拳で語るは村娘

テルボン

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第2章 新たなナニゲ村

第15話 マジックリライト

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 ドンドンドン!

 まだぼんやりと頭がする中、室内に強めのノックの音が聞こえる。

「アルテさん?!大丈夫ですか?!失礼します!!」

ガチャガチャとピッキングをする音がして、アレックスが室内に入ってきた。

「あ、アルテさん、ご無事で…した…か?」

 はだけた服装でベッドに横たわるアンナと朱美姿のリリムに目がいって、アレックスは見る見るうちに耳まで真っ赤になる。

「あ、あ、ああ、あの、お、お昼が過ぎても起きてこないって、メグさんが呼びに来たものだから…その、すみません!お、お邪魔しました?!」

「ん~、いつの間にか寝てた…というより気を失っていたか…マインドダウンだな」

 髪をかきあげて辺りを見回す。まだ思考がまとまらない。リリムの肩を揺すり起こす。

「え?気を失っていたんですか?マインドダウンって、三人で一体何を…?」

 アレックスは目を手で隠しているが、三人の様子がかなり気になっている様だ。
 アルテに揺さぶられて、アンナとリリムはゆっくりと目を覚ました。

「ん~…何か頭痛い…」

「もう悟ったら、最後にやり過ぎよ」

  何の想像をしたのか、アレックスは突然鼻血が出てきて焦っている。まだ14歳になったばかりのアレックスには刺激が強過ぎたかな。

「アレックスもルームに入れてやる。記憶の共有をした方が説明が楽だからな」

 シェアルームの空間にアレックスを受け入れて、アルテ達が意識を失った前の記憶を与えた。

「え?うわぁ~?!凄いですね!」

 体験した記憶が一気に頭に回想され、アレックスは目を白黒させる。

「だろ?何度も試した結果、最後の技能スキル【マジックリライト】のMP消費幅が幾つか分かった。先ずこの技能スキルは脳内ディスプレイに表示される全ての文字を書き換え出来る。そこで先ずステータスのMP自体の数値を変えてみた。MPを1増やすのに10消費され、10増やすのに100消費された。変更数値の約10倍のMPが消費される。逆に、技能スキル使用時の消費MPの数値を1下げる場合も10消費され、10下げる場合も100消費される」

「この時点で私達三人のMP半分以下になってたのよね」

 ルームシェア内での技能スキルMP消費が分割されていたので、どんどん試していたのだ。消費割合も調整できたので、MP容量が一番低いアンナの負担は5分の1にしていた。

「元々技能スキルのMP消費が少ないチャクラのMPを0にしたら、技能スキル名まで変わり効果も少し変わった」

技能スキル

【オートチャクラ】消費MP 0  効果 体力低下・状態異常を感じると、大気中にある霊子を吸収して、体内の自然治癒力を急上昇させる。体力、魔力、状態異常が微量ずつ回復する。無動作時に効果が上昇する。(LVに比例する) LV 1

「勝手に発動するタイプに変わった。当然、【瞬歩】や【白刃取り】も消費MP0に変えたが、こっちは名前や効果の変更は無かったな。技能スキルにより効果は様々な様だ。そして最後に試したのが、今発動している【シェアルーム】だ。これには文字を足した」

「それでいきなりマインドダウンしちゃったのよね」

  リリムは、はぁ~っと長い溜め息をつく。アンナはまだ少し頭が痛い様だ。

「【シェアルーム】の効果のに変えて、対象にの部分を、対象とに変えたんだ。いきなり14文字変えた途端に、三人共意識を失ったらしい」

「足りなかった分のMPが全て精算されるまでに10時間以上かかったわね。三人で無防備で10時間…恐ろしいわ」

 安全が確保されて無い状況で、同じ状態なら自殺行為に等しいだろうと思う。

「しかし、見事に技能スキルは書き換えられたぞ」

技能スキル

【シェアルーム】消費MP 5  効果  ルーム対象の持つ技能スキルと受けた事象・体験(経験値・ダメージ・記憶)を複数の対象と共有することができる。(対象数はLVが上がる毎に5増える)

「ステータスによって効果幅は変わるが、リリムの魔法を俺も使えるし、アレックスが俺の【発勁】を使う事も出来る。まさに共有だな。まぁ、発動者オレには許可する、しないを決める事が出来るみたいだけど。早速、今居る全員に【オートチャクラ】を共有許可っと…」

 すると、効果は直ぐに現れた。アンナとリリムのマインドダウンの後遺症は直ぐに回復しだしたのだ。

「便利ね~。本当に何でも有りの神の技能スキルだわ。でも、使い場所と時間に気をつけないと、長時間のマインドダウンなんて怖すぎるわ」

「確かにそうだな。熟練度LVを上げて、MP消費者人数を増やすことが、現段階の早い安全策の様だな」

 今後の課題がしっかりと分かったところで、心配になったメグ達が様子を見に来た。

「あ、あの~大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。心配かけたね」

「良かった~!昼食出来てますので、降りて来て下さいね」

 メグ達は安心した様で笑顔で戻って行った。
 流石に寝間着の格好のままはマズイので、着替えてからリビングへと降りる。
 その間もアレックスは技能スキルを共有できるなんて凄いですねと興奮が冷めない様だった。
まぁ、現時点では五人までが限度なのだけれど、ダメージ軽減、自己回復持ちの魔法戦士が複数集まると考えたら、ある意味恐ろしい。
《この技能スキルは極秘で頼むぞ。バレると色々と問題になりそうだからな》

 【以心伝心】の念話で体験した全員に釘を刺すと、各自分かったと返信が来る。
 信頼できる仲間以外には教えたら危険になる事は間違いないだろう。

 昼食中にアルテはアレックスの索敵サーチを利用して、皆んなの技能スキルを確認する。 
 その後は昼食を済ませて、もう一度ナニゲ村に今度は全員で行ってみる事にした。

「ごめんね、無理言って。でも君達の力を借りたいんだ」

 アルテは、まだあまり話しをした事が無いテンデ村の四人に村の復興作業の手伝いを頼んでいた。

「いいえ、私達も何か行動を起こさないと、このままじゃダメなのは分かっていたので、協力させて下さい」

 四人は深々とお辞儀をする。こういう雰囲気は苦手だ。直ぐに頭を上げる様に促して、備品倉庫の扉をナニゲ村への入り口へと、転移鍵ポートキーで繋ぐ。

「先ずは向こうに行って説明しよう」

 扉を開け、ナニゲ村の崩れかけた壁に立て掛けた扉から外へと出た。

「今日は初日で、もう一時が過ぎているから一つの作業を四時までで切り上げようと思う。作業内容は簡単だ。廃材をコイツに投げ込んでくれれば良い」

 アルテはそう言うと、かなり大きめの魔高炉を道端に出現させる。

「石や木屑、何でも良い。片付けついでに新たな材料として使う。さぁ、始めようか」

 総勢十一人で、次々と廃材を魔高炉レンジに投げ入れていく。
 時間はあっという間に立ち、廃材は村の5分の1も片付いただろうかという状況だ。

「今日はこれくらいで終わろうか。皆んな、ありがとう!」

 全員、汗とススや泥で汚れまみれた格好だけど笑顔である。

「じゃあ、とりあえず集めた廃材で最初に作るのは…これっと!」

 アルテは選択可能なものをディスプレイから選びだし魔高炉を稼働した。

チーン!

 レンジの音が鳴ると、白い煙が上がって魔高炉は姿を消した。代わりに大きな影が現れた。

「わぁ!これって!?」

 現れたのは少し小さめの石造りの建物で、窓は無いが少しお洒落な扉が付いている。

「今日の材料ではこれが限度だ。ここを王都との正式な出入り口にしよう。さぁ、皆んな今日はヘトヘトだろ?帰ってお風呂にしたら、今日は街に食べに行こう!」

「「やった~!!」」
 
 全員、大喜びしてくれた。この調子で明日から頑張ろうとアルテはやる気を出したのだった。

   一方ーーー。

 ナゲイラ国、北の関所…。
関所から続く長い街道に一台の馬車が現れた。

「お、お客さんだぞ」

 見張りをしていた一人の門番が、仮眠を取っていた相棒を起こす。

「ん、ああ。珍しいな」

 相棒は起きると軽く欠伸をした後、持ち場についた。その二人が見下ろす門の前で馬車は止まった。

「身分証を提示してくれ」

 門番の呼びかけに御者の男が降りて来て、二人が見下ろす物見台に羊皮紙の身分証を提示する。

「ふむ、ソワール国の商人か。馬車の荷台には護衛の冒険者二人と商品の布の織物と陶芸品か。一応、確かめさせてもらうよ?おい、頼む」

 門番の呼びかけで門の横で待機していた冒険者ギルドの冒険者二人が荷馬車へと回る。

「降りてもらえるかな?」

 荷馬車に座っていた二人のソワール国の冒険者と目が合う。お互い視線を逸らさないまま二人の冒険者が荷馬車から降りて離れると、積み荷の確認を始めた。
 しばらくして、二人が戻ってくる。

「問題無い。ただの商品だ」

「そうか。ソワール国の方々、待たせたね。今門を開ける」

 安全が確認されると、門はゆっくりと開かれて荷馬車は通過する。

「では良い旅を!」

 送り出す門番を背に、荷馬車は街道を走り出した。
 関所が見えなくなる頃、御者の男が後ろの冒険者達に声をかける。

「上手くいきましたよ旦那方。それで、次は王都に向かうんで?」

 荷馬車のホロの間から冒険者の一人が顔を出す。あばた顔で鼻が赤いその男は、御者を見るとニヤっと気持ち悪い笑顔を見せる。

「いいや、ナニゲ村の手前まで向かう。そこで復興に派遣される冒険者達と入れ替われとのヤツの指示だ」

「分かりました~」

 荷馬車は王都への道を大きく外れ、ナニゲ村へと進路を変えるのだった。
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