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第1章 なりゆき おどろき うしろむき
第4話 UMA
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午後15時。いつもと同じ様に、身なりを整えて病室の前で深呼吸する。
何で毎回、養母に会うというだけで緊張しなきゃいけないんだ?
気分が落ち着いたところで、扉をノックする。
「失礼します…」
扉を開けると、顔馴染みになっているおばちゃん達がニッコリと笑顔で迎えてくれる。
ここは6人部屋で、養母のベッドは右奥である。
ん?今日は、何故かカーテンが閉まっているな。
「いつも時間通りだね、隼人君は」
「皆さん、こんにちは」
順に挨拶をしながら奥に行くと、寝ているのかなと、ゆっくりとカーテンを開ける。
カシャッと音と共にフラッシュが隼人を襲う。
「プププッ、見てご覧?この変な顔!」
「こ、このババァ…。ん?」
目が慣れてくると、養母の隣に誰か居る事に気付いた。
「こ、これは奇妙な魔道具ですね!映像を切り取れるのですか⁉︎」
何故だろう。目をいくら擦っても、2日前に見た民族衣装の外人のあの娘に見えるのだが?
「隼人、何呆けてるんだい?彼女はわざわざアンタに会いに来てくれたんだよ、ちゃんと挨拶しな」
「ど、どうも…。いや、ちょっと待て、どうしてモブリアさんがこの病室に⁉︎」
「御主の御友人から聞いたのです。この時間帯なら、この療養所に来ていると」
「ああ、実が教えたのか」
「隼人殿が言っていた換金所の御人にも、いろいろと世話になりました」
「ああ、須藤さんなら、顔が広いから君が必要な事は大体解決してくれるだろう。当分は金に困る事も無いだろうし」
「ええ、おかげで昼食もまたカレェを食して来たところです」
置いてけぼりになっていた養母が、コホンと咳払いして注目を集める。
「それで、2人はどういった関係なのかなぁ?」
「「え?」」
隼人は彼女と目が合って今更ながらに気付く。
「俺がご飯を奢った他人…かな?」
「他人とは人聞きの悪い。一宿一飯の恩は、忘れてはいませんよ?だからこそ、こうして会いに来たのですから」
いや、一宿一飯って、いつの時代の人間だよ?
「ん~、とりあえず、隼人が貴女を世話したって訳ね?」
「はい!」
「そう、ちゃんと困っている人を助けてはいるのね?」
「別に…」
照れて外方を見る隼人に、養母は再びカメラを光らせた。
「ちょっ⁉︎」
「聞きなさい、隼人」
急に真面目な表情を見せる養母に、隼人は黙ってしまう。
養母、一ノ瀬 佳恵(いちのせ よしえ)はだいぶ痩せてしまったが、元はハキハキと明るく強気に喋る姉御美人だった。
幼少期、両親が巻き込まれ事故で死に、1人残された隼人。
親族をたらい回しにされてきた隼人を引き取った彼女は、親戚でもかなり離れた間柄であった。
当時、彼女は40過ぎではあったが、彼女を好く者達も多くいたので、無理に隼人を引き取る義務も必要も無かった。
だが彼女は、女手一つで隼人を大学まで行かせようと頑張って来た。
その無理が祟ってか、隼人が大学に入った後直ぐに、体調を崩して入院したのだ。
しかし、生命保険を解約していた為に、残されたのは僅かな貯金だけだった。
病名は大動脈弁狭窄症らしく、呼吸困難と失神が酷くて重症と判断。投薬治療から手術が必要となったのだ。
「あんたは、今からでも大学に復学しなさい。私が入院したからって、何も辞める事は無かったんだ」
「バカ言うな。そんな余裕は無いし、今更戻る気は無い。くだらない事言ってないで、もっと体力つけやがれ。手術が近いんだからな」
「アンタの面倒は私が見るって決めたんだ!逆に面倒見られるなんてごめんだよ!」
「何だと!」
2人はお互いに睨み歪み合う。相手の事を思っているのに、毎回口が悪くなり上手くいかない。
「フン、いいから大人しく良くなりやがれ」
隼人は席を立ち、テーブルに置いてあった内服薬の袋をポケットにしまうと、次のバイトに向かう為に病室から去ってしまった。
「母上殿…」
「見苦しいところを見せちゃったね。モブリアちゃん」
「いえ…」
「お嬢さん、毎度毎度の事だけど、隼人君は明日もまた来るんだよ?本当に変わった親子だよねぇ~?」
「そんな事よりも、お嬢さんは隼人君の彼女じゃないの?」
同室のおばちゃん達が笑って場を和ませようとしている。
「私のような半端者が、隼人殿の想い人など畏れ多いです」
「…お嬢さん、外人さんなのに日本語上手よねぇ?」
「でも、なんで時代劇調?」
「母が残した書物より得た知識なので、…間違っていますか?」
「若いんだから、もっと親しげな話し方で良いと思うわよ~?」
「で、では改めまして、私の名はモブダリア・アスタロテ・リッテンゼリア・トゥル・フレバースです。私は隼人君とは付き合ってはいません」
「モ、モブダリ…アス…?モブちゃんね!」
おばちゃん達も、早々に名を覚える事は放棄したらしく、略して呼ぶようになった。
モブリアは、養母の容態をおばちゃん達や看護師から聞いて回った。
どうやら、隼人が知らない癌という他の病気も患っているらしい。
病院から帰る時、ふと彼女が居た病棟を見上げる。
「…恩を返す方法がありましたね」
モブリアは、下準備をしなければと、病院からホテルへと急ぐのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
結局、件の学校で起きた事故の後、管理は警察が全て行う事となり、多少の謝礼と敬意はあったものの、警備会社は担当から外された。
隼人も、施設警備から交通誘導警備の方へシフトされていた。
勤務時間に指定がある隼人は、施設警備資格を持っていたから優遇されていたに過ぎない。
しかし、もう1人の資格持ちであるチーフが直ぐに復帰できない為、施設警備の契約が成り立たなくなってしまったのだ。
「一ノ瀬、他のバイトを辞めて、ウチで正規社員になる気はないか?」
「すみません。どれも短期バイトですが、それなりに収入が良いので、もうしばらく続けたいんです」
隼人がしているバイトは、牛乳配達以外は全て日雇いで、当日支給で支払われている。
それは、警備会社のバイトも含まれている。
どのバイト先も、隼人の働きぶりに正社員を希望しているのだ。
「…考えてはおいてくれ」
「…はい」
本日分の給与をもらい、隼人は警備会社を後にした。
次の夜間工事現場のバイトまで、少し時間が空いている。
一度帰宅してシャワーでも浴びるとしよう。
自転車で、少し遠回りになるが、帰り道に病院前を通る事にした。
「ん⁉︎」
養母が居る病棟の屋上で何かが発光したのが見えた。
駐輪場へと自転車を雑に置き、急いでその場に向かう。
「あれは…⁉︎」
淡く発光するものが、屋上から3階の養母の病室の外の狭い庇に降り立った。
人型っぽいが、まさかUMAか?
未知との遭遇に見惚れていると、発光体はそのまま壁をすり抜け始めた。
「嘘だろ⁉︎」
隼人は急いで病室へと向かう。
途中、看護師達に面会時間は終わってるだの、廊下を走るなと言われるが、気にしている場合じゃない。
「母さん!」
病室の扉を開けると、養母のベッドのカーテンだけが明るかった。
こんな状況なのに、おばちゃん達の気配がない。
シャッ!
カーテンを勢いよく開けると、そこには全身の体が光る養母とモブリアが居た。
「何やってる!」
養母の胸に手を当てていたモブリアの腕を掴む。
あれ?びくともしない⁉︎
『…我が神力にて、母上殿の身体を浄化、回復、そして強化しています』
モブリアの瞳はディープブルーに染まり、声は直接頭に響くように聞こえる。
「どういう事だ⁉︎」
『貴方の母上は、健康体となったという事です』
養母を包んでいた光が、だんだんと弱まり始める。
「健康…体?えっ?」
モブリアの瞳も元のアクアブルーに戻り、急にヘタリ込んだ。
「ち、力を使い切ってしまいました…」
弱々しくそう呟くと、モブリアは気を失ってしまった。
「い、意味分からないぞ⁉︎」
隼人はモブリアを背負い、養母のナースコールを数回押した後、看護師が駆けて来る逆の非常階段に逃げ込んだ。
「どうする⁉︎」
隼人は混乱していた。
発光し壁抜けをしたモブリアが、手術が必要なまでに体が悪い養母を光らせ、完治させたと言ったのだ。
どこからツッコミを入れたら良いのか分からない。
ただ、病院側からしたら自分は完全に不審者扱いだろう。
隼人はモブリアを担いだまま、とりあえず自宅に連れ帰ることにしたのだった。
何で毎回、養母に会うというだけで緊張しなきゃいけないんだ?
気分が落ち着いたところで、扉をノックする。
「失礼します…」
扉を開けると、顔馴染みになっているおばちゃん達がニッコリと笑顔で迎えてくれる。
ここは6人部屋で、養母のベッドは右奥である。
ん?今日は、何故かカーテンが閉まっているな。
「いつも時間通りだね、隼人君は」
「皆さん、こんにちは」
順に挨拶をしながら奥に行くと、寝ているのかなと、ゆっくりとカーテンを開ける。
カシャッと音と共にフラッシュが隼人を襲う。
「プププッ、見てご覧?この変な顔!」
「こ、このババァ…。ん?」
目が慣れてくると、養母の隣に誰か居る事に気付いた。
「こ、これは奇妙な魔道具ですね!映像を切り取れるのですか⁉︎」
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いや、一宿一飯って、いつの時代の人間だよ?
「ん~、とりあえず、隼人が貴女を世話したって訳ね?」
「はい!」
「そう、ちゃんと困っている人を助けてはいるのね?」
「別に…」
照れて外方を見る隼人に、養母は再びカメラを光らせた。
「ちょっ⁉︎」
「聞きなさい、隼人」
急に真面目な表情を見せる養母に、隼人は黙ってしまう。
養母、一ノ瀬 佳恵(いちのせ よしえ)はだいぶ痩せてしまったが、元はハキハキと明るく強気に喋る姉御美人だった。
幼少期、両親が巻き込まれ事故で死に、1人残された隼人。
親族をたらい回しにされてきた隼人を引き取った彼女は、親戚でもかなり離れた間柄であった。
当時、彼女は40過ぎではあったが、彼女を好く者達も多くいたので、無理に隼人を引き取る義務も必要も無かった。
だが彼女は、女手一つで隼人を大学まで行かせようと頑張って来た。
その無理が祟ってか、隼人が大学に入った後直ぐに、体調を崩して入院したのだ。
しかし、生命保険を解約していた為に、残されたのは僅かな貯金だけだった。
病名は大動脈弁狭窄症らしく、呼吸困難と失神が酷くて重症と判断。投薬治療から手術が必要となったのだ。
「あんたは、今からでも大学に復学しなさい。私が入院したからって、何も辞める事は無かったんだ」
「バカ言うな。そんな余裕は無いし、今更戻る気は無い。くだらない事言ってないで、もっと体力つけやがれ。手術が近いんだからな」
「アンタの面倒は私が見るって決めたんだ!逆に面倒見られるなんてごめんだよ!」
「何だと!」
2人はお互いに睨み歪み合う。相手の事を思っているのに、毎回口が悪くなり上手くいかない。
「フン、いいから大人しく良くなりやがれ」
隼人は席を立ち、テーブルに置いてあった内服薬の袋をポケットにしまうと、次のバイトに向かう為に病室から去ってしまった。
「母上殿…」
「見苦しいところを見せちゃったね。モブリアちゃん」
「いえ…」
「お嬢さん、毎度毎度の事だけど、隼人君は明日もまた来るんだよ?本当に変わった親子だよねぇ~?」
「そんな事よりも、お嬢さんは隼人君の彼女じゃないの?」
同室のおばちゃん達が笑って場を和ませようとしている。
「私のような半端者が、隼人殿の想い人など畏れ多いです」
「…お嬢さん、外人さんなのに日本語上手よねぇ?」
「でも、なんで時代劇調?」
「母が残した書物より得た知識なので、…間違っていますか?」
「若いんだから、もっと親しげな話し方で良いと思うわよ~?」
「で、では改めまして、私の名はモブダリア・アスタロテ・リッテンゼリア・トゥル・フレバースです。私は隼人君とは付き合ってはいません」
「モ、モブダリ…アス…?モブちゃんね!」
おばちゃん達も、早々に名を覚える事は放棄したらしく、略して呼ぶようになった。
モブリアは、養母の容態をおばちゃん達や看護師から聞いて回った。
どうやら、隼人が知らない癌という他の病気も患っているらしい。
病院から帰る時、ふと彼女が居た病棟を見上げる。
「…恩を返す方法がありましたね」
モブリアは、下準備をしなければと、病院からホテルへと急ぐのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
結局、件の学校で起きた事故の後、管理は警察が全て行う事となり、多少の謝礼と敬意はあったものの、警備会社は担当から外された。
隼人も、施設警備から交通誘導警備の方へシフトされていた。
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しかし、もう1人の資格持ちであるチーフが直ぐに復帰できない為、施設警備の契約が成り立たなくなってしまったのだ。
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「すみません。どれも短期バイトですが、それなりに収入が良いので、もうしばらく続けたいんです」
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それは、警備会社のバイトも含まれている。
どのバイト先も、隼人の働きぶりに正社員を希望しているのだ。
「…考えてはおいてくれ」
「…はい」
本日分の給与をもらい、隼人は警備会社を後にした。
次の夜間工事現場のバイトまで、少し時間が空いている。
一度帰宅してシャワーでも浴びるとしよう。
自転車で、少し遠回りになるが、帰り道に病院前を通る事にした。
「ん⁉︎」
養母が居る病棟の屋上で何かが発光したのが見えた。
駐輪場へと自転車を雑に置き、急いでその場に向かう。
「あれは…⁉︎」
淡く発光するものが、屋上から3階の養母の病室の外の狭い庇に降り立った。
人型っぽいが、まさかUMAか?
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「嘘だろ⁉︎」
隼人は急いで病室へと向かう。
途中、看護師達に面会時間は終わってるだの、廊下を走るなと言われるが、気にしている場合じゃない。
「母さん!」
病室の扉を開けると、養母のベッドのカーテンだけが明るかった。
こんな状況なのに、おばちゃん達の気配がない。
シャッ!
カーテンを勢いよく開けると、そこには全身の体が光る養母とモブリアが居た。
「何やってる!」
養母の胸に手を当てていたモブリアの腕を掴む。
あれ?びくともしない⁉︎
『…我が神力にて、母上殿の身体を浄化、回復、そして強化しています』
モブリアの瞳はディープブルーに染まり、声は直接頭に響くように聞こえる。
「どういう事だ⁉︎」
『貴方の母上は、健康体となったという事です』
養母を包んでいた光が、だんだんと弱まり始める。
「健康…体?えっ?」
モブリアの瞳も元のアクアブルーに戻り、急にヘタリ込んだ。
「ち、力を使い切ってしまいました…」
弱々しくそう呟くと、モブリアは気を失ってしまった。
「い、意味分からないぞ⁉︎」
隼人はモブリアを背負い、養母のナースコールを数回押した後、看護師が駆けて来る逆の非常階段に逃げ込んだ。
「どうする⁉︎」
隼人は混乱していた。
発光し壁抜けをしたモブリアが、手術が必要なまでに体が悪い養母を光らせ、完治させたと言ったのだ。
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