かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第七章 醜いお姫様

第1話 手紙と思い出

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【ファクティス西・アジト】

 ルーベンがアジトに入ると、ルディが高価そうな酒をロックで飲んでいた。ルディは彼の方を見ながらグラスを片手に訊いた。

「その酒はどうした?」

「旧アジトに置いてあったぞ」

「何故そこに?」

「怪しい奴がうろついてたって聞いたから見に行った」

「ほう……それでその紙は?」
「さあ?」

 ルーベンはそう言いながら手紙の最初の部分を読んだ。

「親愛なる~…………おっ」

「誰だ?」

 手紙の差出人はティナ・ディ・ル・リーヴィゲイタ・マーシアと書かれていた。

「ティナだ」

「ああ、いたな。そんなおひ……ん?」

「何だ?」

「ルーベン、それをよこせ。俺のだ」

「はぁー? 俺たちのだろ?」
「馬鹿が……忘れたのか?」

「え~……?」


【今から十ヶ月前・ギルド】

 ルーベンがギルドでナディアに手招きをされた。彼が迷いなく近づくと、彼女に訊く。

「なに? デート?」

「また適当な事を……職員が何とか黄緑等級に上げようと奮闘ふんとうしているというのに……貴方という人は……」

「はっはっは! 頑張るねぇ~」

「だから貴方の為ですって!」

「あ、一昨日おととい怪我したところが痛むからちょっと座るね」

 そう言って彼は何時もの席に戻って、ぐったりとした。

「もー、同時期に入って来たコールさんを見習って欲しいです」

 同僚のテルエスが言う。

「彼はもう赤等級だからね~。たった数か月で凄いよね~。それに比べてクロウ君は……ハハハ」

「そうです! コールさんは期待の新人ですよっ」

「おっ、噂をすれば……」

 そんな事を言っているとコールが扉を開けた。それに気が付いたギルドの皆が騒ぎ出す。

「あ、コール君だ!」

「ああ、彼が噂の?」

「すげーなー。一気に等級を上げてるんだろ?」

「らしいなー」

「俺の先見の眼が言っている。奴は黒等級になると……」

「いや、お前それ大体の奴が言ってるから……」

 そこに、銀等級のジークムントがコールへと近づいて行った。黒ベースの服に黒いマント。剣も黒い。この頃の彼は全体的に黒かった。

「お前が、コールか?」

「だったら何だ?」

「最近、活躍しているようだな。もしそのまま銀等級に上がる事が出来たら、俺のパーティーに入れてやろう」

「……分かった」

「天才はころびやすい。俺を失望しつぼうさせるなよ……」

「もし……天才がいるとしたら。それは、その傷を気にしない」

「何?」

探求たんきゅうの先にある答えに辿り着くには、その過程も必要だという事を知っている」

「……ふんっ……面白い事を言う……精々頑張る事だな」

 ジークムントが外に出て行くと、ルディがルーベンの方を真剣に見た。ただ一瞬だったため、誰もそれには気が付かない。だらけていた彼がスッと立ち上がり、外へと出て行った。

 黄等級のリーンハルトがルディのやり取りを驚いた様子をしていた。黄は黒より四つ下の等級である。

「凄い……あの【黒銀こくぎん】のジークムントさんに声をかけられる何て……俺も負けてられねーぜ!」

「お前には無理だっつーの」

 少し離れた席でそれを嘲笑うかのようにあおるカルロッテ。彼女も銀等級だ。大剣をギラギラとちらつかせる。

「何だとッ」

「喧嘩売りてーなら、せめて黒等級に上がってからにしろよっ。もろすぎて殺しちまう」

「くっ……」

 そこで、別の席からマルティナが話かけて来た。彼女は黒等級だ。

「貴方はまず、愛しのプリシラちゃんに勝ってからじゃない?」

「ああ? 誰だ、あんた……」

「マルティナ、黒よ」

「くっ……こ、コールもプリシラちゃんと変わんねーだろっ、……それに今は勝った事は無いけど、プリシラちゃんにも必ず勝てるようになるさっ」

「はぁ~、変わんない? 貴方本当にそれでも魔導師? センスがまるで違うのよ……プリシラ如きじゃ絶対に勝てない」

「そ、そんな事はっ。彼女は誰よりも強くてっ」

 マルティナの真横に居たニクラス、彼はこの頃から銀等級だ。

「マルティナ、それは言いすぎだ。この子は良い魔導師になると思う」

「はぁ? 何をもってそう言ってるの? この子、未だに黄でしょう。声だけはでかい、で有名でしょうに」

「貪欲さだ……良い眼をしている……」

「……」

 リーンハルトとニクラスは少しも間黙っていた。

「俺はニクラス、銀等級だ」

「ど、どうも。よろしく……」

「今度一緒に討伐依頼をしてみないか? いい経験になると思う」

「ッ……ぜ、是非とも! お、お願いしますっニクラスさん!」

 この後、コールを含めた彼等は異常な早さで昇格していった。過去に無い、その異例の等級上昇から、最強世代とも呼ばれるようになる。




☆☆☆☆☆☆☆

「かご喰らいの龍~」をお読みいただき、ありがとうございます。

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