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初めからあったモノ

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住居:鮫村の宝竜時

宝剣
白竜
清時
田村
鮫島
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 佐久間と宝剣の住居は別れている。

 最近住居の建設は一段落したところである。室内は四畳から十畳ほどで、仲の良い四から六人ほどで生活している事が多い。

 他の住居とは距離がかなり離れているが、それは後ほど立派な家を作るためにわざと離している。現在の建物の構造は竪穴住居に近い。水の侵入を防ごうと周辺の少し土を盛り上げたり、石や木を使って工夫している。

 換気出来る構造であるため室内でも火を使える。今は部屋を暖めるのに使う。近々鍋を作り、住居内でもお湯を沸かせるようにする予定である。

 料理は主に専用の建物を使っている。住居ごとに料理を作るか否か。それは後々考えるらしい。数名は手料理云々……では無く、料理が下手な者達が可哀そうだから、今のままが良いと言い張っていた。

 最近は床に木材を下に敷いたり、藁の様な草を敷き詰めベッドっぽいのを作ったりと、個人やグループで家の改装を色々楽しんでいる様だ。



 普段は明るく寝る前も賑やかな宝剣たちも今回は少し静か。清時はまだ怒りが収まらない様子だった。

「くそっ、秋元のやつ。言いたい放題言いやがって……」

 宝剣が自身も反省しながらそれを諫める。

「余り悪く言うな……この環境に馴染めないのは普通の事だろ」

「そうかー?」

「個人的には、友達がいるのが大きい。確かあいつは転移前、親しいのは鳳くらいだったろ? 同じ立場だったらと思うと、少し……分かる気がする」

 清時が宮本の事を思い出しながら少し静かになる。

「それもそうだな……」

 鮫島がふと思い出す。

「そういえば今回一条は大人しかった」

 清時が乗って来た。

「あいつ、最初から非協力的だったのにな。今回は珍しいな」

「一条ってどういう奴だっけ?」

「知らん。転移前も余り誰かと一緒にいる奴でもなかった。体育……というか授業で班が一緒になった時とか、多少話した事あるくらいだな」

 皆もそれに頷いて同意していた。清時が言う。

「なぁ、お前等。裏切者がいると思うか?」

 田村が困惑しながら答えた。

「分かんねー。誰も見てないっぽいしな~」

「やっぱ鉄の妄想か?」


 鮫島が付け加える。

「でも愛丘も同じ線を疑ってるくさいぞ?」

 田村は疑問を投げかけた。 

「でもさ。親しい友達じゃなくても、同じクラスメイトを殺せるか? 俺は絶対できん」

「確かにな。二日から五日目あたりで死にかけたけど、皆協力して乗り越えたから今がある訳だしな」

 そこで、鮫島が今日の出来事を思い出して口走った。

「くそー、田中の反応が気になるっ」

「あの反応。恐らくヤバイ何かを見たんだろうなー」

 宝剣と白竜がそれを止める。

「おいおい、変な勘繰りは無しって話だろ? やめとけ」

「特に田中の方はな。基準、いや、判定と言えば良いのか……とにかく能力の範囲内に引っかかると不味い。どちらにしても結果は一か月後に出るから今は落ち着け」

「わりぃ、つい……」

「今は生活を良くするために頑張ろう」

「だな!」

 うだうだ考えるのは自分達らしくないと、ポジティブに思考を切り替える。


 一番森側に近い位置に建てられた住居。ただ森と隣接してる訳で無く多少離れている。

 根元の能力範囲を基準に計算して作られた住居である。ここには木で作った笛が用意されていて、緊急時に鳴らす。佐久間たちの住居が彼女等を守れるような近い位置にある。

 田中のいる住居は、拠点の中心よりにあり、守りを堅めに意識している。古川先生もいるので心強い。

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住居:後藤寮

後藤
円城寺

松本
根本
鎧塚
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「それにしても今日の話の内容、ビックリだよね……」

 松本がそう言うと、円城寺が後藤に聞いた。

「ねぇ、あや。本当に裏切者がいるって思う?」

「居ない居ない。あいつらっていうか……皆ほとんど学校の時のままだし。変わって無いよ。考え過ぎだって」

 何人かのいたずらっ子の様な男子を思い出して、呆れながら言う。

「そっか。あやがそう言うと安心できるね」

「ほんとほんと」


 鎧塚が恐る恐る言う。

「でも、鳳君や秋元君、一条君は何かイメージと違ったな……それと城詰君も」

「「城詰君は絶対にないって!」」

 円城寺と巫は息を揃えて言った。二人は目が合うと気まずい表情をした。

「あっ! いや、そういう意味じゃ無くて、何というか……非日常に居るって感じがして……」

「あ~、確かに。城詰君があんなポテンシャルを持ってる何て夢にも思わなかったな」

 後藤がそう口に出し、うんうん、と頷きながら感慨深い様子になっていた。そこで松本が、一人お休みモードに入ろうとしている根元に話を振った。

「根本さんはどう思う?」

 彼女は一瞬だけ明らかに嫌そうな表情をした。

「……知らないよ、そんなの」

「えー、何か気が付いた事とかないの? 何となく怪しいとかさぁ」

 しつこいので彼女は適用に答える。

「鉄は怪しんじゃないか」


「た、確かに……鉄君、赤点だったのに凄い考えてるよね……」

「それっ。話聞いてると妙に納得しちゃうんだよね。常に赤点だけど」

 それを聞いて皆が悩んでいる中、そこで後藤は意外な反応をした。


「あいつは多分大丈夫。何度か話したけど、思ったより害はないかな。素直に言う事聞くし」

 根本は心の中で、そんなはずねぇだろ、とか思っていたが口に出さない。

「……あや、凄すぎ……それを言えるのはあんただけよ……」

「でも、鉄君のおかげで場が収まることもあるし……よく分からないよねー」


 根元は何かを思いつき、話を変えた。

「まあ、個人的に気に食わないのは北川だな」

 円城寺が素直に聞いた。

「北川さんが? 何で?」

「普通にうざい。昔からネチネチとしつこいんだよ、あいつ」

 そう言って彼女は背を向けて寝る体勢に入った。その遠回しの皮肉にも聞こえる言葉を出されて会話が止まった。

 少し空気が微妙になったが、後藤が切り替える。

「さ、さっ、明日も早いし皆も寝よっか」

「う、うん、そだねっ」

 彼女たちも明日に備えて眠りに着く。





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