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聖女と魔王と魔女編
護衛騎士は当惑する 2
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「……こちらの猫様は?」
イリューが何連れてきたんですかと目線で聞いてきた。猫と言っているが猫じゃない。オオカミを犬という暴挙と似ている。
そもそも猫がオオカミを従えている。あきらかになにか別物だ。
「猫様だよ。猫様。猫王でいいよ」
投げやりなネーミングだけど、我が家はこんな感じなので気合い入れても同じようなものが出てきたりする。
「にゃ」
うむ。
訳するとそんな感じだろう。イリューが口パクで逃げていいですかと質問してきたのでダメと答えておく。
道連れは多いほうがいい。
敵を屠るについては困りはしない私たちではあったけど、恋愛となるとてんで相手にならない。この十五の少年のほうがマシであろうと結論するのは仕方がなかった。
なお、既婚であるはずの兄に聞いてもきっと碌な答えは返ってこない。なぜなら本人がなぜ結婚できたのか首をかしげていたからだ。
好きな人と普通に気がついたら結婚している、というのは兄の技術ではない。おそらく、兄嫁がやりてだった。この年というか、最近になって気がついたんだ。
なので、連れて帰ってきた。お近くの町で情報収集のついでにそんな話を集めてもいい。
さすがに魔王様本体はお帰り願い、一部を切り取って猫にしてある。ふてぶてしい黒猫は太っちょだった。
丸い癒される生き物は、私のそばに存在しないのだろうか。
「ところで、イリュー」
夜も近づいてきたこともあって野営の準備を始める。
テントの設営をしながら雑談のように本題を始めた。簡易型の組み立て式は耐久性に問題があるものの便利だ。
一人で作るのは少し面倒で、誰かがいてくれたほうが助かる。
半円をクロスしたような骨組みに布をせーのとかぶせる。
「なんです?」
「好きだと言われてどう返答するもんなの?」
ばさりとテントが倒れた。何事かと思えば、イリューが布を手放して棒立ちしていた。
「……そういう情緒、どこに捨ててきたんですか? ええとソランの暴言になんて言ってましたっけ?」
「いい男になったら考える」
確約はしてない。
「殿下には検討する。でしたっけ。その気がなければそれでいいんじゃないですか」
「にゃ」
断るというはなしではないらしい。猫はちがうよと言いたげに首を横に振っていた。妙に人間臭い動作ではある。
再びテントの設営に戻る。
日があるうちにこれは作っておかないとあとで困る。離すタイミングを間違えた気がしているが、直接顔を見て話をする気がしない。
はずかしい。自分のことではないはずなのに超絶に恥ずかしい。
その続きの話を始める気になったのは焚火まで出来た後だった。王族なのになんでこんな上手なんですかとイリューに言われてしまった。兄様は率先して野営準備したりする人なのだけど、そちらは軍人だからと処理されたらしい。
兄弟全員慣れてると言えば驚かれるだろうか。いう必要もないかとそれは黙っている。
「その気があるときは?」
「僕も好きですとか言えばいいんじゃないですか? そこからですか?」
「だそうだよ。猫」
「にゃあ?」
「好きの質が」
「あの僕、なんの話をさせられているんです?」
干し芋を枝にさしてあぶりながらイリューは困惑したような顔だ。
「まあまあ、それで」
「好ましい程度がどのくらいかによりますよ。好きと言っても幅広いですし」
「人生かけちゃうくらい?」
「にゃ!?」
「重すぎる……。僕もと言った瞬間、結婚とか言いだすやつじゃないですか」
「にゃ!!!」
「……その猫、なんなんです? いったい」
「知らないほうがいいよ。好意には好意を返せばいい」
ただ、あの魔王様に好きとか返されて魔女、大丈夫だろうか。心配になる。魔女側は重すぎるほどの好きだ。
つり合いとれないかもしれない。やはり、口説けというのは無理筋だったかも。
では、プランBに変更するしかない。そっちも怒れる男を作るのだけど仕方ない。上手くいけば、いいんだ。
「……闇のお方もすごいこと考えつくよねぇ」
猫を撫でればびくついたように私の顔を見上げてきた。にこりと優しげに笑った。おそらく80点の出来。
なのに、なぜか、え、お腹見せます? 服従します? と戸惑ったようなお腹ちら見せの猫がいた。
なお、とおくにいたはずのオオカミが近くでえ、おれたちもします? と戸惑ったような視線を同じように投げかけてきている。
「なにしてるんですか。ジニー」
「おかしい。すごいやさしい人に見える笑顔のはず」
「僕には、なにか企んでる悪い笑顔に見えたんですけど」
「あれ?」
おかしいなとぺたぺたと顔に触ってみるが、いつもと変わりない。
「女王様になられてから、どんなに笑っても、前とは違いますよ。無自覚なのがたちが悪いんですから」
「ん?」
「やせ我慢なんかやめちゃえばいいのに。大人ってめんどくさい」
「悪口言われた気がする」
「いいますよ。めんどくさい」
二度も言われた。詳細は腹が立つから言わないとかどうなんだろ。それ。
同じテントに寝るということになり、うろたえたイリューを薬でさっさと落とし、夜番を猫たちに任せてさっさと寝てしまうことにした。
イリューが何連れてきたんですかと目線で聞いてきた。猫と言っているが猫じゃない。オオカミを犬という暴挙と似ている。
そもそも猫がオオカミを従えている。あきらかになにか別物だ。
「猫様だよ。猫様。猫王でいいよ」
投げやりなネーミングだけど、我が家はこんな感じなので気合い入れても同じようなものが出てきたりする。
「にゃ」
うむ。
訳するとそんな感じだろう。イリューが口パクで逃げていいですかと質問してきたのでダメと答えておく。
道連れは多いほうがいい。
敵を屠るについては困りはしない私たちではあったけど、恋愛となるとてんで相手にならない。この十五の少年のほうがマシであろうと結論するのは仕方がなかった。
なお、既婚であるはずの兄に聞いてもきっと碌な答えは返ってこない。なぜなら本人がなぜ結婚できたのか首をかしげていたからだ。
好きな人と普通に気がついたら結婚している、というのは兄の技術ではない。おそらく、兄嫁がやりてだった。この年というか、最近になって気がついたんだ。
なので、連れて帰ってきた。お近くの町で情報収集のついでにそんな話を集めてもいい。
さすがに魔王様本体はお帰り願い、一部を切り取って猫にしてある。ふてぶてしい黒猫は太っちょだった。
丸い癒される生き物は、私のそばに存在しないのだろうか。
「ところで、イリュー」
夜も近づいてきたこともあって野営の準備を始める。
テントの設営をしながら雑談のように本題を始めた。簡易型の組み立て式は耐久性に問題があるものの便利だ。
一人で作るのは少し面倒で、誰かがいてくれたほうが助かる。
半円をクロスしたような骨組みに布をせーのとかぶせる。
「なんです?」
「好きだと言われてどう返答するもんなの?」
ばさりとテントが倒れた。何事かと思えば、イリューが布を手放して棒立ちしていた。
「……そういう情緒、どこに捨ててきたんですか? ええとソランの暴言になんて言ってましたっけ?」
「いい男になったら考える」
確約はしてない。
「殿下には検討する。でしたっけ。その気がなければそれでいいんじゃないですか」
「にゃ」
断るというはなしではないらしい。猫はちがうよと言いたげに首を横に振っていた。妙に人間臭い動作ではある。
再びテントの設営に戻る。
日があるうちにこれは作っておかないとあとで困る。離すタイミングを間違えた気がしているが、直接顔を見て話をする気がしない。
はずかしい。自分のことではないはずなのに超絶に恥ずかしい。
その続きの話を始める気になったのは焚火まで出来た後だった。王族なのになんでこんな上手なんですかとイリューに言われてしまった。兄様は率先して野営準備したりする人なのだけど、そちらは軍人だからと処理されたらしい。
兄弟全員慣れてると言えば驚かれるだろうか。いう必要もないかとそれは黙っている。
「その気があるときは?」
「僕も好きですとか言えばいいんじゃないですか? そこからですか?」
「だそうだよ。猫」
「にゃあ?」
「好きの質が」
「あの僕、なんの話をさせられているんです?」
干し芋を枝にさしてあぶりながらイリューは困惑したような顔だ。
「まあまあ、それで」
「好ましい程度がどのくらいかによりますよ。好きと言っても幅広いですし」
「人生かけちゃうくらい?」
「にゃ!?」
「重すぎる……。僕もと言った瞬間、結婚とか言いだすやつじゃないですか」
「にゃ!!!」
「……その猫、なんなんです? いったい」
「知らないほうがいいよ。好意には好意を返せばいい」
ただ、あの魔王様に好きとか返されて魔女、大丈夫だろうか。心配になる。魔女側は重すぎるほどの好きだ。
つり合いとれないかもしれない。やはり、口説けというのは無理筋だったかも。
では、プランBに変更するしかない。そっちも怒れる男を作るのだけど仕方ない。上手くいけば、いいんだ。
「……闇のお方もすごいこと考えつくよねぇ」
猫を撫でればびくついたように私の顔を見上げてきた。にこりと優しげに笑った。おそらく80点の出来。
なのに、なぜか、え、お腹見せます? 服従します? と戸惑ったようなお腹ちら見せの猫がいた。
なお、とおくにいたはずのオオカミが近くでえ、おれたちもします? と戸惑ったような視線を同じように投げかけてきている。
「なにしてるんですか。ジニー」
「おかしい。すごいやさしい人に見える笑顔のはず」
「僕には、なにか企んでる悪い笑顔に見えたんですけど」
「あれ?」
おかしいなとぺたぺたと顔に触ってみるが、いつもと変わりない。
「女王様になられてから、どんなに笑っても、前とは違いますよ。無自覚なのがたちが悪いんですから」
「ん?」
「やせ我慢なんかやめちゃえばいいのに。大人ってめんどくさい」
「悪口言われた気がする」
「いいますよ。めんどくさい」
二度も言われた。詳細は腹が立つから言わないとかどうなんだろ。それ。
同じテントに寝るということになり、うろたえたイリューを薬でさっさと落とし、夜番を猫たちに任せてさっさと寝てしまうことにした。
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