10 / 16
おまけ デート(猫付き)
しおりを挟む
プロポーズ(仮)から一週間後、鈴音は響とデートすることになった。
猫同伴で。
朝、11時に迎えが来た。鈴音はエカテリーナちゃんを入れた猫用の鞄を持ち外に出る。
「おはようございます」
「おはよう。今日はよろしく頼む。
エカテリーナ嬢もおはよう」
「……」
わざわざ身をかがめて、響はエカテリーナ入っているカバンにも挨拶してくれている。鈴音は響の評価をあげた。さすが猫を二匹飼う男だ。
「なんです?」
「いえ、なんでも。
とりあえずは、いつも通りの口調でかまいませんよ。私も時々崩れると思いますし」
「そうしてくれるとありがたい。
あれは仕事用で、切り替えているから」
「では、そういうことで。
まいりましょうか」
鈴音たちはマンションの下へ降りていった。
マンションの車寄せには白の乗用車があった。運転手付きである。さすがに徒歩で移動することはないと踏んでいたが、運転手もつけるとは思わなかった。
「時々運転はするが、今日はお嬢様がたを乗せるからプロに任せることにした」
「それはありがとうございます」
ちゃんと気を使ってくれたらしい。鈴音はちょっと戸惑いを覚えつつ礼を言う。
最初に向かったのはペットサロンだった。
鈴音も名前は知っている有名店だ。予約が取りにくいという噂である。
「響さん?」
「エカテリーナ嬢は長毛種だから、多少の手入れは必要だろう。
それからおもちゃなどもあるし」
「……それだけですの?」
疑いの視線を向けると響はしばし黙った。
寿命が長い種族特有の長考だろう。生きていく長さが違うと時間感覚のずれは多少ある。彼は長く待つことは得意だが、瞬発的に答えを求められることは苦手でもある。
「宝飾店に行きたいから短時間でいいから預けたかった」
「正直でよろしい。
前の飼い主からもサロンには連れて行ってほしいとは言われていたのでちょうどいいですけど。エカテリーナちゃんが嫌がらなければ……」
エカテリーナちゃんはとくに嫌がる様子もなくトリマーに引き取られていった。慣れている。
「可愛くなってくるんですよ」
「にゃう」
あたくし、もう可愛くってよ、とでもいうようなにゃうだった。
「そうですね。皆を魅了する毛並みになってくるんですよ」
さっさと行けと言わんばかりの無視をされた。
鈴音はヒドイと嘆きながらもエカテリーナちゃんを見送る。
「じゃあ、さっさと済ませますか」
鈴音は気持ちを切り替えて響に向き直る。なんだか、面白生物のように観察されていたのは知っていたがあえて言いはしない。
「お嬢様は大変だな」
「ツンが可愛らしいんですのよ、ツンが!」
「…………まあ、わからなくもないな」
「なんで! 撫でるんですの!」
「さあ? 騒ぐと店に迷惑だ」
睨みつける鈴音を無視して響は先に店を出た。
気に入らないと思いつつも鈴音も後を追った。
宝飾品店はペットサロンから近かった。
高級店というよりは個人のお店のようだ。鈴音はお店を呼びつける側だったので少し興味深い。
「宝石は5つ選んでおいた。
指輪の枠を選んでほしい」
「……はい?」
「婚約には指輪というものが必要だろう?」
「まあ、いりますかね……」
種族を超えてなぜかある習慣が婚約時に指輪を贈るという行為だった。最初はどこかの種族がしていたものが広がったというのが定説である。
宝石商の陰謀などといわれることもある習慣である。
鈴音の目の前に並べられた宝石は美品ばかりだった。小ぶりではあるが、質はいい。発色もいいなか、一つだけ黒い宝石があった。
ブラックダイヤモンド、のように見えた。
天然ものは希少でお高めである。鈴音は響を横目で見る。興味なさそうにしているが、しっかり見ていた。
「こちらにしますね」
「すきなのでいいのだが」
「自分の色を入れてるのでそれを選んでほしいというのが透けてます。
他の者への威嚇込みで、これにします」
離婚し、新たな婚約者がいるので、前夫に未練はないのだと示すことも大事である。
鈴音はできるだけシンプルな枠を選ぶ。それを店員に仮付けしてもらった。指にはめるとしっくり馴染んだ。
しかし、響は渋い顔をしていた。
「地味では」
「いいんですよ。常につけておくんですから」
「……常に?」
「威嚇にならないじゃないですか。
あなたのものであると示してないと」
鈴音は他の宝石ももらっていいかなと思いながら、響のほうを向いた。
「なに赤くなってるんです?」
鈴音は困惑しながらも尋ねる。
齢150歳弱。初心すぎないか。長生きしているがもしやその一族の中では若いほうなのだろうか。
「少し席を外す」
よろよろしながら響は店の外へ出ていった。
少し心配になってくるが、鈴音が何か言うと追い打ちである。
「大丈夫かしら」
色々とこの先が心配である。
ああいうのが、なんだか、可愛く見えてきた。
最初は怖いように見えたのに。
怖いより今のほうがいいかと鈴音は思って気にしないことにした。深入りして、いつか、飽きられる日が来たら辛いだろうから。
この結婚は猫様と素敵な日々を送るためで夫はあくまで、添え物。過剰な期待はしないつもりだ。
鈴音はそのまま進めてもらうように店員に依頼する。
ふと時計を見れば意外と時間がたっていた。
「あ、エカテリーナちゃん迎えに行かないと」
鈴音も席を立つ。店員に見送られて店の外へ出れば響が立っていた。
「指輪以外も作ってもよかったんだが」
「過剰な贈り物はいりません。自力で買えますし。今のところは指輪一つで十分すぎるくらいです」
「そうか」
「で、お迎えに行きましょう!」
「……ブレないな」
「猫様の下僕なので」
「わからんでもないがな」
苦笑しながらもペットサロンへ戻ってくれる響は優しい。元夫だったら、と考えて鈴音はやめた。意味もない。そもそもこういうお出かけをしたことがないのだから。
同じ契約婚といってもだいぶ違う。
やはり猫様が偉大! と鈴音は思ったのだった。
猫同伴で。
朝、11時に迎えが来た。鈴音はエカテリーナちゃんを入れた猫用の鞄を持ち外に出る。
「おはようございます」
「おはよう。今日はよろしく頼む。
エカテリーナ嬢もおはよう」
「……」
わざわざ身をかがめて、響はエカテリーナ入っているカバンにも挨拶してくれている。鈴音は響の評価をあげた。さすが猫を二匹飼う男だ。
「なんです?」
「いえ、なんでも。
とりあえずは、いつも通りの口調でかまいませんよ。私も時々崩れると思いますし」
「そうしてくれるとありがたい。
あれは仕事用で、切り替えているから」
「では、そういうことで。
まいりましょうか」
鈴音たちはマンションの下へ降りていった。
マンションの車寄せには白の乗用車があった。運転手付きである。さすがに徒歩で移動することはないと踏んでいたが、運転手もつけるとは思わなかった。
「時々運転はするが、今日はお嬢様がたを乗せるからプロに任せることにした」
「それはありがとうございます」
ちゃんと気を使ってくれたらしい。鈴音はちょっと戸惑いを覚えつつ礼を言う。
最初に向かったのはペットサロンだった。
鈴音も名前は知っている有名店だ。予約が取りにくいという噂である。
「響さん?」
「エカテリーナ嬢は長毛種だから、多少の手入れは必要だろう。
それからおもちゃなどもあるし」
「……それだけですの?」
疑いの視線を向けると響はしばし黙った。
寿命が長い種族特有の長考だろう。生きていく長さが違うと時間感覚のずれは多少ある。彼は長く待つことは得意だが、瞬発的に答えを求められることは苦手でもある。
「宝飾店に行きたいから短時間でいいから預けたかった」
「正直でよろしい。
前の飼い主からもサロンには連れて行ってほしいとは言われていたのでちょうどいいですけど。エカテリーナちゃんが嫌がらなければ……」
エカテリーナちゃんはとくに嫌がる様子もなくトリマーに引き取られていった。慣れている。
「可愛くなってくるんですよ」
「にゃう」
あたくし、もう可愛くってよ、とでもいうようなにゃうだった。
「そうですね。皆を魅了する毛並みになってくるんですよ」
さっさと行けと言わんばかりの無視をされた。
鈴音はヒドイと嘆きながらもエカテリーナちゃんを見送る。
「じゃあ、さっさと済ませますか」
鈴音は気持ちを切り替えて響に向き直る。なんだか、面白生物のように観察されていたのは知っていたがあえて言いはしない。
「お嬢様は大変だな」
「ツンが可愛らしいんですのよ、ツンが!」
「…………まあ、わからなくもないな」
「なんで! 撫でるんですの!」
「さあ? 騒ぐと店に迷惑だ」
睨みつける鈴音を無視して響は先に店を出た。
気に入らないと思いつつも鈴音も後を追った。
宝飾品店はペットサロンから近かった。
高級店というよりは個人のお店のようだ。鈴音はお店を呼びつける側だったので少し興味深い。
「宝石は5つ選んでおいた。
指輪の枠を選んでほしい」
「……はい?」
「婚約には指輪というものが必要だろう?」
「まあ、いりますかね……」
種族を超えてなぜかある習慣が婚約時に指輪を贈るという行為だった。最初はどこかの種族がしていたものが広がったというのが定説である。
宝石商の陰謀などといわれることもある習慣である。
鈴音の目の前に並べられた宝石は美品ばかりだった。小ぶりではあるが、質はいい。発色もいいなか、一つだけ黒い宝石があった。
ブラックダイヤモンド、のように見えた。
天然ものは希少でお高めである。鈴音は響を横目で見る。興味なさそうにしているが、しっかり見ていた。
「こちらにしますね」
「すきなのでいいのだが」
「自分の色を入れてるのでそれを選んでほしいというのが透けてます。
他の者への威嚇込みで、これにします」
離婚し、新たな婚約者がいるので、前夫に未練はないのだと示すことも大事である。
鈴音はできるだけシンプルな枠を選ぶ。それを店員に仮付けしてもらった。指にはめるとしっくり馴染んだ。
しかし、響は渋い顔をしていた。
「地味では」
「いいんですよ。常につけておくんですから」
「……常に?」
「威嚇にならないじゃないですか。
あなたのものであると示してないと」
鈴音は他の宝石ももらっていいかなと思いながら、響のほうを向いた。
「なに赤くなってるんです?」
鈴音は困惑しながらも尋ねる。
齢150歳弱。初心すぎないか。長生きしているがもしやその一族の中では若いほうなのだろうか。
「少し席を外す」
よろよろしながら響は店の外へ出ていった。
少し心配になってくるが、鈴音が何か言うと追い打ちである。
「大丈夫かしら」
色々とこの先が心配である。
ああいうのが、なんだか、可愛く見えてきた。
最初は怖いように見えたのに。
怖いより今のほうがいいかと鈴音は思って気にしないことにした。深入りして、いつか、飽きられる日が来たら辛いだろうから。
この結婚は猫様と素敵な日々を送るためで夫はあくまで、添え物。過剰な期待はしないつもりだ。
鈴音はそのまま進めてもらうように店員に依頼する。
ふと時計を見れば意外と時間がたっていた。
「あ、エカテリーナちゃん迎えに行かないと」
鈴音も席を立つ。店員に見送られて店の外へ出れば響が立っていた。
「指輪以外も作ってもよかったんだが」
「過剰な贈り物はいりません。自力で買えますし。今のところは指輪一つで十分すぎるくらいです」
「そうか」
「で、お迎えに行きましょう!」
「……ブレないな」
「猫様の下僕なので」
「わからんでもないがな」
苦笑しながらもペットサロンへ戻ってくれる響は優しい。元夫だったら、と考えて鈴音はやめた。意味もない。そもそもこういうお出かけをしたことがないのだから。
同じ契約婚といってもだいぶ違う。
やはり猫様が偉大! と鈴音は思ったのだった。
750
あなたにおすすめの小説
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
番など、御免こうむる
池家乃あひる
ファンタジー
「運命の番」の第一研究者であるセリカは、やんごとなき事情により獣人が暮らすルガリア国に派遣されている。
だが、来日した日から第二王子が助手を「運命の番」だと言い張り、どれだけ否定しようとも聞き入れない有様。
むしろ運命の番を引き裂く大罪人だとセリカを処刑すると言い張る始末。
無事に役目を果たし、帰国しようとするセリカたちだったが、当然のように第二王子が妨害してきて……?
※リハビリがてら、書きたいところだけ書いた話です
※設定はふんわりとしています
※ジャンルが分からなかったため、ひとまずキャラ文芸で設定しております
※小説家になろうにも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる