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25.テロリスト
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時間にしてどれくらいが経ったのか。
突然、引かれたドアに背を持っていかれ、また横に倒れこむ。
「んだ? またここにいたのかよ。ま、下は虫だらけだし、くせぇしな。──出ろ」
「んあ?」
俺は首根っこを掴まれ、無理やり引きずり出されると、そこへ立たされた。突然、明るい場所に連れ出され目を瞬かせる。
眩しい…。
蛍光灯の蒼白い光。そこに灰色のメッシュの男が立っている。
その背後にも数人ガラの悪い連中がいた。背後の奴らはみな銃を構えている。
メッシュは俺の足の拘束を外すと、小突くようにしてさきへと歩かせた。
「──行けよ。良かったな。お前は帰れるぞ」
「へ?」
「セルサスはボスの要求を飲んだらしいぜ? お前みたいなのでも、取り返したいらしいな?」
「まさか…」
俺は呆然として立ち尽くしたため、また背中を小突かれた。痛いな。
「さっさと歩け。まだ準備があるんだよ」
そう言って男にせっつかれながら向かわされたのは、やたら武器の並ぶ部屋だった。
壁という壁に小銃が並び、ライフル、散弾銃、機関銃…他にも手りゅう弾らしきものもある。
「中央に行け」
「押すなよ!」
俺は渋々言われた通り中央へと向かう。立ち止まったと同時、突然、灰色メッシュは俺の上着をまくり上げた。
「なにすんだ!」
「邪魔なんだよ。──おい、これ持ってろ」
言われて部下の一人が、俺の着ていたジャケットをメッシュ男の代わりに持ち上げる。
その間にメッシュは俺の背に何かをあてがってそれを腹ベルトのようなもので固定した。そして、上着を下ろさせる。
背中側にずしりとした重みが加わった。嫌な予感しかしない。
「これなら前からはわからねぇな」
「…何を仕掛けた?」
「爆薬に決まってんだろ?」
「帝国軍は、要求を飲んだんだろ?」
「まあな。けど、ボスは不服らしい。お前を取り戻した所で、セルサスもろともドカン! …ってな? なんでもセルサス直々に迎えに来るって話だ」
「──」
その言葉に俺の頭の中は真っ白になる。
冗談じゃない。
俺はセルサスの為に死ぬ覚悟だが、一緒に死にたいわけじゃない。俺の所為で巻き込まれて──なんて。
「ありえない…」
「こっちは命令通り動くだけ。ボスだって同じだろ。帝国のお偉いさんからの指図だ。セルサスを消せってな。そいつがいなくなりゃ、今まで通りってこと。──ま、運がなかったな?」
メッシュ男はそう言って俺のケツを叩いた。そうして俺の背後から覆いかぶさるようにすると、
「どうせ死ぬんだ…。最後にいい思いしとくか? 爆薬背負ってヤルなんて燃えるだろ?」
嫌な息を首筋に吹き付ける。背筋がぞっと震えた。
「お前が、だろ? 俺はごめん──こうむるっ!」
俺は思いっきり頭を後方に向けて振った。
ゴンと、勢いよく男の顎にヒットする。男は舌を噛んだようで、暫く背後にしゃがみこみ唸っていたが。
「──どうせ、死ぬくせにな」
「!」
男は口の端に滲んだ血を手の甲で拭うと、立ちあがって俺の前髪をまた掴み、頭突きを食らわせてきた。
目の前がくらくらして脳震盪を起こしかける。そのまま腹にも二発、三発と食らった。
頭を掴まれたままだから髪が衝撃で抜ける。額に血が垂れた。息もできないし、とにかく痛い。
「お前が選んだんだ。──死ぬ前に切り刻んでやる…」
メッシュ男は空恐ろしいことを、俺の耳元でささやいた。
◇
その後、俺は爆薬を外され、例の地下室に戻されると、パンイチで吊るされた。
そうして、アンコウのごとく切り刻まれたのだ。
前に見たことがある。吊るされたアンコウが綺麗に切り分けられていくのを。
すげーなーと観ていたが、まさか自身の身にそれが起こるとは。もちろん、肉はそがれなかったが。
切り刻みながらナイフを舐めたりするから、さらに気色悪い。もう変態だ。どっかいってる奴のやることだ。
耳や鼻を削がれなかっただけましだろう。
一番、痛みを感じる薄い表皮を切る。何度もえぐる。分かっているのだ。
えげつない。卑怯者。最低人間。
俺は心の中で悪態をつきまくることで、襲う痛みに耐えた。
「──っ!」
口は舌を噛まないよう、くつわを嚙まされている。永遠に続くかと思われた行為が終わったのはそれから三十分も経った頃か。
吊るされていた腕が解かれ、倒れこんだパンイチの俺に水がかけられ、それが終了の合図だった。
その上から服を着せられたおかげでジャケットの下は血だらけだ。白いTシャツが真っ赤に染まっている。血でじっとりして気持ち悪かった。
ご丁寧に脚の腱も切られている。これはもともとそうするつもりだったらしい。爆薬を背負って逃げられたら困るからだ。
酷いザマだな…。
こんな情けない姿を、セルサスの前にいっときでも晒すのは躊躇われるが。
俺は車いすに乗せられ、それごとトラックに乗せられると、指定の場所に向かった。空港だ。
トラックの車窓から見える景色は闇に包まれている。通り過ぎる街灯りを見つめながら、俺はこれからの計画を練っていた。
このまま、言いなりになるつもりはない。
空港に到着し、トラックから降ろされる。車椅子を押すのはメッシュ男だった。
履いたブーツの中に血が滲み、重く感じる。最後に水をぶっかけられたお陰で頭はずぶぬれたままだ。したたる水に血が混じる。
どうせ死ぬからと手当の一つもしてくれなかったのだ。
ま、そりゃそうか。
椅子を押されながら背後についたメッシュ男が、荒い呼吸を繰り返す俺に、ニヤつきながら耳元へ顔を寄せ。
「──どうだ? 後悔したろ?」
そう囁く。俺は男を睨みつけると。
「お前にやられるよりずっとましだ。こんなの屁でもねぇ…」
ふん。例え全身がずきずき痛んでいても、血を垂れ流していても、こんな奴に手を出されるよりずっとましだ。
「──言ってろ。直に終わりだ」
男の手が切られた俺の脇腹を乱暴に掴んでくる。痛みに身がすくんだ。
「っ…!」
「いいざまだ…」
男の一方の手には爆弾のスイッチが握られている。俺はそれを見て身体を固くした。
とにかく、しくじる訳にはいかない。俺自身をセルサスに近づかせるわけにはいかないのだ。
俺は引き渡し場所の滑走路中央へと連れて行かれた。遠くには軍の飛空艇やヘリが待機している。
どうやらテロリストのボスは、セルサスによって捕えられた帝国軍ラファガの元秘書の身柄も要求したらしい。
テロリストのボスの身の安全と、この秘書と俺とを交換すること。それが条件だった。
よくこの条件をのんだと思う。どう考えても、帝国の将来と天秤にかけて、俺の命が重いとは思わない。
なのに──。
俺は視線の先に、白いスーツを見た。それは本当に久しぶりで。
風になびく銀糸。薄い紫の瞳。もう少し近づけばそれがはっきりと見えるはず。
──けれど。
俺はくっと手のひらを握り締めた。
覚悟はとうにできている。
セルサスには悪いが俺はまた目の前で死ぬことになるだろう。今以上にとんでもない醜態をさらすことになる。
できればすぐに立ち直って欲しい。──というか、もうそう言う心配は必要ないのかも知れないが。
俺は見限られた…。
迎えには来たがそれは形だけで。もしかしたら、ここでテロリストのボス、秘書諸とも処分するのかもしれない。
そちらの選択の方が当然に思えた。ボスのほうだって、俺に爆弾を仕掛けてセルサスもろとも吹っ飛ばそうとしているのだ。
だとしても、それでいい──。
俺はセルサスの為に役に立ちたいだけなのだ。
分はセルサスにある。なんせ、この爆弾は俺に巻き付いているのだから。
スイッチを押せば、同時に導火線に火花が散って引火する。
ここでこいつらだけでも一掃できれば、セルサスはどんなに助かるか。帝国側の思惑など、もういいのだ。
セルサス様のためだけに、俺は生きる──。
俺が抵抗することなど計算済みだろうが、逃げはしない。
俺はメッシュ男の右手だけを注意して見つめた。
◇
「ようこそ。──セルサス様」
テロリストのボスは言いながら僅かに進み出た。
ボスは前の掃討作戦で脇腹と足を討たれ、瀕死だったが助かったらしい。部下を盾にして逃げたのだとか。
だが、さすがに完治しなかったと見えて足を引きずっている。その背後に俺とメッシュ男が控える形だ。セルサスとは五、六メートルほどか。
「セトは?」
セルサスが背後をうかがう。
「ここにいますよ」
ボスは少し横にずれて俺が見えるようにしてみせた。セルサスはボスの背後に、車いすに乗る俺の姿を認めて目を細める。
「で、彼はいますかな?」
ボスの言葉に背後に立つエルに指示して、恰幅のいい中年男を連れ出した。
「こいつだろう?」
「確かに。これで、すべてはなかったことに──」
ボスは微笑む。中年秘書もほっとしたように進み出た。メッシュに車椅子の背を押される。
「バカなことは考えんなよ」
「……」
視線の先にはセルサス自らが進み出ていた。
俺の口にはくつわが嵌められいるため、この状態を告げることはできない。セルサスが俺を迎えに来ればジ・エンドとなる──。
けれど、俺は逃げるわけじゃない。
手も足も拘束は解かれていた。走れるわけがないからだ。
俺は元秘書とすれ違いざま、車いすの車輪をぐっと掴んで動きを阻んだ。摩擦で傷んだが気にしない。
「──おい」
メッシュ男が訝しむ。数メートル先にいるセルサスも同じだ。
そのセルサスの背後にはエルと、アイレが立っている。二人の距離はセルサスに近い。何かあってもすぐに引き留めるだろう。
その姿をみとめ、俺はすうっと息を吸い込んだ。口を塞がれているから鼻で、だ。
俺はおもむろに車いすから立ち上がって、背後にいたメッシュ男に飛びかかったのだ。
「──っさま!」
まさか立ち上がれるとは思っていなかったのだろう。なめんなよ。
俺とメッシュはもんどりうって地面に転がった。そこで俺のジャケットが上手く捲れる。
これは想定外だったが、それを見たエルが直ぐにセルサスを引き留めた。
「セルサス様! だめです!」
わずかだが背に巻かれた爆薬が目に入ったはず。
「セト!」
焦ったセルサスの声。
「だめです! 危ない──」
エルが直ぐ様、セルサスを可能な限り遠ざけるのが目の端に映った。そうだろうとも。エルならずともそうする。
俺は首を絞められもがくメッシュ男を睨みつけた後、右手を見た。そこにはスイッチが握られている。
あれを押せば──。
手を伸ばしメッシュ男の手ごと、スイッチを握り込んだ。
突然、引かれたドアに背を持っていかれ、また横に倒れこむ。
「んだ? またここにいたのかよ。ま、下は虫だらけだし、くせぇしな。──出ろ」
「んあ?」
俺は首根っこを掴まれ、無理やり引きずり出されると、そこへ立たされた。突然、明るい場所に連れ出され目を瞬かせる。
眩しい…。
蛍光灯の蒼白い光。そこに灰色のメッシュの男が立っている。
その背後にも数人ガラの悪い連中がいた。背後の奴らはみな銃を構えている。
メッシュは俺の足の拘束を外すと、小突くようにしてさきへと歩かせた。
「──行けよ。良かったな。お前は帰れるぞ」
「へ?」
「セルサスはボスの要求を飲んだらしいぜ? お前みたいなのでも、取り返したいらしいな?」
「まさか…」
俺は呆然として立ち尽くしたため、また背中を小突かれた。痛いな。
「さっさと歩け。まだ準備があるんだよ」
そう言って男にせっつかれながら向かわされたのは、やたら武器の並ぶ部屋だった。
壁という壁に小銃が並び、ライフル、散弾銃、機関銃…他にも手りゅう弾らしきものもある。
「中央に行け」
「押すなよ!」
俺は渋々言われた通り中央へと向かう。立ち止まったと同時、突然、灰色メッシュは俺の上着をまくり上げた。
「なにすんだ!」
「邪魔なんだよ。──おい、これ持ってろ」
言われて部下の一人が、俺の着ていたジャケットをメッシュ男の代わりに持ち上げる。
その間にメッシュは俺の背に何かをあてがってそれを腹ベルトのようなもので固定した。そして、上着を下ろさせる。
背中側にずしりとした重みが加わった。嫌な予感しかしない。
「これなら前からはわからねぇな」
「…何を仕掛けた?」
「爆薬に決まってんだろ?」
「帝国軍は、要求を飲んだんだろ?」
「まあな。けど、ボスは不服らしい。お前を取り戻した所で、セルサスもろともドカン! …ってな? なんでもセルサス直々に迎えに来るって話だ」
「──」
その言葉に俺の頭の中は真っ白になる。
冗談じゃない。
俺はセルサスの為に死ぬ覚悟だが、一緒に死にたいわけじゃない。俺の所為で巻き込まれて──なんて。
「ありえない…」
「こっちは命令通り動くだけ。ボスだって同じだろ。帝国のお偉いさんからの指図だ。セルサスを消せってな。そいつがいなくなりゃ、今まで通りってこと。──ま、運がなかったな?」
メッシュ男はそう言って俺のケツを叩いた。そうして俺の背後から覆いかぶさるようにすると、
「どうせ死ぬんだ…。最後にいい思いしとくか? 爆薬背負ってヤルなんて燃えるだろ?」
嫌な息を首筋に吹き付ける。背筋がぞっと震えた。
「お前が、だろ? 俺はごめん──こうむるっ!」
俺は思いっきり頭を後方に向けて振った。
ゴンと、勢いよく男の顎にヒットする。男は舌を噛んだようで、暫く背後にしゃがみこみ唸っていたが。
「──どうせ、死ぬくせにな」
「!」
男は口の端に滲んだ血を手の甲で拭うと、立ちあがって俺の前髪をまた掴み、頭突きを食らわせてきた。
目の前がくらくらして脳震盪を起こしかける。そのまま腹にも二発、三発と食らった。
頭を掴まれたままだから髪が衝撃で抜ける。額に血が垂れた。息もできないし、とにかく痛い。
「お前が選んだんだ。──死ぬ前に切り刻んでやる…」
メッシュ男は空恐ろしいことを、俺の耳元でささやいた。
◇
その後、俺は爆薬を外され、例の地下室に戻されると、パンイチで吊るされた。
そうして、アンコウのごとく切り刻まれたのだ。
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すげーなーと観ていたが、まさか自身の身にそれが起こるとは。もちろん、肉はそがれなかったが。
切り刻みながらナイフを舐めたりするから、さらに気色悪い。もう変態だ。どっかいってる奴のやることだ。
耳や鼻を削がれなかっただけましだろう。
一番、痛みを感じる薄い表皮を切る。何度もえぐる。分かっているのだ。
えげつない。卑怯者。最低人間。
俺は心の中で悪態をつきまくることで、襲う痛みに耐えた。
「──っ!」
口は舌を噛まないよう、くつわを嚙まされている。永遠に続くかと思われた行為が終わったのはそれから三十分も経った頃か。
吊るされていた腕が解かれ、倒れこんだパンイチの俺に水がかけられ、それが終了の合図だった。
その上から服を着せられたおかげでジャケットの下は血だらけだ。白いTシャツが真っ赤に染まっている。血でじっとりして気持ち悪かった。
ご丁寧に脚の腱も切られている。これはもともとそうするつもりだったらしい。爆薬を背負って逃げられたら困るからだ。
酷いザマだな…。
こんな情けない姿を、セルサスの前にいっときでも晒すのは躊躇われるが。
俺は車いすに乗せられ、それごとトラックに乗せられると、指定の場所に向かった。空港だ。
トラックの車窓から見える景色は闇に包まれている。通り過ぎる街灯りを見つめながら、俺はこれからの計画を練っていた。
このまま、言いなりになるつもりはない。
空港に到着し、トラックから降ろされる。車椅子を押すのはメッシュ男だった。
履いたブーツの中に血が滲み、重く感じる。最後に水をぶっかけられたお陰で頭はずぶぬれたままだ。したたる水に血が混じる。
どうせ死ぬからと手当の一つもしてくれなかったのだ。
ま、そりゃそうか。
椅子を押されながら背後についたメッシュ男が、荒い呼吸を繰り返す俺に、ニヤつきながら耳元へ顔を寄せ。
「──どうだ? 後悔したろ?」
そう囁く。俺は男を睨みつけると。
「お前にやられるよりずっとましだ。こんなの屁でもねぇ…」
ふん。例え全身がずきずき痛んでいても、血を垂れ流していても、こんな奴に手を出されるよりずっとましだ。
「──言ってろ。直に終わりだ」
男の手が切られた俺の脇腹を乱暴に掴んでくる。痛みに身がすくんだ。
「っ…!」
「いいざまだ…」
男の一方の手には爆弾のスイッチが握られている。俺はそれを見て身体を固くした。
とにかく、しくじる訳にはいかない。俺自身をセルサスに近づかせるわけにはいかないのだ。
俺は引き渡し場所の滑走路中央へと連れて行かれた。遠くには軍の飛空艇やヘリが待機している。
どうやらテロリストのボスは、セルサスによって捕えられた帝国軍ラファガの元秘書の身柄も要求したらしい。
テロリストのボスの身の安全と、この秘書と俺とを交換すること。それが条件だった。
よくこの条件をのんだと思う。どう考えても、帝国の将来と天秤にかけて、俺の命が重いとは思わない。
なのに──。
俺は視線の先に、白いスーツを見た。それは本当に久しぶりで。
風になびく銀糸。薄い紫の瞳。もう少し近づけばそれがはっきりと見えるはず。
──けれど。
俺はくっと手のひらを握り締めた。
覚悟はとうにできている。
セルサスには悪いが俺はまた目の前で死ぬことになるだろう。今以上にとんでもない醜態をさらすことになる。
できればすぐに立ち直って欲しい。──というか、もうそう言う心配は必要ないのかも知れないが。
俺は見限られた…。
迎えには来たがそれは形だけで。もしかしたら、ここでテロリストのボス、秘書諸とも処分するのかもしれない。
そちらの選択の方が当然に思えた。ボスのほうだって、俺に爆弾を仕掛けてセルサスもろとも吹っ飛ばそうとしているのだ。
だとしても、それでいい──。
俺はセルサスの為に役に立ちたいだけなのだ。
分はセルサスにある。なんせ、この爆弾は俺に巻き付いているのだから。
スイッチを押せば、同時に導火線に火花が散って引火する。
ここでこいつらだけでも一掃できれば、セルサスはどんなに助かるか。帝国側の思惑など、もういいのだ。
セルサス様のためだけに、俺は生きる──。
俺が抵抗することなど計算済みだろうが、逃げはしない。
俺はメッシュ男の右手だけを注意して見つめた。
◇
「ようこそ。──セルサス様」
テロリストのボスは言いながら僅かに進み出た。
ボスは前の掃討作戦で脇腹と足を討たれ、瀕死だったが助かったらしい。部下を盾にして逃げたのだとか。
だが、さすがに完治しなかったと見えて足を引きずっている。その背後に俺とメッシュ男が控える形だ。セルサスとは五、六メートルほどか。
「セトは?」
セルサスが背後をうかがう。
「ここにいますよ」
ボスは少し横にずれて俺が見えるようにしてみせた。セルサスはボスの背後に、車いすに乗る俺の姿を認めて目を細める。
「で、彼はいますかな?」
ボスの言葉に背後に立つエルに指示して、恰幅のいい中年男を連れ出した。
「こいつだろう?」
「確かに。これで、すべてはなかったことに──」
ボスは微笑む。中年秘書もほっとしたように進み出た。メッシュに車椅子の背を押される。
「バカなことは考えんなよ」
「……」
視線の先にはセルサス自らが進み出ていた。
俺の口にはくつわが嵌められいるため、この状態を告げることはできない。セルサスが俺を迎えに来ればジ・エンドとなる──。
けれど、俺は逃げるわけじゃない。
手も足も拘束は解かれていた。走れるわけがないからだ。
俺は元秘書とすれ違いざま、車いすの車輪をぐっと掴んで動きを阻んだ。摩擦で傷んだが気にしない。
「──おい」
メッシュ男が訝しむ。数メートル先にいるセルサスも同じだ。
そのセルサスの背後にはエルと、アイレが立っている。二人の距離はセルサスに近い。何かあってもすぐに引き留めるだろう。
その姿をみとめ、俺はすうっと息を吸い込んだ。口を塞がれているから鼻で、だ。
俺はおもむろに車いすから立ち上がって、背後にいたメッシュ男に飛びかかったのだ。
「──っさま!」
まさか立ち上がれるとは思っていなかったのだろう。なめんなよ。
俺とメッシュはもんどりうって地面に転がった。そこで俺のジャケットが上手く捲れる。
これは想定外だったが、それを見たエルが直ぐにセルサスを引き留めた。
「セルサス様! だめです!」
わずかだが背に巻かれた爆薬が目に入ったはず。
「セト!」
焦ったセルサスの声。
「だめです! 危ない──」
エルが直ぐ様、セルサスを可能な限り遠ざけるのが目の端に映った。そうだろうとも。エルならずともそうする。
俺は首を絞められもがくメッシュ男を睨みつけた後、右手を見た。そこにはスイッチが握られている。
あれを押せば──。
手を伸ばしメッシュ男の手ごと、スイッチを握り込んだ。
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