ワイズマンと賢者のいし

刀根光太郎

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最初の試験

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 順調に一週間が過ぎ去る。
食堂で昼食を食べていた。

『放課後、図書室に行こう』

(『もう全部読んだの!!』)

『まだだ。まだ制覇にはほど遠い……裏もあるからな』

(『また何十冊もー! 重いー』)

『ははは、重の魔法の特訓にもなる』

(『ほんと!!』)

『もちろんだ。効率は悪いがな』

(『……』)

『それよりも手ごたえはどうだ?』

(『ぅー……駄目、全然進んでない。こんな短期間で別の属性なんて覚えられないよ……』)

『覚えたての属性でノラと戦うのなら地、鉱あたりが妥当だな』

(『どうして?』)

『リルが火しか使えないのと、ノラが水と雷をメインに使っているからな』

(地や鉱も使うだろうが、水はリルと戦う時積極的に使うだろう)

『魔力で押せないなら、相性で戦うのが良い』

(『火だけで勝とうと思ったら?』)

『圧倒的な火力、繊細な技術、常に先を取る発想力、魔法を撃ち続ける持久力が必要になる』

(『ぜっ、絶対無理!!』)

『ははは、なら俺が見せてやろうか。何故なら俺はフールマンだからな』

(『ぅうう……やだ! 私が戦う!』)

(心が折れない……それもまた重要な要素だ)

 勝つにしろ負けるにしろ、死が絡んでないのなら介入したくない。今後の為にも経験を積んで欲しい。しかし、ノラと戦える力をこの短期間で……難しいな。


 ふと気が付くと、ラルクロが相席をしてジッと見ていた。

「あ……」

「ふふふふ。何かー……勝つために検索でもしていたのかな? もしかして……その……触っても?」

「い、いえー……ご飯が余りにも美味しくて噛みしめてました!!」

 急いでご飯を食べるとそそくさと立ち去った。

「残念ですね……」

 リルが居なくなったことでその後ろにいたマグナと目が合う。
ラルクロもそそくさと立ち去った。


 午後の授業が始まった。最初は復習で防御の練習からだ。その後に自由に組手を行う。リルは二、三回組手をした後に、ボーっとしていた。悩んでいるようだ。するとフィンリーが座って居たので話しかける。

「フィンリーはどんな特訓してるの?」

「僕ですか? もちろんジェイクと筋トレです! 何時か僕もあの筋肉を手に入れるんです!」

 腕を曲げるが相変わらず力こぶは無い。しかし、羨ましかった。自分の弱点を克服しようとしている事が。自分はそれすらも見つけられてない。

「頑張ってね!」

「はい!」

 そこで授業の終わりの鐘がなった。各自解散となった。皆は放課後の自主練習に励む。


「……はぁ~、どうしよう……」

 深くため息を吐く。

『アイナのが欲しんだが?』

(『また本を借りるの? ていうか今日は図書室に行くんじゃなかったの?』)

『気が変わった』

(『もーー!!』)


 アイナを探していると、芝生で日向ぼっこをしているのを発見した。曇により影が出来た事で丁度目を覚ました。

「あ、いたいた!」

「嬉しい……くれる?」

「あげない」


「……どうしたの?」

「ごめん、また本を貸して欲しいと思って」

「ちがう……元気ない……」

「え……?」

「友達……こまってる……」

 ジッと虚ろな瞳を向けて来る。その圧に思わず悩みを打ち明けた。


「そんなの……簡単……」

 その言葉に何を言っているのだと、リルは首を傾げた。

「魔導具……貸す……ルール的にも問題、ない……」

 リルは逃走劇の一部を思い出した。しかし、それは自分の望むモノなのか。

「気持ちは有難いけど、自分の力で勝ちたい」

「……変……杖は魔道具の一種」

「!? で……でもこれは……」

「リルの力……なる……」


「……わ、私は……」


『リル。竜を倒した時はどうだった? 力を借りる事は恥ずべきことだったか?』

(『違う……』)

『確かに個々の力は必要だ。だがそれは、今絶対に必要なものか?』

 リルの眼に力が宿る。

「……アイナ、魔道具を貸して欲しい」

「了……」

 暖かい日差しが差し込んだ。アイナは唐突にスヤスヤと眠りについた。


(……道を示す、か……予想よりも難しいものだな……)

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