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第3章 仲間
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しおりを挟む帰艦し、コックピットから降りた途端、ラスターに胸ぐらを掴まれ突き飛ばされた。
冷えた床にしたたかに背を打つ。
「っ前! ザインを殺す気か!」
「止めろ。ラスター!」
アルバが尚も掴みかかろうとするラスターの肩を押さえて止めに入る。
「こいつ…。敵を前に攻撃を止めやがった。一歩間違えば、ザインが殺られてた! こいつが殺られるのは構わない。けど、ザインまで巻き添えにするなんて、絶対、許さない!」
激高するラスターに返す言葉もない。
確かに一歩間違えば、ザインも命を落としていた。
ただ、……怖くて。
相手の意識が自分の中に入り込んできて。身体が竦んで動かなかった。
俺は、一体……。
力なく床に座りこんだままでいると、腕を取って立たせようとするものがいた。
「俺はなんともねぇ。そこまで怒る事じゃねぇよ、ラスター。…ほら、ソル。立て」
ザインだった。ソルはいたたまれず。
「ごめん。ザイン…。俺…」
「気にするな。初めての実践では良くあることだ。特に能力者はな? それにその後、ミスはなかったろ?」
ザインは立ち上がったソルの肩に手を置き、顔を覗き込んで来る。大きな手の平が右の頬に触れた。
「お前こそ大丈夫か? 暫く休んでろ。顔色が良くない。余り気に病むと、次飛べなくなるぞ?」
「次…」
飛ぶことが出来るのだろうか?
思わず身体が震えだす。不安を覚えた。
と、そこへ。
「その通りだ。ソル」
ざわついていた周囲がしんと静まりかえる。アレクだ。そのままこちらに歩み寄ると、
「気に病むな。次は私と飛ぶ。それで万事解決する」
ザインの腕の中にいたソルの腕を取ると、自分の側へ引き寄せた。
ザインは小さくため息をつき、天を仰ぐと掴んでいた手を離す。
「アレク…?」
「大丈夫だ。私とならな」
でも、俺は──。
「アレク様! それは賛成できかねます」
声を上げたのはユラナスだ。一歩進むと。
「あなたの命を危険にさらすわけにはいきません。あなたの代わりはいないのです。彼はまだ実戦に出せる状態ではありません。今もザインの命を危険に晒した…。それを分かってあなたと組ませる訳には行きません!」
アレクはため息をつくと。
「ユラナス。私が飛ぶと言っているんだ。誰の命令も受けるつもりはない」
「アレク様…。これは命令などではありません。ここにいる部下達、全ての思いです。あなたに何かあれば、ここがどうなるとお思いですか? …あなたの行動は無責任です」
流石にその言葉に周囲のものも息を飲んだ。
ユラナスだから許されるだろうが、その他の者だったら強い叱責と相当の処分を受けただろう。
しかし、アレクは笑みを浮かべ。
「私の選択を疑うのか? …ユラナス」
「そう言うわけでは──」
「確信があるからだ。ソルは必ず敵を撃退する。ソル、行くぞ。敵は待ってはくれない」
「でも…! ユラナスの言う通りじゃ──」
腕を取ったまま機体へと歩き出す。目前にあるのはアレク専用機、白銀の機体だ。
「私を信じろ。私はソル、お前を信じている。それに──」
ふと視線をこちらに流すと。
「お前になら私の運命を託してもいいと思っている…」
「なにを言って…! なんで、俺なんかにっ」
こんな力もない、パイロットとしても半人前の俺に、どうして託すなんて。
しかし、アレクは笑みさえ浮かべて続ける。
「ソル。お前は私にとって特別なんだ」
「特別…」
それは、この力が特異だからだろう。でも、そこまでの力があるのか。
「さあ、行くぞ」
「アレク…!」
機体の横まで来ると、それまで掴んでいた手をさらに引きよせた。
ぐっとアレクとの距離が縮まる。
機体と翼の陰になって誰の視線も受け付けない状況をつくると、その唇が有無を言わさず、ソルの唇へと重なった。
柔らかく触れたのは始めだけで、後は息も継げないほど深く口づけられる。
「…ソル」
僅かに唇を離すと、白い指先で濡れた唇を拭われた。
「大丈夫だ。お前は私だけを見ていろ」
「アレク…」
フワリと笑むと、ソルの身体を機体へと押し上げた。
「ユラナスを見返してやれ」
アレクはそのまま自分も機体の前方へと乗り込み、すぐに発進させた。
周囲にいたものは結局、誰も制止することはなく。ただ、チラと見えたユラナスの表情は固かった。
深い闇。浮かぶ星々。
『ソル、敵の位置を教えろ』
「了解──」
景色に意識を向けている場合ではない。
先ほどと同じ轍は踏まないようにしなければ。
敵機の位置を把握するのは容易なこと。直ぐにその存在を感じた。
情報をアレクヘ飛ばすのと同時、敵の後方へ躍り出る。
けれど、照準を合わせた途端、やはり相手の意識が入り込んでくる。
くっ…!
敵機に意識を向けると流れ込んでくるのだ。それは今の自分では防ぎようがない。
敵意、恐怖、怒り。
様々な感情が向かってくる。
モニター目前に、照準を合わせたはずの敵機が躍り出ていた。このままでは先ほどのザインの二の舞だ。
『ソル!』
アレクの鋭い声音。
俺が動かなければ、アレクがやられる。
それだけは──させない。
そう思った瞬間、自然と手が動いていた。
相手の発する全ての感情がシャットアウトされる。敵の感情はもう流れては来なかった。
「……っ!」
ソルの情報によりアレクが発射したミサイルが敵機体に命中し、一瞬にして炎の塊と化し、チリとなって消えた。
その輝きをソルはただ見つめる。
俺は──。
『ソル。できたじゃないか』
「あ…」
我に返った途端、手が震えだすが。
でも、やらなければ、アレクが──やられてた。それだけは何としても防ぐ。
ぐっと操縦桿を握り直す。
「アレク…。俺はあなたの為に、やる──」
インカム越しに、ふっと笑んだ気配。
『それでいい…』
そのあとも次々とアレクとともに襲い掛かる賊をすべて攪乱し、撃ち落とし。
他の味方の出番はないくらいの働きだった。
なにせ、スピードが違うのだ。
まるで瞬間移動でもしているかのように自在に飛び回る。
アレクを一度救ってからは、ソルの独壇場だった。
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