Innocent World

マン太

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第五章 再起

第二十五話 守りの力

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 アウィスによれば、この力は守りつつも相手を弾く力があるのだという。
 相手が魔に属するものならば、もっと威力を増すだろうと語った。
「聖の属性だね。それもとても強い…。私やアステールが魔に属するものだったら、身体の内部や精神にもダメージを与えただろう。この力を持つ者は珍しい。…と、いうか、見たのは初めてかも。過去の聖人が同じ力を宿していたと聞いたことはあったけれど、君がそれだったとはね」
 ソアレは考え込む様に俯きながら。
「光の神子…。過去に神と対話した人物で、王家の先祖に当たると言っていた。…多分、その影響だと思う」
「確かに君は光に属するね。…その髪だけが闇に属しているのがとても不思議だけれど。でも、君の中に闇はない…。黒髪は単なる遺伝かな?」
「父も黒髪だった。祖父はどうだったか…」
 するとアステールがその後を引き取って。
「レーゲン様の前の王も黒髪でした。それ以前も。遺伝的なものでしょう」
 黒髪だからどうと言う事はない。父レーゲンからも髪については特に聞いてはいなかった。
「まあ、今回の戦いには関係ないか…。さて、力の使い方を覚えたなら、今度は防いで見ようか? ここだと危ないから、外に出よう」
「…ああ?」
 アウィスはソアレの手を取って、軽くサンダルを引っ掛けると、さっさと出ていこうとする。ソアレは慌てて靴を履き直した。
 そのあとに、アステール、ブリエも続く。
 行き違う人々が、アウィスとその客人、ソアレたちに向けて笑顔を送った。
「いったい何処へ?」
「森の中に開けた場所がある。そこならちょっとやそっと、魔法が暴発してもあらぬ方向へ跳んでも誰も傷つかない。安心して訓練できるよ?」
 滑る様に歩きながら、迷いなく森の中へと進んでいく。
 身にまとう長衣が白くはためき、金糸の髪が緩く流れる様は、ともすると森に住む精霊にも見えた。まるで、どこか違う世界にでも迷い込んだ様。
 不安を覚えて後ろを振り返ると、アステールが間をおかずついてきている。ブリエも同じだった。
 アステールはソアレの不安を読み取ったのか、僅かに笑みを浮かべて頷いて見せる。ついているから大丈夫だと、そうその目が物語っていた。
 ホッとして、また前を行くアウィスについていくと、漸く開けた場所へと出た。
 そこだけ切り開いた様に木々がなく、代わりに丈の短い草花が日の光を目一杯浴びていた。
「ここなら、大丈夫…。さあ、早速始めようか」
 ソアレの手をようやく離し、自身はそこからもう少し歩き数十メートル程離れた場所まで来ると振り返った。
 アステールとブリエは少し離れた場所から見守っている。それでも、いつでもすぐに駆けつけられる距離だ。
「私がここから君へ魔法を放つ。私の手が光ったと同時、さっきと同じ事を繰り返して。…出きるかな?」
「わかった…」
 緊張した面持ちで、先ほどと同じように、相手に向けて手をかざす。
「できるだけ、力を入れすぎないように。大きく息を吐き出して…」
 ソアレは言われた通り、息を吐き深呼吸すると、アウィスの同じく掲げられた手に目を向ける。
 そこにはいつか見た、フォンセと同じ、眩いばかりの青白い光が現れた。
「さあ、行くよ──」
「……!」
 声と同時、その光が放たれる。ソアレは軽く翳した手から、先ほどと同じ様に力を送り込む。
 と、空中でバチリ! と大きく弾ける音がして、青白い光が二人の間で留まった。
「っ──!」
 しかし、まだ力が弱いのか徐々にアウィスの放った光の塊がソアレの側に迫る。
 強さを増すそれは、威力を弱めているのだろうが、当たれば只では済まされない。下手をすれば酷い火傷を負うだろう。
 その間にもジリジリとソアレ側へ押され、見えない壁が崩れ出す。とうとうその均衡が破れ、光がどっとソアレの方へ流れ込んだ。
「ソアレ…!」
 堪らずアステールが飛び出し、ソアレを庇うように抱え込み光との間に入った。

 アステ…!

 このままではアステールが怪我を負う。
 ぎゅっとその背を掴んだ所で、大きな拍手が聞こえ我に返った。
 顔を上げれば、アウィスがこちらに笑顔を向けて手を叩いている。
「すごいね! 完璧だよ、ソアレ。君その力ではここにいる全員を守った…。瞬時にそんな事が出きるとは…。予想以上だね。全力を出した甲斐があったよ」
「…全力?」
 その言葉にアステールがぴくりと反応を示し、ソアレを腕に抱いたまま、アウィスを振り返った。
「そうだよ。でないと本気にならないでしょ? もし、防げなかったら今頃、君もソアレも丸焦げ──」
 次の瞬間、その喉元にアステールの握る短剣の鋭い切っ先が押し付けられていた。
「やだな──。これは訓練だよ? そんな真面目にならないでもらいたいな。私は剣術はさっぱりでね」
「訓練だろうと、ソアレを傷つける事は許さない…」
「アステ! もういい…。俺はなんともないし、これは訓練なんだ。それにこれを防げないようじゃ、闇の神子にも対抗出来ない…。怪我を負ったとしても、自業自得だ」
「……」
 ソアレに言われ、仕方なくアステールは短剣を納めた。アウィスはホッと息をつくと。
「やれやれ。物騒だね? 君の周囲の人たちは」
 ちらと視線を向けた先には同じく銃を構えたブリエがいた。
「…あなたが本気であろうとなかろうと、王子を傷つけた時点で命はありません」
「ブリエ…!」
 咎める様に声をあげると、ようやく構えを解く。アウィスは肩をすくめ。
「君はみんなに愛されているようだね?」
 ソアレはアステールの肩を宥めるように叩いた後、アウィスに向かい。
「それで…、俺は本当に全員を守れたのか?」
「そうだよ。…これは凄いことだ。こう、薄いヴェールの様な膜が覆った感じだね? でも弱くはない。なかなか出来る事ではないよ…」
 ソアレはそこで少しホッとして表情を緩める。
「これで少しは力になればいいんだけど…」
「これだけ出来れば十分だ。後はもう少し慣れることだね?」
「…後少し、訓練を頼んでいいか?」
「ソアレ…!」
 これ以上、危険な目にはあわせられないと、アステールが眉をひそめ抗議の声を上げるが。
「アステ。大丈夫だ。さっきも見ただろ? それに、これくらい普通に出来ないと、何も守れない…」
 ソアレの真剣な眼差しに押し黙った後。
「…わかった。だが、少しでも怪我を負うようならすぐに中止だ」
「それでいい。…アウィス、いいか?」
「私はいいよ。ただ、かすり傷程度で命を取られるのは勘弁だけどね?」
 ソアレはアステールに目を向け了解を得るとブリエにも目を向け。
「ブリエも。いいか?」
「…分かりました」
 ブリエは渋々頷く。
 それで、再び訓練が開始された。
 その後、怪我する事もなく訓練が続き、何とか形になった所でその日の訓練を終えた。
「さて、そろそろ今日は終わりだね? 疲れたでしょ」
 木々の間に覗く空には、天高く太陽が昇っている。既に昼を過ぎていた。
 流石に疲れた様で、額に汗が滲む。
 アウィスはソアレの上気した頬に触れてきた。
「ん。でも随分、感じが掴めた…。時間のある時でいい。また頼めるか?」
「いつでも。また連絡をくれれば、君の為に空けておくよ」
 ソアレを見つめてその手を離さないアウィスに、アステールは幾分急かすようにソアレの背に触れ促す。
「…ソアレ。もう帰る時間だ」
「あ? わかった…。じゃあ、アウィス、また近いうちに」
 アウィスはニコリと笑って、三人を見送ってくれた。

+++

 アウィスはその背を見送った後、腕を組み深く息を吐き出す。木々が風に揺れさざめいた。
「…かなり、いい線行くだろうね」
 魔法を繰り出す度、ソアレは自分以外の三人を守っていた。殆ど無意識に近いだろう。
 ただ、守ろうと思っただけで、それが発動するのだ。
 
 まだ慣れていないから、余計な力みが入っていた様だけれど…。

 その疲れを、先程触れた際にそっと癒して置いた。言えば遠慮するだろうと思ったからだ。

 しかし、あの力──。

 もし、これが実際の戦いになれば、周囲にいる全ての者を守るのではないか。それほど強大な力だった。

 普通じゃない──。

 それは、耳にしたフォンセの力と同じだ。やはり、過去の者の力を受け継いだと言うことか。

 しかし、ソアレは光の神子だとして。フォンセはなぜその力を持っている?

 母親の血ではない。ソアレと同じ光の神子の家系でもない。
 少しだけブリエに聞いたが、ソアレの見る過去の記憶に出てくるのだと言う。

 ソアレと同質のものなのだろうが──。

「やはり、一度会っておきたいな」
 アウィスはひとり呟いた。
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