転職して冒険者始めました~俺の勇者への道のり~

テルボン

文字の大きさ
35 / 75
第4章 新旧時代大戦

転移

しおりを挟む
 ギィィィンッ!!
 火花を散らしながら室内に金属音が響き渡る。
 シャルロットの曲刀シミター二本の斬撃をブロードソードのみで軽くいなし、その間にケオスドラゴンの間接的攻撃が襲う。
 複数で攻撃に転じると、直ぐに距離を取りティムやマイクを狙って来る。そのせいでブルゲンはティムの側を離れることができない。
 マークも移動しながらの援護射撃を放つが、巨体ではあり得ない動きを見せて予測が全く掴めない。移動を止めてしまうと、直ぐにケオスドラゴンの尾撃が飛んで来る。こちらにはウィルソンが護衛を兼ねていた。
 ジョンとレベッカが一番攻撃を多く仕掛けられ、シャルロットとタケルが援護に入って危機を逃れている。

「くそっ!これじゃあ、スタミナ戦じゃないか!?」

 一対八の圧倒的に有利な戦況な筈が、チームトップの戦闘力を誇るウィルソンとブルゲンを分断され、チームプレイを上手く発揮できない。

「ティムとマイクのカバーを交代しよう!」

 ウィルソン達に戦いに集中して貰おうとジョンが動いたら、レベッカへの攻撃が増して軽い斬撃を受けてしまった。直ぐにシャルロットがカバーに入って対応する。
 ティムはブルゲンに護衛されながらレベッカの回復に向かう。

「スマン、俺が離れたばっかりに」

 この時、五人が一箇所に集まっていた。それを待っていたかの様に、リザードマン将軍ジェネラルは奥の手を出した。左手を突き出し無詠唱の特大火炎玉ファイヤボールを放ったのだ。
 ブルゲンが素早く前に出て両手斧を盾代わりにして受け止める。しかし、その衝撃と飛散する火炎で五人はダメージを負うと同時に視界を一瞬失った。
 たたみ掛ける様に更に攻撃を仕掛けてきたリザードマン将軍のブロードソードが空中で止まる。
 見ると細いワイヤーが手首に巻き付いている。マークが死角からフックランチャーで狙っていたのだ。

「でかした!!」

 そのタイミングをウィルソンは見逃さなかった。ケオスドラゴンの横腹を豪腕で打ち抜いた。ケオスドラゴンは声を上げる間も無く絶命して床に倒れる。
 投げ出されたリザードマン将軍は直ぐに体制を整える。しかし、体の異常に気付き片膝を床に落としてしまう。

「な、何だ?!」

 酷い目眩と吐き気が急に起こり、全身に虚脱感が広がる。

「ようやく効き始めたか。かなり時間が掛かったな」

 タケルはリザードマン将軍の剣を弾き、遠くに飛ばす。将軍は力を振り絞ってタケルに殴り掛かったが、ウィルソンに腕を掴まれ抑え込まれる。

「何をしたんだ?!」

 突然の体調の変化に頭の理解が追いつかない様だ。怒りの意思も体を動かしてはくれなかった。

「最初に接触した時に、毒をベースにした呪いカースを幾つも掛けていたのさ。まさか、ここまで効き目が遅くなるとは思わなかったけどね」

 両手両足を鋼鉄製の鎖で巻いて拘束する。しばらくしてシャルロットがミアーラを連れて来た。将軍が情報を話さないと読んで先に動いてくれた様だ。
 ミアーラは恐る恐るトカゲ肌に触れてラーニングを開始する。
 ミアーラがモノマネをすれば全て解るのだが、ブルゲンがそれでも一応質問をしてみる。

「お前はノゾムの何なんじゃ?ノゾムは一体何を企らんどる?」

「我はノゾム様の忠実なるしもべソドムだ。ノゾム様のお考えを下郎が知る必要など無い」

魔術師メイジにどうやら調教テイムされたのでは無く、精神操作マインドコントロールされた様ね」

 シャルロットに言い当てられても、多重呪いカースの影響でかなりの苦痛がある筈なのに、平然とした表情を見せようとしている。

「セルゲン王にノゾムは一体何を吹き込んだんじゃ?」

「……」

「どうやらダンマリを決め込んだみたいだ。それとも全身に回る神経毒で喋る事も出来なくなったのかな?」

 そこでようやくミアーラのラーニングが完了した様だ。レベルがかなり高かった為に時間もかなり必要だったらしい。

「では始めるべ?モノマネ発動!」

 「?!」
 
 リザードマン将軍は驚きのあまり、開いた口が塞がらない様だ。目の前にいたドワーフの少女が肌や髪、骨格までもが形を変えて、自分の生き写しになったのだから当然の反応だろう。

「さて、もう一度聞こうかの。ノゾムは一体何を企らんどる?」

 今度はミアーラに向き質問をする。それを見てリザードマン将軍は全てを理解した様だ。更に顔色が青くなっていく。

「このトカゲさには企みは何も教えられて無いみたいだべ。トカゲさはノゾムさを神みたいに崇めている様だな。セルゲン王に対してはただのノゾムさの信者程度にしか見てないべ」

「まさに精神操作マインドコントロールだな」

「では、何をする様に命令された?最後にノゾムが居たのはいつじゃ?」

「おのれぇぇっ!」

 リザードマン将軍は言わせまいと必死に抵抗を試みるが、拘束されている上にウィルソンに抑え込まれているので叫ぶ事しかできない。

「既に此奴は用無しだな。どうするタケル、もう消すか?」

「いえ、コイツにはまだ役目があるので生かして置きたいです」

「?そうか、なら黙らせとくか」

 まだ利用価値があるなら仕方ないとウィルソンは将軍の口先を鷲掴みにして無理矢理黙らせた。

「このトカゲさは、宮殿の留守を任せられただな。たまに外さ出て大量に魔物を調教テイムして宮殿に集めていたみたいだ。ジョンさが初めにここさ訪れた際に、魔物で追い回したのもこのトカゲさだな」

「あの時か!あの装置の間に追いやられて俺達は異世界に飛ばされてしまった」

「しかし装置で飛ばしたのはセルゲン王みたいだべ。転移先にノゾムさが居たみたいだな。数日後にタケルさ達にも魔物を仕向けた後は、セルゲン王とずっとこの部屋に待機してたみたいだべな。その後タケルさ達がブルゲン王子さと出て行った後に、ノゾムさが帰ってきてセルゲン王と直ぐに異世界に飛んだみたいだべ」

「一度ワシが居た時代にノゾムがおったのか?何をしていたのか気になるのぅ。それに帰ってから直ぐに旅発ったという事は4日前くらいという事じゃな。どうするのじゃタケル?」

「一度休憩を入れてから、異世界に向かいましょうか。ティム、皆んなにヒールを頼むよ」

 ブルゲンは早く向かいたいと思っているかもしれないが、慌てると冷静な判断も出来ないし皆んな疲れているのが分かる。ついでに昼食を食べる事にした。

 昼食を終え、しばらくしてタケルはリザードマンに近付き話をする。まだ呪いカースは解けてはいない。床に寝転がった状態でこちらを睨んでいる。

「ソドム、君には頼みがあるんだ」

ヒソヒソと二人は小声で話している。シャルロットは離れた場所から見守っていたが、突然立ち上がった。タケルがリザードマンの枷を外したのだ。

「タケル!何で外したの!?」

「あぁ、待ってくれ!ソドムには現地での協力をしてもらう事になったんだ!」

 臨戦態勢を取ろうとするシャルロットをタケルは止めた。

「どういう事?」

「現地にミアーラは連れて行かない。だから、現地での案内役としてソドムに協力してもらう事にしたんだ」

「大丈夫かしら?」

「大丈夫、彼もノゾムに会わなきゃならないからね。それに呪いカースは残しておくから」

 タケルはソドムの腕を掴んで立ち上がらせると、新たな呪いカースを背中に施した。これは契約を破らせない為の誓いの呪いカースだ。もし破った際には死に至る罰則ペナルティが発動する。

「まぁ心配いらんじゃろ」

 ブルゲンがそう言うと皆んなは様子見しようかととりあえず納得した様だ。

「さぁ皆んな、そろそろ向かおうか」

 タケル達は謁見の間を出て通路の奥に進む。最奥の部屋に入ると、例の転移装置がそこにあった。
 元の姿に戻ったミアーラが入り口で見守る中、全員は中央の台座に集まる。

「ではあの場所に飛ぶぞ」

 ソドムが装置を起動させ、タケル達はミアーラの目の前から姿を消した。

「タケルさ、気を付けるだよ」

 誰も居なくなった部屋に少女の声が寂しくて響いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...