かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第三章 ギルドの厄介ごと

第13話 緊張の糸

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 家主と憲兵の女性、ツィーディアが玄関で真剣に話している。ツィーディアは彼の普通さから通報はいたずらで、何の事件性も無いと判断をしようと思った時、壁の向こうから変な声が聞こえた。

「ツィーディアさん! 良いよ! もっと! フィニッシュだ! 憲兵最高っ」

 それを聞いた男は動揺を隠そうとするが顔に少し現れていた。

「……っ」

 しかもほんのわずかではあるが、女性の声も混じっていた。彼の心臓の鼓動が早まる。防音のはずが普通に声が届いていたのだ。ふと天井を見ると防音の魔具が

「なにっ!」
「どうした、急に大声で……それよりも今の、壁から聞こえた声は?」

「え? 何か聞こえました? 疲れてるのかなー。はははは」
「何かそこの壁の向こうから、いかがわしい声が聞こえた……しかも、何故か私の名前付きでな……憲兵とかも聞こえたしな」

「ひ、昼間っからお盛んですね……お隣さんも同名なんですかねー。不思議な事もありますねー」
「少し待ってろ」

 彼女は隣の玄関に行くとドアを叩く。出て来なかったので、腹を立てた彼女は魔槍を使用する。彼女から水色の雷が発生し、ドアに直撃した。

 しかし、ドアは飾りだった。板を使ってそれっぽく仕上げているだけの偽物で、そこの裏はレンガになっていた。その壁にはまったく傷ついた形跡がない。彼女は続けて槍を使って家の壁を攻撃する。しかし、結果は変わらない。

 それを見た男は滅茶苦茶だと思った。この憲兵の態度もそうだが、こんなにすぐに強行突破しようとする変わった人だった。

「私の攻撃が効かない……物体も魔法も防げる強力な結界か……何故こんな高度なモノがここに……」

 再び男の家に戻って来て彼女は言う。

「家の中を見せてもらおうか……」
「しょ、職権乱用だ……」

「何も無い時は責任は私が取ろう」
「ちょっと待ってくださいよっ」

「黙れ……そもそもこういうのは苦手だと言ったのだが……なのに上から命令でな……面倒だ。断るなら家ごと破壊するぞ?」

「いや……その……ええ?」

 彼は脅されて仕方なく彼女を家に招いた。彼女が壁を調べているのを見る事しか出来なかった。男はすぐに分かった。この憲兵は強い。迂闊に襲い掛かれば返り討ちになるだろうと。その時、カチっと音がすると本棚が動いた。男は口を大きく開けて驚きながら言う。

「ま、まさかこんな仕掛けがッ」
「知らなかったようだな……」

「もしかして……さっきのは不法侵入者がこの部屋に……ッ」
「可能性はある……だが……」

「ほ、他に何か?」

 トルゥーは少し違和感を覚える。通報があった家の男は、何事も無いかのように話をしていた。その様子から何も無いと思った矢先、隣から何かが起こっている気配がある。何か出来過ぎている気がしたのだ。

 そして扉を開けるとクロウと拘束されたプリシラがいた。男は先制して叫んだ。逆にクロウは何も言わなかった。

「あっー! あの顔は誘拐犯だ! 彼を捕まえてください!」

 トルゥーは状況を理解出来なかったが、部屋にいた怪しい男を捕まえるために部屋の中に入る。その瞬間、彼が部屋を閉じた。それに気が付くと彼女は扉を槍で攻撃する。しかし、結界が作動し攻撃は弾かれてしまった。

「貴様ッ」

「クククク、ばれてしまっては仕方ない。しかし、収穫だ。美女がまた手に入った。そこの女二人は俺が優しく調教するとしよう。その後で虚偽の報告をしてもらうぞ」

「……ちっ」

 トルゥーが魔槍と雷魔法も使いつつ何度も攻撃するが傷一つ無い。長くなりそうだと感じた彼女は先にプリシラを解放する事にした。

「どういう事か説明できるか?」

 ルーベンとプリシラが説明する。すると今度は脱出の方法を考える事となった。

「このままじゃ不味い……この部屋にいるだけで魔素が減ってきている」
「嘘、鎖からだけだと思ったのに……じゃあ、あの男は1人でこんな高度な魔法を作ったって事ぉ」

「それは分からん。今分かるのは接近戦は得意ではないだろうが……罠を仕掛けるのに長けているようだ」

 彼女の戦闘に関する観察力はかなりのモノだ。

「ところでツィーディアさんは何歳?」

 こんな時にもまるでブレない男に若干引きながらもプリシラは冷静に言う。

「それ、初対面の女の子に聞く事じゃないよね……」

「……18だが。それが何だ?」

「アハハ! 嘘だぁ。15くらいだよぉ。もしかして憲兵さんが年齢詐称してるぅ?」

「憲兵は15でもなれるだろう。俺が気になったのは魔槍を使いこなしている。もしかしたらと思ったが……ままならないものだな」

「? どういう事だ? 年齢に関係した脱出方法があったのか!?」
「プフフ。真面目に取り合わない方がいいよぉ。こいつただの屑だから」

「……なんかよく分からんが、無駄な事を聞くな」

「真面目な子だね。からかい甲斐がありそう。私が頭なでなでしてあげようかぁ?」
「お前は今の状況を分かっているのか……大人しくしていろ」

「プっ。やっぱり面白ーい。そうだクロウ。私とこの人どっちがタイプ?」

「…………」

「っ冗談でも良いから答えなさいよ……んーそうね。じゃあ三年後を想定してよ」

「え、じゃあツィーディアさん」
「はぁ? 何で? 真面目ぶった奴ってのは大体性格きついよ? チビだし」

「チビぃ……だとぉ?」

「じゃあそれ以外が要因なんじゃないか?」
「うーん。やっぱりむかつくね」

「……下らない事を言ってないで脱出の方法を考えろ……ん? クロウってもしかして……」
「俺の事を知っているのか?」

「思い出した。最低なゴミ屑野郎で有名だな」
「だよねー。知ってたー」

「嬉しいね。俺の名前は憲兵にも轟いているのか」
「落ち着いているから何か方法があるかと思ったが……絶望的だな」

「その胸は希望的だけどね」

 そう言いながらルーベンが胸をがっしりと触る。それにトルゥーが怒りの反応をした。彼女は槍の石突いしづき部分ですさまじい打撃を与えたのだ。

 その瞬間に吹き飛ばされたルーベンが扉に当たる。そこで女性二人が驚いたのは、彼が扉に叩きつけられるのではなく、結界ごと貫いて扉を破壊したのだ。それを見たプリシラが普通の声の大きさで言う。

「うわー筋肉狂暴女だぁ。怖いよぉー」

「今のはアレが悪いだろ……お前は何か私に恨みでもあるのか?」
「アハハ♪ 意外に怒るんだ。大した意味は無いよ。ごめんねぇ。私はこういう性格だからー」

 結界が壊されて驚いたのは二人だけでは無かった。男はそれを見てすぐに立ち上がり硬直していた。

「な、何故だ!? 結界が何でッ!?」

「それならそこの化け物憲兵さんが壊したよぉ♪」

 恨みがこもった低めの声と共に、扉から槍を持った鋭い目つきの女性がゆっくりと歩いて出て来た。

「く、来るなッ!」

 彼は近くの床で倒れているルーベンを持ち上げて人質にした。

「ちっ……本当に役に立たない男だ」
「う、五月蠅い近づくな!? 怪力女!?」

「しぬー助けてー」

「……仕方ない。私が人質になる。その男を離してやれ」
「だ、黙れぇ! 筋肉女とゴミ男を交換などッ、目に見える自殺行為だろうがッ」

「……ああ?」

 さっきまでの高めな声からは想像できないような低い声が出てしまった。何度も筋肉とか怪力とか言われた事についに我慢が出来なくなってしまった。それを聞いたプリシラは大笑いをしていた。するとルーベンが指を刺して言った。

「ツィーディアさん……そこに入ってる下着を粉微塵こなみじんにしていいよ」
「? この状況で何を言っているんだお前は……意味が分からん」

 それを理解したであろう男が発狂しだした。

「やめろぉぉおお! そこに触れるんじゃねぇぇ!!」

「じゃあ俺と下着を交換だな」

 トルゥーはそれを聞いて怪訝な表情になっていた。

「馬鹿かお前は。そんな事が成立するはずがない」

「くそっ……貴様……俺がどれほどの期間をかけて、完璧に、見つからずに! それを集めたか分かっているのかっ。香りの保存状態にだって気を配って高価な魔具の入れ物に!」

「聞きたいのはそういう言葉じゃないんだわ」

「な、何という邪悪じゃあくな存在か……おい、そこの怪物美人。そこに入っている下着を全て袋に入れてこちらに渡せ……この男と交換だ」

「……」

 トルゥーが何とも言えない表情で下着を集める。一方プリシラがゴミを見る目で見ていた。それは全部自分の下着だったからだ。

「いつの間にか無くなってる事もあったけど……最低最悪ぅ……」

 そして、ルーベンと下着は交換は無事に成立した。

 その瞬間、トルゥーが槍で彼を一突き。彼は下着を庇いながら避ける事に成功した。しかし、完全には避けきれずにズボンが破れてしまった。そこに居る全員が驚く。彼が女性の下着をつけていたからだ。

「なんだとッ……」

「……ぅわ……それって私のだよね? 本当に最低……もう嫌……」
「はー、そんな趣味があったとはびっくりだな」

「くそぉ! この下着とプリシラちゃんは俺の物だッ。誰にも渡さないっ」

「もういい……少し休め……」

 トルゥーが哀愁ただよう表情で水色の雷撃で男を動けなくした。触るのが嫌になったのだ。雷の影響で上の服が偶然に破けてしまう。

 下着男は駆け付けた別の憲兵に連行されていった。かくしてプリシラ監禁事件は幕を閉じたのである。


 先ほどまでは何ともなかったが、終わった瞬間に一気に疲れが襲う。プリシラが尻もちをついた。その時。

「な、何……これ。ふざけっ……ぅぅぐ」

 彼女は嘔吐おうとした。安心した影響なのか何なのか。それは分からなかったが、この八日間の記憶がフラッシュバックしたのだ。

「……」

 ルーベンは何も言わずにそっと背中をさする。彼女の意志とは反して目から涙が零れ落ちる。トルゥーとは別の女性憲兵を見つけたので、ルーベンが彼女を呼び止める。後はプリシラをその女性に任せて彼は静かに去って行った……。
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