カーマン・ライン

マン太

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第1章 出会い

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 次の日、朝早くから戦闘機の試運転を開始した。
 アレクが前方に乗り込む。
 この機体はやや丸みを帯びた流線型で、通常の戦闘機とは形状が異なっていた。
 前後に搭乗口があり、主になるのは前方のコックピット。ソルはやや上部の後方に搭乗している。
 各々、状況に応じて操縦できるようになっているが、今はメインをアレクに渡してある。
 コックピット内は四方がマルチディスプレイとなっており、それが作動するとまるで自分が宙に浮いている様に思えた。
 ディスプレイには周囲の景色の他に様々な計器の情報が表示され、各部位の正常作動を伝えている。
 アレクの操縦は目の前にあるディスプレイで確認が出来た。
 エンジンがかかったと同時、機内が僅かに振動し、特有の耳につく金属音がする。
 初の戦闘機。自然と身体に力が入った。
 乗る前、ヘルメットの代わりにヘッドセットを渡されそれを装着した。
 てっきりフルフェイスのヘルメットを装着するものと思っていたソルは首を傾げる。
 それにアレクは意味ありげな笑みを浮かべて答えた。

「君はそれでいい。ヘルメットの代わりにヘッドレストがその代わりをする。なれるまではヘッドレストから頭を離さないようにな」

 そう言って乗り込むのに手を貸してくれた。言われた通り、ヘッドセットを装着した頭をヘッドレストへ固定する。

『Gがかかる。舌を噛むなよ』

「了解…」

『そう緊張しなくていい。私がついている』

 ディスプレイにアレクがふっと笑ったのが見えた。それで緊張が幾分溶ける。
 次の瞬間、滑走路を僅かに走った後、フワリと機体が浮いた。
 想像以上のGがかかる。それを歯を食いしばって耐えた。

『大気圏外には行かない。このまま上空を飛ぶ』

「…了解!」

 張られたアレクの声に答えるのがやっと。
 機体の調子は思っていいた以上に良かったらしい。操縦中、ずっとアレクは楽しげな様子で笑みを浮かべていた。
 ソルにはそんな余裕はなく、必死にその操縦を見つめるのが精一杯。次は自分が操縦する番だ。

『大丈夫だ。君ならできる』

 落ち着かせる様に響くアレクの声。
 ソルの緊張などお見通しらしい。インカムを通して届く声は、まるで耳元で囁かれているようだった。
 それから三十分程度飛んだあと、

『一旦、戻る。次は君だ』

「はい」
 
 アレクからの帰還の指示があった。


 滑走路に戻り、休憩を取るため一度機体から降りる。
 先に降りたアレクはヘルメットを外すと、眩しいばかりの金色の髪を風になびかせつつ、降りるのに手を貸してくれた。

「とてもいい仕上がりだ。君の腕は本物だな?」

 差し出された白い手を借りて、地面に降り立つ。褒められて思わず頬が赤らんだ。

「これは、あなたの所の技術者の腕が良かったからで、俺だけじゃ──」

「部下から報告は受けている。その殆どが君の提案だったと。謙遜するな」

「でも…」

 思いついた事を口走っただけ。
 それが成功するかどうかは二の次だった。
 今回は偶然、それが上手く行ったに過ぎない。しかし、アレクは否定する。

「君はもっと自信を持つべきだ。学歴など関係ない。君は彼らの有する知識など飛び越えているのだから。さあ、話は後にして操縦してみるといい」

「わかりました…」

 一つ息を吐いてから、再び乗り込む。
 
 息が、少し苦しいな…。

 着ていたつなぎの襟元を少し寛げた。
 手順はもう覚えている。ただ、飛ぶ感覚が分からない。先ほどはただ乗っているだけだったが、今度は違う。自分の操縦で飛ぶのだ。

 これが初めての──。

「行きます──」 

 操縦桿を握る。グッと強いGがかかった。


 まるで鳥になった気分だった。
 初めこそ強い圧とエンジンの振動を感じたものの、暫く飛べばそれも気にならなくなる。後は音もなく宙を舞った。

 軽い。動きがとても──。

 思っていたより遥か自由に機体が動いた。

 この機体が特別なのだろうか。

 確かに修理をしていた時も思ったが、今まで得た知識には無いものだった。

 けれど、こうまで自由に、思ったように動くものなのか。

 頭部の周囲を覆うように座席からヘッドレストが伸びている。時折そこからチリと痺れる様な感覚を受けた。
 それが気になりはしたが、まるでそこから自分と機体が繋がっているような感覚。

 なんだろう。これは──。

 後でアレクに聞こう、そう思った。
 地上に降り立ち機体が停止すると、先に降りたアレクが、待ち構える様に機体に上がって来る。
 なにごとかと急いでキャノピーを上げれば。

「ソル。私と来ないか?」

 ソルの腕を掴むとアイスブルーの瞳を輝かせてくる。

「急に、どうして?」

「いや。是非来て欲しい。そうでなくとも、考えていたのだが…。君を生かす道は私のそばにしかない」
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