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2.デュラはんと機械の国の狂乱のお姫様
龍の咆哮
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ジープが山頂に近づくころにはデュランダムXに襲いかかる竜種もだいぶん少なくなってきた。この辺まで来ると龍種の縄張りだ。竜はここまで登ってこない。そう思って見上げると、先ほどから山頂を旋回していた3頭のうち1頭、薄青い皮革を纏った体長6メートル程の龍が火口とジープの直線上、ここから約50メートル離れた岩場にふらりと降り立ち僕らを見下ろした。優雅に大きく広げられた翼の風圧だけでジープがひっくり返りそうだ。
このままではあの龍に突っ込む形になる。仕方なくジープを止めてデュランダムXがジープの前に出たけれども龍は襲いかかっては来なかった。
「ほんまや、さっきのよりは賢そう」
「どうしてですか?」
「あの辺は岩場で障害物があるから鞭はうまく使えんのや……うーん、通してもらえんかなあ」
龍をこんなに間近で見るのは初めてだ。
あの龍のいる岩の少し先に火口に降りる階段がある。そこが神子の神殿の入口。だから龍の向こうにいかなければならない。
けど。龍の目的がわからない。竜のようにデュラはんの魔力が目的なら襲ってくるはずだ。けれどもその様子も見られない。ただ道を塞いでいる? その翼を広げる姿はどこか火口を守っているようにも見える。
ボニさんが突然大きな声を上げた。
「あの、通してもらえませんか?」
「ボニさん?」
「話が通じるといいなと思って」
「あの龍、どっちが目的やろ」
「目的?」
「ジープとデュランダムX。襲ってこんのやったら通せんぼしとるんかな思うん」
人語がわかる龍もいるとは聞くけど全部がそうじゃないとも聞く。
しばらく待ったけれども様子は変わらなかった。
けれども確かにあの龍はこちらをじっと見ているだけ、のようにも思える。
時間だけが過ぎていく。このままじゃ埒が明かない。
「デュランダムXかジープかどっちかだけが狙いやったら隙をついて片方は入れるかもしれん。囮になってみよか」
「囮?」
「デュランダムXが目的やったらこっちに気い取られとる間に神子さんとこ行ったって。それに反対側の方が開けとるから戦うならここよりあっちがええし。そんでジープ目的やったら俺が隙をついて龍にドロップキックかましたるからその隙に中入って」
「ドロップキック?」
これまでデュランダムXはきっちりジープのそばについてジープを守っていた。離れるのは不安が募る。デュランダムXならひょっとしたら龍種もなんとかなるかもしれない。けれどもジープ、というか僕らだけではとても龍種に対抗できない。幸いここまでの竜種はほとんどデュラはんが倒してくれた。いざとなったら反転して街まで逃げもどろうか? 目的が通せんぼなら追っては来ないかもしれない。
そんな後ろ向きなことを考えてながら手綱を握る手に汗をかく。じわじわと少しずつデュランダムXが離れるのを見守る。離れるデュランダムXがすぐにはジープに戻れない距離を超えた時、龍はようやく視線をデュランダムXに向けた。
「やっぱ狙いはデュランダムXみたいやな。こいつが竜倒しよったんを上から見てたんやろ」
「そういえばずっと上を飛んでたね。でもジープが火口に向かったらこちらに来るかも知れない」
「んんー。車は今までデュランダムXにあわせてゆっくり走っとったやろ? 一気に火口まで走れんかな。それで強引に入っちゃうん」
「どうだろう。この子達も怖がっている気がする」
ジープは5頭の小さな竜に引かれて走っているけど、どの竜も目の前の龍を恐れて縮こまって見えた。僕自身も同じように龍の威容に縮こまっているんだから無理はない。龍の目の前まで近づくとこの子達の足が止まりそうだ。
試しに龍の目がジープからデュランダムXに逸れたから前進の指示を出してみたけど、案の定その歩みは緩慢だった。
「岩場なのはこちらも好都合でしょう。ジープを置いて岩陰をつたってこっそり侵入してはどうでしょうか。囮にも使えます」
「けどボニさん、ジープの守りが何も無くなる」
「あの龍が相手ならジープの守りなんてあってないものでしょう?」
その意見に驚愕した。守りを捨てる?
ジープはこれでも鉄製のフレームで囲まれているから最初の一撃だけは防げるかもしれない。でも降りたら生身で防ぎようがない。けれども確かに1撃防げても意味はないようにも思う。僕が悩んでる間にボニさんはさっさと荷物をまとめて降りてしまった。龍から見えないジープの影でボウガンを装填している。
「いざとなったらタケヒサ弾がいいかな」
「うーん、タケヒサ弾は当たり外れが大きいからなあ。それにすぐ助けられる距離やないかもしれん。アツシ弾?」
「わかった」
「それからデュランダムXが戦闘に入ったらこっちを気にする余裕はないやろうからあとは任せるで。ほな」
ジープの影からそろりと様子を伺うと、龍は離れていくデュランダムXを目で追う。こちらにはあまり注意を払っていなさそうだ。デュランダムXがジープと反対方向から火口に回り込もうとしたとき、手元の魔力検知器が至近距離でいくつもの魔力反応を観測し、突然ぶわ、と大きな風が巻きおこった。
これが龍の魔法。たくさんの魔力反応が複雑に絡み合っている。
龍は風にふわりと乗り、たくさんの風を巻き起こしながらあっという間に突進する。初速はゆっくりでも宙空で発生する強風が龍を後ろから力強く押し出し、あっという間に加速してデュランダムXに激突しそうになった時、デュランダムXが特大の鞭を振るい風を切り裂く。
そのやや無軌道に見えた先端は僅かに龍の羽を捉えていなし、龍を地面に引き倒す。もうもうと上がる土煙の先でうっすらデュランダムXが立っている影が見えたと思った直後、体勢を立て直した龍が襲いかかりデュランダムXは弾き飛ばされ、土煙の上にふわりと浮かび上がった龍の口から光弾が放たれて当時に大きな衝撃音が響き渡り地面が振動した。
「大丈夫!?」
「コレドさん静かに。今は火口に行くのか先決です。それにそんなに簡単に壊れるものではないのでしょう?」
それはたしかにそうなんだけど。デュランダムXは元々龍との戦闘を前提に高強度のフレームで作られている。そうそう破壊されない。でも。
そう思って見直すと、わずかにしなる鞭の先端が岩山の端に見え、龍の叫び声が聞こえた。仲間を呼んだんだろう。それに呼応してか上空を舞う2匹の龍のうち、1匹が応援に向かう。
「コレドさん、今です。デュランダムXが注意をひきつけているうちに急ぎましょう。僕らは彼らに比べてとても小さい。影を進めば見つからないでしょう。それにデュラはんの鞭レベルは6です。そう簡単に負けるとは思わない」
「信頼してるんですね」
ボニさんの声に頷きジープを離れる。
張り出す岩陰の下を選んで音を立てずにくぐり抜け、本当にゆっくりと火口を目指す。その合間にも激しい地響きと何かがぶつかる轟音、龍の雄叫びが響き渡り、なんだか違う世界に来たようだ。そのとてつもなく長い200メートルほどを登ってようやく火口入り口の手前に辿り着く。火口内部は細長い通路が続くから龍は入ってこない。けれどもあと10メートルほどの区間を抜けようとした直後、ふいに黒い影が僕らを覆い、上を向いて凍りつく。
青々と晴れ渡った空を突然遮る影。上空を舞っていた最後の龍が真上から急降下していた。
この最後の区間は遮るものがなく空から丸見えだ。絶体絶命。そう思った直後、体が弾き飛ばされた。
「そのまま左に飛んで!」
ボニさんの声に反射的に飛び避けて振り返る。僕と同時に右に飛んだと思しきボニさんが地面に倒れ込み、そこを襲う龍の鉤爪。引き裂かれる。もうだめだ。そう思って目をそらした瞬間、バシュと鈍い音と何かが壁に激突する音がして、ボニさんの声が聞こえた。
「ふう、もうダメかと思った。アツシ君すごい」
「あの、一体何が?」
恐る恐る目を開けるとボウガンを手にしたボニさんが地面から起き上がるところ。その視線の先で3メートルほどの大きさの龍が見たこともない赤い粘液状のものでべたりと岸壁に貼り付けられていた。
突然その龍が苦しそうな叫び声を上げる。
まずい。他の龍が応援にくる。呼応する叫び声の方向を見る。岩山が途切れたここからは火口からなだらかに下る全景がよく見えた。そしてデュランダムXが2匹の龍に地面に押し付けられて動きを止め、その頭部がもぎ取られようとしていた。
このままではあの龍に突っ込む形になる。仕方なくジープを止めてデュランダムXがジープの前に出たけれども龍は襲いかかっては来なかった。
「ほんまや、さっきのよりは賢そう」
「どうしてですか?」
「あの辺は岩場で障害物があるから鞭はうまく使えんのや……うーん、通してもらえんかなあ」
龍をこんなに間近で見るのは初めてだ。
あの龍のいる岩の少し先に火口に降りる階段がある。そこが神子の神殿の入口。だから龍の向こうにいかなければならない。
けど。龍の目的がわからない。竜のようにデュラはんの魔力が目的なら襲ってくるはずだ。けれどもその様子も見られない。ただ道を塞いでいる? その翼を広げる姿はどこか火口を守っているようにも見える。
ボニさんが突然大きな声を上げた。
「あの、通してもらえませんか?」
「ボニさん?」
「話が通じるといいなと思って」
「あの龍、どっちが目的やろ」
「目的?」
「ジープとデュランダムX。襲ってこんのやったら通せんぼしとるんかな思うん」
人語がわかる龍もいるとは聞くけど全部がそうじゃないとも聞く。
しばらく待ったけれども様子は変わらなかった。
けれども確かにあの龍はこちらをじっと見ているだけ、のようにも思える。
時間だけが過ぎていく。このままじゃ埒が明かない。
「デュランダムXかジープかどっちかだけが狙いやったら隙をついて片方は入れるかもしれん。囮になってみよか」
「囮?」
「デュランダムXが目的やったらこっちに気い取られとる間に神子さんとこ行ったって。それに反対側の方が開けとるから戦うならここよりあっちがええし。そんでジープ目的やったら俺が隙をついて龍にドロップキックかましたるからその隙に中入って」
「ドロップキック?」
これまでデュランダムXはきっちりジープのそばについてジープを守っていた。離れるのは不安が募る。デュランダムXならひょっとしたら龍種もなんとかなるかもしれない。けれどもジープ、というか僕らだけではとても龍種に対抗できない。幸いここまでの竜種はほとんどデュラはんが倒してくれた。いざとなったら反転して街まで逃げもどろうか? 目的が通せんぼなら追っては来ないかもしれない。
そんな後ろ向きなことを考えてながら手綱を握る手に汗をかく。じわじわと少しずつデュランダムXが離れるのを見守る。離れるデュランダムXがすぐにはジープに戻れない距離を超えた時、龍はようやく視線をデュランダムXに向けた。
「やっぱ狙いはデュランダムXみたいやな。こいつが竜倒しよったんを上から見てたんやろ」
「そういえばずっと上を飛んでたね。でもジープが火口に向かったらこちらに来るかも知れない」
「んんー。車は今までデュランダムXにあわせてゆっくり走っとったやろ? 一気に火口まで走れんかな。それで強引に入っちゃうん」
「どうだろう。この子達も怖がっている気がする」
ジープは5頭の小さな竜に引かれて走っているけど、どの竜も目の前の龍を恐れて縮こまって見えた。僕自身も同じように龍の威容に縮こまっているんだから無理はない。龍の目の前まで近づくとこの子達の足が止まりそうだ。
試しに龍の目がジープからデュランダムXに逸れたから前進の指示を出してみたけど、案の定その歩みは緩慢だった。
「岩場なのはこちらも好都合でしょう。ジープを置いて岩陰をつたってこっそり侵入してはどうでしょうか。囮にも使えます」
「けどボニさん、ジープの守りが何も無くなる」
「あの龍が相手ならジープの守りなんてあってないものでしょう?」
その意見に驚愕した。守りを捨てる?
ジープはこれでも鉄製のフレームで囲まれているから最初の一撃だけは防げるかもしれない。でも降りたら生身で防ぎようがない。けれども確かに1撃防げても意味はないようにも思う。僕が悩んでる間にボニさんはさっさと荷物をまとめて降りてしまった。龍から見えないジープの影でボウガンを装填している。
「いざとなったらタケヒサ弾がいいかな」
「うーん、タケヒサ弾は当たり外れが大きいからなあ。それにすぐ助けられる距離やないかもしれん。アツシ弾?」
「わかった」
「それからデュランダムXが戦闘に入ったらこっちを気にする余裕はないやろうからあとは任せるで。ほな」
ジープの影からそろりと様子を伺うと、龍は離れていくデュランダムXを目で追う。こちらにはあまり注意を払っていなさそうだ。デュランダムXがジープと反対方向から火口に回り込もうとしたとき、手元の魔力検知器が至近距離でいくつもの魔力反応を観測し、突然ぶわ、と大きな風が巻きおこった。
これが龍の魔法。たくさんの魔力反応が複雑に絡み合っている。
龍は風にふわりと乗り、たくさんの風を巻き起こしながらあっという間に突進する。初速はゆっくりでも宙空で発生する強風が龍を後ろから力強く押し出し、あっという間に加速してデュランダムXに激突しそうになった時、デュランダムXが特大の鞭を振るい風を切り裂く。
そのやや無軌道に見えた先端は僅かに龍の羽を捉えていなし、龍を地面に引き倒す。もうもうと上がる土煙の先でうっすらデュランダムXが立っている影が見えたと思った直後、体勢を立て直した龍が襲いかかりデュランダムXは弾き飛ばされ、土煙の上にふわりと浮かび上がった龍の口から光弾が放たれて当時に大きな衝撃音が響き渡り地面が振動した。
「大丈夫!?」
「コレドさん静かに。今は火口に行くのか先決です。それにそんなに簡単に壊れるものではないのでしょう?」
それはたしかにそうなんだけど。デュランダムXは元々龍との戦闘を前提に高強度のフレームで作られている。そうそう破壊されない。でも。
そう思って見直すと、わずかにしなる鞭の先端が岩山の端に見え、龍の叫び声が聞こえた。仲間を呼んだんだろう。それに呼応してか上空を舞う2匹の龍のうち、1匹が応援に向かう。
「コレドさん、今です。デュランダムXが注意をひきつけているうちに急ぎましょう。僕らは彼らに比べてとても小さい。影を進めば見つからないでしょう。それにデュラはんの鞭レベルは6です。そう簡単に負けるとは思わない」
「信頼してるんですね」
ボニさんの声に頷きジープを離れる。
張り出す岩陰の下を選んで音を立てずにくぐり抜け、本当にゆっくりと火口を目指す。その合間にも激しい地響きと何かがぶつかる轟音、龍の雄叫びが響き渡り、なんだか違う世界に来たようだ。そのとてつもなく長い200メートルほどを登ってようやく火口入り口の手前に辿り着く。火口内部は細長い通路が続くから龍は入ってこない。けれどもあと10メートルほどの区間を抜けようとした直後、ふいに黒い影が僕らを覆い、上を向いて凍りつく。
青々と晴れ渡った空を突然遮る影。上空を舞っていた最後の龍が真上から急降下していた。
この最後の区間は遮るものがなく空から丸見えだ。絶体絶命。そう思った直後、体が弾き飛ばされた。
「そのまま左に飛んで!」
ボニさんの声に反射的に飛び避けて振り返る。僕と同時に右に飛んだと思しきボニさんが地面に倒れ込み、そこを襲う龍の鉤爪。引き裂かれる。もうだめだ。そう思って目をそらした瞬間、バシュと鈍い音と何かが壁に激突する音がして、ボニさんの声が聞こえた。
「ふう、もうダメかと思った。アツシ君すごい」
「あの、一体何が?」
恐る恐る目を開けるとボウガンを手にしたボニさんが地面から起き上がるところ。その視線の先で3メートルほどの大きさの龍が見たこともない赤い粘液状のものでべたりと岸壁に貼り付けられていた。
突然その龍が苦しそうな叫び声を上げる。
まずい。他の龍が応援にくる。呼応する叫び声の方向を見る。岩山が途切れたここからは火口からなだらかに下る全景がよく見えた。そしてデュランダムXが2匹の龍に地面に押し付けられて動きを止め、その頭部がもぎ取られようとしていた。
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