Innocent World

マン太

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第七章 永遠

第三十九話 いつまでも

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 その場に残されたのは、ソアレのみではなかった。
 テネーブルの身体はさすがに塵となって消えた様だが、ヴェントは無傷でそこに横たわっていた。
 意識はないが、すっかり人の姿に戻って、モンスターであった頃の欠片もなく。腕も復活したままだった。
 皆、その無事な姿に一様に驚き、喜んだ。
 グランツに至っては、目に涙さえ浮かべて。

 そして、もう一人──。


「僕は…生きていていいのかな」
 美しかったプラチナブロンドをすっかり白髪へと変え、ベッドに横たわったフォンセは、窓の外へ目を向け呟く。
 髪の色も去ることながら、眉も睫毛も、目の色までもが白銀に変化していた。

 あのまま、消えるはずだった──。

 しかし、同じく光の消え去った城跡で、塵となることもなく、生きて横たわっていた。
 その場に居合わせた者は皆、一様に理解できないと言った表情を浮かべ。生還を喜ぶ者はいなかった。
 ただ、意識を取り戻したソアレは静かな眼差しでフォンセを見つめたあと、何も語らずそのまま王宮へと運ばせた。
 その後、王家の管理する別宅の一つへと移され今に至る。
 城内にある建物ではあるが、滅多に人は訪れない外れの場所だ。木々に囲まれ、まるで山奥に住んでいる様な環境。
 ソアレは一度死に蘇ったため、フォンセとの魂の繋がりはなくなったと考えられたが、それを確認する術はない。そのため、安易にフォンセの命を奪うことはできなかった。
 いずれかの処分を望む声は多かったが、彼が闇の神子だった事実を知るものは僅か。
 せめて罪を償う意味で、城内での幽閉という形となった。表向きは重傷を負った為、城で静養するとされたが。
 フォンセのもつ能力は、目覚めた時には体力と共に全て失われていた。
 後日、魔法を使おうと試みたが、その力さえ無くなっていた。ただの人にもどったのだ。
 すっかり闇と同化していたフォンセが消えなかった理由は誰にもわからない。
 今は亡き『彼ら』の思惑があったのかもしれないが、それはソアレ達も預かり知らぬ事だった。

 開け放たれた窓からは、春先の柔らかい風が入り込んできていた。鳥が窓辺に降り立ち、置かれたパン屑を啄んでいる。
 カルドは他の病人と何ら変わらない態度で、側のサイドボードに水差しを置くと、窓の外に目を向けた。
「その問いに俺は答えられませんけど…。とりあえず、アステールは何としてもあなたを生かすでしょうね? 本当にあなたとソアレの繋がりが断ち切られたと確認出来ませんから」
「…繋がりは失われた。だが、もし失われていなかったとしても、そのつもりはない。ソアレよりも一分一秒でも長く生きるつもりだ…」
 力を失くした今、ソアレと自分との繋がりを確認する術はない。

 しかし、切れたと思っている…。

 偶然できた繋がりだった。
 これで、ソアレと離れる事はないのだと、どれ程喜んだことか。

 それも、終わった──。

 だが、繋がりが残されていたとしても、今さらソアレを連れていく気にはならなかった。
 自分の思うような愛をソアレから受けることはなかったが、愛することはできる。
 それに、ソアレは生き残った自分を処分することなく、信頼できる者へと託した。
 それは、ソアレなりの思いやりだった。
 すべて失くしたと思った時、その思いに気がついたのだ。
 自分の望む形でなくとも、ソアレは見放してはいない。
 これからは、求めるのではなく、与えよう。
 そう思った。

 例え本人に届かなくとも──。 

 それが、せめてもの償いだった。
 憮然と答えるフォンセに、カルドはそれは良かったとひとしきり笑った後。
「でもきっと、生きていればいつかその答えがわかるかもしれませんね…。さて。今日はいい天気になりましたね? そろそろ、外に出てみませんか? と言っても、ここの敷地内からは出られませんが…」
 カルドは肩をすくめて見せる。
 フォンセはその答えに怪訝な表情を作ると。
「しかし、君もたいがいだな? 僕はソアレや君の兄を本気で殺そうとしたんだぞ? よく平気で面倒など看られるな? それに、この手はすでに消せない血に染まっている…。なかった事にはできない。…そんな人間によく笑いかけられるな」
 すると、カルドは至極真面目な顔につきになって、フォンセの顔を覗き込むと。
「俺はソアレからあなたの監視と看病を頼まれました。ソアレの言うことは絶対です。…でも、頼まれて嫌々やっているわけじゃないですよ? 俺はあなたの悪業を間近で見ていませんでしたから。ただの助けが必要なか弱い病人にしか見えません」
 その言葉にフォンセは絶句し。
「人が良すぎるな…。君は、バカか?」
 カルドは笑うと。
「なんと言われても構いませんよ。今のあなたでいる限り、ソアレはあなたをどうにかすることはないと思います。それに、罪は償えばいい。時間がかかっても…。てか、ソアレもそれどころじゃないですから」
 すると、フォンセはふんと鼻を鳴らすと。
「あの男と二人切りで住んでいると聞いたが。あんな、暑苦しい男の何処が良かったのか…」
「だからでしょ? あれくらいじゃないと、ソアレは気付かないですもん」
 フォンセはふと視線を窓の向こうへと向けて。
「だろうな…」
 小さくため息をもらすが、その表情には穏やかな色が浮かんでいた。

+++

「ここか?」
「そのようだな」
 ソアレは代々の王族の墳墓の傍らに、小さく盛られた土の山に目を向けた。母、エストレアの眠る傍らだ。
 戦いが終ったら、一番始めに訪れたいと思っていた場所。テネーブルとの戦いに敗れたあと、その亡骸を城に残った家臣が手厚く葬ったと聞かされていた。
 時間がなく、小さな塚しか作ることが出来なかったと、悔しそうに語っていたと言う。
 ずっと、気に掛かっていた。
 そこには墓標の代わりに一振りの剣がさしてある。
 忘れるはずもないその剣。王家の紋章が柄についたそれは──。
親父おやじから贈られた剣だ。…最後に持っていたのかな?」
 突き立てられたそれは、レーゲンから成人の証にと譲り受けた剣だった。
 その下に、父は眠る。
 あの日。王都から逃げた時、部屋に置いてきたものだ。
「ご自身の剣は、部屋に置かれたままだったそうだ。ソアレの部屋から持っていったのだろう。その後、テネーブル様と対峙なされた…」
 それをどんな思いで手にしていたのかと思うと、やるせなくなったが。
親父おやじには逃げる力はあったはずだ。…なのに…」
 背にアステールが手を添える。
「足止めの為かもしれないな。ご自身が逃げれば、テネーブルは城を出て追ってきただろう。そうなれば街もさらに混乱に陥る…。犠牲者も多く出ただろう」
 最後まで、王として生きたレーゲン。
 ソアレ自身も、自らを犠牲にして、皆を守ろうとした。

 でももう、それを終わらせてもいいだろうか?

 アステールとの間に残された時間が、あとどれ程あるのか分からない。
 もう、後悔はしたくなかった。
 ソアレはアステールの胸に背を預けると。
「…なあ、アステ。ひとつだけ、我儘を言っていいか? これきりだ…」
「なんだ?」
 ソアレはふっと笑んで、振り仰ぐとアステールの首を引き寄せ、その耳元で何事かを囁いた。
 アステールの目は驚きに見開かれたが、直ぐに笑みをかたどる。
 そうして、ソアレの額にキスが落とされた。
 そんな睦まじい二人を見守る様に、二羽の蝶がその傍らを絡み合うように舞った。

+++

 それから三ヶ月後。
「ヴェント、もう体調はいいのか?」
 ソアレは車に荷物を積み込んでいたヴェントに声をかける。
 ヴェントは最後の荷物を放り込むと、後部座席のハッチを閉じてから。
「どこもなんともねぇな。てか、お前らをいつまでも待たせるわけにもいかねぇしな」
「なんだよ。まだ本調子じゃないって言うなら──」
 すると、ヴェントがその額を指先で弾く。
「って!」
 痛みに額を押さえると。
「普通の人並みには戻ってるってことだ。ただ前の俺ほどには戻ってねぇってだけだからな。普段の生活にはなんの支障もねぇ」
「…分かった。けど」
「なんだ?」
 まだ何かあるのかと睨んでくるが。
 ソアレの胸元の指輪がキラリと光る。
 それはヴェントから受け取ったあの指輪だった。意識を取り戻したヴェントにそれを返そうとしたが、そのまま持っていろと押し付けられたのだ。
 ヴェントは闇にのまれたのがごく短期間だったため、その全てが闇に染まっていなかったらしい。
 それで闇に侵されていたなかった人間の身体は残された。
 結局、光によって闇に染まった部分が全て取り除かれただけで済んだのだろうとはシルワの談だった。
 ソアレは指輪を弄びながら。
「…無事で良かったって、思った」
 すると、ヴェントは面食らった顔をして。
「っとに…。お前はそう言う所が、人たらしだってんだ。いい加減、自覚しろ。誤解しちまうだろ?」
 こっちがふっきろうと思ってんのにと、ぶつぶつと文句をこぼすヴェントへ。
「誤解じゃねぇって。お前のことも好きだって。…勿論、アステールの次だけどな?」
 ヴェントは恨みがましい視線を送ると。
「アステール以下、全員同列ってのはバレてんだよ。ほら、ここで油売ってねぇで、アステール手伝ってこい! まだ準備があるって言ってたぞ?」
「ええ? あいつまだ何か乗っけんのかよ~」
 ソアレはそう言うと、家の中へと駆けていった。
 その背中を見送りながら、ヴェントは車のフロントに背を預けると。
「好き、ね。ったく。まいったな…」
 その頬が僅かに染まったのをごまかすように、ヴェントは髪をかき上げ、幾分、熱くなったため息を吐き出した。

+++

「アステ!」
 ソアレは部屋で、忙しそうに旅立ちの準備を整えているアステールの背中へ声をかける。
 アステールは振り返ると、飛びつくようにして部屋へ入ってきたソアレを抱き留めた。
 銀の髪が日の光に透け、キラキラと輝いて見える。いつ見ても綺麗だと思った。
「どうした? ヴェントの手伝いはもういいのか?」
「もう済んでた。体調も問題ないってさ。ま、あいつの事だから少しくらいダメでも黙ってそうだけどな。そんときは無理やり休ませるって」
「そうか。ヴェントもお前の言う事なら聞くだろう」
 アステールの顔に笑みが浮かぶ。
「どうだかな? てかさ。まだ何か詰める気か? もう後ろのハッチいっぱいだって」
「いや。もう積むものはない。ここを片付けていただけだ。当分、帰ってこられないからな?」
 こじんまりとしたその部屋は、ここ三カ月の名残が僅かに残っている。
 ここはあの戦いの後、静養を兼ねて借り上げた小さな湖のほとりにある別荘だった。
 ここで二人だけの時間を重ねたのだ。
「ま、そうだな。もしかしたら、帰ってこないかもしれないし…」
「そうだろう? だから、な。僅かとは言え、ここで過ごせた日々は忘れがたいものだからな」
「…ま、だな」
 アステールのソアレを抱える腕に力が籠められる。
 正直、ここにいる間はずっとアステールと二人きりで。時折、ヴェントやカルドが訪れるくらいだった。
 それがどれ程幸せなことなのか、噛みしめながら過ごしていた。

 生きているから、ここでアステ―ルと笑いあえる、触れあえる、抱き合える──。

 アステールはそのまま頬に触れ、唇にキスを落としてきた。
 これまで幾度もしてきたと言うのに、その度ごとに甘く感じる。
「…ずっとここで過ごしても良かったが、お前を縛り付けておくわけにもいかない。旅に出たいというのはお前たっての希望だったからな?」
「そ。また旅の続きをしたいって、そう思った。だって、ろくに世界を回れていないだろ? もっともっと、アステと一緒に旅したいんだ…」
 ソアレはアステールの首に腕を回し、顔を引き寄せ覗き込むようにして見つめる。
 シルバーグレーの瞳が熱に揺れている
「…ああ。分かっている。お前がどこに行こうとも、ついていく。…離さない。それだけ覚えていてくれればいい」
「ん。俺だって、離すつもりはないっての」
 どちらともなく、キスを交わす。
 そうこうしていれば、背後で軽い咳払いが聞こえた。
「いい加減にして、そろそろ出発したほうがいいだろ? 管理人が外で待ってるぞ」
「っ! って、わかったって。今行く──」
 ヴェントに見られ、ソアレの顔は見る間に赤く染まるが。
 アステールは逆に腕に力を籠め、ソアレの頭ををさらに胸元へ引き寄せると、見せつけるようにしてから。
「いつからそこで見ていた? 言っておくが旅の間、ソアレに手を出すなよ?」
「ま、用心しとけよ? ソアレが少しでもほっとかれている様なら、どうなるかわかんねぇからな」
「その必要はない。ソアレ、ヴェントの前で隙をみせるなよ?」
「…もう、やめろよ。それ」
 ソアレはアステールの胸で、深々とため息を吐き出した。
 二人は顔を合わせるごとに、なにかとソアレを挟んで言いあっていた。すでに互いにソアレを思うことは分かっている。
 ヴェントももう胡麻化したりはしない。
 だから余計に二人がソアレをめぐって争うことになっているのだが、最近はそれを互いに楽しんでいるのでは? とさえ思う。
「俺、だしにされてんのか?」
「だしになどしてない。ソアレは誰のものか分からせているだけだ」
 アステールはヴェントを睨み付けそう口にする。しかし、ヴェントも黙ってはいない。
「ソアレは誰のものでもねぇだろう? それを忘れてる様だから思い出させてやってるまでだ」
「ヴェント…」
 アステールが厳しい視線を向けるが、ヴェントはどこ吹く風だ。
「なぁ、とりあえず、言い合いはそれくらいにしてさ。出発しようぜ? 夕方になっちゃうって」
 ソアレは二人の尻を叩くようにそう口にした。

+++

 王都奪還後、ソアレは死亡したと発表され、王制は廃止された。
 それは父の墓標の前で、ソアレがアステールに告げた言葉がきっかけだった。
 自由になりたい。そして、アステールとずっと一緒にいたいと。
 アステールはその申し出に驚きはしたものの、直ぐに応じた。
 その後のグランツ達への説得も率先して行い。
 ソアレがいなくとも、実力者は多く残っている。彼らに任せてもなんら問題はなかった。
 もとより、レーゲンへの思いが強い家臣や親族ばかりだ。国が善くなりはしても悪くなることは到底なかった。
 それでも、グランツはなかな応とは言わなかったが、ソアレも引かなかった。
 もともと、ソアレ自身が王位を望んでいなかったこともある。
 それに、今回の件で自分の望みは他にあるのだと気づいたのだ。
 それは、アステールとともに生きる道。
 王位を継いでは片手間になる。何かに縛られるのではなく、残された人生を自由に生きたいと思った。

 俺は、アステールと生きられるなら、それだけでいい。

 フォンセが口にしたように、アステールの魂が弱っているのだとしたら、いつそれが終わるかわからない。
 ならば、出来る限り生きている間、二人の時間を大事にしたかった。そのひとつひとつを胸に刻んで生きていく。

 いつか来るその時まで──。

 地位でも名誉でもなく。ただ、大切な人と、大切に時間を生きたかった。
 その思いをグランツに告げると、最後には首を縦に振ってくれた。
 そして、暫く休んだのち、旅立つことを決めた。ここにずっといてもいいが、もっと、沢山の思い出を作るためには動いた方がいい。
 そうすれば、色々な表情のアステールを記憶に残せる。
 ヴェントもついていくことになったのは、なんとなく話の流れで。
 というか、アステールの強い薦めに依るものだった。普段はあれほど邪魔にしているくせにと、不思議に思ったのだが。
 ソアレの事を抜かせば、案外仲がいいのだ。

「アステ、早く!」
 オープンカーの助手席から顔を覗かせれば、アステールが管理人と話を終え、丁度、玄関を出ようと言うところ。
「今、行く」
 ヴェントは後部座席で、頭の後ろで腕を組み空を眺めながら。
「当分晴れだってな? 良かったな。この車もオープンになるし、気持ちいいだろ?」
「ん。てか、ヴェント、本当にいいのか? いつ帰ってこられるか、分かんねぇってのに…」
 この旅に終わりはない。
 行った先で気に入った場所があれば、そこでずっと住んでもいいとも思っていた。
 アステールとソアレはそれでいいが、ヴェントはどうなのだろうと思っていたのだ。
 曲りなりにも、ヴェントはシュトラール家の長子でもある。
 それにグランツがどうにもヴェントを手放しがたく思っていたようで、つい先日まで引き留めに来ていたのだが。
「俺の家はカルドがいるしな? グランツもブリエ達がいれば充分だ。アウィスも手伝うって言ってたしな。てか。アウィスには正式に国の運営に携わってもらうって言ってたぞ?」
「へぇ。でも、これで報酬になったかな…」
「ああ。奴は定住できる場所が欲しいってい言ってたしな。漸く落ち着ける場所を見つけられて、ホッとしているだろう」
 そこへアステールが運転席に着き、会話に入った。
「アウィスはあれで、かなり聡明で博識だ。人柄も穏やかで、移民の間ではかなり人気がある。正式に国へ迎えられれば、国政へいい影響を及ぼすだろう」
「それに、あの容姿だからな? 男女構わず引く手あまたらしいぜ?」
 ヴェントの茶々にアステールはため息をつくと。
「…急に下世話な話しにするな。確かに国民の人気はかなりあるがな」
 ソアレは後部座席のヴェントを振り返ると。
「アウィスがいるならグランツ達も安心だな。カルドはなんて言ってた?」
「ああ。『いってらっしゃい、フォンセ様の事は任せておいて』だそうだ…」
 ヴェントは棒読みのようにその言葉を口にする。アステールは苦笑すると。
「怒りは治まらない、か?」
「あったりまえだっての。俺は危うくお前らを殺すところだったんだからな? ったく…。あいつがソアレと繋がってないってんなら──」
「ヴェント、分かってんだろ? 繋がっていようがいまいが、生き残った命は奪わないって。…ヴェントがああなったのには俺にも責任あるし…」
「なんでお前にあるんだよ?」
「だって、俺の所為で重傷を負ったろ? それがなきゃあんな目に合わなかったはずだ」
「そんなのはお前が気にすることじゃねぇ。てか、あれは自己責任だ。俺の力が足りてねぇからだな──」
 すると、アステールが咳ばらいを一つして。
「いい加減にその辺にしておけ。埒があかない」
 確かに、幾ら言い合っても平行線をたどるだけだった。ソアレは肩をすくめて見せると。
「…わかった」
 大人しく助手席に腰を下ろしなおす。
「さて、どこへ向かう?」
 アステールが気を取り直すようにそう口にすると、ソアレは身を乗り出すようにして。
「海! 海が見えるとこ、行こうぜ!」
「まるでガキだな?」
 そのはしゃぎようにヴェントが笑う。
「いいだろ? とりあえず、一番近いところでさ。で、キャンプするだろ? 依頼もこなしてさ。絶対楽しいって!」
「…本当に子どものようだな?」
 アステールも苦笑するが、ソアレは気にしない。
「だって、嬉しいんだって。もう、自由だろ? 俺たち…」
 今にも、過去にも縛られず。
 この先もずっと、いつかその生が終わるその時まで、旅を続けるのだ。
「ああ…。そうだな」

 アステールの、その幸せそうに笑んだ横顔を、俺は死ぬまで忘れることはなかった。

 空はどこまでも青く、陸は果てしなく続く。
 俺たちの旅は今、始まったばかりだ。


―了―
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