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聖女と魔王と魔女編
怒れる男
しおりを挟む「……で、どういうことで俺はこうなっているのか説明してもらわなければ、納得がいかないということくらいは理解できるよな?」
めちゃくちゃ怒ってる。
怒れる男(バート)。
「わかるよ。うん、うん。でね、話しようか」
雑に相槌を打っているのが魔女である。なぜなら私はちょっとばかり手が空いてない。
私的には問題ない負傷の数々をユリアが治療中。本来なら別室にいるべきなんだけど、衝立一つでどうにかしている。
この二人を一部屋に押し込んでいて、安心できるわけがない。特に魔女。
「こんなに傷ばっかりで」
「私は気にならないよ。どうせまたできるし」
「わたしが! 気にするんです! 次も作んないでください」
ユリアに手早く傷薬を塗り込まれ包帯を巻かれていると重症になった気がしてくる。
「仕方ないじゃない。前衛、私だけ。後衛は一発当たっただけで死にそうだったし」
「魔女様もこのようなことは次はさせませんので」
「立案、そこの女王陛下だよ。
次の手もね」
「……ヴァージニア様ぁ?」
「あははは。ユリアがいるから僕も安心できるんだよ」
ユリアはぐっと押し黙った。
この野郎と目は言っているが、まだ効果はあるようで重畳。
服を着て衝立の向こう側に出る。
「お待たせ」
「言いわけは考えたんだろうな?」
「予定では、迎えに行くつもりだったんだよ。
聖女は元居た場所に戻さなきゃいけない。世界の安定のためにと闇と光のお方たちにもいわれていたからね。ただ、場所を選ぶ必要があって」
半分くらい嘘のほうが信用されやすい。
戻さなければいけないのは本当。聖女は借りてきた魂ではない。迷子だったらしい。本来なら冬の女神が捕獲して報告をあげる案件だったが、漏れがあったようだ。
冬の女神曰く、処理件数が多すぎたのよぉっ、である。
番の呪いや夏の女神の影響を受けたままに戻すこともできないので、関係を断ち切るのも必要だった。
という話もまあ、ついでの話。
闇のお方の準備というのは、過失を積ませることにあったようだ。説明したら面倒になりそうだから黙ってたよと推定いい笑顔で言い切っている。
「俺を使って、聖女を運ぶことが目的で、俺を外に出すことは目的じゃない」
「彼女一人で旅をするのは難しいからね。
それに、あなたを外に出す必要もあったよ。腹が立つけど、あなたは王に向いている」
「奪ったヤツに言われるとはな」
バートは不快そうだけどね、私も不本意だよ。
それでも認めるのは、同じ立ち位置に立ってみたからだ。
この男は相当な女運の悪さでそれまでの功績を全部ゼロどころかマイナスにしてる。前世悪いことしたの? と言いたくなるくらいの運の悪さ。
「用が済んだ俺の処分は?」
「魔王になってみない?」
「……なんだって?」
そうだよね。聞き返すよね。
そこから先の話は魔女に任せることにした。
「あなたの血統が特別で、魔王の力の継承ができるみたいなんだよ。
今代は300年寝っぱなしで、このままいると危ない。目覚めた瞬間、この国どころか周辺が更地になる。
国がなくなるのは、少しばかり心が痛んだり、しない、かな、しないかぁ……」
全然、当てにならなかった。
勢い込んで話始めたのに、最後にはしょんぼり肩を落としている魔女がなんだかかわいそうに見えてくるから不思議だ。
対してバートは冷ややかな態度だ。
人の敵になれと勧誘するんだからそれはそうだろう。事前に了承させるのは難しいとは思っていたから妥当ではある。
「強制しないことは褒めてやる。
利がない」
「英雄として、名を遺すよ。
断るなら、一時的にうちの国に避難してもらう。アイザック兄様が帰国するときに、連れて行ってもらう」
返答は沈黙だった。
「少し考えておいて。
こっちはこっちで襲撃に備えるから」
「襲撃?」
「魔王討伐するの」
「ほんと、こき使われる私かわいそう」
魔女が軽口を叩く。
「ねえ、お友達じゃない?」
「友達だけどね?」
「討伐?」
困惑しきりのバートには真実を教えておくべきかな。
「ちょっと目覚めた魔王を討伐したということにして、聖女は亡くなり、砦をなくすことにしたの」
ついでに、私が撃退して女王としての名をあげる。
さらに、不穏分子も一掃。
お手軽に魔王への不安も解消されてお得だ。実際は何も解決はされていない、ということはここだけの秘密である。
「聖女役する私、生きて帰れます?」
「大丈夫、全力で守るから」
「……まあ、死なないんでいいんですけどね」
ユリアが虚ろな目なのは気になるけど、まあ、いいだろう。死なないし。
「私も援護するからいける」
「棒読みとか笑わないでくださいね」
「それはなー」
「わかんないな」
ひどいとぼやくユリア。
「そうそう。
いまなら、英雄として死ぬオプションもつくけど、バートも一緒にどう?」
バートがあっけに取られているのがちょっと面白い。
「まったく、ひどい話だな」
そういうわりに、なんだか楽しそうなんだけどな。
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