この度めでたく番が現れまして離婚しました。

あかね

文字の大きさ
12 / 16

おまけ ハイスぺ社長(既婚)にお前が番だと求婚されたがそんなのお断りだ! 後編

しおりを挟む
「いやぁ、肝が冷えたっす」

 ばたばたとついてきたミイナはそういった割に愉快そうだった。
 相手がフリーズしている間に昼食時間の終了を告げる鐘が鳴ったので、花梨たちは社食から撤退してきたところだった。

「ミイナさんや」

「なんすか。花梨さん」

「番から逃げた人間の話知らない?」

「うちの従姉のねーちゃんが、うぎゃーむりー、と異界の魔物召喚して、魔界に逃げたっす」

 思った以上にパンチが効いた答えが返ってきた。
 花梨は、そー、以外の言葉が返せない。

「ルリちゃん、っていうんですけど、単独生物系獣人で番なんて現れんと周囲も思ってたら、現れたというより勝手に相手に番判定は入っちゃって、でも、ルリちゃん的には番認定入らなくって、無理と」

「全部番がいるわけじゃないんだ」

「そうっすね。
 雌雄同体系とか、単純に自己の分裂で増える系は番がないといわれてるっす。それから特別固体。一代に一人しかいないとかいうものっす。
 例外はあれどだいたいは一人で楽しくやっていく感じみたいっすよ。まあ、逆に他人がいるのが嫌だってことの表れでもあるんすけど」

「それでも魔界に逃げるほど嫌って」

「そーっすね。番の相手の性質にもよるんですけどね。
 拉致監禁、誰にも会わせず誰にも親しくさせず、子も産ませるが育ても近寄らせもせず。という極端な例もあるんっすよね。今どき人道的に許されないんっすけどね? ほら、なまじ権力もっているとほら」

「サスペンスもミステリもホラーも嫌なんだけど」

「私も番見つけたらああなるのかと恐怖ではあるんすよね……」

 どよんとしたミイナに花梨はかける言葉がない。それなりに自我があって拒否感があっても抗えない何かというものであるようだ。
 そう言う意味では不憫である。

 しかし、現実的に、今、不憫な目に合うのは花梨である。

「実質、現世捨てろと」

「受け入れてラブラブしちゃえばいいじゃん、というのが獣人族の主な主張っす。
 受け入れないとか可愛いそうと獣人びいきな判定しか出てきません。純人のくせにとか、善意で言っている歪んだこととかいろいろあるっすねぇ。
 死んだ目のかかりちょー見たくないっすけど、現状、受け入れるか死にそうな目にあうかみたいな二択」

「ひどい」

「つっても。出来るのは時間稼ぎくらいっすよ?
 まあ、今日の今日に手を打たれることはないでしょうから、明日までが勝負っす。私も微力ながら指令を下されるまではお手伝いします」

 ファイト! と言われても……。
 花梨は途方に暮れる。

「なにからすればいいと思う?」

「オートロックの部屋じゃなければ、引っ越し。セキュリティ高め、管理人あり、不審者即通報してくれそうな住人が在住物件がおすすめです。警備員は善し悪しなんですよね」

「ホテルは?」

「ホテルごと買収されて監禁場所になりかねません。まず、他人の買収されない純人の多い地域で考えたほうが良さそうですよ。それから」

「それから?」

「犬を飼いましょう」

「いぬ?」

「黒玉の君、犬苦手っす。
 かかりちょー散歩、苦にならない人種っすよね。さらに雨でもジム行く系」

「うん。走る時の友達、とでも思えばいいか」

「あとは思いついた端から伝えるっす」

 気楽にそういうミイナ。
 花梨はありがたいと同時に同族を裏切るような真似をさせているような気がしてきた。重大な過失として問われそうだ。

「……あのミイナさん」

「なんすか?」

「その、ありがとう」

「いいっすよ。今は、信用していいっすけどね。明日からは油断しないでください。
 私も一族内の立場ってもんがあります。まあ、おじいちゃんが怒鳴りつけてると思うんで数日は自由になれると思うっすよ」

「おじいちゃん?」

「あー、うちのおじいちゃん、先代の黒玉の君なんすよ。それもまあ、20年くらいまえに引退したんすけどねぇ。秘密っす」

 きまり悪そうにぽりぽりとミイナは頭をかいている。
 ……お嬢様だった。このっすとかいう人がお嬢様だった!?
 花梨の驚愕をほっといてミイナは先に立った。

「さて、午後のお仕事しましょう。
 かかりちょーは引継ぎ出来るように専念してください」

「え?」

「執念深い番が、仕事なんて考慮してくれると思わないほうがいいです。なんせ、仕事辞めても養えるし、豪華な生活させてやるんだから働く必要なんてないとか考える感じなので。
 会社も事情を考慮してくれると思うっすけど、面倒が増えたら最悪、クビっす」

「……」

 新入社員で入って、苦節8年。ようやく、役職にもついて、もっと出世するぞーっなったところで、クビ。
 しかも、自分、なにもしてないところでクビ。
 花梨はぴたりと立ち止まった。
 うん?とミイナは振り返る。

「私は、仕事が、したいんですね?」

「存じ上げておりますです」

「地域安全を守る、呪式結界の開発、設置、保全にも全力を向けてきました」

「はい。おっしゃる通りです」

「それを、クビ」

「あたしがするんじゃないっす。しかもかかりちょーの簡単設置、移設らくちんと評判じゃないですか。資材会社とも良好っす」

「そぉよねぇ。
 この程度のことで、首になってたまるもんですか」

「……あぁ、まずいこと言っちゃったなぁ」

 ぼそぼそとミイナが呟いているのが聞こえたが遅い。

「私、シュナウザーとか好きだけどどうかしら」

「トイプーでだめっすか? 私も犬苦手で」

「サモエドとか、ハスキーとか、柴犬も捨てがたい」

「聞いてるっすか。可愛い子犬がいいっすよぉ……」

 ミイナの願いも虚しく、花梨は中型~大型犬を飼うつもりである。幸いというべきか、仕事ばかりだったので貯金はある。

「いぬとのセカンドライフって素敵じゃない!?」

「……ご近所で誰か子犬いないか聞いてみるっすねー」

 きらきらしている花梨をほっといてミイナは仕事に戻ることにしたようだった。

 こうして、激闘、番拒否の戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

番ではなくなった私たち

拝詩ルルー
恋愛
アンは薬屋の一人娘だ。ハスキー犬の獣人のラルフとは幼馴染で、彼がアンのことを番だと言って猛烈なアプローチをした結果、二人は晴れて恋人同士になった。 ラルフは恵まれた体躯と素晴らしい剣の腕前から、勇者パーティーにスカウトされ、魔王討伐の旅について行くことに。 ──それから二年後。魔王は倒されたが、番の絆を失ってしまったラルフが街に戻って来た。 アンとラルフの恋の行方は……? ※全5話の短編です。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

処理中です...