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初めからあったモノ

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【解散後。会話】

 住居に帰って来ると、俺と要と和は久しぶりに顔を合わせた。

「要……もう大丈夫なのか?」

「ああ……心配をかけたな……二人ともありがとう」

「本当に良かった……」


「彰人、鉄の話……どう思う?」

「……裏切者か……もしそれが存在するなら、人狼ゲームに近い事をさせられている……」

「やつの言った通り……ただのサバイバルじゃ無かったってことか」


 和が尋ねて来た。

「人狼ゲームって?」

「大雑把に言うと、人狼は市民に別れる。人狼は市民に紛れて、市民を全滅させる。市民は逆に人狼を暴いて倒すゲームかな……」

「俺たちは三年間生き残るって事しか知らされて無い。人狼なんて本当にいるかは不明。だから彰人は似たゲームって言ったんだよ」

「……そうなんだ……」


「それで、彰人から見てもその可能性は高いのか?」

「まだ半分半分だと思う……」

(もし狼がいるとしたら、民側にルール分からないのは理不尽だ……何で鉄は公平と言ったのか……)


「秋元の方はどうだと思う?」

「んー、難しいな。要はどう?」

「あいつは鳳と仲が良かった気がする……でも、あいつは二日目、鳳が居なくなった事に気が付かなかった……少し違和感はある」

「確かにな……でも、サバイバルに耐えきれずに心が壊れた様にも見える」

「……確かに……」

「大丈夫か、秋元……」

 少し重い雰囲気になった時、和が空気を変えようと、話題を変えた。


「あ、そうだ。要の分の夕飯を貰って来る! 栄養を取らないと!」

「そうだな……ありがとう……」

 和は笑顔で返すと外に出て来た。

 要が何時もの様に話してくれて、俺は安心した。だが、同時に引っかかる部分もあった。表情が時折変だ。変と言うのは何というか。とても恐ろしい事を考えている、そんな感じだ。

「なぁ、要……もし、もしなんだけどさ…………ぁ、いや、何でも無い」

「……彰人……一つだけ言っておきたい。俺は……自分の信じた事をする……」

 やっぱり変だ。要のそんな冷たい表情は見たこと無い。まるで別人を見ている様だ。復讐、か。

「信じた事……?」

「もし……いや……俺は……未来の二の舞はごめんなんだ。彰人や和を守りたい……敵が獣だろうが何だろうがな」

 その瞳に危うさは無く、何時もの様に真っすぐな眼差しだった。少し考えすぎたか。

「そっか……! 良かったよ。俺も丁度同じ事を考えてた」

 要が拳を突きだして来たので、俺もそれに拳を合わせる。すると自然と笑いが込み上げて来た。そんな時、和が食事を持って来た。

「なーに? 二人とも何で笑ってるの?」

「いや、ちょっとな」

「教えてよ~。私だけ仲間外れー?」

「違うってー、そうじゃ無くて。そのー何て言うか……皆で頑張ろうって話!」

「え~? ほんとに?」

「もらいっと」

「あっ!」

 その時、要が和から食事を奪った。食事を口に運ぶ要を見て、彼女は呆れながらも微笑んだ。俺は久しぶりに大笑いしながら過ごせたのが嬉しかった。


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