叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧Ver

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第5章 カルト教団集団自殺事件

哲学の本 仮想

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 頂いた本を読んでいた。
 デカルトという人が書いた哲学の本だ。哲学書を読むのは初めてだが、なかなか興味深い。真実は何かを知るために、真実ではない可能性があるものを全て排除する。そこには自己の肉体や感覚も含まれる。全てを削ぎ落としたとき、ただ一つ残るもの。

 我思うゆえに我あり?

 考える以上、考える主体である精神自体は存在する。そこを起点に検討する。そういわれれば、そうなのかな。そして精神、つまり魂は神が等しく人間に分け与えたものだ。つまり神が前提となっている。哲学というから神を否定しているものかと思った。少し読みやすく感じる。
 魂で感じられるもの、数、自然現象、物理、そういった世界を紐解くものを人間は神の与えた魂で観測する。その魂には神が宿り、自身が神の構築する超自然的な世界を認識することができる。
 ただし暑いとか寒いという感覚は体が感じることだから、この認識には含まれない。まあ、肉体の感覚というのが確かに神の御技ではないというのは納得できる。
 ふむふむ。
 パタパタと音がした。窓の外を見れば今日もきれいに晴れ、薄い青色が広がっている。
 神はどのように世界を見ているのだろう。神の目には世界はどのように映っているのか。そんなことを思いながらカラリと窓を開けた。
 爽やかな風が室内に吹き込み部屋を明るく照らす。
 この窓から飛んでいって広い世界を巡れるのなら、楽しそうだな。どこまでも青く晴れ渡る空を見ながらそう思った。

 こんな夢を見た。
 白い場所にいた。ここはどこだろう。幾分気持ちがフワフワとしている。
 左右を見渡すと影が忙しなく動いていた。
  そろそろおいのりのじかん
  そうね きょうはなににいのろうかしら
  そらをとんでとおくにいきたいなぁ
  きのうはにほんむかしばなしをよんだ
 三々五々になごやかな声が聞こえる。楽しそうだ。
 つられてなんだか楽しい気分になって来る。
「何か読もうかな」
  なにをよまれるんです?
  じょうねんろんですか?
  ししゃのしょ?
  よみあいをするのもおもしろいですね
  わたしはきょうはしゃもんかきょうにしようかな
  やっぱりかみさまをかんじるにはいらないところをはぶくしかないですよね
「いらない所?」
  まえにせんせいがおっしゃってた
  かみさまはひとにひとしくたましいをわけあたえた
  たましいだけになれれば わたしたちのすべてはかみさまになるのでしょう?
  かみさまをもっとかんじたいものですね
 そのような声に耳を傾けていると、それぞれに何かを読み上げる声が響いて来た。様々な声はそのうち唱和し、一体化していく。
 気づくと自分の口からも音が出ていて、多くの音と混じり合っていた。
 頭の奥がじんわりと痺れる心地がする。自分の内より何かが出でる。これはなんだろうか。なんだか黒い。それが皆からでた黒いものと混じり合う。それを神がどこかからみている。
 なんだか心地よくてぎすぎすして、夢のようだ。
 ……そうか、これは夢なのか。
 そう気づいた瞬間。世界はバラバラとひび割れ崩れ落ちてゆく。
 あぁ、もう少しここにいたいな、と思った。
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