【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第2章 魅惑の生活が怖いって思わなかったよ⁈

022話 一色の暗号

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   昼食に食堂に向かうと、サナエさんは普段着に着替えていた。当然だけどね。でも、今日は休みなのに結局手伝っている。やっぱり、動いていたいんだろうね。
   目が合うと、小振りに手を振ってくれたよ。ハハッ、凄い嬉しいや。

「アラヤ君」

「はうわっ⁉︎」

   突然背後から声を掛けられて、思わず変な声が出ちゃったよ。振り向けばそこに、…アヤコさんです。

「な、何?アヤコさん」

「アラヤ君、今日休みでしたよね?」

「う、うん。そうだけど…」

「午後の予定、空いてますか?」

「一応、空いてるよ」

「なら、食後に自宅でお話があります」

   お願いしますよ?という圧を感じて、うんうんうんと何度も頷く。ひょっとして、午前中のサナエさんとのデートがバレたのかな⁈
    妙な冷や汗をかきながら、昼食を大人しく食べました。

    約束通り、昼食後に自宅で待っていると、アヤコさんが本を抱えてやって来た。どうやらデートの事では無いらしい。
    彼女は居間のテーブルに本を置くと、一枚の紙を差し出した。

「これを読んで下さい」

「えっと…」

    【絵知己に愛に沙汰訳等どの知恵蒸さる木揚げの    秋はイカ】

「何これ?」

「この本の頁部分に書かれていた日本語を繋げたものです」

「本って、一色香織の?という事は、彼女がわざと残した日本語って事?」

「はい。暗号だと思うんですけど、どれだけ考えても、ちょっと私には意味が分からなくて…」

「う~ん…ひょっとして、この文面には意味が無くて、中学の時に流行った謎トレみたいなやつかも」

「謎トレ?」

「うん、ほら文面の最後のここ。何で空白ができたの?」

「そこは、日本語も数字すら記入されていなかったところです。一応、開けて書いてみました」

「じゃあ、ここから解けって事だろうね。秋はイカ…文面にも全く関係無い。あっ!分かった!」

    アヤコさんの持っていた万年筆を借りて、紙に記入していく。

    秋はイカ   AKI=IKA

   これはヒントであり、ローマ字に変えてから逆に読むという事だ。

「なるほど!日本人にしか分からない発想の暗号ですね!」

「じゃあ、残りにも記入していこう」

「ここの等は、とうやなどじゃなくて、らのようですね」

   逆さから並べたローマ字は

【ONEGAIKURASUMEITONODAREKAWATASINIAINIKITE】

「お願い、クラスメイトの誰か、私に会いに来て…?」

   導き出された答えは、助けを求める声なのだろうか?

「彼女は確か、王都で王女様の庇護下にいると聞いたけど…少なくとも暮らしの助けは要らない気がする。これは助けを求めてるのかな?」

「もしかしたら、あの日の後、彼女はクラスメイトの誰とも会って無いのかも知れません。自分一人だけが、この世界に来たかもしれない。でも、もしかしたらってそう考えて……でもそれなら暗号にしなくても、日本語だけでいいんじゃないかな?」

技能スキルが有るからだろうね。言語理解なら、この世界の人も日本語も簡単に読めてしまうでしょ?それを踏まえての暗号なんだと思うよ」

   つまり彼女は、誰も信用できる人が周りに居ないという事かもしれない。

「会いに行った方が良いのでしょうけど…」

「相手は王族の庇護下にいるからね。今の俺達じゃ、手紙すらも届く前に処分されると思うよ」

「そう、ですよね…」

   初めての、三人以外のクラスメイト。向こうは会いたがっているのに、そこへ行けないもどかしさが彼女の表情に見える。

「ヨシ‼︎いつか必ず会いに行こう!直ぐには無理だけど、会える糸口を見つけて必ず!俺に任せて?」

「…はい。分かりました。もちろん、私も協力しますよ」

    約束はしたものの、一色と会う為には沢山のやらなければならない事がある。実現はかなり先延ばしになるだろう。

   夕食も終わり、自宅に帰って来たアラヤは二人を居間に呼んだ。

「実は、明日村長と遠出の仕事があってさ。出発が早いんだよね」

「へぇ~。何時くらいに出るの?」

「深夜、二時くらい…」

「はぁ?早すぎるでしょ?そんなに遠いの?」

「遠いことは遠いんだけど、夕食までに帰るには作業を早くからするしかないって事で。だから、今日の訓練は無しという事で。入浴したら早めに寝るつもりなんだ」

「分かったけど、じゃあ昼食時には二人共居ないんだね」

「うん。昼食は現地で調達する予定だよ」

「分かりました。じゃあ、早くお風呂済ませなきゃですね。サナエちゃん、今日は一緒に入ろう?」

「ええっ?私は一人が…」

    無理矢理二人で入る流れになり、二人の協力もあって早く寝る事が出来た。サナエさんと少し話しをしたかったけども、今回は仕方ないね。



  深夜。
  コンコン…。
  扉をノックする音が聞こえて、アラヤは目を覚ました。支度を済ませて外に出ると、ランプを持った村長が発掘スタイルで待っていた。

「おはよう。準備出来ているね?」

「おはようございます。はい、大丈夫です」

   おはようと呼べる時間では無いが、この人に今更言ってもしょうがないだろうと諦める。
    荷車を引きながら村の入り口に行くと、当番の守衛の二人が扉を開けてくれる。

「村長、本当に護衛はアラヤ一人で大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ。私達の心配は要らないから、村の事頼んだわよ?」

「はい。どうかお気をつけて」

    村から見えない位置にまで着くと、二人は足を止めた。

「じゃあ村長、荷車に乗って下さい」

「分かったわ」

   これはアラヤが提案した事だった。移動に掛かる時間を短縮し、作業時間を早める事で早く帰ろうという算段だ。
   荷車を引くアラヤの前には、光魔法のライトを2玉浮かべて足元を照らす。あとは前回と同様に、ムーブヘイストとグラビティを掛けて全力で走るだけだ。要注意は、魔力切れにならないように、時折鑑定で気をつける事だ。

「村長、出発しますよ。舌を噛まないでくださいね?」

「分かったわ。お願い」

「よーい、ドン‼︎」

   その速さの衝撃に、彼女の叫びが上がったが誰にも気付かれる事は無く、ただ土煙だけが舞い上がっていた。



「う~ん。今日はアラヤ君居ないのかぁ」

  村長宅で、勉強会の準備をしていたアヤコは、試しに念話やコールを試していた。

「コールなら、届くかもって思ったんだけどなぁ。やっぱり、熟練度レベルを上げなきゃ駄目って事なのかなぁ」

   しょうがないと、準備を進める事した。そこで、扉がノックされる。

「先生、おはようございます!」

「おはようーっ!先生!」

「おはよう」

   子供達が次から次へとやって来る。気持ちを切り替えて、今日も授業を頑張らなきゃね。

「先生!ペトラとダンはお手伝いあるから午後の授業に出るって!」

「ケティも午後からって言ってたよ~」

「分かりました。三人は午後からね?じゃあ、授業を始めるから席に座って。今日の授業は二つの月に纏わる神話よ?」

「「「はーい」」」

     その頃、畑群の一角で数人の大人達が走り回っていた。

「おい!居たか⁈」

「居ないわ‼︎ペトラーッ‼︎何処なのーっ‼︎」

「俺はあっちを探す!お前は守衛達に報せるんだ!」

「なぁ⁈ケティも居ないんだ‼︎誰か知らないか⁈」

「分からない!少し目を離した間に居なくなった!」

「先生の所に向かったんじゃないか⁈」

   平和だったヤブネカ村に、自分が居ない間にこんな事が起きている事を、アラヤは当然知る由もなかった。

「村長、ここですか?」

「ゼェ、ゼェ…。そうよ。この山よ」

  見上げる山は、草木が生えていない岩や枯れ木ばかりの荒れた山だった。

「さぁ、お宝見つけるわよ!」

   アラヤは、お宝なんて出てこない気がするなぁという気持ちを、グッと心に仕舞い込み無心で荷車を押して登っていくのだった。
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