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四月篇

第21話  夜更かしは程々に

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 リビングで、敦也は、スポーツ観戦をしていた。

 深夜のリビングは、誰もおらず、一人で見たいテレビを存分に楽しむことができる。

 自分の部屋で見ると、隣の部屋で寝ている唯の睡眠を邪魔してしまう。

 ここ、リビングなら音漏れを気にしなくてもいい。

 試合開始は、夜中の一時からだった。

 暗い部屋の中、ずっと、試合を見ていると、敦也に眠気が襲ってくる。

(眠い……。解説だけ聞いておけばいいか、大体の想像はできるし……)

 敦也は、ソファーの上で横になりながら、目を閉じた。



 夜明け前——

 時刻は、午前四時半。

 リビングに敦也以外の人影が現れた。

(テレビ点けっぱなし、一体、誰なの? こんな事をしているのは……)

 テレビの画面は、現在、テレビショッピングをやっている。

 ソファーに近づくと、その人物は敦也が、ソファーで寝ていることに気づく。

(なるほどね。夜中、テレビを見ていたってことね。寝落ちか……)

 リモコンを操作して、テレビを消すと、その人物は、敦也に近づいた。



 気持ちよく、そして、柔らかい。心地よい感触がした。

 敦也は、夢の中で、気持ちよく寝ている。

 無意識に右手が、その柔らかい感触を鷲掴みする。

 ムニュ!

(柔らかい。枕って、こんなに柔らかかったっけ? こんなにも弾力があって、手触りがいい)

 ムニュ、ムニュ。

 何度も揉むが、敦也は、今、自分が何をしているのか、理解していない。

「んっ! あ、あっ!」

 と、喘ぎ声が聞こえてくる。

(あれ? 声が聞こえてくるんだ? ああ、そうか、テレビ点けっぱなしで寝たから、テレビの音か、早く、消さないと……)

「あ、敦也……。そ、そこ……」

 と、誰かが、敦也の名前を呼ぶ。

(今、俺の名前を呼んだような……)

 敦也は、重たい目蓋をゆっくりと開ける。

 視界が広がり、目の前には、なぜか、人肌というか、布越しで感じる胸の感触だ。

 そして、今、自分の右手には、誰かの左胸を鷲掴みしている。

(これって、もしかして……)

 敦也は、不味い事に気づく。

「んんんんっ!」

 敦也は声を上げようとするが、なぜか、この抱き枕らしきものから離れられない。
「あれ? 敦也、起きたの?」

 と、その人物は、敦也が目を覚ましたことに気づく。

「ぷはぁ! 里菜姉。こんな所で、何をしているんだよ!」

 敦也が里菜に訊く。

「何って、添い寝。敦也が、ソファーで寝落ちしていたから風邪ひくと思って……」

 と、里菜が嬉しそうに言う。

「それはどうも。——でしたら、そろそろ、開放してくれない?」

「だーめ。もうちょっと……。家族が起きてくるまで、このままずっとよ」

 そう言って、里菜は敦也から離れなかった。

「————‼」

 敦也は思う。

 油断していると、姉の方から仕掛けてくると——

 望んでいないことを相手は、欲望のまま、押し付けてくることに。
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