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彼はもう動かない

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 大胆にも鉄は桃地の件を無視して、そう言い放った。しかし、誰もそれに突っ込まない。何故ならここにいるのは仲間だ。。もしそういう能力を隠していたとしても、鉄の言葉を聞いて名乗り出るはずだ。


「この状況で他人から恨みを買ってまで、それを隠す理由は何だ?」

「それはっ……」

 気が付くと皆は冷静さを取り戻してた。もう秋元の言いぶんは通らないだろう。そのまま鉄はジッと秋元の眼を見ていた。いや、その場の全員が秋元を凝視していた。彼が固まっているので先に鉄が口を開く。

「後、お前さ……」

「な、何だよ……」

「大事なルールを忘れて無いか?」

「!?」

「それを知っていて、この段階での間引きに拘る理由でもあるのか?」

 鉄は今まであえてそれを指摘しなかった。ずっと秋元の言動を観察していた。

「ぁ…いや……」


「……実はお前こそが……を隠してるんじゃないだろうな?」


 その圧を前に、秋元は無意識のうちに半歩、後退りをしていた。

「は、はぁ!!!? 何だよそれ!! しらっ……いっ、意味分かんねぇ!! な、何も持ってねぇよ!!」

「……なら生き残れるように黙って協力しろよ……屑が……」

 最後に鉄は一条の方を見た。すると彼は黙って顔を反らした。佐久間はその一連のやり取りを複雑な表情で見ていた。鉄に近づきながら愛丘が感心した様に言う。

「助かった、鉄君。こう言っちゃなんだけど意外だった。君も色々考えてたんだな」

(おい! 一言多い!)

「ああ? 気安く話しかけてんじゃねぇよ」

「悪かったね。この状況で素晴らしく冷静な判断をした君に……是非ともその秘訣を訊こうかと思って」

 心なしか愛丘の瞳が怪しく光っていたように見えた。

「ふん、冷静な判断の秘訣ねぇ……そりゃ適度な水分補給だろ」

 そう言って鉄がこっちを見た。俺は勢いよく顔を反らした。近くにいた鎧塚の顔が真っ赤になっていたのが見えた。愛丘が不思議そうにジッと俺を見ていた。

(やべぇ……何て説明すれば良いんだ……ていうか言わないって約束したしな)

 俺は愛丘の鋭い眼差しを見て決断した。二人になったらストレートに話そう。そして、後で鉄に謝ろう。

 ひと悶着はあったが、最後に佐久間が言葉を付け加えて、この事件は沈下した。








☆☆☆☆☆☆

軽く登場人物

かんなぎ ほたる    《毒見どくみ》 
根本ねもと うい   最初に獣の肉を口にした人
鎧塚よろいづか こよみ 《通信》

リーダー:佐久間
副リーダー:愛丘
不良:鉄
先生:古川

☆☆☆☆☆☆

死亡:

鳳 将史 
職:オラクル
能力:かまいたち

大竜だいりゅう 苦久くく
職:不明
能力:雷術士らいじゅつし

花糸かし 灰界はいかい
職:不明
能力:糸使い

桃地ももち 阿奈あな
職:不明
能力:水巫女みずみこ

丹生にぶ ぴかり
職:不明
能力:ソーラー


離反者と追った者たち(生き残り):
かん 供音ともね
刀野とうの きり
原樹はらき たん 
※刀野が助けを呼びに行っている間、崖に残って石を投げていた。

宝剣
田村
不死原
後藤
松本

生存者:36名

☆☆☆☆☆☆

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