異世界オオカミさん～クラスメイトと地球へ帰ろう～

崩れゆく偽りの

60

　数時間後、女子の高い声が響き渡った。日も暮れていて、その声はよく響いた。急いでその場所に向かうと数人と合流した。

　声のした周辺に着くと、天羽と大神が腰を抜かしていた。

「あああ、あ……あれッ！」

　彼女等が辛うじて指を差す方向を見ると、そこには血だらけの五鬼継と狼の獣が横たわっていた。そして、辺りは刃で切ったであろう痕跡が無数にあった。その痕跡には所々に血が付着していた。

　俺の脳裏にある光景がフラッシュバックした。怖い。それ以上確かめるのが、この上なく恐ろしい。要が震える声を絞り出した。

「……み、未来？」

　愛丘と佐久間、先生もその声と同時くらいに駆け付けた。要が固まっていたが、ハッとして近づいた。

「未来ッ！？」

　要が彼女の体を揺すり続ける。愛丘が諦めた表情で腰を落とした。

「血が……宮本君、失礼するよ」

　そう言って愛丘が彼女の呼吸や脈を確認する。その頃にはクラスメイトがほとんど集まって来ていた。

「……宮本君。こんな事は言いたくは無いんだが、もう……死んでる……彼女は……」

　それを聞いた要は声を震わせて叫んだ。

「は？　なに、言ってやがるッ。どけよ愛丘ッ！」

　彼を突き飛ばすと、要は心臓マッサージを始める。

「未来！　未来ぅ！　頼むから目を開けてくれ！」

　そこで俺は思い出した。

「委員長！　《言霊》で！」

　それにハッとした彼女はすぐに実行してくれた。

「五鬼継さん起き上がって！　五鬼継未来ッ、すぐに起きなさい！　息をしなさい！」

　彼女は何度も叫ぶ。自分の能力の限界を知っていても。無理と言う言葉を飲み込んで、ひたすらに叫んでくれた。鮫島も血を使い。彼女の体に文字を書く。治癒、完治など生き返る事を願った文字を綴っていく。

　それでも何の変化も無かった。和が震えながら声を出した。

「ぁ……ぁぁ……うそ……みーちゃん？　うそ……嘘、だよね……？」

　しかし、彼女は目覚める事は無く。要の叫び声が響くだけであった。

　そこで足を振るわせて耐えていた和の意識が途切れた。俺は和を支える。その時、俺たちは何も言えなかった。出来なかった。

　要は必死に力を入れて蘇生を試みる。しかし、どれ程時間が経とうが彼女は目覚める事は無かった。佐久間が要の肩に手を乗せる。

「悲しいのは分かる……しかし、五鬼継さんはもう……休ませてあげよう……」

　その言葉が無ければ要は永遠にそれを止めなかっただろう。その時、要が大声を出し泣き崩れた。まるで叫んでいるようにも聞こえた。俺は要のそんな姿を初めて見た。

　色々な感情が混じり、固まって動けなかった。友人の死と、自分の情けなさに叫びたかった。自然と涙が頬を流れる。でも、今は和を支えなければ。

　要が怒りのまま咆哮する。


「不死原ぁぁあ！　奴は何処だぁぁあ！！　未来と一緒に居たのに何でッ！」