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崩れゆく偽りの

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 いつの間にかここの周辺を調べていた愛丘と先生が向こうの茂みから出て来た。

「不死原君も……死んでる。状況から見て、そっちの獣にやられたみたいだ……」

 その時、怒りの表情で叫んでいた要が目を見開いた。怒りの矛先を完全に見失った。いや、正確には後一人存在する。要が拳を握りしめると血が滴り落ちた。

「……ッ……そんな……っ」

 再び要が叫び続ける中、俺たちは暫く言葉を失っていた。みーちゃんは昨日まで俺たちと一緒に笑っていたはずなのに。最初の頃とは違うはずなのに。この世界に順応して来たはずなのに。

「なんで……ッ」

 やっと絞り出せた言葉がそれだった。愛丘が淡々と告げた事実は俺たちをどん底に叩き落とした。


【拠点】

 帰ってから愛丘が動き出す。彼は木材を使い大急ぎで棺桶を作っていた。保存する術が無いからだ。木材をパズルの様に加工し、それを組み合わせ、立派な箱を二つ分用意した。

 拠点からは遠いが。見晴らしの良い場所に二つの棺桶を並べていた。先生と佐久間、愛丘が葬儀の準備を進めてくれた。

「みーちゃん……っ……私たちはずっと友達だからねっ。絶対に忘れないからッ……おやすみ……」

 和のその声を最初にすすり泣く声が聞こえて来た。あの時は何が何だか分からなかったが、少し時間が経ったその時、皆は等しく涙を流し、お別れの挨拶をした。


 そして、穴を掘った後に地面へと埋めた。


 それ以降、要は住居に力無く転がっていた。どんなに声をかけようとも動かない。佐久間が俺たちの事を心配してわざわざ来てくれた。彼も要に話しかけたが反応は無かった。彼は俺たちに気を使った様に言葉をかける。

 不死原の件で鮫島たちの方にもそういう言葉をかけに行っただろうに。佐久間は心が強いと感じた。

「暫く一人にしてあげよう……宮本には気持ちを整理する時間が必要だ」

「すまない……本当は俺が支えてやらないといけないのに……何時もありがとうな、佐久間」

「俺も城詰には助けられてる。お互い様だ」

 この事件は皆の心に大きな穴を空けた。しかし、前に進まなければならなかった。関係が浅い者は何時も通りを装った。

 もちろん悲しんでいた。しかし、それでも生きていくために、自分達が頑張る時だと気を引き締める。皆には感謝だ。特に愛丘。誰かが言わなければならない事を言ってくれた。彼にもお礼を言った。

 俺と和は別の住居に居る。要の様子が見える距離に作った。和は呟く。

「静かだね……」

「不思議な感じだよ……今でも声が聞こえて来る……」

「うん、楽しかったね……みーちゃんと……一緒にっ……」

 和が声を詰まらせたので俺はそっと抱き寄せた。落ち着くまで待つ。いつの間にか和は寝ていた。ゆっくりと横に寝かすと、みーちゃんの体操服を上にかけた。

「おやすみ……和……」



【彼の行いを知らない。故に彼は正気】

 皆が寝静まった頃、拠点から離れた地に一人の男が居た。何やら土を掘り返していた。彼は息を切らして、疲れ切っている。掘り進めると硬い物に当たった。それは棺桶だ。

「今の気分はどうだ? 悔しいか? 俺を見下すからこうなるんだッ」

 蓋を開けると彼はスマホで写真を撮り始める。様々な角度から、態勢を変えたりして何度も撮る。

 次に服を脱がし、それに覆いかぶさる。呼吸が短くなった彼はしばらくして満足した笑みを浮かべた。最後に数枚写真を撮る。そして、棺桶を再び埋めて、元に戻すと拠点へと戻った。


 彼の名は秋元。


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