Angel Voice - 神様の失敗 - 男の娘は歌うたう【R-18】

朔村ナギ

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姫ちゃんの秘密

公園にて(1)

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 カラオケボックスを出るとだいぶ陽が傾いていた。風も昼間より冷たく感じる。
 高校生という身分でもあるので、あまり遅くなるわけにはいかない。「もう帰らなくてはいけない」と思うと蒼介の胸はきゅうっと苦しくなった。なんだかんだでやっぱり自分はこの子に恋をしているんだな、と認めざるを得ない痛みだった。
 姫ちゃんもおなじ心境らしく、待ち合わせ場所だった公園が近づくにつれて、だんだんと口数が少なくなり、表情も曇りがちになっていった。
 公園に着いてしまった。
 駅と映画館の中間に位置する小さな公園である。日が暮れると人気もない。
 着いてしまったが、どちらも「帰る」と言えず、話題を探しながら途切れ途切れの会話をつづけていた。
 降り積もった落ち葉を踏みながら歩いていると、突風が吹いて大量の木の葉を空に巻き上げた。姫ちゃんは首をすくめて風をやり過ごした。そして、目を開けたとき無数の木の葉が大きな雪のように舞っているのを見て感嘆の声を上げた。

「わぁ……すごい」

 姫ちゃんは蒼介を見て、目が合うとすぐに視線を戻して、頰を赤らめた。
 木の葉くらいで自分だけが子供のようにはしゃいだことを恥ずかしく思ったのだろう。
 蒼介は木の葉よりも姫ちゃんの横顔に見とれていた。
 自分の損得とは関係なく、ただ自然の風景に感動し見せる笑顔が「奇跡のように可愛い」と大げさでなく心が震えたのだった。
 今日のデートは確認する作業だった。
 これまでネット上でしか会話をしたことがない。声を聞いたことすらなかった。それにもかかわらず、蒼介は相手のことをまるで自分の半身のように思えていた。まだ若く恋の経験もほとんどない。だから初めての感情に舞い上がっているだけなのだ、と自分に何度も言い聞かせてみたが思いは強くなる一方だった。
 会ってみてわかる。その声が、仕草が、考え方が。
 運命の人だ、と。
 そして、会話が途切れたとき、ふとぶつかる姫ちゃんの目もそう言っているように思えた。
 やっぱりそうだ、と。
 お互いに欠けた部分があるとしたら、それぞれがまさしくそこに当てはまるピースだと。



 姫ちゃんがトイレに行ったので、蒼介はベンチに座って待っていた。
 映画館でもそうだったが、姫ちゃんはふつうに女子トイレに入る。どちらに入ろうかとウロウロしていれば不審者と思われるし、格好からすればあたりまえのようではあるが、男子が女子トイレに立ち入るのは「管理権者の意思に反して立ち入る」ことになり建造物侵入罪にあたる。姫ちゃんを外見で男子と見やぶるのは難しいし、個室だからばれることはないだろうが——。むしろ、男子トイレで立って用を足していればそのほうがびっくりするだろう。「まあ、しかたないな」というのが蒼介の感想であった。

「お兄ちゃん」

 蒼介が、姫ちゃんが通う高校の制服を思い浮かべて、制服姿も可愛いんだろうなあとか、いや制服は男子なんだとか、学校では男子トイレを使っているんだろうなあとか、とりとめもないことを考えていると、トイレの前に衝立のようにある塀から姫ちゃんが顔を出して手を縦に振った。
 近寄ると、手を取って個室へと引っぱって行くので、蒼介は人目がないかキョロキョロとあたりを見まわした。
 トイレの内も外も人気はない。
 狭い個室にふたりで入った。

「……お願いがあります」

 うつむいたまま姫ちゃんが小さく言った。
 そして、目をつぶってゆっくりと顔を上げた。
 蒼介の服を掴んだ手が震えているように感じる。
 デートの終わり際である。なんとなくそんな雰囲気にはなっていた。
 蒼介は、拒否できない状況だと思った。冗談でかわすようなことももちろんできない。
 そして、また姉の言葉が脳裏に浮かぶ。

 ——女子のほうからお願いされたら断るのは恥をかかせることになる。そしたらつぎはないと思え。最悪、女子のネットワークで悪い噂が広まるぞ。

 今回の場合、女子かそうでないかはおそらく関係ない。悪い噂を広められるのもどうでもいいことだ。踏み出すか踏み出さないかの問題はべつのところにある。

(ファーストキスの相手が、男)

 あとで人生を振り返って後悔するかもしれない。
 しかし、今ここで姫ちゃんの気持ちに応えなければ、やはり後悔するに違いない。
 なにか言いたそうに少しだけ開いた口。
 それは、これまで蒼介が雑誌で見たどんなグラビアアイドルのどんな仕草よりも可愛らしかった。もはや、男とか女とかを超越しているとさえ思えた。その唇はほかの誰でもなく蒼介の唇を待っているのである。
 蒼介はもう深く考えることをせずに、ゆっくりと顔を寄せ唇を合わせた。
 初めての感触だった。
 服を掴んだ姫ちゃんの手に、ぎゅっと力が入るのを感じた。
 姫ちゃんが背伸びしてさらに唇を押しつけてくる。
 小さく開かれた口の隙間から舌が伸びて、蒼介の唇をチロリと舐めた。
 姫ちゃんは初めてではないのだろうか。
 意外に積極的なので、そんな疑問を抱きつつ、蒼介もたどたどしくそれに応えた。
 だんだんと大胆に舌を絡ませ合い、お互い十分に感触を味わったあとでどちらからともなく唇を離した。
 ふたりとも頬を赤くしてぼんやりとしている。
 目が合うと、姫ちゃんは恥ずかしそうにうつむいた。上気した頰と唾液で濡れた唇が色香を数倍に引き上げていた。
 キスの興奮によって蒼介のズボンの前はパンパンに張りつめていた。
 姫ちゃんの掌が蒼介の胸からゆっくりと降りてきて、そこをさする。そしてその形を確かめるかのように、指で挟んで上下に動かしながらぐっぐっと力を込めた。
 蒼介はドギマギしながら固まっていた。
 姫ちゃんは相変わらず下を向いたまま、蒼介の両肩に手を乗せるとグイグイと押し下げようとした。
 座れということのようである。
 蒼介はされるがままに洋式便座の蓋の上に腰を下ろした。
 姫ちゃんは蒼介の足の間の床に直接膝を着いた。
 そして、カチャカチャと音を立てて、蒼介のズボンのベルトを外しジッパーを下げ、パンツの中から硬くなったモノを引き出した。
 姫ちゃんが黙々と事を進めるので、蒼介はなにも言えなかった。キスによって完全に勃起してしまったので、これからされることへの期待感は大いにある。
 「相手が男である」という問題は常に頭の隅にあるのだが、だからといって姫ちゃんの行動を妨げるようなことはしない。下半身の欲求に負けていると言えばそれまでだが、姫ちゃんの好きにさせたいとも思った。
 よくわからないが、姫ちゃんには「こうしたい」という欲求というかプランのようなものがあるらしい。ならば、もうすべて任せよう。
 キスをしただけで勃起していることを、蒼介は恥ずかしいと思った。
 初めてのデートはもっとプラトニックなものであるべきだという考えがあった。姫ちゃんのことを好きなのと肉欲はべつなものでなければならない。「好きだからセックスする」のと「セックスしたいから好き」というのは、外見上は区別がつかなくてもまったく違うものなのだ。
 だが、自分が姫ちゃんに欲情していること、それ自体は姫ちゃんにとっても喜ばしいことではないか、とも思った。なぜなら、姫ちゃんが自分のことを気に入ってくれているのは、自惚れの分を差し引いてももはや明白である。その考えを裏付けるように、姫ちゃんは蒼介の硬くなったモノをさすりながら、小さく「嬉しい……」と言った。そしてその先端にキスをした。
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