ももんがの毛

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第1話

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ぱちんぱちん。
小さな手をたたく音が響く。

「かみさまかみさま、ぼくにかみのけをください」

すみわたった冬の早朝、声に気づいて雲のすき間から見下ろしてみると、てのひらを広げたくらいの大きさのモモンガが目をつぶってなむなむとつぶやいていた。

モモンガはそろそろと目を開けて、きょろきょろとまわりを見て落ち込んで、またぱちんぱちんと手を叩いた。

「かみさまかみさま、ぼくにかみのけをください」

そしてまた、なむなむと呟いている。

わしのほこらは誰もおとずれなくなって久しい。もちろんモモンガがおまいりに来ること自体も初めてだが、そのふしぎな客はなにやら必死で、面白かった。

『これ、お主。なぜ髪の毛がほしい』

モモンガは、ひゃあ、といってころりと後ろに倒れた。

『大事ないか』

「は、はい。だいじょうぶです。あの、かみのけがほしいのです」

モモンガは自らの頭を指し示す。頭のてっぺんの毛はすでになく、ペトリと頭のあぶらがかたまっていた。

『そなた、オスであろう? モモンガのオスというものは臭いが出る線があるものだから、毛がなくなるのはしかたはあるまい?』

モモンガは頭をぺちぺち叩きながら言う。

「そうなのですが、わたしはもてないのです。ほかのおすとなにかにおいでもちがうのでしょうか。もてないなら、かみのけをもとにもどしてほしいのです」

そう言って、そのモモンガはフンフンと頭のあぶらを引っ張りはじめた。わしには自分でうぶ毛を抜いているようにしか見えぬ。
その様子はなにやらやぼったく、もてないだろうな、と思わせた。
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