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彼はもう動かない

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 その時、ふと気が付いた。心にほんの少し余裕が出来たからかもしれない。辺りを見渡すと、各焚火の傍に、木の骨組みが作られており、そこに葉が乗せられていた。まるで簡易なテントだ。まだ未完成ではあるが、完成すれば数人は入れるようになるだろう。

(いつの間に……)

 少しづつだけど進んでいる事を確かに感じる事が出来た。俺は眠気に逆らえずにそのまま目を閉じた。しばらくして俺はふと目を開いた。いつの間にか寝ていたようだ。辺りはまだ薄暗い。和の見張り時間らしく、彼女と目が合った。

「どうしたの?」

「ちょっとトイレに行って来る」

「うん、気を付けてね」

「分かってる」

 トイレは皆で場所を決めている。大と小、男女で分けている。俺は迷わずに小の方へ向かっていく。茂みを超え、目の前を見ると何かが立っていたので、俺は思わず声が出た。

「うわぁ! ……くろがねっ?」

「ちっ城詰じょうづめか。驚かせるんじゃねぇぞ」

「わ、わりぃー……」

 ふと下を見ると、女子の鎧塚よろいづかがしゃがんでいた。お互いに硬直し、目を合わせ続ける。ハッとした彼女はうろたえながら慌てて木陰に隠れた。見間違いでなければ、今彼女は服を着ていなかった気が。

「え? 何を……」

「ただの水分補給だ。この方がお互い助かるだろう?」

「あっ、え? あ、ああ! そ、そうなんだ! え? あ、確かに還元するのは良いよな! サバイバル極意、無限水分補給って所だな! はははは!」

 今の発言を思い返すとおかしなこと言っていた。動揺していたのだろう。反省だ。

「ふん、面白い奴だ。お前も鎧塚のを飲むか? 旨い肉の礼だ」

 木陰から動揺した高めの声が聞こえる。

「え!? いいい良いよ! お、俺は大丈夫! 兎に角、誰にも言わないから! じゃねー!」

 俺は急いでその場を離れた。俺は決められた場所で小便をした。この辺りの異臭は仕方ない。しかし、それにしてもこの解放感。アレをしまうとさっきの光景が脳裏をよぎる。

(……クラスメイトか)

 俺は頭を軽く掻きむしりながら焚火の方へ戻った。横になって和を見ていると首をかしげる。

「何かあった?」

「え? い、いや! 別に!」

「ふ~ん。ならいいけど」

「あっ、早いけど見張り交代するよ! 何か目が覚めちゃってさ!」

「いいの?」

「良いよ良いよ! おやすみ和~」

「うん、ありがとう。おやすみ、あき」


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