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奇跡

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【四日目の朝】

 俺たちは何時もの様に水源の探索に向かった。参加人数は12人になっていた。拠点組も脱水症状が増え続ける。参加している者も出発前から疲労していた。

 今回は方向をずらしても元に戻るため、効果的で無いのでやり方を変えた。この体調で四方に広がっても水源は発見できないと判断し、6人づつに別れ二方向に進む事にした。一組当たりの人数を増やし、探索時間も増やす作戦だ。

 俺は要と一緒になった。しかし、会話は無く黙々と進んで行く。というより、皆歩く事で精一杯だった。数分歩いた時、突如獣が現れる。

「最悪だ……」

 あれ以来、遭遇していなかったので油断した。体調不良から正常な判断が出来ない。かなりの近距離まで接近を許してしまったようだ。

 その獣はぱっと見、狼に見えるが毛は無かった。爬虫類の様に硬そうな皮膚。尻尾が異常に長く鞭の様にしなってした。

 そして、何よりきつかったのが、三体いた事だ。三方向から挟まれていた。こちらが次の行動を起こす前に襲い掛かって来た。萩原が力を振り絞って勢いよく前に出る。

「任せろ……ッ」

 絞り出すようにそう言うと、目の前の獣が石になった。

(凄い……これならいける!)

 同時にドスンと音が聞こえた。

「萩原!?」

 石となった獣と共に、彼も倒れたのだった。

「くっ、要。行くぞ!」

 掛け声と共に俺と要はそれぞれ獣に突っ込んだ。獣は細長い尻尾で上から叩きつける様に振るった。俺はそれを避けるが、バランスを崩してしまう。

 間入れずに接近して来た獣が鋭い爪が光る前足を突きだしながら飛び込んで来た。俺は木の杖を前に出して盾にしようとするが、それは尻尾で弾かれた。

「しまっ」

「許せ城詰」

 そこであの時の光景が過った。獣が地面に伏したのだ。だが俺よりも白竜がその状況に驚いていた。

「獣だけが倒れて……俺の魔法の影響がない? ……まさか、そういう事か」

「ああっ、だから手加減は要らないッ」

「好都合だ」

 次の瞬間、何もない所から雷が発生し、近くの俺ごと獣を感電させる。そして、獣だけがドスンと横に倒れた。しかし、まだ獣に息があった。すぐに杖を拾って地に伏せた獣の喉を貫いた。

(もう一体の獣はッ)

 振り向くと、獣が全体的に溶けていた。細かい表現は難しいが、簡単に言うとグロテスクだった。そして、腐敗臭に近い異臭が漂う。

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