おっさん異世界物語 ~物理魔法と「鉄の理」。愛欲と硝煙に塗(まみ)れた男が、やがて神を殺すに至る覇道戦記~

眠れる森のおっさん

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第2章 ニベール編

第51話 街道の障害 ~躊躇なき射手~

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 しばらく街道を走っていると、御者台のジョンとレイナに声をかけられた。

「リュウの旦那、ニベール行きの乗合馬車が見えてきたぜ」

「馬車から客が全員降りてます。
 何かあったみたいですね」

 御者台側の窓を開けて様子を見ると、大勢の乗客が馬車を降りて街道の脇に座っている。
 ニベール方面へ行く乗合馬車が立ち往生しているようだ。

 フライで少し浮かせていた馬車を地面に降ろす。
 ジョンが乗合馬車を避けて追い越す進路を取る。

「お前ジョンじゃねえか?
 良い装備してんじゃねえかよ。
 別人かと思ったぜ」

「まーな、ニッケル。
 おめー達が護衛してんのかよ?
 馬車どうした?」

「車輪が外れちまってよお。
 修理中だとよ」

「そりゃ災難だな。まー頑張れよ」

「仕方ねえや。またな」

 乗合馬車の護衛がジョンの知り合いの冒険者だった。
 故障した車輪の修理が完了するのを待っているようだ。

 乗合馬車の連中とは特にトラブルになることもなく追い越すことが出来た。
 少し走って乗合馬車から離れた所で、またフライを発動して馬車を浮遊させる。

「あの乗合馬車に入り切らない人数がいたように思えたが、俺の気のせいか?」

「ご主人様、気のせいではありませんよ。客車の天井にも人が乗るんだと思います」

「かなり揺れるだろうに、それで危なくないのか?」

「はい、とても危険です。
 転落して怪我をする人も出る位ですから。
 普通はよほどの事情がなければ別の都市へ移動なんてしないんですよ」

 乗合馬車にしなくて良かったな。
 あんな様子じゃ、いつになったらニベールに着けるか分かったもんじゃない。

 昼時。

 馬に飼い葉を食わせながら、俺たちも昼飯を食うことにする。
 俺以外が異次元魔法に触れると死んでしまうから、客車の隅で弁当を取り出す。

「ごっはーんっごっはーんっ
 あーお腹すいた~……あてっ」

 ――ズザザザーゴチンッ

「うおっ! あっぶねえ!
 ……ヘルガ。お前また死ぬとこだったぞ?」

 いきなりヘルガが何もない所でコケて、異次元空間に頭から突っ込みそうになった。

「いったあい!
 ……転んじゃった。あははっ」

「あははじゃねえよ。
 黒いのに触ったら死ぬって何回も言ってるだろうが」

「あはっ。ごめんなさあい」

 こいつは空腹にさせると途端に危険度が跳ね上がる。
 最近は気を抜くと異次元空間に突っ込もうとしてくる。
 セルフで俺に始末させようとしてくるから要注意だ。

 この中に飯が入ってるから自然と吸い寄せられてくるのか?
 虫みたいな奴だな。

 ヘルガには旅先での“自分でする処理”を禁止させているから、暇になると余計に腹が減るのかも知れない。

 ---

 昼食後しばらく走らせていると、急に馬車が止まった。
 ジョンたちに呼ばれて外に出る。

「リュウの旦那。
 道の先に座り込んでる奴らがいるぜ」

「んん? ああ、何人かいるな。
 あれがどうした?」

 米粒のように小さな人影がいくつか、左側の路肩に座り込んでいる様子がみえる。

「あの先が登り坂になってて先が見えないんです。
 右手の丘も向こう側が見えません。
 ……嫌な感じです」

「旦那。こりゃ待ち伏せかもしれねーな」

「ふむ……そうかも知れんな」

「このまま馬車で走り抜けるか……それとも私たちが行って偵察してくるか。
 どうしますか?」

 2人が真剣な表情で俺の判断を待っている。
 あの先に大勢待ち伏せてるとしたら、2人を偵察に出すのは危険だな。
 最悪、2人が生きて戻って来れないかも知れん。

 どうするか。
 ……どの道この先へ進まなければならないんだ。

 行くか。

「このまま押し通るぞ。
 ジョン、奴らが何と言おうが馬車を止めるな」

「おう!」

「レイナは奴らを警戒しろ。
 妙な動きをしたら迷わず殺せ。
 できるな?」

「はい、リュウ様」

「よし。俺も御者台に乗る。
 弓矢が飛んできたら魔法で防御するから心配するな」

「はい」「分かったぜ」

 俺もジョンの左脇に立って警戒にあたる。
 レイナがジョンの右脇に立って身構える。
 ニーア達に声をかけて、客車の窓を閉めてドアに鍵を掛けさせる。

「よし。ジョン、行け」

「よーし、行ってやらあ!」

 ジョンが徐々に馬の速力を上げていく。
 馬車が宙に浮いている所を見られるのは不味い。
 ほんの少し浮力を持たせて御者台に伝わる振動を柔らげる。
 馬車の車輪は地面に接しているから回転している状態だ。

「レイナ。この位の揺れで問題ないか?」

「はい、問題ありません」

 レイナは左手にショートボウと3本の矢を握り、右手に持った1本の矢は羽根の部分を掴んでいる。

 米粒だった人影が段々と大きくなってくる。
 徐々に道端に座る連中の姿が見えてきた。
 4人……いや、5人だな。
 少なくとも1人は腰に剣を差しているのが見える。

「待てえ! 待ってくれえ! 止まれえ!」

 あと50メートルの所で奴らの1人が街道に飛び出した。
 腰にロングソードを帯剣している男だ。
 道を塞ぐように両手を広げながら叫んでいる。

「ジョン、止まるなよ」

「おうよ!」

 周囲に無数の風の刃を作り出しながら、レイナの方に視線を一瞬動かす。

「レイナ、奴を殺せ。やれるか?」

「はい! やれます!」

 半身立ちの姿勢で左手にショートボウを構えたまま3本の矢を握り、右手で弦に番えた矢を引き絞っている。
 左目を瞑って僅かに顎を上げ、見開いた右目が道を塞ぐ男を捉えていた。

 俺が男に視線を戻すと同時にヒュイッと音がして、レイナの放った矢が男に向かって飛んで行く。
 矢が突き刺さる前に2本目の矢が即座に放たれた。

「うっ」

 緩い弧を描いた矢が左胸に吸い込まれたと思った直後、2本目が腹に突き刺さる。
 男がバタリと地面に倒れた。

 ジョンが馬車を操縦して倒れた男を右に避ける進路をとりながら、馬に鞭を入れて更に速度を上げた。

 俺は登り坂の先と丘の向こうを視界の端に捉えて警戒する。
 あそこから矢が飛んで来たら瞬時に馬車ごとアイスシールドで防御する。

「てめえーよくも!」

 あと20メートルという所で道端に座り込んでたうち1人が立ち上がって叫んだ。
 男が抜剣したと同時に隣からヒュイッと音がして矢が真っ直ぐ飛んで行く。
 左眼に矢を生やした男がロングソードを地面に落として後ろに倒れた。

 残りの3人はまだ座ったままだ。
 もう間もなく奴らの横を通り過ぎる。
 俺は近くの奴らと遠くの待ち伏せを警戒する。

 レイナは最後の1本を番えたショートボウを構えている。
 体を左に回転させながら座っている奴らに射線を向け続ける。

 残りの奴らは動かない。
 黙ったまま馬車が通り過ぎるのを見ている。

 通り過ぎた。

 もう奴らは馬車の後方にいる。
 走って馬車に追いつくことはできない。

「レイナ、周囲を警戒しろ」

「はい!」

 馬車が勢いよく坂道を登って行く。
 右手の丘の方から誰かが顔を出す様子はない。

 坂道を登り切った。

 誰もいない。
 見通しは良い。
 地平線まで見渡せる。
 坂の向こうに待ち伏せはいなかった。

 後ろを振り返って左手の丘を見る。
 丘の向こうからも誰も出てこない。
 矢も飛んでこない。

「ふう。無事に通過したな」

「よっしゃー! やったぜ!」

「っはああ……はぁっはぁっ」

「レイナ、よく仕留めた」

「はぁはぁ……はいっやりました!」

「最後まで待ち伏せは出てこなかったな」

「そうですね……まだあの丘の向こうに隠れているのかも」

「馬車を止めたら襲ってきたんじゃねーか?」

「……そうだな。2人とも良くやったぞ」

 最後に残った3人は、商人風の格好をした非武装の奴が2人。
 うち1人は中年の女だった。
 通り過ぎる瞬間、奴らの目に恐怖の色が映っているのを見た。

 旅路で困って助けを求めたかったのかも知れないし、囮だったのかも知れない。
 道を塞いだ奴らが何だったのか、本当の所は分からない。


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【探し方】
Web検索、またはノクターンノベルズのサイト内で
『 おっさん異世界物語 』
と検索してください。
(※作者名『眠れる森のおっさん』で検索しても見つかります)
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