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第1章 奇跡の村娘降臨
第12話 奇跡の村娘 アルテ
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夕食のシチューとライ麦のパンが全員に配られたのを確認すると、長テーブルの上座に座るアルテは手を合わせていただきますと号令をかけた。
「「いただきます」」
同じ様にして皆も唱える。それぞれが口にするのを、ドキドキしながら料理を担当したメグ達は反応を伺っている。今日は昼食で既に美味しい料理をご馳走になっているから、その料理と比較されそうで怖いのである。
三人の心配とは裏腹に、皆は笑顔で黙々と食べている。どうやら問題無さそうだ。
「あ~食べながらで構わないんだけど、今日決まった事を皆んなに聞いて欲しい」
アルテは王との約束を話し、今後皆んなはどうしたいかを尋ねた。
「そうですね。王都に移住する権利を得たなら、是非ともそうするべきだと僕は思いますが」
アレックスは迷わずそうすべきだと正論を言う。アレックスは王都の生まれだが、物心ついた頃には既に親はおらず孤児院で育ったらしい。皆んなと一緒に居たいというのが本音なのだろう。
今回はレベルの低い魔物が多い西地区を中心にレベル上げの旅に出ていたらしい。旅の仲間も居なかったアレックスはアルテ達との旅が楽しかったのだ。
「アルテさんはどうするつもりですか?」
メグ達がそう訊くのを皮切りに、他の皆んなも食事を止めてアルテの答えに注目する。
「うん、とりあえずナニゲ村を復興しに戻るつもりだ。国軍が後片付けをしていると言っていたが、正直ちゃんと見ないと分からないし、自分達で村人の墓も作らなきゃな」
「それなら、アンナはお兄ちゃんについて行くです!辛かった場所だけど自分の村ですし!」
「私達もです!自分達の家とかも確認したいですし、家族とちゃんとお別れを済ませたいです」
アンナに続く様に少し涙目になりながらメグ達も参加表明する。
「分かった。村の片付けまでは一緒に頑張ろうか。テンデ村の君達はどうするんだい?」
「私達は、まだ恐怖が抜けません。いつかは帰らないといけないとは思うんですが、今はまだ無理そうです。しばらく王都に滞在して考えたいです」
まぁ、正直その反応が普通だと思う。現場に戻れば否応無しに記憶は蘇る。
アルテにより恐怖の対象が討伐されたのを目の前で見ていても、恐怖の記憶はそう簡単に消える事は無いのだから。
「よし、分かった。ここに居ればアレックスも居るから安心だろう。さぁ、暗い話はこれくらいにして、明日は皆んなで商店街を回るとしようか!アレックス、討伐報酬は貰えたんだろう?案内も兼ねて、明日は頼むぞ?」
「はい、観光案内は任せてください!後、討伐報酬は確認がいるから、明日ギルドに受け取りに来るように言われて、まだ受け取って無いんです」
「そうか、なら始めにギルドに行ってから観光には回るとしよう。それより料理が冷めてしまう。さぁ、皆んな早く食べよう」
少し冷めてしまった料理を平らげて、今夜は早く寝ることにした。昼間の神達の話もゆっくり一人で考えたいと思っていた。ベッドの上で座禅を組み瞑想する。
結果は気付いたら朝だったのだけれど。
「アルテさん、全員出発の準備できました」
「じゃあ、先ずはギルドに寄ってから、アレックスのデートに付き合うか。良かったな、一人でこんな人数の女性達とデートできる奴なんて、人生に成功した奴くらいしかいないぞ?」
「で、デート?!」
アレックスは顔を真っ赤にしている。それを見て女性達はクスクスと笑う。決して馬鹿にした笑いではなく、自分達と歳が近いのに、まるで幼い子供の様で可愛らしく思えて笑ったのだ。
それは異様な光景に見えたかもしれない。アレックスを先頭に、アルテを含めた女性達十名がぞろぞろと歩いている。
住宅街の住民は二度見したり、こちらをチラ見しながら隠れてコソコソ話をしている。
気にせずギルドに向かっていたが、少し距離を置き、興味本位で付いて来る者達も増えてきた。
「此処がギルド本部です」
それはレンガ造りの三階建て建物で、大きな入り口は出入りする冒険者達でごった返している。
「皆んなはここで待っていてくれ」
アルテはアレックスと共に人混みを避けながら中へと入る。
入って直ぐ左には大きな掲示板があり、様々なクエストが書かれた幾つもの羊皮紙が貼り付けてある。
中央のロビーには五列の行列が並んでいて、その先には笑顔でクエストのやり取りをする美人の受付事務員が各列にいる。何だか推しメンのアイドルの握手会に並ぶ人々を見ている様だ。
アルテは少ない列の最後尾に並ぼうとすると、アレックスが腕を掴んだ。
「アルテさん、僕達はこっちです」
アレックスはロビーから離れ、奥の談話室へとアルテを連れて行く。
ドアを開けると既に先客が居た。右目に眼帯を付けた片目の中年男性で、一目見て只者では無いのは理解できた。
「アルテさん、この人はギルドマスターのトーマス=ギブソンさんです」
アレックスの紹介を受けると、彼はソファから立ち上がりアルテに手を差し出した。
「君がアレックスの言っていた、ナイトバロンを倒したと言う女性かね?」
アルテは差し出されたその手を掴み握手を交わした。
「ああ、アルテ=ルシアンだ。それで、わざわざ個室に分けた理由は教えてもらえるんだよな?」
三人はゆっくりとソファに座る。トーマスはアルテの口調と雰囲気を見て少しニヤついた。
「見た目と違って女傑みたいだな。個室に来てもらった理由はもちろんあるぞ。先ず第一に君は冒険者登録をしていない。よって客人扱いという訳だ。二つ目に魔族の討伐報告が本当に当人によるものか確かめる必要があるという事」
「なんだ、実力を見たいという事か?」
トーマスは右目を細めてアルテを睨む。しばらくして顔を横に振った。
「悪いが詮索させてもらった。実力は申し分ないな。当人による討伐を認めよう。しかし、討伐報酬はまだやれん。冒険者になってもらう必要がある」
「あ~そういう事ね」
アルテは深くため息をついた。おそらくこの国のギルドに魔族を討伐できるほどの冒険者は数少ない。このマスターなら可能だろうけど。つまり人材確保したい訳だ。
「悪いけど、それなら報酬はいいや。束縛されたくないからな」
アルテはソファを立ち部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
「本当に報酬は良いのか?ナゲイラ金貨4000万枚だぞ?」
トーマスの提示した報酬に手が止まる。
金貨を4000万枚、4000万円くらいか…村の復興費用としても必要だがなぁ。
後ろ髪引かれる思いだが、ガチャッとドアを開けて外に出た。慌ててアレックスが後を付いて来る。
「アルテさん、冒険者は嫌でしたか?」
アレックスは申し訳なさそうな表情でアルテに謝る。その頭をポンと軽く叩いてアルテは頭を横に振った。
「気にするな。今入ると、いかにもって感じに期待されそうだろ?冒険者の自由すら無くなる可能性も高い。それに今は村の復興が第一かな。一応村長の娘だしな」
ロビーを抜けてギルドを出ると、アルテ達を見つけたアンナ達が駆け寄ってくる。
さて、予定の資金源が入らなかったが、どうしたものか…そう考えていたら、何やら様子が変だ。
「お姉ちゃん、大変な騒ぎになってるよ!」
「何があったんだ?」
とりあえず落ち着けと、興奮するアンナを止める。しかしアンナは後ろの人だかりを指差して更に声を上げた。
「あそこでお姉ちゃんのこと、いろいろ公表されてるよ!」
公表?どういうことだと、人だかりの中に割って入って確かめようと進むと、中心にいた人物を見て全て理解した。
「おお、噂をすれば御当人の登場じゃないか!彼女が奇跡の村娘アルテ=ルシアン、十二番目の勇者候補だ!」
女騎士のミアーラを横に従えて、貴族姿の神ディオソニスはアルテを手招きする。
冗談じゃないとその場から立ち去ろうとすると、冒険者達が邪魔をして通れない。
「ナイトバロンを倒したってあの神は言ってるけどよ、本当なのかい?」
少しガラの悪そうな冒険者の一人が下から覗き込む様にして目の前に立つ。
「あのな…」
説明したくも無いし、その態度がムカつくと本気で睨む。
ヒッと、アルテの辺りから人々が離れる。目の前の冒険者はへたり込んでしまった。
「まぁまぁ、そう怒らないで。彼はただ、本当に貴女が強いのかを知りたいだけに過ぎないよ?」
ディオソニスはまたもや一瞬でアルテの横に立っていた。
「どういうつもりだ?俺を晒し者にしたいのか?」
「いや、貴女がこの世界で生きていく為に必要な特権を与える為の通過儀礼みたいなものさ。どうせ貴女の事だから、ギルドの冒険者登録は断ったのでしょう?」
「うっ、何で分かった?」
全て見透かされている気がしてアルテは唸った。ディオソニスは満面の笑みを浮かべて、辺りの人々を見る。怯えていた人々は少し安心した様だ。
「冒険者になると、強い冒険者は討伐依頼ばかりで自由は無くなりますからね?しかし貴女は村の復興だけではなく、国の危機には協力することを王と約束した。その約束を守る為には、様々な特権が必要になる」
「特権?」
「先ず第一に、王都に入るには冒険者、又は王都にて何らかの契約を結んだ事の証明証が必要。それを顔パスできる。第二は、勇者候補には一夫多妻制が認められている。貴女が村を復興できたとしても、この国では村長は男性に限るという決まりがあるから。もちろん貴女が一人二役をしても構わないですが、村を残して発展させるには、結婚して子供を増やすことが近道だと思いますよ?」
結婚?正直想像すらしていなかったな。一夫多妻制?独身には聞こえは良いが、女性に対する甲斐性が無い俺には無理な話だ。
「それがここで勇者候補の公表とどう繋がるんだよ?」
「魔族を討伐できるほどの勇者候補者が村を作るとなれば、自ずと人々は集まるでしょう?そうなれば商人も来ますし、住みたいと思う人も増えるかもしれない」
「う~ん、確かにそうだが。先ずは復興してからの話だしなぁ。それにまだ資金が無い」
村の住民を増やすのはまだまだ先の話である。先ずは住める環境を整えることが先決なのだから。
「資金なら渡そう。トーマス!」
ディオソニスは突然ギルドマスターを呼んだ。あらかじめ待機していたかの様にトーマスは二人の前に現れた。手には金色のカードを持っている。さてはコイツらグルだったな?と今更ながらに思う。
「このカードは地球界で言う銀行のカードだ。王都にある国政銀行に既に討伐報酬が入っている。自由に出し入れしてくれ」
ギルドマスターからカードを受け取るアルテを見て、辺りの人々をどよめいた。冒険者達も驚いている。ギルドマスターが下手に出ているところなど見たことが無い。
「討伐したってのは本当なんだな」
「本当にあの方は勇者候補なんだわ!」
「新たな勇者アルテ、万歳!」
「奇跡の村娘、万歳!」
辺りの人々は興奮して、一斉に万歳コールが始まった。
目立ちたくなかった本人の意思とは逆に、結局アルテの存在は王都中に知れ渡ってしまったのである。
「「いただきます」」
同じ様にして皆も唱える。それぞれが口にするのを、ドキドキしながら料理を担当したメグ達は反応を伺っている。今日は昼食で既に美味しい料理をご馳走になっているから、その料理と比較されそうで怖いのである。
三人の心配とは裏腹に、皆は笑顔で黙々と食べている。どうやら問題無さそうだ。
「あ~食べながらで構わないんだけど、今日決まった事を皆んなに聞いて欲しい」
アルテは王との約束を話し、今後皆んなはどうしたいかを尋ねた。
「そうですね。王都に移住する権利を得たなら、是非ともそうするべきだと僕は思いますが」
アレックスは迷わずそうすべきだと正論を言う。アレックスは王都の生まれだが、物心ついた頃には既に親はおらず孤児院で育ったらしい。皆んなと一緒に居たいというのが本音なのだろう。
今回はレベルの低い魔物が多い西地区を中心にレベル上げの旅に出ていたらしい。旅の仲間も居なかったアレックスはアルテ達との旅が楽しかったのだ。
「アルテさんはどうするつもりですか?」
メグ達がそう訊くのを皮切りに、他の皆んなも食事を止めてアルテの答えに注目する。
「うん、とりあえずナニゲ村を復興しに戻るつもりだ。国軍が後片付けをしていると言っていたが、正直ちゃんと見ないと分からないし、自分達で村人の墓も作らなきゃな」
「それなら、アンナはお兄ちゃんについて行くです!辛かった場所だけど自分の村ですし!」
「私達もです!自分達の家とかも確認したいですし、家族とちゃんとお別れを済ませたいです」
アンナに続く様に少し涙目になりながらメグ達も参加表明する。
「分かった。村の片付けまでは一緒に頑張ろうか。テンデ村の君達はどうするんだい?」
「私達は、まだ恐怖が抜けません。いつかは帰らないといけないとは思うんですが、今はまだ無理そうです。しばらく王都に滞在して考えたいです」
まぁ、正直その反応が普通だと思う。現場に戻れば否応無しに記憶は蘇る。
アルテにより恐怖の対象が討伐されたのを目の前で見ていても、恐怖の記憶はそう簡単に消える事は無いのだから。
「よし、分かった。ここに居ればアレックスも居るから安心だろう。さぁ、暗い話はこれくらいにして、明日は皆んなで商店街を回るとしようか!アレックス、討伐報酬は貰えたんだろう?案内も兼ねて、明日は頼むぞ?」
「はい、観光案内は任せてください!後、討伐報酬は確認がいるから、明日ギルドに受け取りに来るように言われて、まだ受け取って無いんです」
「そうか、なら始めにギルドに行ってから観光には回るとしよう。それより料理が冷めてしまう。さぁ、皆んな早く食べよう」
少し冷めてしまった料理を平らげて、今夜は早く寝ることにした。昼間の神達の話もゆっくり一人で考えたいと思っていた。ベッドの上で座禅を組み瞑想する。
結果は気付いたら朝だったのだけれど。
「アルテさん、全員出発の準備できました」
「じゃあ、先ずはギルドに寄ってから、アレックスのデートに付き合うか。良かったな、一人でこんな人数の女性達とデートできる奴なんて、人生に成功した奴くらいしかいないぞ?」
「で、デート?!」
アレックスは顔を真っ赤にしている。それを見て女性達はクスクスと笑う。決して馬鹿にした笑いではなく、自分達と歳が近いのに、まるで幼い子供の様で可愛らしく思えて笑ったのだ。
それは異様な光景に見えたかもしれない。アレックスを先頭に、アルテを含めた女性達十名がぞろぞろと歩いている。
住宅街の住民は二度見したり、こちらをチラ見しながら隠れてコソコソ話をしている。
気にせずギルドに向かっていたが、少し距離を置き、興味本位で付いて来る者達も増えてきた。
「此処がギルド本部です」
それはレンガ造りの三階建て建物で、大きな入り口は出入りする冒険者達でごった返している。
「皆んなはここで待っていてくれ」
アルテはアレックスと共に人混みを避けながら中へと入る。
入って直ぐ左には大きな掲示板があり、様々なクエストが書かれた幾つもの羊皮紙が貼り付けてある。
中央のロビーには五列の行列が並んでいて、その先には笑顔でクエストのやり取りをする美人の受付事務員が各列にいる。何だか推しメンのアイドルの握手会に並ぶ人々を見ている様だ。
アルテは少ない列の最後尾に並ぼうとすると、アレックスが腕を掴んだ。
「アルテさん、僕達はこっちです」
アレックスはロビーから離れ、奥の談話室へとアルテを連れて行く。
ドアを開けると既に先客が居た。右目に眼帯を付けた片目の中年男性で、一目見て只者では無いのは理解できた。
「アルテさん、この人はギルドマスターのトーマス=ギブソンさんです」
アレックスの紹介を受けると、彼はソファから立ち上がりアルテに手を差し出した。
「君がアレックスの言っていた、ナイトバロンを倒したと言う女性かね?」
アルテは差し出されたその手を掴み握手を交わした。
「ああ、アルテ=ルシアンだ。それで、わざわざ個室に分けた理由は教えてもらえるんだよな?」
三人はゆっくりとソファに座る。トーマスはアルテの口調と雰囲気を見て少しニヤついた。
「見た目と違って女傑みたいだな。個室に来てもらった理由はもちろんあるぞ。先ず第一に君は冒険者登録をしていない。よって客人扱いという訳だ。二つ目に魔族の討伐報告が本当に当人によるものか確かめる必要があるという事」
「なんだ、実力を見たいという事か?」
トーマスは右目を細めてアルテを睨む。しばらくして顔を横に振った。
「悪いが詮索させてもらった。実力は申し分ないな。当人による討伐を認めよう。しかし、討伐報酬はまだやれん。冒険者になってもらう必要がある」
「あ~そういう事ね」
アルテは深くため息をついた。おそらくこの国のギルドに魔族を討伐できるほどの冒険者は数少ない。このマスターなら可能だろうけど。つまり人材確保したい訳だ。
「悪いけど、それなら報酬はいいや。束縛されたくないからな」
アルテはソファを立ち部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
「本当に報酬は良いのか?ナゲイラ金貨4000万枚だぞ?」
トーマスの提示した報酬に手が止まる。
金貨を4000万枚、4000万円くらいか…村の復興費用としても必要だがなぁ。
後ろ髪引かれる思いだが、ガチャッとドアを開けて外に出た。慌ててアレックスが後を付いて来る。
「アルテさん、冒険者は嫌でしたか?」
アレックスは申し訳なさそうな表情でアルテに謝る。その頭をポンと軽く叩いてアルテは頭を横に振った。
「気にするな。今入ると、いかにもって感じに期待されそうだろ?冒険者の自由すら無くなる可能性も高い。それに今は村の復興が第一かな。一応村長の娘だしな」
ロビーを抜けてギルドを出ると、アルテ達を見つけたアンナ達が駆け寄ってくる。
さて、予定の資金源が入らなかったが、どうしたものか…そう考えていたら、何やら様子が変だ。
「お姉ちゃん、大変な騒ぎになってるよ!」
「何があったんだ?」
とりあえず落ち着けと、興奮するアンナを止める。しかしアンナは後ろの人だかりを指差して更に声を上げた。
「あそこでお姉ちゃんのこと、いろいろ公表されてるよ!」
公表?どういうことだと、人だかりの中に割って入って確かめようと進むと、中心にいた人物を見て全て理解した。
「おお、噂をすれば御当人の登場じゃないか!彼女が奇跡の村娘アルテ=ルシアン、十二番目の勇者候補だ!」
女騎士のミアーラを横に従えて、貴族姿の神ディオソニスはアルテを手招きする。
冗談じゃないとその場から立ち去ろうとすると、冒険者達が邪魔をして通れない。
「ナイトバロンを倒したってあの神は言ってるけどよ、本当なのかい?」
少しガラの悪そうな冒険者の一人が下から覗き込む様にして目の前に立つ。
「あのな…」
説明したくも無いし、その態度がムカつくと本気で睨む。
ヒッと、アルテの辺りから人々が離れる。目の前の冒険者はへたり込んでしまった。
「まぁまぁ、そう怒らないで。彼はただ、本当に貴女が強いのかを知りたいだけに過ぎないよ?」
ディオソニスはまたもや一瞬でアルテの横に立っていた。
「どういうつもりだ?俺を晒し者にしたいのか?」
「いや、貴女がこの世界で生きていく為に必要な特権を与える為の通過儀礼みたいなものさ。どうせ貴女の事だから、ギルドの冒険者登録は断ったのでしょう?」
「うっ、何で分かった?」
全て見透かされている気がしてアルテは唸った。ディオソニスは満面の笑みを浮かべて、辺りの人々を見る。怯えていた人々は少し安心した様だ。
「冒険者になると、強い冒険者は討伐依頼ばかりで自由は無くなりますからね?しかし貴女は村の復興だけではなく、国の危機には協力することを王と約束した。その約束を守る為には、様々な特権が必要になる」
「特権?」
「先ず第一に、王都に入るには冒険者、又は王都にて何らかの契約を結んだ事の証明証が必要。それを顔パスできる。第二は、勇者候補には一夫多妻制が認められている。貴女が村を復興できたとしても、この国では村長は男性に限るという決まりがあるから。もちろん貴女が一人二役をしても構わないですが、村を残して発展させるには、結婚して子供を増やすことが近道だと思いますよ?」
結婚?正直想像すらしていなかったな。一夫多妻制?独身には聞こえは良いが、女性に対する甲斐性が無い俺には無理な話だ。
「それがここで勇者候補の公表とどう繋がるんだよ?」
「魔族を討伐できるほどの勇者候補者が村を作るとなれば、自ずと人々は集まるでしょう?そうなれば商人も来ますし、住みたいと思う人も増えるかもしれない」
「う~ん、確かにそうだが。先ずは復興してからの話だしなぁ。それにまだ資金が無い」
村の住民を増やすのはまだまだ先の話である。先ずは住める環境を整えることが先決なのだから。
「資金なら渡そう。トーマス!」
ディオソニスは突然ギルドマスターを呼んだ。あらかじめ待機していたかの様にトーマスは二人の前に現れた。手には金色のカードを持っている。さてはコイツらグルだったな?と今更ながらに思う。
「このカードは地球界で言う銀行のカードだ。王都にある国政銀行に既に討伐報酬が入っている。自由に出し入れしてくれ」
ギルドマスターからカードを受け取るアルテを見て、辺りの人々をどよめいた。冒険者達も驚いている。ギルドマスターが下手に出ているところなど見たことが無い。
「討伐したってのは本当なんだな」
「本当にあの方は勇者候補なんだわ!」
「新たな勇者アルテ、万歳!」
「奇跡の村娘、万歳!」
辺りの人々は興奮して、一斉に万歳コールが始まった。
目立ちたくなかった本人の意思とは逆に、結局アルテの存在は王都中に知れ渡ってしまったのである。
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