おっさん異世界物語 ~物理魔法と「鉄の理」。愛欲と硝煙に塗(まみ)れた男が、やがて神を殺すに至る覇道戦記~

眠れる森のおっさん

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第2章 ニベール編

第52話 悪徳宿屋と野営の夜 ~無慈悲な交渉術~

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 ――夕方。

「すげーもうこんなとこまで来ちまったよ」

「ば、馬車でも3日はかかる距離なのに……」

 グリム近辺のニベール方面にある最も遠い宿屋に到着した。
 ここから先は人家も農場も無くなる。
 ニベール近辺の宿屋が出てくるまで、しばらく野宿が続くそうだ。

 宿屋の厩に馬車を止めて中に入ると、受付の奥から宿屋の主人と女将が出てきた。
 左に目をやると1階に併設された酒場で何人か飲んでいる様子が見える。

「5人なんだが泊まれるか?」

「5人だあ? もう泊まりは一杯だ。帰れ帰れ!」

「……そんな混んでるようには見えんが?」

「そうだねえ。相部屋になっちまってもいいなら泊めてやれないこともないよ」

「相部屋か……とりあえず部屋を見せてくれるか?」

「相部屋が嫌だってんなら帰れ!
 まあどうしても泊まりてぇなら泊めてやるが、1人銀貨2枚出すんだな」

「そういう訳でねえ。どうするかい?」

「そりゃねーだろ!
 前は1人銅貨3枚だったじゃねーかよ!」

「嫌だねえ。そんな昔の話をされても困るんだよ」

 ジョンが女将とやり合っている横で、ニーアが俺に耳打ちをしてくる。

「ご主人様。こういった宿は、よく客の足元を見て値を吊り上げてきます」

「なるほどな。
 ……おい、ジョン。俺が話す。
 お前は酒場の連中が近寄ってこないように見張っていろ」

「ああ、分かったぜ」

 酔客が乱入してこないようにジョンに警戒させて、宿屋の主人に話しかける。

「おい、親父。銀貨がどうとかほざいてたが、俺の聞き間違いだよな?」

「ああ? 何を言ってやがんだ。泊まりてえなら1人銀貨3枚だ」

「おいおい。上がってんじゃねえかよ。舐めたこと言ってんじゃねえぞ。
 ぶっ殺すぞ!」

 親父の腹に向けて圧縮された空気の塊を放つ。

「ぐええっ……ビチャビチャビチャビチャ」

 親父が腹を抱えながら蹲って嘔吐している。
 息が苦しそうだが、弱めにしといてやったから多分死にはしないだろう。

「あ、あんた、魔術師かい!?
 こんなことしてどうなるか分かってんのかい!
 ゼクト団が黙っちゃいないよ!?」

「うん? レイナ。ゼクト団って知ってるか?」

「はい、汚い仕事で小銭稼ぎしている連中ですね。グリムの市外区域にいます」

「なるほどな」

 女将の目の前に炎の玉を出現させる。

「おい。ババア。
 待っててやるからゼクト団ってのを早く出せよ」

「い、今はいないよ!
 ゼクト団にあんたらのこと言いつけてやるからねえ!」

「はあ? いねえだと?
 お前は何を馬鹿なこと言ってんだ? 
 今から燃やされる人間が、どうやってゼクト団とやらのとこに行けるんだよ」

 そう言いながら炎の玉を受付のカウンターに近づける。
 パチパチと良い音を立ててカウンターが燃え始めた。

「な、な……」

「まぁ俺も鬼じゃねえ。
 最後にもう一度だけ聞いてやろうじゃねえか。
 ……で、ここの宿代は一体いくらなんだ?」

「……や、宿代は、い、いりません」

「ああ? 何だって?
 早くしねえと宿が燃えちまうぞ」

「き、汚い宿ですけど、どうか泊まって行ってください! お願いします!」

「最初からそう言えよ。
 いちいち余計な手間をかけさせるんじゃねえぞ。ババア」

「も、申し訳ありませんでした……」

 燃えさかるカウンターを消火してやって、女将に相部屋ってのを案内させる。
 親父はあのまま睡眠中だ。

 ドアを開けて部屋を覗いてみると、狭い部屋に足の踏み場もなく10人以上が雑魚寝していた。
 異臭を放つ異世界人の巣窟となっている。

「くっせえ……こりゃダメだ」

 この宿屋は元々個室がなく、大人数が雑魚寝する部屋しか用意がなかった。
 ボッタクリの上に、そもそも俺が泊まれるような環境水準の宿屋ではない。

 ニーアによると街道沿いの宿はどこもこんな感じらしい。
 基本的に相部屋の雑魚寝。
 いちいち一見客の足元を見てくると。
 仕方ないから諦めて野宿することにして、宿屋を後にする。

「なんか宿屋を痛めつけに寄っただけになっちまったな」

「当然の報いです。ご主人様の御心に逆らった罰ですから」

「リュウ様……か、格好良かったです」

「折角タダにさせたのに良かったのかよ?」

「お腹すいたよ~」

 ヘルガが危険なことを言い出しているから、ピッグジャーキーを取り出して食わせておく。

 宿を離れて馬車を走らせた後、街道から外れて草原の中を奥の方へと進んで行く。

「ここら辺でいいんじゃねーかな」

 ジョンが草原の真ん中で馬車を止めた。
 ここなら見通しが良いから襲撃者を察知しやすそうだ。
 ここを今日の野営地に定めることにした。

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『 おっさん異世界物語 』
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