ワイズマンと賢者のいし

刀根光太郎

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最初の試験

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 アイナの前にまた一人立ちはだかる。
フィンリーだ。両手を広げて言う。

「止まってください! 加減を覚えた魔法を撃ちますよ! 
い、良いんですか! 本当に撃ちますよ!」

 行けそうな気がしたので、彼女は真横を普通に通り過ぎた。
フィンリーは情けない声を出しながら尻もちを尽いた。

 アイナは息を切らし始めた。
その時、背後から迫って来る影があった。
リルだ。

「むぅ……しつこい……」

(毎日鍛えてるからな。嘗めてもらっては困る)

 小さな球体を懐から取り出す。
薄い膜で覆われていて中身は液体のようだ。
それを口に放り込むと、再び力強さを取り戻す。
美味いモノでは無いらしい。

「ぅぇ……不味……」

 急に校舎を上り始めた。
完全に巻く気の様だ。

「ッ……」

 しかし、屋根に上った直後、
真正面から火の矢が飛んでくる。
それをギリギリで跳んでかわす。
着地後に火の球に囲まれている事に気が付いた。

「早い……無理っぽ……」

 避けるのは無理だと判断した彼女は、
懐に手を入れると小さな石を周辺に撒いた。
瞬間、屋上で大きな爆発が起きた。

 リルは遅れて屋根に上った。
だが、丁度跳んで降りているのを目視出来た。
直ぐには追わなかった。
小さな玉が無数に落ちていたからだ。
それが破裂して黒い煙が辺りを包む。

「煙幕っ……このままじゃ逃げられる!?」

 視界が戻る。急いで下を覗き込むが見失った。
どうしようか悩んでいる時、リルは気が付く。
フーが魔力を残していることに。
それを信じて追う。

 ようやく巻いたことを感じると。
膝を曲げて短く呼吸する。

(思ったより早かったな)

「どうして!!」

 転がりながら回避する。
ヒートシールドが五枚、
アイナを箱に閉じ込めるかのよう、
四方向と上からそれが狭まる。

 ギリギリで抜け出した彼女は、
息を吐く間もなく攻撃される。

「ワーム……炎……!!?」

 それに追われ、その場から急いで走り出す。

「ドーラゴーーーーーン!!!」

 角を曲がると目の前から現れたリルが、
よそ見している彼女を思いっ切り抱きしめる。

 驚いて高い声が出た。
今度は少し低めの声を出して、
拘束を解こうと頑張る。
しかし、蔦の様に伸びた炎が、
賢者の石を回収することで諦めてぐったりとした。

「何で取ったの!!」

「解析……決して取る気は……」

「それでも取った事になるの!!」

「ごめん……なさい……」

「もー、近くで見る分にはいいから……」

「……分かった……」


「それじゃあ友達になろ!!」

「友……?」

「一緒に頑張ろ」

「……うん」


「でもそれとは別の話で、
罰として一週間私の部屋を片付けてもらうよ! 一日十五分くらい!」

「重い罰……臭そう……」

「臭くないよ!」


 ノラが部屋に入る。
靴を脱ぎ、短い廊下を進むとピタリと固まる。
中央のベッドに見知らぬ人が寝ていたからだ。

「ま、間違えました。すみません」

「あってるよ」

 手前の机を見ると、
クッキーを食べているロロが行儀悪く座って居た。
リルはベッドから落ちていた。疲れていて起きない。

「……あの子。よく見るとさっきの」

「何かあれから仲良くなったみたい~。まあ良い子だと思うよ。
なんてったってリルだけじゃなくて私の所も綺麗にしてくれたし!」

 リルの机周辺は整頓されていた。
これにはノラもニッコリとした。

 しかし、問題があった。
先ほどまでは驚きの余り感じなかったが、
継続的な痛みで足をあげる。
花の細工を踏んでいた。
ロロの範囲は既に散らかっていた。

「なに?」

 何か言いたげな表情を感じ取ったのか、
ロロがストレートに聞いた。
しかし、ノラは諦めた表情になると、
何も、と答える。
その後リルを持ち上げベッドに乗せた。

「ほら、貴方もそろそろ自分の部屋に帰りなさい」

 眠そうに起き上がる。
ボーっとした後にリルのベッドに入った。

「そこ違う!」

「まあまあ、いいっしょ」 


(良い傾向だ。友達ならばアイナの部屋にも行くだろう……魔導具科の!!)


 アイナとラルクロはそれ以降、素早い動きをしなくなった。
正常に戻ったと言うべきだろうか。
何かのスイッチが入った時、我を忘れて動き出す、ようだ。


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