【BUT but バット 】異世界人を信用するのは愚かなことだろうか?

テルボン

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ファイクの日常 ④

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「……」

 教会の集会室。
 長机の上には白蜥蜴の入った籠が置かれている。

 そして、剥れるミーナを前に、ファイクは1人座らされていた。

 ファイクの隣には、冷ややかな笑顔の彼女の父親ファーデンが立ち、金貨が入った袋を机の上に置いた。

「私は、ファイク君の言い値の金貨10枚を支払うと言ってるんですよ?」

「き、金貨10枚は、彼女を諦めさせる為に言ったに過ぎません。だ、だいたい、この蜥蜴は岩蜥蜴という魔物なんですよ?いくら可愛いと言っても危険です。だからこそ、テイマーギルドに引き渡すべきです。その方が、この子も幸せになれるんです」

 部屋を貸してくれたモティス神父に視線で助けを求めるも、顔を逸らされてしまった。

「そんな事ないもん!ファイクだって可愛いってニヤニヤしてたじゃない。私が飼っちゃダメなのなら、ファイクが飼うべきなのだわ。この子を拾ったのは、そもそも貴方なのだから」

「僕はこれでも冒険者だからね。ダンジョンに長く潜ったりするから、いつでも面倒を見れるわけじゃないんだよ」

「む~、此処に遊びに来たら遊べると思ったのに~」

 ん?遊びに来る?王都には観光に来たんじゃないのか?

「ああ、君の事はモティスから聞いたよ。なんでも、ダンジョンの中層階まで潜れる実力者だとか」

「あ、いえ。見た目の通り実力者というわけではなく、戦闘はからきしでして、、」

「でも、1人でそんな危険な仕事をするのは、…やはりお金の為かね?」

「僕は…」

 嘘をつくのは簡単だったけど、決して軽蔑した意味で聞いているのではないと、ファーデンの真剣な眼差しに、ここで誤魔化すのは違うと思った。

「僕は、この王都が気に入ってまして。田舎で暮らす家族と暮らせる家を持つ事が夢なんです」

 お金が必要な理由は、田舎に住む家族を呼び一緒に住む為だ。
 実家は、王都から遠く離れた田舎で、父と12歳になる弟が暮らしている。

 単身王都に来て10年、地道に預け続けたギルドへの貯金額は、既に金貨1500枚を超えている。

 郊外であれば、新築の住宅を建てて3年は働かずに過ごせる金額だ。

 そう、お金の問題は既に解決しているのだ。

「…それなりの家なら、もう建てられるんです。ただ、村での僕の家族は、唯一の亜人家族でした。特に僕は、この通り見た目でハッキリと分かる亜人ですので、異質だ、気味が悪いと弾かれていました。…僕のせいで家族にも迷惑をかけていましたから、王都での成功で村のみんなを見返したいってのが本音ですね」

 信用できる行商人に頼み、少しではあるが定期的にお金の仕送りはしている。
 一緒に住もうと父に手紙を書いても、この村には母の墓があるから離れたくないと断られていた。
 …僕は、父からも避けられているのかもしれない。

「まぁ、それならばできるだけ豪邸を建てて、大威張りしてやろうって、冒険者稼業で稼ぐことはまだやめられないんですよ。…ハハハ、ですので、この子を売ろうと考えていたのは本心ですよ。ただ、値段は関係なく、やはりテイマーギルドに渡す方が、仲間が多くて良いと思うんですよね」

「テイマーギルドか。確かに、同種の魔物を従魔にしている者達が居るかもしれないな」

「お父さん、そんな事、この子には関係ないよ!この子はまだ赤ちゃんだもの!赤ちゃんは親と一緒に居なきゃ!」

「僕は親じゃないよ」

 ミーナは、机の上の籠から勝手に白蜥蜴を開放した。

 ノソノソと這い出した白蜥蜴は、布で目隠しされているのに、迷う事なくファイクへと向かって歩み寄ってくる。

「んっ!」

 見てよ!と、ミーナは白蜥蜴を指差す。

「分かった、分かったよ。とりあえず、次にダンジョンに向かう予定の10日間は、しっかりと面倒を見るよ」

「10日間だけ?」

「そう。とりあえず10日間。その後、この子が大人しく、害が無い存在なら、僕が帰ってくるまで神父さんに預かってもらおうかな。でも、少しでも害があると判断したら、直ぐにでもギルドに引き渡すことにする」

「私!私も面倒見る!」

 元気よく挙手をするミーナに、ファイクは彼女の父親を見上げた。

「それは流石に我が儘だよ。…えっと、ファーデン様?王都にはいつ頃まで滞在の予定ですか?」

「私達が滞在するのは…半年間だ」

「半年…」

王都ここに来たのは、妻の持病の治療と療養の為だ」

「…ミーリア様の治療」

「ああ。だから、慣れない土地のミーナには友達が必要だと思う。君の合間で良いのだ。ファイク君、ミーナの友達になってくれないかね?」

 僕が彼女の友達に?
 僕はもう18歳で大人だ。今更こんな弟と変わらないくらいの歳下の少女と友達に?
 他人と親しくなる事をずっと避けてきたのに?

「何よ?この子のお世話は絶対よ?」

 フンス!と鼻を鳴らし見上げるミーナに、ファイクは思わず笑ってしまった。

「分かりました。本人以外から頼まれてなるものではありませんが、僕で良ければ、彼女の2番目の友達になりましょう」

「2番目?」

「1番目はミミタンだろ?」

 ウサギの人形を渡すと、ミーナは耳を赤らめながらも頷いた。

「か、勘違いしないでよね⁉︎わ、私には、帰ったら他にも友達は居るんだから!猫のチョータに、インコのアニに…って、と、とにかく、ボッチのファイクとは違うの!私には友達は多いのよ?」

「それは良かった。おかげで僕もボッチじゃなくなるんだからね?」

「う、うん。よろしく…お願いします」

 ミーナはますます顔を赤らめ、ミミタンで顔を隠している。

「……。じゃあ、仮だけど名前を決めなきゃね」

 改めて白蜥蜴をまじまじと観察すると、尾の部分だけ僅かに赤が混じり桃色である。

 カシュー、カシューと、ファイクでなければ聞き取れないような小さな呼吸音を出し、目隠しの布を外された眼は、不思議そうにファイクとミーナを交互に見ている。

「…ヤバイ。名付けって難しい…」

「えっと~、白いトカゲさんだから、シロタンとか、シロッピとか…」

 勝手にミーナも名付けに参加しだし、人形と同等の名前を絞り出している。

「そもそも、オス、メスの判別も分からないね。男女兼用の名前で、ケリー、ジェシー、ジェイミー、シャノンなんてのも悪くない」

 ファーデンまで提案を始め、ますます迷う展開となっていく。

「岩蜥蜴は、岩を好んで食べるから、ロッキーってのは単純すぎるか…」

 そこで、白蜥蜴がピクピクと反応を見せた。満足そうに尻尾を軽く左右に振っている。

「…気に入ったみたい」

「…ロッキーか。私としてはチャッピーも捨てがたいが…。うん、ロッキーも悪くないかもしれん」

 少し残念がる2人をよそに、白蜥蜴は名付けたファイクを見上げて尻尾を振る。

「じゃあ、今から君の名はロッキーだ」

 ファイクが手を差し出すと、人差し指に頬を擦り寄せてくる。

 ヤバイ、可愛い。ちょっとだけ、いずれ手放してしまう時に、後悔してしまいそうになるかもしれない。

「よろしくね、ロッキー!」

 こうして、ボッチだったファイクの日常に、流されるように友達と魔物の家族が増えたのだった。
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