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1章-2 欠けて満ちてそれからカプト様の右腕
台所からの脱出
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風を読む。それなりの高度だ。周辺は暗い。
状況はよくわからぬものの、この風は遠くまで繋がっている。途中に遮るものがない。他の領域まで動線が通っているのを感じる。
だからここならば通るだろう。痕跡が残るからあまりやりたくはなかったが、背に腹は変えられぬ。隣で呑気にもぐもぐと飯を食い続けているこやつを見ていると、無性に腹が立つが。
確かに今の頭のみのわしにはどうにもできぬことが多い。けれども分断された体の方には色々と仕込んである。
口の中で小さくパスワードをコールし、どこかに飛んで行ったであろうわしの右腕との間を魔力回路でつなぐ。わしがバラバラになった時、最終的に体を集めて復元するために設定したものだが、その他にも色々と有用に使えるようにしてはある。
そして思ったよりすんなりと魔力は領域の壁を超えた。普通はこうはいかぬ。領域と領域の間は世界の理が異なるのだ。近ければ似通っている世界も多いが、隣の領域ですら全く様相が異なることもままある。だから領域と領域の間で空間をこじ開けることはだいたいの魔女は嫌がる。
だから領域を通過する場合、領域間でその出自や目的を厳しくチェックする。入領審査というやつはそれを人が代行しているのだ。その審査をすっ飛ばして領域間に大穴を開けようとするなんぞよほどのことがない限り認められぬ。
けれども幸いにもこの領域の魔女は事象に干渉しない。だからこの領域の魔力を乱さない範囲であれば、おそらくこちら側は問題ない。右腕があるのはあの魔女の領域なのか……。とりあえず繋げた以上はやってみるより他がない。
繋がる先の僅かな手がかり。わしは右手をこちらの領域に呼び寄せ……ようとして9割方失敗した。右手の落ちている領域側の魔女が遮断したのだろう。うーん、次に訪れるときに謝らねばならぬなぁ。はぁ。あの魔女は気が重いなぁ……。魔女というのは実に様々なのだ。
けれどもまぁ、最低限の目的は達せられた。1割方で右手に施した術式のいくらかをこの領域に呼び寄せることができた。
その瞬間、あの浮かぶ『月』から恐ろしいほどの圧を感じて思わず頚椎が縮み上がったが、それもすぐに消えた。この程度であれば見逃してもらえるらしい。さすが面倒くさがりのラキだ。
これでなんとかなるだろう。
「ねぇねぇカプト様、この大きな鳥さん食べられるの?」
「馬鹿。そんなわけなかろう。こやつで逃げるのだ」
「カプトよ。一体何があったのだ」
取り戻した権能で、わしはその術式を起動しヨグフラウを呼び出した。
ヨグフラウは大鷹型の漆黒の精霊獣だ。精霊と獣の間にある存在だ。広げた片翼の長さは3メートルを越え、その魔力で風を起こして翼で風を掴んで飛ぶ。わしとは昔から契約をしており、その術式を右腕に刻んでいた。右腕から持ち込めた精製陣はこの黒翼のヨグフラウと土泳のゲイヴァーリアだけだ。本当はもう2、3持ち込みたかったが、無理なものは仕方がない。手持ちでなんとかするしかなかろう。
「わぁ鳥さんが喋ってるぅ」
「我は鳥さんではない。ヨグフラウと呼べ。それよりカプト、何故頭だけなのだ。エノモトらと旅をしていたのではなかったのか」
「一緒に旅をしていたが、魔王を倒した途端まとめて斬られたのだ」
「ハッハッ。だから言うただろう、あやつを信用しすぎるなと」
嫌な思い出が蘇るが、今はそれどころではない。
「美味しいの?」
「……それにしてもこの兎人は何故動じぬのた?」
「……恐怖耐性がカンストしているのではないかと思う」
現在、それほどの高度を飛んでいた。
それほどの風が吹いていて、油断すればわしも吹き飛ばされそうなほどである。
わしらが捕まっていたと思しき施設は既に遥か彼方に去り、聖都エグザプトと思われる光の群れはそこから二つほど山を越えた先にあったのが見て取れた。今はそこからゆっくり離れるよう高高度を移動しているところだ。
ラヴィには闇夜でよくわからぬのかも知れぬが、遥か遠い海を隔てた沿岸部の街の明かりがうっすら見える程度には高い。そこをラヴィはヨグフラウの両脚に肩を掴まれ飛んでいる。肩に爪が食い込まぬよう衣類や布を何枚も挟んだ上で掴んでいる分、滑って落ちる可能性は高まる。
けれどもラヴィはそんな危険など全く頓着しなさそうに、足をプランと空中に揺らしていた。
突然トゥルルと音がなり、ラヴィが暴れ出した。スマホの音だろう。
「これ、暴れるでない。落ちるであろう」
「だってスマホでなきゃ」
「……なるほどカンストしておるのかも知れぬ」
「もしもし編集長? ……はい。今? えっと、空? ……本当なんですってもう、えっと写メをあわわ」
「ラヴィ、一応言っておくが落ちたら死ぬぞ」
眼下は闇だがおそらく海が広がっている。けれどもこの高度から落ちれば即死は免れないだろう。流石に耐性でなんとかなるレベルではないとは思うのだがな。
状況はよくわからぬものの、この風は遠くまで繋がっている。途中に遮るものがない。他の領域まで動線が通っているのを感じる。
だからここならば通るだろう。痕跡が残るからあまりやりたくはなかったが、背に腹は変えられぬ。隣で呑気にもぐもぐと飯を食い続けているこやつを見ていると、無性に腹が立つが。
確かに今の頭のみのわしにはどうにもできぬことが多い。けれども分断された体の方には色々と仕込んである。
口の中で小さくパスワードをコールし、どこかに飛んで行ったであろうわしの右腕との間を魔力回路でつなぐ。わしがバラバラになった時、最終的に体を集めて復元するために設定したものだが、その他にも色々と有用に使えるようにしてはある。
そして思ったよりすんなりと魔力は領域の壁を超えた。普通はこうはいかぬ。領域と領域の間は世界の理が異なるのだ。近ければ似通っている世界も多いが、隣の領域ですら全く様相が異なることもままある。だから領域と領域の間で空間をこじ開けることはだいたいの魔女は嫌がる。
だから領域を通過する場合、領域間でその出自や目的を厳しくチェックする。入領審査というやつはそれを人が代行しているのだ。その審査をすっ飛ばして領域間に大穴を開けようとするなんぞよほどのことがない限り認められぬ。
けれども幸いにもこの領域の魔女は事象に干渉しない。だからこの領域の魔力を乱さない範囲であれば、おそらくこちら側は問題ない。右腕があるのはあの魔女の領域なのか……。とりあえず繋げた以上はやってみるより他がない。
繋がる先の僅かな手がかり。わしは右手をこちらの領域に呼び寄せ……ようとして9割方失敗した。右手の落ちている領域側の魔女が遮断したのだろう。うーん、次に訪れるときに謝らねばならぬなぁ。はぁ。あの魔女は気が重いなぁ……。魔女というのは実に様々なのだ。
けれどもまぁ、最低限の目的は達せられた。1割方で右手に施した術式のいくらかをこの領域に呼び寄せることができた。
その瞬間、あの浮かぶ『月』から恐ろしいほどの圧を感じて思わず頚椎が縮み上がったが、それもすぐに消えた。この程度であれば見逃してもらえるらしい。さすが面倒くさがりのラキだ。
これでなんとかなるだろう。
「ねぇねぇカプト様、この大きな鳥さん食べられるの?」
「馬鹿。そんなわけなかろう。こやつで逃げるのだ」
「カプトよ。一体何があったのだ」
取り戻した権能で、わしはその術式を起動しヨグフラウを呼び出した。
ヨグフラウは大鷹型の漆黒の精霊獣だ。精霊と獣の間にある存在だ。広げた片翼の長さは3メートルを越え、その魔力で風を起こして翼で風を掴んで飛ぶ。わしとは昔から契約をしており、その術式を右腕に刻んでいた。右腕から持ち込めた精製陣はこの黒翼のヨグフラウと土泳のゲイヴァーリアだけだ。本当はもう2、3持ち込みたかったが、無理なものは仕方がない。手持ちでなんとかするしかなかろう。
「わぁ鳥さんが喋ってるぅ」
「我は鳥さんではない。ヨグフラウと呼べ。それよりカプト、何故頭だけなのだ。エノモトらと旅をしていたのではなかったのか」
「一緒に旅をしていたが、魔王を倒した途端まとめて斬られたのだ」
「ハッハッ。だから言うただろう、あやつを信用しすぎるなと」
嫌な思い出が蘇るが、今はそれどころではない。
「美味しいの?」
「……それにしてもこの兎人は何故動じぬのた?」
「……恐怖耐性がカンストしているのではないかと思う」
現在、それほどの高度を飛んでいた。
それほどの風が吹いていて、油断すればわしも吹き飛ばされそうなほどである。
わしらが捕まっていたと思しき施設は既に遥か彼方に去り、聖都エグザプトと思われる光の群れはそこから二つほど山を越えた先にあったのが見て取れた。今はそこからゆっくり離れるよう高高度を移動しているところだ。
ラヴィには闇夜でよくわからぬのかも知れぬが、遥か遠い海を隔てた沿岸部の街の明かりがうっすら見える程度には高い。そこをラヴィはヨグフラウの両脚に肩を掴まれ飛んでいる。肩に爪が食い込まぬよう衣類や布を何枚も挟んだ上で掴んでいる分、滑って落ちる可能性は高まる。
けれどもラヴィはそんな危険など全く頓着しなさそうに、足をプランと空中に揺らしていた。
突然トゥルルと音がなり、ラヴィが暴れ出した。スマホの音だろう。
「これ、暴れるでない。落ちるであろう」
「だってスマホでなきゃ」
「……なるほどカンストしておるのかも知れぬ」
「もしもし編集長? ……はい。今? えっと、空? ……本当なんですってもう、えっと写メをあわわ」
「ラヴィ、一応言っておくが落ちたら死ぬぞ」
眼下は闇だがおそらく海が広がっている。けれどもこの高度から落ちれば即死は免れないだろう。流石に耐性でなんとかなるレベルではないとは思うのだがな。
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