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四月篇

第18話  修羅場になりかねない奪い合い

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「ふふふ……」

 と、敦也を堪能している唯は、思考回路が停止していた。

「あっちゃん、なでなでしてください」

 と、敦也に対して、甘えてくる唯。

「いや、もうそろそろ、下に降りないと、誰かが呼びに来るぞ」

 と、敦也は唯に言った。

「いいですから……。ほら、右手を頭に載せて……」

 唯は、敦也の右腕を動かして、右手を自分の頭に載せる。

(唯姉、完璧に壊れている。まぁ、こうしていると、猫を撫でている感じで、背徳感があるのは否定できないが、これは不味い。どんどん、エスカレートしている!)

 敦也は言われるまま、唯の頭を撫でた。

 すると、いきなり部屋のドアが開く。

「唯。もうお昼だよ。いつまで部屋に…いる…の……」

 と、ドアを開けた里菜は、休日の昼間から姉弟でイチャイチャしている二人と出くわす。

「…………」

「…………」

「ふふふ……」

 敦也と里菜は、目が合う。

 だが、ただ一人、唯だけが自分の世界に入っている。

「いや、これは……」

 敦也は弁明しようと、里菜に話をしようとする。

「ズルい……」

「え?」

 頬を膨らませる里菜。

「唯! な、なんで、あんただけ、いい思いをしているのよ! 私に代わって‼」

 と、唯を敦也から引き離そうとする。

 自分の世界から戻ってきた唯は、敦也から離れようとしない。

 当の本人である敦也は、両手を唯から放す。

「嫌です! これは、私のご褒美なんです‼」

「何がご褒美よ! この、むっつりスケベ女‼」

「むっつ……」

 里菜に言われて、唯が、ガーン、と心を打たれた表情をする。

「何をどうしたら、そんなご褒美になるのよ! それと、早くお昼ご飯を食べないと、お母さんが、料理を下げちゃうよ!」

「料理よりもこっちがいい……」

 もう、顔がとろけている唯の暴走は、里菜でも中々止められない。

「いいから、早く、こっちに来て!」

 と、里菜が、唯を引っ張ると、体勢が崩れる。

「うわぁ!」

「きゃっ!」

 里菜の上に唯が覆いかぶさって、二人は床に倒れた。

 敦也は、ゆっくりと立ち上がって、二人に駆け寄る。

「だ、大丈夫? 唯姉、里菜姉?」

「だ、大丈夫、大丈夫?」

「私は重いわよ! 唯がのしかかっているんだから!」

 二人は、真逆の回答をした。
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