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プロローグ
賢者と兆し
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生ける物全てが寝静まる静寂の深夜、満点の星空が広がる小高い丘の上に、一人の男が灯りを持って現れた。
男は淡いグリーンの刺繍が施された灰色のローブ姿で、美しく艶のある金の髪を全て後ろで束ね、特徴的な尖った耳と整った顔立ちからは、彼が百歳を超えていることは想像できない。
彼はエルフと呼ばれる種族で、その中でも数少ない高貴な存在、ハイエルフと呼ばれる者だった。
丘の上には四本の柱に囲まれた屋根の無い小さな祭壇があり、その祭壇の上には水が一杯に張られた丸い鉢が置かれている。夜空を写し出す鉢は、まるで水面鏡のようであった。
その鉢の横に灯りを置き、彼は水面の上に手をかざした。
すると水面に波紋が現れて、写っていた夜空が消える。そして波紋が消えると今度は深緑の森が写し出された。
『久しいな。星詠みのエルフ、ウォーレンよ』
声と共に水面にひょっこりと顔が現れた。顔と言っても、森精霊人の美しい女人に似た顔は、肌が緑色で無ければ人やエルフと間違えてしまいそうである。
『サリマドールよ。変わりない様子でなによりだ。条約を結んだ時からだから、10年振りになるな』
『もう、そんなに経つのか。あの条約は20年の有効期間で結んだ条約だから、丁度半ばという年か。それで?ひょっとして久しぶりに集まるのか?』
彼女は、期待して少しワクワクした表情を見せる。何故なら、彼女は世界樹の森から外の世界に出ては生きていけない存在なのだ。だから、外の情報を生で聞く事はとても楽しみな事であった。
『いや、残念だがそうでは無い。私の星詠みで、とても不吉な兆しが視えてしまってね。私も君も、大きな渦に巻き込まれる事になりそうなのだ』
酷くガッカリした表情に戻ったサリマドールは、興味を無くした様に欠伸をする。
『渦って言ったって、私はこの森から出られないから避難できないし…視えたのなら、避けられないのであろう?まさか、また疫病と飢饉の類いか?』
『まぁ、話を最後まで聞いてくれ。兆しは世界全土に及び、その中心は東の大陸の側にある火山島。そして全てのキッカケ、要因と思われる星…それはもう一人の友だ』
『ヨハン、ヨハン=アシュミードが?』
サリマドールの表情には、明らかに疑いの念が現れた。まぁ、無理も無い。彼のことは二人は良く知っているのだから。
『突拍子もない事をする友ではあるが、世界を巻き込む事を起こすというのか?』
『どうも彼を良く思わない何者達かが、世界各地で何か画策しているとしか今は視えて無い』
『むぅ、それでは何も対処できないではないか。少なくとも、ヨハンに伝えるべきではないか?』
本人にいち早く知らせ、対応すれば防げるのではないかと。しかし、ウォーレンは首を横に振る。
『何度も交信を試みているが、全く連絡が取れないのだ。そこで、だ。君の力を借りたいと思ったのだよ』
サリマドールはフフッと笑い、豊かな胸を張る。
『了解した。世界各地の我が眷属の物達を使い、ヨハンの所在と伝言を達成しよう。当然、怪しい動きも逐一報告しよう』
サリマドール、彼女は世界樹の力を使い、世界全土に広がる植物を情報網として利用できるのだ。彼女が賢者として選ばれたのは、この情報能力が、彼女の気まぐれや我儘を差し置いても、各国の要人達にはとても貴重であり重要視されたからである。
『我々は、彼がどの様な事態になろうとも、彼の補助が出来る準備を整えるとしよう』
二人の賢者は、平和に慣れて少々退屈を感じていた自分の感情に気付き、また、今は少し心が高鳴っている事に自然と笑みを零していた。
男は淡いグリーンの刺繍が施された灰色のローブ姿で、美しく艶のある金の髪を全て後ろで束ね、特徴的な尖った耳と整った顔立ちからは、彼が百歳を超えていることは想像できない。
彼はエルフと呼ばれる種族で、その中でも数少ない高貴な存在、ハイエルフと呼ばれる者だった。
丘の上には四本の柱に囲まれた屋根の無い小さな祭壇があり、その祭壇の上には水が一杯に張られた丸い鉢が置かれている。夜空を写し出す鉢は、まるで水面鏡のようであった。
その鉢の横に灯りを置き、彼は水面の上に手をかざした。
すると水面に波紋が現れて、写っていた夜空が消える。そして波紋が消えると今度は深緑の森が写し出された。
『久しいな。星詠みのエルフ、ウォーレンよ』
声と共に水面にひょっこりと顔が現れた。顔と言っても、森精霊人の美しい女人に似た顔は、肌が緑色で無ければ人やエルフと間違えてしまいそうである。
『サリマドールよ。変わりない様子でなによりだ。条約を結んだ時からだから、10年振りになるな』
『もう、そんなに経つのか。あの条約は20年の有効期間で結んだ条約だから、丁度半ばという年か。それで?ひょっとして久しぶりに集まるのか?』
彼女は、期待して少しワクワクした表情を見せる。何故なら、彼女は世界樹の森から外の世界に出ては生きていけない存在なのだ。だから、外の情報を生で聞く事はとても楽しみな事であった。
『いや、残念だがそうでは無い。私の星詠みで、とても不吉な兆しが視えてしまってね。私も君も、大きな渦に巻き込まれる事になりそうなのだ』
酷くガッカリした表情に戻ったサリマドールは、興味を無くした様に欠伸をする。
『渦って言ったって、私はこの森から出られないから避難できないし…視えたのなら、避けられないのであろう?まさか、また疫病と飢饉の類いか?』
『まぁ、話を最後まで聞いてくれ。兆しは世界全土に及び、その中心は東の大陸の側にある火山島。そして全てのキッカケ、要因と思われる星…それはもう一人の友だ』
『ヨハン、ヨハン=アシュミードが?』
サリマドールの表情には、明らかに疑いの念が現れた。まぁ、無理も無い。彼のことは二人は良く知っているのだから。
『突拍子もない事をする友ではあるが、世界を巻き込む事を起こすというのか?』
『どうも彼を良く思わない何者達かが、世界各地で何か画策しているとしか今は視えて無い』
『むぅ、それでは何も対処できないではないか。少なくとも、ヨハンに伝えるべきではないか?』
本人にいち早く知らせ、対応すれば防げるのではないかと。しかし、ウォーレンは首を横に振る。
『何度も交信を試みているが、全く連絡が取れないのだ。そこで、だ。君の力を借りたいと思ったのだよ』
サリマドールはフフッと笑い、豊かな胸を張る。
『了解した。世界各地の我が眷属の物達を使い、ヨハンの所在と伝言を達成しよう。当然、怪しい動きも逐一報告しよう』
サリマドール、彼女は世界樹の力を使い、世界全土に広がる植物を情報網として利用できるのだ。彼女が賢者として選ばれたのは、この情報能力が、彼女の気まぐれや我儘を差し置いても、各国の要人達にはとても貴重であり重要視されたからである。
『我々は、彼がどの様な事態になろうとも、彼の補助が出来る準備を整えるとしよう』
二人の賢者は、平和に慣れて少々退屈を感じていた自分の感情に気付き、また、今は少し心が高鳴っている事に自然と笑みを零していた。
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