妃殿下。
このささやかな違和感の真ん中に彼女が立っていると思うのに、そこに繋がるものは曖昧で、確定しない。
「不敬なんだよな」
まるで婚姻なんてなかったかのような扱い。王に並び立つはずなのに軽んじられている。
それを、訂正しない。
気弱で、引きこもっているような人であると認識されている。
遠くから嫁いできたのもワケありなのだと悪意ある噂もある。その祖国もどの神をも信じない無法の地だと。
遠いからと言いたい放題だなと思った記憶がある。
……確か、エルナから来たと。
聞き覚えがあるが、それほど印象に残っていただろうか。
「思い出した」
出入りの商人とただの雑談で、どこの出身かときいたのだ。それはどんな国なのだと。
深い意味はなかった。
この世の地獄、と。
出入りの商人が温度のない声で、故郷を評した。
それ以上のことを語ることを拒否した。
以後、その商人が商談で顔を出すことはなかった。
「エルナ、ね」
調べるには骨が折れそうだが、その価値はあるだろう。
その前に書類を出しに行く。侍女と護衛を付ける話は少し前にしていたと聞いた。そのことに問題はないと通常通りの流れで持っていったのが悪かった。彼がそう気がつくのはかなり後になってのことだった。
花が萎れるように、枯れていくように。
儚く笑うようになった。
手助けしたいと思う。
と仮の上司が乙女になっていた。擬態でもないらしいところがもっと悪い。
ついでに兄のものを手にしようとする仄暗い気持ちも含んでいる。これは無意識だろうか。
「……思うに思い込みがあると思うんだ」
思うが多い。
ウィリアムはなんと言えばいいかわからず、そんな意味不明な言葉になったことに気がついた。
美しい。
可愛い。
確かにその言葉は似合いだ。微笑まれたら好意を抱くのもわかる。
わかるが、貴婦人の微笑みなのに、ウィリアムには寒気を感じさせた。
「そうか?」
3番目(トレース)はウィリアムの言葉はあまり気に留めなかったようだ。機嫌が良さそうに書類整理をしている。
これが提出ぎりぎりまで放置される。
あまり、出来の良くない弟を装うのは少しばかり面倒だ。
兄弟とも同じか、どこかが少し良いくらいなのがよりややこしくさせている。予備としては優秀であるから排除されることはないが、貴方が王にと言う囁きが絶えることもなかった。
ウィリアムはため息をついた。3番目(トレース)に与えられた仕事は少しずつ増えていっている。ウィリアムとの話を腰を据えて聞くほど暇ではないのは確かだ。
「少し思い込みが過ぎるのでは?」
もう少し注意を促したが、彼も何が言いたかったのかよくわかっていない。
小さい違和感が、連なっている。確定できる情報はないのに視界をちらつく何か。
城の様子が、おかしい。
近衛も調子を狂わせ、黄の騎士団は、ただ黙っている。
こんな時には、我々も噛ませろとやってくる団長(レオン)を見ない。管轄が違うとジャックとやり合うのはいつものことだった。
目立ちたがり屋の気分屋とジャックが吐き捨てる男が静かすぎるのだ。
「レオンからは何か言ってきませんか」
「静かだね。不気味の一言に尽きる。なにかやらかしたかもしれないな」
3番目(トレース)は機嫌の良さを残しながらもいつもの調子を取り戻している。
「気になるなら調べておいで」
「はい」
許可をもらいウィリアムは部屋を辞した。ついでにと渡された書類の中身を見て苦笑する。彼の手からこんなものが出されるとは。王は不快に思ったりはしないだろうか。
ウィリアムと王、王弟は、幼なじみのようなものだった。あくまで、ような、である。
母親同士が仲が良く、良く顔を合わせる間柄。個人同士の仲の良さは置いていかれる。それを周りは勘違いし、側近候補であると噂されていた。
ウィリアムは父の後を追い、騎士を目指していたことも良くなかった。近衛に入ろうとしたらどちらを選ぶのだといわれ、遠い青の騎士団を選んだ。
どちらも同じくらい選びたくない、とは決して言えない。
母が事故で亡くなり十も過ぎた頃からあまり顔を合わせていなかったのに、選べとか何様だよ、と思った。
父が困ったような顔をしていたのは、覚えている。
それから六年。こんな事をするとは思ってもみなかった。
欠員の補充と装備の補充をしたらさっさと帰るつもりだった。今、ここを放置して戻るのは不安の方が多い。
姫様。
そう呼ばれる妃殿下。
このささやかな違和感の真ん中に彼女が立っていると思うのに、そこに繋がるものは曖昧で、確定しない。
「不敬なんだよな」
まるで婚姻なんてなかったかのような扱い。王に並び立つはずなのに軽んじられている。
それを、訂正しない。
気弱で、引きこもっているような人であると認識されている。
遠くから嫁いできたのもワケありなのだと悪意ある噂もある。その祖国もどの神をも信じない無法の地だと。
遠いからと言いたい放題だなと思った記憶がある。
……確か、エルナから来たと。
聞き覚えがあるが、それほど印象に残っていただろうか。
「思い出した」
出入りの商人とただの雑談で、どこの出身かときいたのだ。それはどんな国なのだと。
深い意味はなかった。
この世の地獄、と。
出入りの商人が温度のない声で、故郷を評した。
それ以上のことを語ることを拒否した。
以後、その商人が商談で顔を出すことはなかった。
「エルナ、ね」
調べるには骨が折れそうだが、その価値はあるだろう。
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