拳で語るは村娘

テルボン

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第2章 新たなナニゲ村

第17話 派遣された冒険者

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 昼食は鹿の肉でロースステーキとスジ肉のシチューを美味しく頂いていた。

「メグ、このシチュー凄く美味しいよ!流石第二職業セカンドジョブが料理人になっただけのことはあるな!」

 実はナニゲ村の娘達はアンナ以外は第二職業セカンドジョブを習得していなかった。
 そもそも第一職業ファーストジョブは身分を意味し、その身分にあった恩恵と技能スキルを習得するらしい。
  第二職業セカンドジョブはその当人の隠された才能であり、その環境と体験により開花する。したがって、そんな環境に出会わなければ一生開花しないままだそうだ。
 因みにアンナの第二職業セカンドジョブ乗り手ライダーという変わった職業だ。小さい頃から、村にいた農耕馬や大型犬に乗って遊んでいたら習得したらしい。

 メグはシェアルームによる経験値の獲得と度重なる大人数分の調理経験によって、見事に第二職業セカンドジョブを手に入れたのだ。

「私達も手伝っているのに、メグちゃんだけずるいなぁ」

 フロウとファーが、自分達も料理人の第二職業セカンドジョブが欲しいと羨ましがっている。そんな彼女達にもいつかきっと素敵な第二職業セカンドジョブが開花することだろう。

「ナタリー、バリケードと簡易的な罠は出来たかい?」

 食事の後片付けをしている彼女にアルテは見本が出来上がったかを尋ねた。

「はい、とりあえずは対獣用のバリケードと、流石に鉄は無かったので竹串製のとらばさみと括り罠を作りました」

 括り罠は一般的な物で対人用、捕獲用と使いやすいので大量に作るとしよう。
 次に出来上がった見本のバリケードとトラバサミを確認してみる。
 バリケードは丸太杭を繋ぎ合せて連結させた拒馬で、設置後は他の拒馬と連結、地に固定する為の打ち込み式の細工もしてある。
 簡易的罠のトラバサミは竹串製のはさみ部分を堅木で補強し、串部分にはが加工してある。これは対象を傷付け過ぎるので、獣の捕獲用罠としては使えない。対魔物用として設置だな。

「うん、上出来だよ。午後から皆んなで村の周辺に設置しよう。リリム達の魔高炉の状態はどう?」

 リリム、アンナ、メグの魔高炉の廃材の収納量を確認する。台車を利用したので昨日より多くの廃材を集めたようだ。

「とりあえずバリケードと括り罠用ロープを多めに作って、後は大量の角材、板材、レンガ、セメントの粉、石材、砕石を作成っと」

 白い煙を上げて、選択した品々が目の前に現れる。

「この袋って何?」

 アンナが積み上げられたセメント袋を不思議そうに見ている。この世界にもあると思うのだが、袋に表示されている文字は地球の文字で、彼女達には読めないらしい。

「建物を作る際の基礎や石材同士をつなぐ等、いろいろ使える粉さ。水、砂、砕石を混ぜて強度も変えれるんだ」

「でも、この前みたいに魔高炉で建物を建てるなら必要無いんじゃない?」

 リリムが魔高炉の表示画面をスクロールしながら言うと、アルテはうーんと唸る。

「俺の技能スキルはあくまでアイテムクリエイトであって、ハウスクリエイトでは無いからね。アイテム感覚でこの前作った簡易倉庫も、小さいサイズだからまだいいけど、建築構造を知らない俺のイメージが強いから、強度とかは保証できない。住宅を建てる場合は専門知識を持っていないと、住むのは危険だと思う。だから、冒険者ギルドに専門の大工と左官の経験がある冒険者を頼んだんだ。だから、材料としてとりあえず準備したわけだよ」

「その冒険者が来たらこっそりとシェアルームで専門技能スキルを借りるつもりね?それでいつ頃着くの?」

 ディオソニスの話だと昨日出発しているはずなので、到着はおそらく明日頃になるはずだ。

「明日頃には着くだろうから、それまでに作れるアイテムはどんどん作成しよう。彼等の前でアイテムクリエイトは使わないつもりだからね。必要な物は今のうちに言ってくれ」

 その日の午後は、大量に生産したバリケードを村の南出入り口意外に連結固定して、村全体を囲むように設置した。森が近い北側には森内部に括り罠を、村側にも数箇所トラバサミを仕掛けた。
 大工道具や必要なアイテムを作り出した後は大きめの十字架の墓標を作り、村の端に集めて埋葬された村人達のキチンとした墓を立てた。
 アンナ達だけでなく、ナタリー達も自分達の村を思い出したようで、我慢する事なく泣いていた。


 ナニゲ村より東の方角、王都と村の中間程の地点で、街道から少し逸れた場所に馬車が土煙を上げて横転していた。そのすぐ側にもう一台の馬車が止まっている。
 倒れた馬車には馬が繋がれた手綱で起き上がれずバタバタと暴れている。

「クフフフッ…」

 倒れた馬車の荷台のホロを捲りあげて、一人の男が中から現れる。その男は醜いあばた顔で満面の笑みを浮かべる。腕や胸部は返り血を浴びたらしく赤く染まっている。

「旦那~!?殺しちゃマズイですよ~」

 倒れた馬車の横から更に二人の男が現れる。二人共軽装ではあるが、冒険者の格好をしている。その姿を見たあばた顔の男はダハハと不細工に笑った。

「バズー、今度は割とマシな顔になったじゃねぇか。商人の奴よりその方が似合ってるぜ?なぁ、ヤズーお前もそう思うだろ?」

「…俺には気にならない。それより今回は前より少し冒険者の格が落ちた体なのが残念だが…」

 ヤズーと呼ばれた男は、馬車の横に余り外傷の無い二つの遺体を残念そうに見ている。

「だろう?やっぱり自分に合った体が一番だよなぁ」

「でもゴッズの旦那~、ボスの命令は神の指示に従って現地の冒険者に成り変われって命令ですぜ~?」

 バズーに諭されてゴッズは困った表情をする。

「そうは言ってもよ。もう死んじまったから無理だしなぁ~。まぁ、情報通りに演じてりゃバレねぇよ。コイツの情報はちゃんと取るから心配すんなよ」

 そう答えると、荷馬車に戻り胴から切り離された遺体の頭を鷲掴みする。
 すると、掴んでいた手から透明な液体が吹き出してあたまを包み込んでしまう。
 液体は、耳の穴や鼻や口といった穴からみるみる入り込んで、直ぐにまた流れ出てくるとゴッズの手に溶け込むように消えた。

「良し、間に合ったな。ほんじゃ、お前達は早いとこ元の体を焼いとけよ~」

 三人の男達は荷馬車に火を着けると、元の体を焼くついでで、荒く短冊切りにした馬の肉を焼き上げてかぶりついた。

「明日は目標に接触する。ちゃんと自分の個人情報を覚えとけよ~?」

 馬肉を堪能しているゴッズを見て、旦那が一番心配なんだよなぁと、ヤズーとバズーは口には出さないが短いため息をつく。
 三人は、そのまま明日に備えてその場を野営地に決めたのだった。

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