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第6章 勇者候補の修行
修行 その4 カエデ
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午前の修行が終わり、意気揚々と帰室したタケルは、索敵で近くに誰も居ない事を確かめると、大きな声を上げた。
「やったぞぉーっ‼︎」
転職しなくても魔法が使える事に、嬉しさを抑え切れなくなっていたのだ。
「ボルトさんも、使用した魔法の回数に対して魔力量の消費が少ないから、ひょっとすると魔術の素養があるかもって言ってくれたし、これは色々と試すしかないよな⁉︎」
今までに使用した呪いの闇魔法や支援魔法では無く、魔術師が覚える黒魔法、転送士や四次元バックパック等の制作に携わる調律師が使う赤魔法(時空間・亜空間)等も使えるかもしれない。改めて勇者という職業の凄さを実感する。
「ただ問題は、各魔法の正しい図式を知らない事だな。呪いの図式を分解して考えるか…神経痛の呪いに使われている「火」の図式で魔方陣を形成して、黒魔法の火属性下級魔法「メアギ」を発動!」
分解した図式のみで形成した魔法を、石壁へと向けて放つ。
ブオオゥッ‼︎
最弱な火球を放つつもりが、大きな火球が壁に激突して散らばった。
「うわぁっ⁈強過ぎた⁉︎」
慌てて飛び火を消して周る。幸い近くの物には燃え移らなかった。しかし、石壁には小さな亀裂と焦げ跡が付いた。
「練習場所も選ばなきゃな~。やっぱり無難にラネットさんに各魔法の初期図式を色々教わろう」
壁の焦げ跡を、濡らした布でゴシゴシと落としていると、ケイトが昼食を持って来た事に気付く。
「どうされたんですか?」
「あ、いや、魔法を失敗しちゃって…」
「室内での練習はお控え下さい。しかし、成功されたんですね、魔法の発動。おめでとうございます」
叱りを受けるかと思いきや、優しい笑顔で称賛されて思わずタケルはドキッとしてしまう。
「清掃等は私の担当でございます。タケル様が外出の際に、私共が修復と清掃を行います。ですので、先ずは昼食を取って頂き、午後からの修行に励んでください」
彼女はそう言って、机に昼食の準備を始めた。用意された昼食を食べながら、スケジュールを見て午後の修行場所を確認する。
場所はオーランドと同じく屋上通路のようだ。担当は戦巫女のカエデ=オザワ。彼女はグラハバンの総合ギルド長らしい。
総合ギルドとは、国内にある冒険者ギルドだけでなく、他国の冒険者ギルドからの仲介依頼や共同要請等を行う機関である。これは他国にも当然あり、他国の情報を入手する為に、隠密が最も多い場所とも言える場所だ。よって、彼女はかなり多忙だと思われる。
「ん~、やっぱり来ないなぁ」
昼食を終えたタケルが、待ち合わせ場所に時間通りに着いてから、既に1時間くらい待っている状態であった。
レザーアーマー姿のタケルは、ただ待っているのも無意味なので、自主練を黙々と続けている。待ち続けて2時間目に突入しようとした頃、城内全域に展開している索敵に、突然カエデの反応が北の塔の入り口付近に現れた。反応はそのまま此方へと近付いてくる。
「ごめ~ん、待たせたね~」
やがて反応通りに、カエデがタケルの前に姿を現す。その格好は、目のやり場に困る様な露出の多い巫女の戦闘衣だった。
「時間があまり無いから、簡単に説明するね。私が教えるのは隠密よ。先ずは隠密が何なのかを体験してもらうわ。貴方は、時間内に私を見つけて捕まえるだけ。範囲はこの通路内限定よ。簡単でしょう?」
「あの、索敵の使用は?」
「良いわよ?意味無いから。じゃあ、始め!」
合図と共に煙玉を破裂させ、カエデは一瞬で姿を消した。タケルは煙を振り払い、辺りを見回す。通路は幅広いが、大して物も無いので身を隠すような場所は無い。
索敵は彼女の宣言通り、幾ら展開してもカエデの反応は無い。
(これは索敵を邪魔する技能なのか?)
索敵が全く意味を成さないなら、しらみつぶしに怪しい場所を探すしかない。
始めは砲弾用の木箱から探し、通路の外壁に張り付いていないか等、何とか隠れれる場所を当たっていく。
「そう簡単にはいかないか。それなら…メフブ!」
先程と同様に、黒魔法の氷属性下級魔法を思い付きの魔方陣で通路に放ってみる。氷属性は「水」と「氣」の混合魔法なので、先程みたいな偏り過ぎな威力ではなかった。
しかし、目的は威力では無い。通路の床と腰壁を次々と氷で覆っていく。
(透明化の技能か、無音で素早く動ける技能か、それ以外だとしても、これでも行動が限られてくる筈…)
通路は全面氷で覆われた。避けた気配も無く姿も無い。つまり、透明化の線は消える。
タケルは集中して、音と視界を研ぎ澄ます。視界の端で、氷に反射したカエデの姿を捉えた。
「そこだっ!」
タケルは、振り向き様に飛び付いた。ガシッと両腕で抱き締める様に抑えていて、直ぐに我に返る。思わず抱きついてしまった!露出の多い姿の、女性の柔肌に……って、目の前にあったのは厚布を丸めて縛っただけの偽物だった。
「はい、残念!」
刹那、後頭部に手刀を受けてタケルは意識を失った。
しばらくして目を覚ますと、カエデはギルド用の仕事着姿に着替えていた。
「あ、気が付いた?ギルドから呼び出しが来ちゃってさ。今回はこれまでって事で良いかな?今回の修行で学ぶ事は分かるよね?私は今回、技能は使って無いからね。ただ、貴方の死角に入り気配を消していただけ。最後は惜しかったわ。次は頑張ってね?」
彼女は颯爽とその場から帰ろうとするが、何かを思い出したように振り返る。
「明日はバンカーの担当だったんだけど、彼も忙しくて時間が合わないみたい。ウィルソンの代わりの担当を呼んであるんだけど、彼女も一向に現れないのよね。まぁ、明日は誰かを寄こすから、合わせて頑張って?」
「はい、ありがとうございました」
じゃあねと軽く手を振ると、来た時と同様に彼女は北の塔へと向かった後、また脳内マップから一瞬で消えた。
「北の塔に何があるんだ?」
タケルは彼女の向かった場所へと向かう。通路から北の塔への入り口に向かうと、鉄の扉があり施錠してあった。
通常の南京錠に、魔法の錠も二重に重ねてある。タケルからすれば、解錠は大して問題なくできるのだが、厳重にしてある理由も分からない内に、わざわざ危険を冒してまで調べる必要は無い。
「調べるのはいつでもできるし、とりあえず戻るか」
自室へと向かう途中で、室内にまだケイトの反応がある事に気付く。屋上で待機していた時に、清掃に訪れた事ら気付いていたが、修行が終わってもまだ室内にいるのはおかしい。何かあったのかもしれない。
「ケイトさん、大丈夫ですか⁈」
勢いよく扉を開けた後、目に入った光景にタケルはポカンとしてしまった。
「ああ、おかえりなさいませ。タケル様」
何の戸惑いもなく清掃を続けているケイトの足元には、首から下をミイラのようにロープでぐるぐる巻きにされた女性がもがいていた。
「あ、あの、その方は…?」
「さぁ?存じ上げぬ方でございますが、室内で一人で床に這い蹲っておりましたので、とりあえず縛って置きました」
タケルは、そっとその女性の顔を覗き込む。
「あ!始めに室内で寝てたメイドの人だ!しかも、麻痺の呪いに掛かっているけど、もしかして…花瓶の罠に⁈」
「確かに、花瓶が割れていましたので、新しい物に替えて置きました」
うっかり罠を解除するのを忘れていた。下手をしたら、ケイトが麻痺の呪いに掛かっていたかもしれない。
「とにかく、呪いを解いて事情を聴くとしよう」
体の拘束はそのままで、タケルは彼女に掛かっていた麻痺の呪いを解除する。
「ふぁぁっ⁈痺れが無くなった?やっと動ける…って動けないんですけど?」
体の感覚が痺れから解放されて、やっと自分が拘束されている事に気付いたらしい。
「当然でしょう?貴女は室内に無断で侵入する怪しい人ですから。とりあえず、名前と要件を伺いましょうか」
「わ、私は怪しい奴じゃ無いよ~?い、一応、タケルちゃんの担当になったし~。挨拶がてらに来ただけだよ~?」
「名前は?担当って?」
「うっ…。その疑いの眼差しは痛い…。名前はリンダ。リンダ=クロッソ。カエデ様に頼まれて、ウィルソン様の代わりに武術担当に選ばれたのよ。誓って嘘じゃないわ」
格好がつかない状態での、彼女の真剣な目に嘘は見られない。タケルはフゥとため息をつくと、彼女を拘束していたロープを外し始めた。
「タケル様、開放してよろしいのですか?」
「大丈夫だと思うよ。少なくとも、担当に選ばれた事自体は嘘じゃなさそうだ」
体が完全に自由になると、リンダと名乗った彼女はその場に土下座の姿勢をする。
「本当にごめん。ちょっと悪ふざけが過ぎました。カエデ様には言いつけないで下さい。あの人、怒ると怖いし長いの…」
「まぁ…考えて置きます。それで?どうやって城内に来たんですか?そんなメイド服の格好だからって、簡単には許可無く来れませんよね?」
「ああ、それなら、カエデ様用の転送装置を使えば…あっ⁉︎」
「転送装置⁈」
「…そ、それの使用も…内緒に…」
転送装置、つまり北の塔にあるのはそれだろう。総合ギルドと国の関係も深いだろうし、おそらくは、多忙なカエデの為に特別に許可されたのだと思われる。
問題は、それの使用を許可無く勝手に来たリンダの問題児的なところだ。
「貴女に、ウィルソンさんの代わりが務まるんですか?」
率直な感想を言うと、いろいろと無理そうだなとタケルは思う。
「それはカエデ様のお墨付きだよ」
そこは自信ありげに胸を張って言う。態度が変わり過ぎだ。ケイトの疑いの視線がどんどん強くなってきている。
「とにかく、今日ははもう帰ってください。担当なら、また会うでしょうし」
「ありがとう、直ぐにカエデ様に日にちの設定を話に行くよ」
何度も頭を下げて、リンダはタケルの部屋から退室した。急いで北の塔の転送装置へと向かう途中、彼女は笑っていた。
(危なかった~。担当は本当だけど、来ていた理由がクエストだってバレずに済んだ事は助かった。…メイドのケイトだっけ?一応、依頼主に報告しなきゃね~♪)
「うう?なんか寒気が…」
「でしたら、夕食には暖かいスープを準備致します」
タケルは気を利かせてくれるケイトにお礼を言いながら、それが主に背筋に走る寒気な事に不安を感じていた。
「やったぞぉーっ‼︎」
転職しなくても魔法が使える事に、嬉しさを抑え切れなくなっていたのだ。
「ボルトさんも、使用した魔法の回数に対して魔力量の消費が少ないから、ひょっとすると魔術の素養があるかもって言ってくれたし、これは色々と試すしかないよな⁉︎」
今までに使用した呪いの闇魔法や支援魔法では無く、魔術師が覚える黒魔法、転送士や四次元バックパック等の制作に携わる調律師が使う赤魔法(時空間・亜空間)等も使えるかもしれない。改めて勇者という職業の凄さを実感する。
「ただ問題は、各魔法の正しい図式を知らない事だな。呪いの図式を分解して考えるか…神経痛の呪いに使われている「火」の図式で魔方陣を形成して、黒魔法の火属性下級魔法「メアギ」を発動!」
分解した図式のみで形成した魔法を、石壁へと向けて放つ。
ブオオゥッ‼︎
最弱な火球を放つつもりが、大きな火球が壁に激突して散らばった。
「うわぁっ⁈強過ぎた⁉︎」
慌てて飛び火を消して周る。幸い近くの物には燃え移らなかった。しかし、石壁には小さな亀裂と焦げ跡が付いた。
「練習場所も選ばなきゃな~。やっぱり無難にラネットさんに各魔法の初期図式を色々教わろう」
壁の焦げ跡を、濡らした布でゴシゴシと落としていると、ケイトが昼食を持って来た事に気付く。
「どうされたんですか?」
「あ、いや、魔法を失敗しちゃって…」
「室内での練習はお控え下さい。しかし、成功されたんですね、魔法の発動。おめでとうございます」
叱りを受けるかと思いきや、優しい笑顔で称賛されて思わずタケルはドキッとしてしまう。
「清掃等は私の担当でございます。タケル様が外出の際に、私共が修復と清掃を行います。ですので、先ずは昼食を取って頂き、午後からの修行に励んでください」
彼女はそう言って、机に昼食の準備を始めた。用意された昼食を食べながら、スケジュールを見て午後の修行場所を確認する。
場所はオーランドと同じく屋上通路のようだ。担当は戦巫女のカエデ=オザワ。彼女はグラハバンの総合ギルド長らしい。
総合ギルドとは、国内にある冒険者ギルドだけでなく、他国の冒険者ギルドからの仲介依頼や共同要請等を行う機関である。これは他国にも当然あり、他国の情報を入手する為に、隠密が最も多い場所とも言える場所だ。よって、彼女はかなり多忙だと思われる。
「ん~、やっぱり来ないなぁ」
昼食を終えたタケルが、待ち合わせ場所に時間通りに着いてから、既に1時間くらい待っている状態であった。
レザーアーマー姿のタケルは、ただ待っているのも無意味なので、自主練を黙々と続けている。待ち続けて2時間目に突入しようとした頃、城内全域に展開している索敵に、突然カエデの反応が北の塔の入り口付近に現れた。反応はそのまま此方へと近付いてくる。
「ごめ~ん、待たせたね~」
やがて反応通りに、カエデがタケルの前に姿を現す。その格好は、目のやり場に困る様な露出の多い巫女の戦闘衣だった。
「時間があまり無いから、簡単に説明するね。私が教えるのは隠密よ。先ずは隠密が何なのかを体験してもらうわ。貴方は、時間内に私を見つけて捕まえるだけ。範囲はこの通路内限定よ。簡単でしょう?」
「あの、索敵の使用は?」
「良いわよ?意味無いから。じゃあ、始め!」
合図と共に煙玉を破裂させ、カエデは一瞬で姿を消した。タケルは煙を振り払い、辺りを見回す。通路は幅広いが、大して物も無いので身を隠すような場所は無い。
索敵は彼女の宣言通り、幾ら展開してもカエデの反応は無い。
(これは索敵を邪魔する技能なのか?)
索敵が全く意味を成さないなら、しらみつぶしに怪しい場所を探すしかない。
始めは砲弾用の木箱から探し、通路の外壁に張り付いていないか等、何とか隠れれる場所を当たっていく。
「そう簡単にはいかないか。それなら…メフブ!」
先程と同様に、黒魔法の氷属性下級魔法を思い付きの魔方陣で通路に放ってみる。氷属性は「水」と「氣」の混合魔法なので、先程みたいな偏り過ぎな威力ではなかった。
しかし、目的は威力では無い。通路の床と腰壁を次々と氷で覆っていく。
(透明化の技能か、無音で素早く動ける技能か、それ以外だとしても、これでも行動が限られてくる筈…)
通路は全面氷で覆われた。避けた気配も無く姿も無い。つまり、透明化の線は消える。
タケルは集中して、音と視界を研ぎ澄ます。視界の端で、氷に反射したカエデの姿を捉えた。
「そこだっ!」
タケルは、振り向き様に飛び付いた。ガシッと両腕で抱き締める様に抑えていて、直ぐに我に返る。思わず抱きついてしまった!露出の多い姿の、女性の柔肌に……って、目の前にあったのは厚布を丸めて縛っただけの偽物だった。
「はい、残念!」
刹那、後頭部に手刀を受けてタケルは意識を失った。
しばらくして目を覚ますと、カエデはギルド用の仕事着姿に着替えていた。
「あ、気が付いた?ギルドから呼び出しが来ちゃってさ。今回はこれまでって事で良いかな?今回の修行で学ぶ事は分かるよね?私は今回、技能は使って無いからね。ただ、貴方の死角に入り気配を消していただけ。最後は惜しかったわ。次は頑張ってね?」
彼女は颯爽とその場から帰ろうとするが、何かを思い出したように振り返る。
「明日はバンカーの担当だったんだけど、彼も忙しくて時間が合わないみたい。ウィルソンの代わりの担当を呼んであるんだけど、彼女も一向に現れないのよね。まぁ、明日は誰かを寄こすから、合わせて頑張って?」
「はい、ありがとうございました」
じゃあねと軽く手を振ると、来た時と同様に彼女は北の塔へと向かった後、また脳内マップから一瞬で消えた。
「北の塔に何があるんだ?」
タケルは彼女の向かった場所へと向かう。通路から北の塔への入り口に向かうと、鉄の扉があり施錠してあった。
通常の南京錠に、魔法の錠も二重に重ねてある。タケルからすれば、解錠は大して問題なくできるのだが、厳重にしてある理由も分からない内に、わざわざ危険を冒してまで調べる必要は無い。
「調べるのはいつでもできるし、とりあえず戻るか」
自室へと向かう途中で、室内にまだケイトの反応がある事に気付く。屋上で待機していた時に、清掃に訪れた事ら気付いていたが、修行が終わってもまだ室内にいるのはおかしい。何かあったのかもしれない。
「ケイトさん、大丈夫ですか⁈」
勢いよく扉を開けた後、目に入った光景にタケルはポカンとしてしまった。
「ああ、おかえりなさいませ。タケル様」
何の戸惑いもなく清掃を続けているケイトの足元には、首から下をミイラのようにロープでぐるぐる巻きにされた女性がもがいていた。
「あ、あの、その方は…?」
「さぁ?存じ上げぬ方でございますが、室内で一人で床に這い蹲っておりましたので、とりあえず縛って置きました」
タケルは、そっとその女性の顔を覗き込む。
「あ!始めに室内で寝てたメイドの人だ!しかも、麻痺の呪いに掛かっているけど、もしかして…花瓶の罠に⁈」
「確かに、花瓶が割れていましたので、新しい物に替えて置きました」
うっかり罠を解除するのを忘れていた。下手をしたら、ケイトが麻痺の呪いに掛かっていたかもしれない。
「とにかく、呪いを解いて事情を聴くとしよう」
体の拘束はそのままで、タケルは彼女に掛かっていた麻痺の呪いを解除する。
「ふぁぁっ⁈痺れが無くなった?やっと動ける…って動けないんですけど?」
体の感覚が痺れから解放されて、やっと自分が拘束されている事に気付いたらしい。
「当然でしょう?貴女は室内に無断で侵入する怪しい人ですから。とりあえず、名前と要件を伺いましょうか」
「わ、私は怪しい奴じゃ無いよ~?い、一応、タケルちゃんの担当になったし~。挨拶がてらに来ただけだよ~?」
「名前は?担当って?」
「うっ…。その疑いの眼差しは痛い…。名前はリンダ。リンダ=クロッソ。カエデ様に頼まれて、ウィルソン様の代わりに武術担当に選ばれたのよ。誓って嘘じゃないわ」
格好がつかない状態での、彼女の真剣な目に嘘は見られない。タケルはフゥとため息をつくと、彼女を拘束していたロープを外し始めた。
「タケル様、開放してよろしいのですか?」
「大丈夫だと思うよ。少なくとも、担当に選ばれた事自体は嘘じゃなさそうだ」
体が完全に自由になると、リンダと名乗った彼女はその場に土下座の姿勢をする。
「本当にごめん。ちょっと悪ふざけが過ぎました。カエデ様には言いつけないで下さい。あの人、怒ると怖いし長いの…」
「まぁ…考えて置きます。それで?どうやって城内に来たんですか?そんなメイド服の格好だからって、簡単には許可無く来れませんよね?」
「ああ、それなら、カエデ様用の転送装置を使えば…あっ⁉︎」
「転送装置⁈」
「…そ、それの使用も…内緒に…」
転送装置、つまり北の塔にあるのはそれだろう。総合ギルドと国の関係も深いだろうし、おそらくは、多忙なカエデの為に特別に許可されたのだと思われる。
問題は、それの使用を許可無く勝手に来たリンダの問題児的なところだ。
「貴女に、ウィルソンさんの代わりが務まるんですか?」
率直な感想を言うと、いろいろと無理そうだなとタケルは思う。
「それはカエデ様のお墨付きだよ」
そこは自信ありげに胸を張って言う。態度が変わり過ぎだ。ケイトの疑いの視線がどんどん強くなってきている。
「とにかく、今日ははもう帰ってください。担当なら、また会うでしょうし」
「ありがとう、直ぐにカエデ様に日にちの設定を話に行くよ」
何度も頭を下げて、リンダはタケルの部屋から退室した。急いで北の塔の転送装置へと向かう途中、彼女は笑っていた。
(危なかった~。担当は本当だけど、来ていた理由がクエストだってバレずに済んだ事は助かった。…メイドのケイトだっけ?一応、依頼主に報告しなきゃね~♪)
「うう?なんか寒気が…」
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