61 / 84
第5章 波乱
4
しおりを挟む既にかなりの数の敵を撃ち落としていた。
一人で対応するには手加減などしていられなかったが、狙った箇所を誤る事はない。
攻撃不能となった戦闘機が、一機、また一機と後退していく。
『──ソル、あと数分で旗艦が到着します。到着次第、帰還してください』
「了解。ユラナス」
通信が終わり、帰艦しようとしたソルの前に編隊を組んだ敵機が現れた。
その動きは不審なもので。
こちらが攻撃しようとすれば直ぐに機体を翻し逃げる。かと言って離脱する訳ではなく、こちらが再び帰艦しようとすれば、それを阻む様に躍り出た。振り切ろうにも執拗に追ってくる。
撃墜しようとはしないのだ。明らかに帰艦を邪魔しようとしているのが伺える。
何を考えている?
と、突然、アレクの乗る艦が進行方向を変更した。機体が下方へ進んでいる。
それを見てすぐにユラナスへ交信した。
「ユラナス、何があったんですか?」
『…いえ。なにか──障害が生じてこちらの入力を受け付けなくなりました。進行経路が勝手に変更されたのです…』
冷静な声だが、どこか焦りも感じられる。嫌な予感がした。
「すぐに戻ります! 俺に対応させて下さい」
『…分かりました。お願いします』
しかし、ソルが帰艦しようとすると、先程と同じ、それを阻止するように敵機が攻撃を仕掛けてきた。
理由は、これか──。
戦闘機含め、どんな機体でも構造は知り尽くしている。実際、設計からプログラムまで全て携わっているのだ。
自分が艦に戻れば、急な進路変更にも修正が効くかも知れない。
それをわかって、帰艦を阻んでいるのだ。
と言うことは、この進路変更も──こいつらの所為…?
でも、どうやって変えさせたのか──。
直接、プログラムしたとしか考えられない。そんな事をできるのは内部の、しかもごく一部の者に限られている。
それに、この機体に乗るのが自分だと知っている者は──。
まさか──。
しかし、彼しか知らない。
でも、どうしてだ? どうして──。
とりとめのない思考が頭の中を駆け巡る。
その間にもしつこい敵を何とか振り切り、不意を突いて攻撃し一機ずつ削って行く。
そうしていれば、巡洋艦のエンジンがふかされた。出力を上げたのだ。
ワープするつもりか?
そうなっては追いつくことができない。
アレク──!
なおも攻撃してくる敵機を無視して、無理やり帰還しようとすれば、敵機が矢のような攻撃を浴びせかけてきた。どうしても、帰艦させたくないらしい。
「くっ…!」
それをまるで曲技飛行のようにかわす。
二、三発、ビームが翼や腹を掠め火花が上がったが構ってはいられない。
巡洋艦の周囲に青白い電流が廻り始める。シールドを張るつもりだ。そうなれば帰艦は叶わない。
間に合ってくれ…っ!
煙を吐き出しながら艦のゲートに突っ込んだと同時、ワープした。
その数秒あと、アルバ達が乗る旗艦が到着したが、闇が広がるばかりで、そこにアレクを乗せた艦を見出す事は出来なかった。
+++
ゲートに滑り込むや否や、機体から飛び降り、アレクのいるであろうブリッジへと向かった。
すでに機体はかなりの損傷を受け、これ以上、飛行するのは乗るのは厳しい状態だった。良くももったものだと思う。
入港したポートに人影はなかった。ブリッジへと向かう通路にも。
何が起こっているのか──。
明らかに異変を感じる。
「アレク! ユラナス!」
ブリッジに到着すれば、その中央、提督専用のシートへゆったりと構えたアレクがスーツ姿のまま座っていた。着替えなかったらしい。
とりあえずホッと息はつくが、安堵するにはまだ早い。
ユラナスはその先にあるコンソールパネルを士官と共に操作している。
ソルの声に視線だけ向けて来た。
「ワープ前に乗り込めたのですね…」
「ユラナス。現状は?」
泰然としたアレクにチラと視線を向けた後、ユラナスの方へ向かった。肩越しにコンソールパネルを覗き込む。
「駄目です…。こちらのパスワードを一つも受付ません。アレクのものでも。これは元々先に組まれたあったプログラムの様ですね…」
先にプログラムを──。
やはり、思い当たるのは一人だけ。
先程からその名前が頭に浮かんだまま消えない。
ソルが出撃したのを知っていたのも彼だけだ。その情報を敵が知っていたという事は、彼が敵と通じていることを意味する。
ソルは瞑目したのち─それも僅かな間だが─アレクを見据えると。
「アレク。あなたにお願いしたい事がある…」
「なんだ?」
「敵機は俺がここへ来るのを阻止してきた。俺と分かっての攻撃だった…。撃墜が目的じゃない。俺をここへ来させたくなかったんだ…。理由は──この計画の邪魔になるからだ」
「計画? それは──これが敵の策略だと」
ユラナスが眉間に皺を寄せる。ソルは頷くと。
「人為的なミスではこんな事は起きません…。俺がここへ来ることは、たったひとりしか知らない。ここまで出来るのも彼しかいないんだ。…ゼストスに、連絡を…」
アレクは顎に手をあてると。
「面白い事が起こるものだな…」
そう口にした。
「兎に角、話しを聞いてみてくれ。…俺の勘違いならいいんだ」
「ソル。君がそう思うなら、多分間違いはないだろう。…しかし、信用の置けるものを見つけ出すのは至難の技だな」
遠くを見ながら呟くアレクの横顔を見つめると。
「あなたが身近に置くものへの判断は、間違っていない。ユラナスも俺もあなたを裏切りはしない。今回はきっと、何か事情があったんだ…」
長年の付き合いであるアレクを裏切る程の何か。
「そうだな…。君を選んだ事を間違えたとは思っていない」
アレクは意味ありげにソルに視線を向ける。
思わず頬が熱くなって、気恥ずかしくなったソルは視線を逸らすと、ユラナスの傍らから別のモニターに目を向けた。
そこには航路が表示されている。急な進路変更の行き先が気になった。
「この艦は何処に向かっているんですか?」
ソルの問にユラナスは画面を見たまま淡々と答える。
「予測経路ではこの先にある惑星アウローラに向かっています。分厚いガスに覆われた星で、通常、航行は不可能ですが、不定期にその星を覆うガスが晴れる事があります。その時だけ降下は可能ですが、ガスに覆われれば星からの脱出は不可能になります。今は晴れた状態が続いていますから着陸は可能ですが、直ぐにガスに覆われる可能性がありとても危険な星です。過去人が降り立った記録もありません」
「ガスに…。狙いはそこですね」
ソルの言葉にユラナスは小さく頷くと。
「これが敵の計画ならそうなります…。そこへ降下すれば、運が悪ければ次の晴れまで閉じ込められます。その晴れが、一時間後なのか、数年先なのか、今の所分析は不可能です。砂とガスばかりの惑星でとじこめられれば、生きていることは不可能でしょう」
「アレクを…そこへ落とす…」
「他にここへ向かわせる意図がありません」
「直ぐにこの艦から脱出を──!」
そう言って、アレクを振り返れば。
「ワープする直前に、プログラムにより強制的にシールドが張られた。お陰で外側は勿論、内側からも脱出が不可能だ。ワープすると分かった時点でクルーの殆どは脱出させてある。…ザインもな」
「何故、一番に出なかった?」
ソルは何処か他人事の様なアレクに強い眼差しを向ける。しかし、アレクは笑むと。
「クルーより先に逃げ出すのは性にあわない。今までもずっとそうしてきたからな?」
そうだった。
以前、傭兵部隊だった頃も、先陣を切って敵の群れへ飛び込み、退却時はその後方に付いた。腕がいいからと言う理由ばかりではないはず。
「…それに、君が守ると言ったからな? 私に何かあれば必ず君はここへやって来る。その時、私が逃げ出していたのでは格好がつかないだろう?」
「馬鹿な事を…。俺はあなたがいないとわかれば胸を撫で下ろした。あなたは皆に必要とされている。生きなければならないんだ!」
しかしアレクはそんなソルを面白がるように見返すと。
「私の価値は私が決める。最後まで君といられるなら本望だ」
「話にならない…」
首を振るとユラナスに目を向けた。
「もう、元を切るしかありません…。先にシールドを解除します。惑星到着までどれ位と?」
「一時間もないでしょう。出来ますか?」
「やって見ます…。残っているクルー達はいつでも脱出出来る様にゲートに待機させておいて下さい。解除したらすぐ脱出です。アレクも──」
座るアレクに視線を向けたが、先程と表情は変わらない。
「私は君と一緒でなければ出ない」
「こんな時に…。本当に面倒なひとだな?」
「褒め言葉として受け取っておく」
ソルは小さく嘆息したあと、ユラナスを振り返り。
「コアエンジンの電源を一旦落とします。最低限の電力は残されますが、コアを強制的に落とすせいで、復旧後細部の設定システムが機能しなくなる可能性が高いです。プログラムもこれでリセット出来る筈ですが、航行に関しては全て手動になります。俺はエンジン復旧に回ります。ユラナス、操縦を頼めますか?」
「勿論。これくらいわけありません。──ただ、このプログラムを組んだものならそれも見込んでいるかと…」
「そうなんです。きっと何かはある…。それ込みでも一度エンジンは止めます。覚悟して下さい」
「分かりました」
ユラナスは直ぐに残っているクルー全員へ退避命令を出す。
「アレクはここでユラナスと──」
「いや。一緒に行こう」
アレクは素早く座っていたシートから身体を起こすと、ブリッジを出ようとする。
「…アレク?」
「君一人では手に余るだろう? 何かあった時、もう一人いたほうがいい」
「けど…」
「迷う時間はない。行くぞ」
あなたはここでユラナスといるべきだ。
そう言いたかったのに、有無を言わさぬアレクの態度に押され、ブリッジを後にする。
去り際、ユラナスが心配気な視線を向けてきたのが視界の端に映った。
心配は当たり前だ。
確かに一人で対応出来ない事態も起こりうるだろう。誰かがいてくれれば心強い。
けれど、それがアレクである必要はない。出来る事ならユラナスと共にいて、緊急時にはすぐに脱出を図れるように待機していて欲しかった。
ユラナスのいるブリッジの方が脱出には素早く対応できる。隣にある艦長室が不測の事態に備えて切り離され、脱出用のシャトルになるよう設計されているからだ。
ソルが向かうのは艦の最深部分。何かあっても脱出するのに手間取る。しかもエンジン部分に近い。何かが起こればひとたまりもないのだ。
分かっていてついてくるのだろう。
ソルは唇を噛みしめる。
アレクの思いが嬉しい分、こういった時にはそれが枷となる。
「アレク、コアエンジンを切れば一時的に動力が停止する。すぐに復旧させるが、何が起こるかわからない。充分用心しておいてくれ」
「分かった。君の指示に従おう」
アレクは笑みを浮かべる。
緊急事態だというのに、アレクはまったく動じた気配がない。
いや、いままでもそうだ。
早々アレクが取り乱したことなどなかったはず。
「分かった…」
ソルは急いで最深部へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
デコボコな僕ら
天渡清華
BL
スター文具入社2年目の宮本樹は、小柄・顔に自信がない・交際経験なしでコンプレックスだらけ。高身長・イケメン・実家がセレブ(?)でその上優しい同期の大沼清文に内定式で一目惚れしたが、コンプレックスゆえに仲のいい同期以上になれずにいた。
そんな2人がグズグズしながらもくっつくまでのお話です。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる