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第七章 醜いお姫様
第9話 弱い者と強い者
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【エドガーが居た部屋から隣の部屋】
彼等は隣の部屋にいた。明かりが無い部屋でティナはぐったりと倒れていた。放心状態だった。ルーベンが服に包まった蜘蛛を抱きかかえ、背中をそっと撫でる。
しばらくすると、化け蜘蛛に変化したティナが泣きじゃくっていた。
「お父様! お母様! 私達は何もしてないのに! なんでですか! なんで呪いなんて!? 私もすぐに殺してくれれば良かったのにっ……お二人の下に行きたい……」
ルディは淡々と言った。
「呪術とは魔素では無く、恨み、妬み、といった負の感情を利用して対象を不幸にする」
「……私は彼女に何もしていないのに……っ……分かりません……なんで……なんでぇぇえッ!」
「存在しているだけで人は誰かを傷つける。この世界にはそれを許せない者がいる。例えそれが、理不尽な恨みだと知っていても」
「……ッ」
「おそらく呪術を使った理由は、少ない対価で人を苦しめる事が可能だからだ。効率が良い。そして、気づかれにくい……通常はな」
例えば10の対価を払えば、30の効果が期待できる。100の対価を払えば150、200と幅が広がる。昔から使われる外法の業。
分かりやすい対価は体の一部や生贄などが使用される事がある。何より不幸だったのは、チェルシーが負の感情のみでティナをどん底に陥れる程のエネルギーを有していた事だろう。
それほどに恐ろしい憎悪をずっと隠し持っていたのである。
「……私には何も出来なかった……王女である私がしっかりしないと行けなかったのにッ」
そこでルーベンがティナに訊いた。
「俺たちが憎いか?」
「……何故、ですか?」
「全て知っていた……こうなる前に助ける事も出来た」
彼女はそれを聞いて驚いていた。しかし、彼女は憎しみの表情を見せる事は無かった。ただ、悲しみの表情を浮かべていた。
「……いいえ、選んだのは私です……頼んでも無いのに助けるのは独善というものでしょう……だから……私とエドガーを最後まで信じてくれた……ずっと見守ってくれていた……」
「……」
「それにお父様、お母様を助ける事が出来ましたか?」
「それは不可能だ。情報を集めた頃にはもう亡くなっていた」
「そうです……お二人は神ではありません。責めるのはお門違いというものです。例えお二人が……私のためにそれを望んだとしても……」
心が壊れそうになりながらも、それでも他人を責める事が出来ないお姫様。しかし、このままでは本当に彼女が壊れてしまう。そこで、ルーベンがもう一度訊いた。
「……エドガーやチェルシーが憎いか?」
「……今からでも……依頼は受けてくださりますか?」
「俺たちの出来る事なら何でも……」
「……エドガーを……この国の王にしたくありません……それだけは絶対にッ」
「それだけか?」
「チェルシーを苦しめたい……彼女を許す事が出来ない……」
「最悪、チェルシーは死ぬ。それでもいいか?」
「はい……」
「報酬の話をしよう」
「私に渡せるものがあれば良かったのですが……これでは依頼は……」
「俺は酒をもらおう。支払いは無期限で良い。その代わり、お姫様が最高だと思う一品を……」
「……分かり、ました」
「じゃあ、俺は前払いでも良いか?」
「……あげられるモノならば……例えこの命でも……」
彼女は虚ろな瞳でそう言った。
「それじゃ、ルディの酒の件が無くなるだろ?」
「それでは何を……」
「明朝……素敵な朝日が昇るまで、貴方が欲しい」
「私が……ですか? 何故……それは、同情でしょうか……」
彼女は涙を流し、自らを嘲笑するようにそう言った。
「いいえ、お姫様を抱くことは、無邪気で邪まな夢……」
「……面白い……お方ですね……こんな化け物で良ければ、朝までお付き合いします」
「依頼は承った」
「ルディ、頼んでいいか?」
「俺は適当にやるぞ、良いな?」
「ああ……任せる」
そう言い残してルディは去って行った。
彼等は隣の部屋にいた。明かりが無い部屋でティナはぐったりと倒れていた。放心状態だった。ルーベンが服に包まった蜘蛛を抱きかかえ、背中をそっと撫でる。
しばらくすると、化け蜘蛛に変化したティナが泣きじゃくっていた。
「お父様! お母様! 私達は何もしてないのに! なんでですか! なんで呪いなんて!? 私もすぐに殺してくれれば良かったのにっ……お二人の下に行きたい……」
ルディは淡々と言った。
「呪術とは魔素では無く、恨み、妬み、といった負の感情を利用して対象を不幸にする」
「……私は彼女に何もしていないのに……っ……分かりません……なんで……なんでぇぇえッ!」
「存在しているだけで人は誰かを傷つける。この世界にはそれを許せない者がいる。例えそれが、理不尽な恨みだと知っていても」
「……ッ」
「おそらく呪術を使った理由は、少ない対価で人を苦しめる事が可能だからだ。効率が良い。そして、気づかれにくい……通常はな」
例えば10の対価を払えば、30の効果が期待できる。100の対価を払えば150、200と幅が広がる。昔から使われる外法の業。
分かりやすい対価は体の一部や生贄などが使用される事がある。何より不幸だったのは、チェルシーが負の感情のみでティナをどん底に陥れる程のエネルギーを有していた事だろう。
それほどに恐ろしい憎悪をずっと隠し持っていたのである。
「……私には何も出来なかった……王女である私がしっかりしないと行けなかったのにッ」
そこでルーベンがティナに訊いた。
「俺たちが憎いか?」
「……何故、ですか?」
「全て知っていた……こうなる前に助ける事も出来た」
彼女はそれを聞いて驚いていた。しかし、彼女は憎しみの表情を見せる事は無かった。ただ、悲しみの表情を浮かべていた。
「……いいえ、選んだのは私です……頼んでも無いのに助けるのは独善というものでしょう……だから……私とエドガーを最後まで信じてくれた……ずっと見守ってくれていた……」
「……」
「それにお父様、お母様を助ける事が出来ましたか?」
「それは不可能だ。情報を集めた頃にはもう亡くなっていた」
「そうです……お二人は神ではありません。責めるのはお門違いというものです。例えお二人が……私のためにそれを望んだとしても……」
心が壊れそうになりながらも、それでも他人を責める事が出来ないお姫様。しかし、このままでは本当に彼女が壊れてしまう。そこで、ルーベンがもう一度訊いた。
「……エドガーやチェルシーが憎いか?」
「……今からでも……依頼は受けてくださりますか?」
「俺たちの出来る事なら何でも……」
「……エドガーを……この国の王にしたくありません……それだけは絶対にッ」
「それだけか?」
「チェルシーを苦しめたい……彼女を許す事が出来ない……」
「最悪、チェルシーは死ぬ。それでもいいか?」
「はい……」
「報酬の話をしよう」
「私に渡せるものがあれば良かったのですが……これでは依頼は……」
「俺は酒をもらおう。支払いは無期限で良い。その代わり、お姫様が最高だと思う一品を……」
「……分かり、ました」
「じゃあ、俺は前払いでも良いか?」
「……あげられるモノならば……例えこの命でも……」
彼女は虚ろな瞳でそう言った。
「それじゃ、ルディの酒の件が無くなるだろ?」
「それでは何を……」
「明朝……素敵な朝日が昇るまで、貴方が欲しい」
「私が……ですか? 何故……それは、同情でしょうか……」
彼女は涙を流し、自らを嘲笑するようにそう言った。
「いいえ、お姫様を抱くことは、無邪気で邪まな夢……」
「……面白い……お方ですね……こんな化け物で良ければ、朝までお付き合いします」
「依頼は承った」
「ルディ、頼んでいいか?」
「俺は適当にやるぞ、良いな?」
「ああ……任せる」
そう言い残してルディは去って行った。
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