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第3章 仲間
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しおりを挟む程なくして帰艦した。
コックピットのハッチを開くと、冷えた空気が流れ込み、オイルの匂いが鼻をつく。
馴染んだ香りにようやく息をつけた気がした。
降りようとハッチに手をかければ、先に降りたアレクがこちらに手を差し伸べてくる。
「ソル。よくやった」
アレクの眼差しはいつになく優しい。
二人だけで過ごしたあの時を思い出させる表情だった。
手を借りて降り立つと、すぐにアレクが腰へ腕を回してくる。
「ア、アレク?」
人前で堂々とそうするのはこれが初めてかもしれない。僅かばかりの抵抗を見せるが、アレクは気にせず続ける。
「やはり私の言った通りだったな。ソル」
「でも、俺は…」
両の手を見つめる。
闇に消えて行った光を思い起こす。ひとつ、またひとつと命がこの手によって消えたのだ。
アレクはソルの頭を胸元に引き寄せると。
「いいんだ。全ては私を守るためにやったこと…。それに、相手も命をかけてくるのだ。命がけはお互いさまだ。今回はこちらに分があっただけのこと…。だが、ソルと飛べば無敵の気がするな」
そう言うと、汗ばんだ額の髪をかき分け、そこへキスを落とす。駆け寄ろうとした整備士らも思わず足を止めた。
「アレク?!」
「どうせばれている。ザインもしただろう? オープンにした方が余計な虫がつかなくていい」
「けど…」
ザインの時のお遊びとは違う。アレクからのキスが単なる挨拶以上の意味を持っている事を知っているのだ。気恥ずかしい。
そうこうしていれば、そこへユラナスが姿を見せた。
「アレク様…。ご無事で何よりです。私への処分は覚悟しております。何なりとお申し付け下さい…」
視線を伏せ俯くユラナスにアレクは笑うと。
「別に私には何も起こらなかった。出発前のやり取りも当然の意見だ。気にはしない」
「しかし…」
「お前が処分を受ければ、誰が私の副官を務める? 誰か代役がいるならそいつを呼んで来い。そうしたらお前の処分を考えよう。…以上だ」
ユラナスは黙ってアレクを見返す。
アレクは何事もなかった様に、またソルの腰に手を回し歩き出した。その先にはザインやアルバ、リーノが待っている。
「凄いね! 流石だって。まるで光の矢のようだったよ! ソル」
リーノが無邪気に感心する。アルバも腕を組んで頷くと。
「そうだな。ソルが味方で良かった。敵だったらと思うとゾッとするな」
すると横からザインが。
「俺の時はなんだったんだ? まるで別人だったな?」
「でも、今回のはたまたまで…。俺は──」
しかし、アレクは俯くソルの顎に指先を添わせ持ち上げると。
「謙遜するな。お前の活躍は誇れるものだ。ボヤボヤしていれば、お前たちも直ぐに抜かれるぞ」
その言葉に、皆ザインらを囃し立てる。
「さあ、シャワーを浴びて着替えて来るといい。──着替え終わったら私の部屋へ来い」
最後のセリフは耳元で囁かれ、ソルにしか聞こえなかった。顔を赤くし俯いた所で漸く開放してもらえる。
アレクが去ると皆が寄ってきて口々に功績を称えた。そんな様子をラスターは面白くない顔をして見ている。
ラスター…。
それに気付いて、ソルは皆に礼を述べたあと、その輪から抜け出しラスターの方へと歩み寄った。しかし、ラスターは気が付きその場を立ち去ろうとする。
放っておけばいいのかもしれない。
けれど、このままではいけないと心の中の何かが告げていた。
こんな風に持ち上げられるのは、一時のこと。それに、ここまでアレクを支えてきたのは、ラスター含め、他の隊員に他ならない。
俺なんて、まだ何もしていない。
先ほど蹴散らしたのも賊に過ぎない。本気の戦闘ではないのだ。ラスターがそんな顔をする必要はどこにもなかった。
「ラスター!」
デッキを出て追いかけると、ようやくその歩みを止めた。そうして肩越しに振り返る。その眼差しは冷たい。
「…お前さ。同情? それ。それともいい子ぶってんのか? ちょっとちやほやされて、いい気になって…。だいたい、ザインもザインだ。少しくらい目立ったからって、手放しで持ち上げて。じゃあ、俺たちの今まではなんだってんだ!」
「ラスター…。俺だって、こんなの今だけだって分かってる…」
「へぇ。それ、本当?」
腕を組んで睨んでくる。口元には冷笑が浮かんでいた。それに怯まずソルはラスターを見返すと。
「俺には…実戦経験がない…。戦闘が始まれば、きっとラスターたちみんなに迷惑をかける…。ザインの事は済まなかった。こんな言葉で許されるとは思わない…。それでも、なんとか足手まといにならないよう頑張るつもりだ。アレクの為にも…。だから、少しでもいい。仲間として受け入れてくれると嬉しい…」
プラチナの目と髪を持つ青年はちらと視線を向けた後、顔ぷいと背け。
「アレクが引き入れたんだ。俺がどうこう言えるわけないだろ…」
それだけ言うと、その場を立ち去る。もう、後を追う事はしなかった。
どんなに認めたく無くとも、アレクの命令に背くことは許されない、そう言う事だろう。
認めてくれた──わけじゃないだろうな。
その場に佇みラスターの去った後を見つめていれば、声をかけるものがあった。
「ソル、大丈夫かい?」
整備士のゼストスだ。グリーンの瞳には労わりの色が浮かんでいる。ソルは苦笑しつつ。
「大丈夫だよ。多分…」
「君はまだ若いのに…。怖かっただろう? 今ままでそういった戦闘訓練も受けては来なかったんだろう?」
ソルは頷く。
ここに来るまで、そんなものを受けたことはなかった。連合軍では下っ端の整備士見習いで、それ以前はしがない辺境惑星の整備工場の工員だったのだから。
「アレクも無茶をする…。君が能力者だとは聞いているが。無理をして精神を可笑しくしたらどうするのか…。前にもいたんだ。アレクがスカウトしてきた青年が、無理をして精神を崩壊させて…。最後は病院送りだ」
アレクが、スカウト…。
初耳だった。自分の前にもアレクにパートナーがいとは。ユラナスが臨時にパートナーとなったのもそのせいか。
そういえば、以前、ラスターがそんな事を言っていた気がする。
俺は代わりなのだと。
ゼストスはソルの肩に手を置き顔を覗き込んで来る。
「ソル。無理はするな? 君はメカニックとしての能力も高い。好きでもない戦闘に参加して身を削る必要はないんだ」
「…ありがとう。でも、今はまだ大丈夫だ」
「本当に?」
「本当に。心配ありがとう、ゼストス。──じゃあこれで」
そう言って自室に戻りかけたが、ふと足を止めて振り返る。
「ゼストス…」
呼ぶとゼストスが小首を傾げて見せた。ソルは言い淀んだのち。
「その…、アレクが前に連れてきたってパートナーは、アレクと……親しかったのか?」
その問いにゼストスは、合点がいったのかああと困惑した顔をして。
「分からない…。君の時ほど、アレクは表に行動に出していなかったからな。ただ、かなり重用はしていたよ。プライベートは分からないが…」
言葉を濁す。
そこに言葉には出来ないアレクとの関係性を表しているように思えた。
俺は…。そいつの代わりなのだろうか?
「ありがとう。何かあれば相談させてもらう。じゃあまた…」
「ああ。また整備の時にな」
ゼストスはそれでも心配気にソルを見送った。
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