その先の景色を僕は知らない

マン太

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12.証明

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 その後、連れていかれた警察署に兄律が迎えに来た。警察に帰っていいと言われたからだ。時刻は夜十時を回る。
 俺は個室で聞き取り調査を受け、千尋との関係、今日の行動など、その他諸々を聞かれた。
 とにかく、あれを渡したのは銀髪の男で、千尋が初めから持っていたものではないと話したけれど、それをどこまで汲んでくれるのかは分からない。
「拓人…。大丈夫か?」
 警察署の待合の椅子に座っていると、迎えに来た律が声をかけてきた。俺はうなだれたまま。
「…俺はいい。けど、千尋はどうなるの?」
「俺は素人だから分からない。けど、関係ないって事が証明されないと…。持ってたってだけでも罪になる。何らかの処分はあるだろうな…」
「千尋は何もしてない…! 本当なんだ。あいつらが勝手に突っかかってきて、ポケットに押し込んできて…」
「嵌められたってことか」
「律は…信じてくれるの?」
 すると律は肩をすくめてみせ。
「あいつとの付き合いは長い。馬鹿やったのはあの頃だけで、その後の千尋はまっとうだ。仕事も恋も順調。やばい薬なんて手をだすはずもない。けど、それを証明できないとな…」
 律は腕を組む。
「千尋は今、どうしてるの?」
「今は取り調べ中だ」
 俺の問いに答えたのは兄律ではなく、背後から聞こえてきた大人の声だった。
 聞き覚えのある声。振り返れば、真砂が立っていた。Tシャツにジーンズ、グレーのジャケットのラフな姿だが眼光は鋭い。
「当分俺たちは会えないが、弁護士は会える」
「真砂さん…」
「俺が連絡した」
 律の言葉に真砂は頷くと。
「あの後、警察からも連絡がきてな。もう弁護士は頼んである。前も千尋の件で頼んだ奴だ。俺の友だちでな。頼りになる男だ。直にここへも来るだろう。…少し話そうか? ここから遠くない所がいいな」
 それじゃあと、警察署の向かいにあったファミレスに入った。

 夕飯時はとっくに過ぎ、人はそう多くない。
 人の余り通らない、奥まった席を選ぶと、真砂の前に律と拓人は座る。ドリンクバーのみ頼むと、再び拓人に目をやり。
「弁護士の面会が終われば連絡をもらう予定でな。警察にいる間に千尋が無関係だと証明出来ればいいが…」
「千尋は何もやってないんです!」
 眞砂は頷くと、真剣な眼差しを向けて来た。
「警察に話したことを、もう一度、俺に話してくれるか?」
「拓人」
 律がそっと背中を押し促す。俺は頷くと。
「はい…」
 再び、漏れのないよう同じことを真砂に伝える。真砂はすべてを聞き終えると唸りながら腕を組む。
「あいつらがやりそうなことだな…」
 千尋に絡んできた銀髪の男を中心とした連中を眞砂は知っている。面倒も見てきたはずだ。
「どうにかならないんでしょうか…?」
 俺の問いに眞砂は大きな手のひらでぐるりと頭を撫で上げると。
「あいつらを捕まえたとして、素直に白状するかどうか。次何かあればそれなりに重い刑罰になる。分かっている分、逃げるだろうな。証拠があればいいが…。あのあたりに防犯カメラでもあれば参考にはなるだろうな。その辺は警官も探っているだろうが…」
 俺は恐る恐る尋ねる。
「千尋は…このあと、どうなるんですか?」
「嫌疑が晴れて釈放されなければ、検察に送致されて拘留される事になるだろう。その後、未成年は家庭裁判所に送られる。そこで審判を受けて処分が決まるが…。内容から言って、保護観察処分が妥当かも知れないが、もし君の情報が正しいと分かれば不処分もあり得るな。だが前歴もある。そこが気になるが──」
「千尋は、何もやってない…。なのに…」
 まるで犯人扱いだ。
 ぎゅっと手を握り締め、今までの千尋とのやり取りを思い出す。
 夕食までずっと幸せだった。それがたった一瞬の事で全て崩れ去ってしまった。
 当たり前にあると思った幸せが消えようとしている。

 どうしたら千尋を救えるのだろう。どうしたら、無罪だと伝えられるのだろう。

 懸命に考えるが答えは浮かばない。そんな俺の様子を見ていた真砂は笑みを浮かべると宥める様に。
「──しかしそうなる前に何とかしよう。千尋は素行もいい。中学のあの時依頼、警察沙汰も起こしていないしな。楽観的なことは言えないが、なんとかしよう。──やっと幸せを掴みかけたんだ。それを失わせはしたくない。俺ができるのはそれくらいだ。あとは──」
 真砂がじっとこちらを見つめてくる。
「?」
「千尋は君がいるからきっとこの状況も耐えられる。差し入れは制限はあるができるだろう。何か渡したいものがあれば用意しておいてくれ」
「はい…。あの、真砂さん」
 俺は席を立つと。
「千尋をお願いしますっ」
 腰を折って深く頭を下げた。
 俺に出来るのはこんな事くらいだ。
 実際にはなにもできない。家族でもなければ関係者でもない。会うことも出来ないのだ。
 真砂は笑みを浮かべると。
「任せておいてくれ」
 そう口にした。
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